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犬飼さん家のたぬきと猫宮さん家のきつね   作者: 岩波備前


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第三十八話『猫宮紺の情け』

紺はがま口財布を握りしめながら意気揚々と商店街を目指していた。

理由は単純。お小遣いとハンドメイドの売上金が手に入ったからである。あまり大きな金額を持っていてもアレルギーを起こしかねないうえ、慣れたら慣れたで昔のようにとんでもない散財さんざいをする可能性があるため、紺の稼いだお金と言っても鈴音がしっかりを管理をしていた。

ただし、きちんとした理由があれば直ぐに渡してもらうことが出来る。以前の完全お小遣い制に比べたら大分緩くなったとも言える。


「たいやきっ、みたらしぃ、くりもなかぁ!」


耳と尻尾をふりふりしながら軽やかな足取りで商店街に入る。目的地まであともう少し。

最初は移動販売のたい焼き。次は『言語道断』のみたらし団子。最後は『問答無用』の栗最中を購入する予定である。

以前はお菓子1つ購入するにも半日は悩んでいたが、今では悩む必要が無くなっていた。なにしろお店をはしご出来るくらいふところが暖かいのである。お小遣いで貰った1000円と臨時収入の半分2000円―――計3000円が紺の軍資金。これだけあればお菓子でお祭りが出来てしまう程であった。


「そろそろ屋台が見えて‥‥‥ん?」


目的の場所に近づいた時、同じく移動販売で来ていたクレープ屋さんの前に見覚えのある子ども達の集団を見かけた。

4人組の男女であり、彼らのうち2人は手にクレープを持っているが、残りの2人は持っていない。その理由については足元を見ると直ぐに分かった。


「‥‥‥はぁ、まったく、最近の子どもは落ち着きが無いな‥‥‥‥‥‥お主ら、一体どうしたんだ?」


溜息を付きながら彼らの元へと近づく。

いつものように偉そうな態度で声を掛けて理由を尋ねると、大体予想していた通りの答えが返ってきた。


子ども達は仲良く4人でクレープを買ったは良いが、その中の1人がクレープを持ったまま転びそうになってしまう。別の1人が咄嗟に身体を支えたため転倒は防ぐことが出来たが、怪我の代わりにクレープ2つが犠牲になってしまったとの事であった。

申し訳無さで涙ぐむ子どもと、助けた事に後悔は無いが釣られて泣きそうになっている子ども。

自分たちのクレープを分けてあげようか悩んでいる子ども達を前に、紺は呆れた顔で解決策を告げる。


「ほら、いつまでも泣いていないで、さっさと立たぬか。怪我は無いんだろ‥‥‥で、その屋台は何処にあるんだ?」


「‥‥‥ふぇ?」


「こんさま?」


「‥‥‥今日の我は気分が良い。お前達に施しをしてやろうと思ってな」




◆  ◆  ◆




「‥‥‥ふん‥‥‥クレープ1つで笑顔になるとは‥‥‥」


元気一杯にお礼を告げる子ども達から背を向ける。少し歩いたところで振り返ると、子どもたちは仲良くベンチに座り、それぞれのクレープを美味しそうに頬張っていた。かたわらに置かれた冷たいジュースもその美味しさを引き立てるであろう。


「‥‥‥」


元気な子ども達の笑顔を見て小さく笑う。

先程よりも軽くなった財布を見ると少し悲しくなってしまうが。


「‥‥‥残り1200円‥‥‥みたらしと栗最中は買えるな‥‥‥」


お菓子祭りが遠くへ行ってしまった。

しかし、みたらし団子と栗最中は十分に買える額が残っている。それにこれが全財産という訳でも無い。神社に戻れば臨時収入の残りはまだあるのだ。


「‥‥‥だが、あれは虎の子‥‥‥まだ使うべき時では無い‥‥‥」


使ってしまえば最後。次のお小遣い日までお菓子は抜きになってしまう―――鈴音のおもちゃになる事は極力避けたかった。

また、ハンドメイドの出品も鈴音がきっちり管理している。調子に乗ってお金を稼ぐと禄な事にならないと危惧してのことであった。そのため昨日の今日で再び稼ぐことは難しい。


