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【応募版2】ダブルラヴァーズ  作者: 猫都299


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3/3

3 ♢気になる人


♢♢♢ 気になる人 ♢♢♢



 どうしてこうなったのだろう。


「かぁっこいいんです! いじめっ子なんて、いち殺です!」


 あややんが銀河ぎんが君に力説している。場所はカラオケの一室。コの字に配置されているソファーにそれぞれ腰を下ろし、まずは簡単な自己紹介をした。


 金髪の男の子は「銀河」と名乗った。同い年らしい。


 その後は何故か、私の話題になった。あややんが己花さんの武勇伝を、誇らしげに話している。銀河君も「なるほどー」と頷きつつ……時々こちらを見て、ニヤニヤしてくる。


 そのような経緯があって。先程の、あややんの台詞が放たれた。


「いち殺って……」


 銀河君が苦笑いしている。そして、また……チラッとこっちを見てくる。

 分かる。今の私が、己花さんより大人しいからでしょう? がっかりさせてたら、ごめんなさい。詐欺みたいに思われているかもしれない。


 

 三人で各々の好きな曲を歌ったりしていたら、あっという間に時間が過ぎた。


 予定と違ってメンバーが一人増え、緊張するかと思っていたけど。杞憂だった。あややんも優しく癒しだし、銀河君も場を盛り上げたり楽しませたりするのが上手で……私は接待されていると錯覚するくらいに満喫していた。


 退出時刻になり、カラオケ店を出る。


「音ちゃん、すっごく楽しかったです! 銀河君も同志の匂いがするし! 二人とも、また遊んでください」


「もちろん」


「私も楽しかった! こちらこそ! 二人とも、ありがとう。……じゃあ、またね」


 名残惜しく思いながらも解散する。踵を返し歩き出す。


 一つ目の角を曲がって進んだところで気付いた。前方から来る人物に。片手をポケットに入れて歩いているその人は、道の向かい側にある店に気を取られているようで。こちらには気付いていない様子だった。


 前をセンター分けにした栗色の髪。薄ピンク色のシャツに白いズボン。茶色の革靴。


 本屋さんで絡んできた人だ! どうしよう。


 近くを通らなければ……こちらの存在に気付かれないかもしれない。

 

 今まで歩いて来た道を戻ろうとする。

 けれど。


 視線が合う。


 最初、相手は驚いたような表情だった。その後、まるで……よからぬ事を企んでいそうなニチャアッとした笑みが浮かんでいるのを目の当たりにし、悪寒に震える。


 逃げなきゃ。


 直感で思う。でも、どこに?

 迷っている間にも。男は、こちらへ歩みを進めてくる。



「こっち!」


 近くで声がして、左手首を引っ張られる。見知った金髪に、緊張が和らぐ。導かれるまま左横にある階段を下り、ショッピングモールへと入る。



「おねーさん、目を付けられたみたいだね」


 ショッピングモールの地下一階にある、スーパーの前を通り過ぎる。先を進む銀河君に、手を引っ張られている。ほかの買い物客の間を、すり抜けながら急ぐ。


 顔を動かして後方を見てみる。件の男は二十メートルくらい離れた、まだ出入り口に近い所にいる。あちらは、そんなに急いでいないようにも窺える。しかし、それが逆に恐ろしく感じる。少しずつ確実に、こちらへ近付いてくる。


 銀河君に導かれるまま、エスカレーターに乗る。上の階へ移動している僅かの間に、息を整える。


 一階に着く。エスカレーターを降り、出口へ急ぐ。大きめの出入り口から外へ出る。


 涼しかった中と違い、外はやや蒸し暑い。手を引かれる。銀河君に続いて走る。横断歩道を渡る。


 後方を確認するけど。例の男は……追い掛けて来なかったのか、見当たらなかった。少しホッとした後、今の状況に戸惑う。


 私……学校行事じゃない件で、男の子と手を繋ぐのって……初めてだよね?


