第14話 もっと頼りたくなる日
高山柚月(Vtuber朝比奈柚葉)視点
電子レンジの終了音が、控えめにリビングに鳴り響いた。
小さな湯気が立ちのぼるタッパー。蓋を開けると、塩麹の優しい香りと、煮物の甘い匂い、おひたしの出汁の香りがふわっと鼻先をくすぐった。
鶏むね肉の塩麹焼き、かぼちゃとひじきの煮物、小松菜と油揚げのおひたし。どれも彩りがきれいで、レンジで温めただけなのに、テーブルがまるで誰かが準備してくれた食卓みたいに見えた。
一口、鶏肉を頬張る。
「……なにこれ、うまっ」
つい声が漏れる。
箸が止まらない。こんなにちゃんとした手作りの料理を食べたのは、いつぶりだろう。
(家に誰かが作ってくれたご飯があるって、こんなに安心するんだ……)
ふと、スマホが目に入る。
この感動を、誰かに話したくなった。いや、誰かっていうか——。
「……メイ、起きてるかな」
柚月はLINEを開き、ライバー仲間の月城メイにボイスチャットをかけた。
「お、珍し。ゆずからかけてくるなんて、なんかあった?」
開口一番の冗談に、柚月は小さく笑った。
「なんか話したくなって」
「なに、めずらし〜! どうしたの?」
「ご飯すごく美味しかったから」
「えっ、急にどうした!? 自炊したの!? それともまた宅配で神に出会った?」
「いや、家事代行頼んだ」
「は? ……マジで?」
「マジ。部屋片付かなさ過ぎてヤバくて家事代行頼んでみた」
「マジか……で、頼んでみたら?」
「すっごく、よかった。部屋もきれいになったし、ご飯……ほんと美味しくて」
「へぇー。すごいじゃん。で? なんか、気まずくなったりとかは?」
「ううん。来てくれてるの、たぶん年上の人で……すごく静かで、真面目そうなお姉さん」
「……バレてない?」
「今のところは。できるだけ喋らないようにしてるし……声、抑えてるし、Vtuberとか知らないんじゃないかな」
「そうなんだ。でも何があるかわからないし気を付けた方がいいよ」
「うん。悪い人じゃないと思うし、今のところ大丈夫」
「そうなんだ。ゆずのことだからどうせすぐ散らかるだろうけどね」
「せっかくちょっとずつ生活が戻ってきた感じがするし、頑張って片付けるよ」
柚月は、ふと窓の外を見た。曇りがちの空から、わずかな陽が差し込んでいる。
「今日はさ、なんか、また来てくれるのがちょっと楽しみだなって思っちゃった」
「へぇー? なにそれ、ちょっといい話じゃん」
「うるさい」
メイが笑う声が、スマホ越しに聞こえる。
「でも、いいと思うよ。頼れる人がいるって、大事だもん。こっちも安心したわ」
「ありがと」
心が、少しだけ軽くなった気がした。