「まあ、金はいくらでも稼ぐことは出来る。それに、前よりも使える額が増えたと思えばそこまで悪くはないか」


稼ぎを締め付けられている自覚はあるが、鈴音が怖いので文句は言えない。

無理矢理良いように自分を納得させて、後ろ向きな考えを振り払う。今は小難しいことよりも甘味を求める事が優先されるのであった。


「たい焼きよ、さらば‥‥‥我は再び舞い戻るからなっ‥‥‥」


美味しそうなたい焼きを通り過ぎ『言語道断』へと向かう紺。甘い匂いとは対象的に、苦虫を噛み潰したかのような表情になっていた。




◆  ◆  ◆




「臨時休業‥‥‥だと?」


みたらし団子を求めて『言語道断』にやってきた紺であったが、店の扉に掛かっている看板を見て愕然とする。

”臨時休業“の文字の下には3日間の休業を伝える文面が明記されていた。


「そういえば以前、温泉旅行に出かけると言っておったな‥‥‥‥‥‥くっ、我としたことが‥‥‥」


『言語道断』の店主が話していたことを思い出し、その場で歯噛みする紺。今日はみたらし団子の口であったため、この失態はとても大きいものであった。


「ぐぐぐっ‥‥‥いや、仕方があるまい‥‥‥人間には休みは必要だからな‥‥‥3日後だ、その時まで首を洗って待っているがいい‥‥‥さらば、みたらしっ‥‥‥」


心苦しい決断をしつつ、その場を後にする紺。

最後の希望を求めて『問答無用』へ向かおうとした矢先、見覚えのある少年が自転車で商店街を抜けるところを見かける。


「おい、もう少し速度を‥‥‥行ってしまったか‥‥‥‥‥‥んん?」


「‥‥‥‥‥‥最近の子どもときたら‥‥‥はぁ‥‥‥」


なんてことの無い光景だが、その後の未来が少しだけ読めてしまった紺は溜息を付き、足早にその少年を追いかける事にした。


暫く追いかけていると広場のような場所に出る。少年は一休みをしていたのか、自転車にまたがったまま水筒の水を飲んでいる。恐らく友人の家に行く途中か、もしくは集合場所に向かう途中なのであろう。時計を眺めた後、急いで水筒をリュックに戻し、再び自転車を漕ごうとする。しかし急いでいた事が裏目に出てしまったのか、数m程度進んだところでバランスを崩し、そのまま石畳いしだたみの上に転んでしまった。

紺は石畳の上で泣きながらうずくまる少年に駆け寄り、声を掛ける。


「はぁぁ‥‥‥元気なのは良いが、もう少し落ち着きというものを‥‥‥ほれ、大丈夫か?」


「うぅ‥‥‥あ、こんさまぁ‥‥‥いたいよぉ‥‥‥」


「ああもう‥‥‥足元に注意せんからこんな事になるんだ‥‥‥ほら、見せてみろ‥‥‥ふむ、擦りむいただけか‥‥‥手足は動くか?‥‥‥頭は打っていないか?」


「あたまはうってない‥‥‥てもあしもうごくけど‥‥‥てとあしがいたいよぉ‥‥‥」


「手と膝か‥‥‥まあ、かすり傷で良かったな‥‥‥立てるか?」


「うん‥‥‥」


「少しそこの椅子に座って待っていろ。直ぐに戻る」


「はい‥‥‥」


少年の身体を支え、ベンチに座らせてから来た道を戻る紺。子どもの全力疾走くらいの速さではあったが、一切ペースを落とさずに走る。そのおかげもあってか、割と直ぐに商店街に戻る事が出来た。


「‥‥‥水と絆創膏ばんそうこう‥‥‥あとこれも‥‥‥」


薬局で目的のものを購入した紺は再び少年の元へと戻る。そして子どもの怪我を検め、購入してきた水や絆創膏などで傷の手当てをし始める。

力を使えば一瞬だが、安易に使うことは避けていた。それは自然な方法では無いからだ。何より子どもは痛みや怪我の経験を経て強くなるものという考えもあった。

手際良く応急処置を終えた紺はゴミを纏めつつ、少年に具合を尋ねる。


「‥‥‥これで良し。どうだ、まだ痛むか?」


「ううん‥‥‥さっきよりはいたくないよ。ありがとう、こんさま」


「ならば良い‥‥‥急いでいる事は分かるが、怪我をしたら余計に遅れてしまう。いては事を仕損しそんじると言うだろう?‥‥‥それが分かっただけでももうけものだと思え」


「はい‥‥‥きをつけます‥‥‥」


しょんぼりしながら紺の言葉を素直に聞く。紺の予想通り、友人との待ち合わせに間に合うよう、集合場所へと急いでいたようだ。

紺は目的地にいる友人に向けてこっそりと式神を放ち、それとなく少年の遅刻を伝えておいたが、それでも少年は自分の行動を悔いているようであった。怪我をしてしまったという後悔の他に、友人と紺に迷惑を掛けてしまって申し訳ないという気持ちがひしひしと感じられる。