 途端に緊張してしまう。

 横断歩道を渡った直後に、脇道へ入って行く。細い道路を進む途中で、スピードが緩む。銀河君が振り返って、私を見る。


「大丈夫? 顔が赤くなってる。走らせて、ごめん」


「えっ……と」


 優しく心配されて、ドキッとしてしまう。あ、あれっ?


「あいつも、もう追って来てないみたいだし。そこの公園で休もう」


 提案されて頷く。


 公園のベンチに座って、自動販売機で買った水を飲む。隣に腰を下ろした銀河君は……背もたれに身を預けて、ぐったりしている。意外と、体力がなさそうな雰囲気を感じる。


『大丈夫なのかしら?』


 己花さんが心配している。


『音芽。もっと彼を、気遣ってあげてくださいまし。それから、お礼も伝えないと』


 己花さんの、銀河君を気に掛ける言動に察する。ははぁ。なるほど?


『音芽? 今、何を考えていたの?』


『さっき、何でドキドキしていたのか分かった。己花さんのせいだったんだね』


『お、音芽?』


『お礼は、己花さんから言ってもらってもいい?』


 断って、眼鏡を掛ける。



「お、音芽~っ!」


 呼んでも返事はありません。わたくしが主体になって体を動かしている間……音芽からの反応がないのは、いつもの事です。少し、恨めしく思ってしまいます。


「どうしたの?」


 銀河様が、声を掛けてくださいます。僅かに緊張しつつ、彼の方へ顔を向けます。


「大丈夫ですの?」


 平静を装って尋ねました。銀河様は瞼を大きく開いて、見返してきます。


「やっぱり、アンタだったんだな。雰囲気が違ってたから、もしかして双子の姉か妹だったんじゃないかって……疑ってた」


 頬を緩める彼から、視線を逸らします。地面を見つめながら、言葉にします。


「えっと……。何と説明すればいいのかしら? 双子ではありません。何とも説明しづらいのですけれど……二重人格に近いのかもしれませんわ。あの……」


 再び彼に向き直り、伝えます。


「音芽を助けていただき、ありがとうございます」


 深く、頭を下げます。


「いや。オレがそうしたかったから、しただけで。どういたしまして。……あっ。じゃあ君は、違う名前なの?」


 少し焦ったような口調で尋ねられました。顔を上げて、相手の目を見ます。


「わたくしは……己花と申します」


「己花さん」


 呼ばれて、少し騒がしくなった胸を押さえます。

 その時。銀河様の頭の右上に、何かが……くっつくのが見えました。


「フフッ」


 穏やかな光景に、ほっこりしてしまいます。笑っていると銀河様に、不思議そうな表情をされました。教えて差し上げます。


「シャボン玉が乗っていますわ」


 銀河様の後方の離れた所で、子供たちがシャボン玉を飛ばして遊んでいます。銀河様も振り返って笑いました。


「え、どこ?」


 彼は頭に付いたシャボン玉に触れようと手を伸ばしていましたが、惜しくも当たりませんでした。

 わたくしが笑っていると。わざとらしく、むくれた顔をして「取って」と要求してきます。


「ここです」


 代わりに触ります。彼の髪は……思っていたよりも、硬い手触りでした。思い出して尋ねます。


「そう言えば。あなたと似ている男子が、音芽のバイト先に来るのですけれど」


 音芽は全く気にしていないみたいでしたけど。わたくしは、ずっと心に引っ掛かっていました。


「ああ」


 彼は、事もなげに言います。


「それ、オレの兄弟かもね。双子なんだ」


 こちらに向けられていた目が、不穏な気配を孕むように細められます。


「何? もしかして、兄貴の事が好きなの?」


 ニヤニヤした顔で問われます。


「そうかもしれません」


 答えると。凄く驚いた表情を向けられました。

 面持ちが可愛くて。つい、笑ってしまいます。

 

 ちょっとは、脈があるのかしら。


「わたくしじゃなくて。音芽の方が……ね」


「……あ、そう…………」


 気まずそうに、視線を逸らされました。





 バイトの勤務時間が終わる、一時間前。今日は来ないのかなと気になっていたお客さんが来店した。


「いらっしゃいませ」


 声を掛ける。その人が、顔を上げる。


「あ……こんちは」


 挨拶してくれた!

