第7話 完璧な家事代行
透子は可燃・不燃・資源の三種ポリ袋の口を手際よく縛り、満杯になった袋を玄関脇へ運び出した。
ペットボトル、食品トレイ、紙くず、そして宅配弁当の空き容器。
ゴミで溢れていた廊下がどんどん整っていく様子に、透子自身もわずかな達成感を覚える。動きは無駄がなく、物音を最小限に抑えるように意識していた。袋の中の空気を抜いてから結ぶのは、部屋中に埃を舞わせないための小さな工夫だ。
数時間前まで足の踏み場もなかったリビングのフローリングに、艶が戻ってくる。陽射しが木目を照らし、空間が“生活できる場所”としての顔を取り戻していく。
テーブル脇のコンビニ袋を開くと、おにぎりの包装紙と紙パック飲料が出てきた。続いて、黄色い箱に入った咳止め飴の袋が次々と現れる。透子は一瞬だけ手を止め、それらを見比べた。メーカーは複数あるが、どれも「スロートケア」や「のど潤い」を謳っている。
(喉を大事にする仕事か、弱い体質か……。自炊はしていない。食事はほぼ宅配、インスタント……)
推測は胸の内に留め、再び手を動かす。必要なのは清掃であり、詮索ではない。
空き缶用の箱を開けると、エナジードリンクの缶が山のように転がり出てきた。透子は崩れた缶の山を素早く拾い上げ、袋に収めていく。力任せではなく、繰り返しの中で自然に身につけた動きだった。
(この空間を“安心して呼吸できる場所”に整える。それが、私の仕事)
仕分けと清掃が進むごとに、部屋は“物置”から“生活空間”へと変化していく。埃が舞わぬよう霧吹きで床を湿らせ、優しく拭き上げる。
陽が傾く頃、玄関からリビング、そしてキッチンまでの動線が一本の道として確保された。透子は時計を見て、ゆっくりと柚月の方へと顔を向けた。
「動線確保と、ごみの一次分別が完了しました。次回は残りの仕分けと、水回りの衛生クリーニングに入れると思います」
声はあくまで穏やかに、簡潔に。柚月は驚いたようにこちらを見つめたが、すぐに深く頭を下げた。
透子も会釈を返す。
床に散らばっていた咳止め飴の包みと、空になった加湿器用タンク。そして、箱いっぱいのエナジードリンク。
それらが一体何を意味するのか。職業病のように頭の片隅で浮かび上がる仮説を、透子は静かに打ち消した。
「こちらの飴の袋とドリンク缶、すべて処分でよろしいでしょうか? 加湿器のタンクも、洗って乾かしておきますね」
柚月の返事はか細いが、先ほどよりも確かな音で届いた。
「はい。全部、いらないです。お願いします」
「かしこまりました。加湿器のフィルターが古く汚れているので、替えた方が良いかもしれません」
「わかりました」
ほんの一瞬、目が合った気がしたが、それはすぐに逸れた。透子は微笑を崩さず、袋を縛りながら丁寧に言葉を続けた。
「それでは、本日の作業はこれで終了させていただきます。次回の日程を——」