紺は少年の言葉と態度に小さく頷きながら、残りの絆創膏と一緒に色鮮やかなイラストが描かれている袋をいくつか手渡した。


「うむ、分かれば良い‥‥‥聞き分けの良い子にはこれをくれてやる」


「あ、お菓子だ‥‥‥」


「お前達ならそれで十分だろう‥‥‥遅れたびに持っていくと良い」


「こんさま、ありがとうございます。ともだちといっしょにたべますね」


「それでいい‥‥‥気をつけて行くように」


「はーい、じゃあねー」


お菓子をリュックに詰め込み、深々と頭を下げる少年。最後は笑顔で手を振りながら紺に感謝を伝えていた。


「‥‥‥‥‥‥鈴音にもあんな時期があったな‥‥‥‥‥‥そろそろ行くとするか‥‥‥」


少年の言う通り、痛みは大分引いていたのであろう。手や膝をかばいつつも、ゆっくりと自転車を漕いで目的地へと向かっていった。

その背中を見送った紺は懐かしい気持ちになりつつ、その場を後にする。


残金360円―――栗最中が1個買えるかどうかのお金を握りしめながら。




◆  ◆  ◆




「‥‥‥長い旅をしていたようだ」


紺は商店街に戻り、目的地の看板を前にしていた。店の様子を窺うと通常営業をしているようである。

万感の思いを込めて360円を握る―――後は栗最中を1つ購入するだけ。


「いざ、ゆかん‥‥‥‥‥‥むっ?」


店に向かう途中、通りにある洋菓子店で店主と少女の姿が目に入る。どちらも困っているようであった。


「‥‥‥‥‥‥むむむ‥‥‥」


意識してしまうと話の内容も耳に入ってしまう。どうやら母親の誕生日にお小遣いをはたいてケーキを購入しようとしたがお金が少し足りなかったらしい。その額、なんと360円。