 彼の視線は下に逸れていて、目は合わなかったけど。たった、それだけの事で。バイトの疲れも吹っ飛ぶ程に、気分が浮上する。


「こんにちはっ」


 私も挨拶を返す。今日のお客さんは……水色のシャツに黒のズボン姿で、大きめの黒いリュックサックを背負っている。


 彼が、よく座っている……窓際のテーブル席へ案内する。この時間帯はお客さんの出入りも少なく、割とどの席でも座れる。落ち着いて読書するのにも、いいと思う。


「知ってる?」


 店内を移動中、お客さんが喋り掛けてくる。何だろうと振り返る。


「この前……俺が、ここで読んでいた本のシリーズって……店員さんも読んでるよね? 今月、新刊が出るらしいね」


「えっ?」


 新刊? 最近、色々あったので……中々サイトをチェックできていなかった。


「知らなかったです。ありがとうございます!」


 バイトが終わったら、詳しく調べてみよう!


「あのシリーズ、面白いよね」


 ずっと言われてみたかった言葉を今……お客さんがくれた。これまで、周りに語り合える知り合いがいなかったので……凄く、ジーンとしてしまう。


「店員さん?」


「あっ、ありがとうございます。こんな……好きな本について話せる知り合いが……今まで、いなかったので。凄く嬉しくて……」


「そうなんだ?」


 朗らかに相槌をくれる。


「実は俺も。初めて会った。あの本を読んでる人に! びっくりしたし、スゲー嬉しかった」


 えっ? そんな風に言ってもらえるなんて……!


「あのっ! もしよかったら……」


 気持ちが高ぶって、何か言いそうになった時。


「ンッんぅ! ンんんッ!」


 突如……店長の咳払いが聞こえて、我に返る。ハッとする。

 私は今、何を言おうと……。しかも、仕事中なのに。

 

 言葉を呑む。


 お客さんの案内も終わり、踵を返そうとしたところで呼び止められる。


「店員さん、今日……銀河に会ったよね?」


 驚いて振り向く。何か探ろうとしている雰囲気の目付きで見返してくる。何で彼の口から、銀河君の話題が出るんだろう。


「えっと、はい」


 戸惑いながらも返事をする。


『あっ』


 頭の隅で小さく、己花さんの声が響く。


『己花さん?』


『ごめんなさい。今日はバイトに遅刻しそうで、慌てていたでしょう? だから……』


『何か私に、言っていない事があるのね』


「もし迷惑じゃなかったら、その……。相談に乗ってほしい事があるんだ。勤務が終わった後、時間をもらえないかな?」


 お客さんとの話で、己花さんとの会話を中断する。


 一体、どんな相談だろう。

 少しの間、考えを巡らせる。


 彼の表情は暗く、何か悩みを抱えているのかもしれないと感じる。


「分かりました。一時間くらい……待ってもらう事になるんですけど。大丈夫ですか?」


 承諾した事を伝える。相手の表情が明るくなったように見える。


「ありがとう。ここの近くに、小さな公園があるんだけど……」


 言われて思考する。この近くの公園……。坂を上った所に一カ所、心当たりがある。確認のために口にする。


「桜公園ですね」


 お客さんは表情を緩めて頷く。


「待ってる」




 気になる人と約束をした。


 窓の外は大分、日が落ちている。暖色系の照明に、彼の短めの黒髪が艶々している。

 ふわふわした気分で、現実味がないように思う。




 バイトが終わった後、待ち合わせ場所へ急いだ。


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