「‥‥‥‥‥‥いや、これもあの子の試練‥‥‥大人になるにあたっては必要な経験だ‥‥‥」


紺は歯を食いしばりながら目を逸らす。

人生とは上手くいかないことも多い。何度も挫折ざせつを味わいながらも、再び立ち上がる人間が未来を切り開いていくものだ。


そう自分に言い聞かせながら栗最中を求めて歩みを進める。




”いつもがんばっているおかあさんにごほうびをあげたいの‥‥‥“




「くぅっ‥‥‥!!」


少女の健気けなげな願いを聞いてしまった紺は涙を飲みながら身を翻す。目的地は少女のいる洋菓子店。


「‥‥‥邪魔をするぞ」


「あ、こんさま‥‥‥」


「ああ、これはどうも紺様‥‥‥いらっしゃ‥‥‥」


「360円だな?‥‥‥我が出そう‥‥‥既に事情は知っている、これで良いか?」


店主の挨拶を遮り、あらかじめ財布から出しておいた360円をカウンターに置く。

少女が出していた小銭と合わせると、ケーキの代金と丁度になる。


「あ‥‥‥」


「え、ええ‥‥‥これで丁度ですが‥‥‥えっと、宜しいのですか?」


「構わん‥‥‥それと詳しくは聞くな‥‥‥我も今度寄らせてもらう‥‥‥」


「あ、はい‥‥‥分かりました‥‥‥お待ちしております」


「あの、えっとぉ‥‥‥わたしにはよくわからないけど‥‥‥ありがとうございました。おかげでケーキをかうことができます‥‥‥」


「それは良かったな。母親に感謝する気持ちは大切だ、大人になっても忘れるなよ?‥‥‥‥‥‥では、我は急いでいるので失礼する‥‥‥」


「ありがとうございました‥‥‥」


「ありがとうねー、こんさまー!」


困惑する店主の声と、元気を取り戻した少女の声を背後に聞きながら神社を目指す紺。

それだけで紺の胸は一杯になっていた。


「‥‥‥これで良い‥‥‥なに、神としての勤めを果たしたまでよ‥‥‥」


商店街から離れた場所で足を止め、おもむろに空を仰ぐ。

雲ひとつ無い、晴れ渡った青空。生暖かいものが頬を伝う。


「‥‥‥‥‥‥今日は1日中、晴れの筈なんだがなぁ‥‥‥」


”天気予報の嘘つき‥‥‥“と呟きながら再び歩み始める紺。

後悔は無いが、未練はたっぷりであった事は言うまでもない。




◆  ◆  ◆




「あ、おかえりなさい紺様」


「ああ‥‥‥今帰ったぞ‥‥‥」


離れの縁側で休憩していた鈴音が声を掛ける。

何を買ってきたとのかと手元に視線を移すが、彼女は何も持っておらず、そこで初めて手ぶらであることに気が付いた。


「‥‥‥何も買ってこなかったのですか?」


「うむ‥‥‥今日は運が悪くてな、どこもかしこも店が休みであった‥‥‥」


「そうですか‥‥‥?」


「‥‥‥少し疲れた‥‥‥我は寝るから、そのままにしておいてほしい‥‥‥食事は食べるから部屋にでも頼む‥‥‥」


「あ、はい。それは構いませんが‥‥‥では、後ほど‥‥‥」


覇気はきの無い声で返事をする紺。お金を持って神社を飛び出した時はもっと元気であった筈。

力なくうなだれる耳と尻尾から何かあったのかと訝しむが、彼女からそのままにしてほしいと言われた以上、深く追求することが躊躇われた。


「‥‥‥何かあったのかしら?」


”今はそっとしておいたほうが良い‥‥‥“そう考えながら残りの掃除を進めるべく、その場を後にした。




◆  ◆  ◆




「やっぱり昨日は何かがあったのかも‥‥‥」


翌日。朝食のお膳を下げながら鈴音は紺の異変について考えていた。

昨日の昼から夜にかけて紺は自室でふさぎ込んでいた。度々様子を見に行くが、その都度布団に籠もったまま出てこない。

今朝の食事も含めてきちんと食べていたため、具合が悪いということでも無い。とりあえずは安心していたが、お腹がいっぱいになっても相変わらず様子がおかしいままであった。


「お耳と尻尾に艶が無かった‥‥‥」


朝の支度を手伝った際に紺の耳と尻尾に艶が無かったのである。

とはいっても実際に悪くなっている訳でも無い。あくまで鈴音の主観である。だが、彼女にとっては紺の異変を知らせるものとして十分過ぎる証拠となっていた。

気が付いてから直ぐに確認しようとしたが、紺は何も言わずに布団の中へ戻ってしまう。尻尾を布団から出していたため、それ以上の追求は出来なかった。

尻尾を布団から出す‥‥‥それは”話しかけないでほしい“の合図なのだ。


「お昼ご飯の時に聞いてみようかしら‥‥‥」


心配になった鈴音は、昼食の配膳の際に紺へ直接聞いてみようと決めた。

それまではいつものように神社の奉仕に励む。

―――紺の事以外は何も変わらない1日が始まると考えていたが、その日は鈴音の予想を裏切り、少しだけ来客が多かった。




◆  ◆  ◆




「ぅぅ‥‥‥いつまでもこうしている訳にはいかないな‥‥‥」


鈴音が部屋を去ってから暫く後、紺はもそもそと布団から抜け出す。

自分の意思はしっかりと鈴音に伝わっている筈なので、昼までは来ないと考えていた。

鈴音に整えてもらった髪や尻尾がややぼさぼさしている。少しだけ申し訳なさを感じながら鏡台の前で軽く直す。


「明日にでも鈴音に頼んでみるか‥‥‥だが、何を言われるか‥‥‥」


小さく溜息をつく。昨日の行動については既に折り合いは付いていた。もとより子ども達の笑顔を見ることが出来たので満足している。

ただ、お菓子が食べられなかった事が残念ということも事実。

今日はご飯で我慢しつつ、明日の朝にでも鈴音に残りのお金を貰おうかと考えていた。


「‥‥‥甘いの食べたいなぁ‥‥‥」


眉尻が下がり、目元もしょぼしょぼ。口も半開きで、耳もどことなくへにょっている。鏡に映る自分はなんとも情けない。


「‥‥‥いかんいかん、猫宮の狐神たるもの、威厳は保たねば‥‥‥」


顔に手を当て、筋肉をほぐす。最後にぱちんと頬を叩くと多少はマシな顔に戻っていた。


「‥‥‥よし、とりあえずお茶でも飲むか‥‥‥」


気を取り直して部屋を出る‥‥‥だが、その直前に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「紺様。お伝えしたいことがあります。お部屋に入っても宜しいでしょうか」


「‥‥‥‥‥‥ああ、構わん。入れ‥‥‥」


「では‥‥‥失礼します」


いつものように静かに扉を開ける鈴音。彼女の傍らには見慣れぬ紙箱やしっかりとした紙袋が置かれていた。


「‥‥‥ん?‥‥‥何だそれは?」


「これは‥‥‥紺様に対する畏敬の表れです」


「‥‥‥は?」


”鈴音に何かしたか?“と考えるが、思い当たる事は無い。なにせ昨日の昼から引きこもっていたためである。

”怒らせるような事もしていない筈“と困惑している紺に対し、鈴音は簡潔に答えを告げる。


「早い話、昨日紺様がお助けになった子ども達からのお礼で御座います」


「お礼‥‥‥まさか」


紺の中で全てが繋がる。

彼女の言葉に先んじて、鈴音はお礼の出どころについて詳しく説明を始めた。


「‥‥‥勝手な事とは思いますが、私が全て応対させて頂きました‥‥‥既に子ども達と親御おやごさんはご自宅へ帰られております‥‥‥ですが、皆一様みないちように、紺様に対して深くお礼を申し上げておりましたよ」


「‥‥‥‥‥‥そうか‥‥‥して、子ども達のその後は聞いていないか?」


「はい、クレープを受け取った子ども達は楽しく遊んだそうです‥‥‥怪我をした子は親御さんに怒られたようですが、傷も痛むこと無く元気にしておりました‥‥‥お母さんにケーキをプレゼントした子は、お祝いが大成功して喜んでいましたよ」


「ならば良い‥‥‥」


お礼はありがたいが、それよりも子ども達のその後が気になった。紺の心配を払拭ふっしょくするように、鈴音が本人とその親から聞いた話を事細ことこまかに語る。

子ども達がそれぞれ満足していたのならそれで良いと得心とくしんした紺は静かに頷いていた。


「それで、こちらをお渡しします‥‥‥今日はお好きなだけどうぞ」


鈴音から恭しく差し出されたお礼の品々を見る。

どれもこれも有名なお菓子屋さんの贈答品ぞうとうひん。中には子ども達からのお礼の手紙も入っていた。


手紙は丁寧に纏め、装束の懐の中にしたためる。

紺はお礼の品から鈴音へと視線を移し、たった今考えついた事を口にする。


「‥‥‥ふぅ‥‥‥これはとても美味そうな菓子だな‥‥‥だが、我1人ではとても喰いきれん‥‥‥さて、鈴音よ。我の手伝いでもしないか?」


「‥‥‥えっと、宜しいのでしょうか?」


「我が手伝えと言っている‥‥‥丁度お茶でも飲もうかと思っていたが‥‥‥それが条件とでも言えば良いか?」


「ふふ‥‥‥かしこまりました。準備している間、紺様もお茶の準備をお願い出来ますか?」


「任せておけ」


鈴音が軽い足取りで台所に向かう様子を確認した後、お礼の品々を丁寧に開け始める。

予想通り、どれもこれも紺の好きなものばかりであった。


「‥‥‥まったく‥‥‥余計な事をしおって‥‥‥‥‥‥ふふん」


お菓子を開けながら子ども達の笑顔を思い浮かべる。

”結局は我が得しただけではないか”と呟きつつも、貰ったものは大切に食べようと決めていた。


一方、鈴音は台所へ向かう途中、障子戸を閉める寸前に見えた紺の口元を思い出しながら、独り言を呟いていた。


「‥‥‥‥‥‥ご機嫌になられて良かった‥‥‥」


元気になってくれた事と、自分がいない場所でも人々に慈愛を与えているという事実がとても嬉しい。お礼を持ってきた子ども達や親達の様子からも、心の底から感謝の気持ちを表している事が窺えていた。

住民から愛される神様を何百年も祀っている事に対し、いつもよりも少しだけ誇らしくなる鈴音であった。





















「いや、お菓子が食えんからといって不貞ふてくされるのはどうかと思うがのぉ‥‥‥」


「ぐっ‥‥‥貴様に言われる筋合いは無い!!」


「そこが可愛いのですよ」


「ありがたやー‥‥‥」


2人ではとても食べ切れない量であったため、犬飼寺で午後のお茶会を開く事にした。

いつもどおり賑やかな集まりであったが、紺はいつもより幸せそうにお菓子を食べる。


自分の稼ぎで買うお菓子も美味しいが、感謝の気持ちで贈られたお菓子には得も言われぬ程の美味しさを感じているようであった。


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