58話:自動人形
カウンター横のドアを潜ると、そこは目を疑うような光景だった。ここが学校であり空き教室で無ければ、何処にでもある様な酒場兼食堂の風景だ。
まだ『黄昏工房』のみなら足りそうな広さであると思っていた。
だが、『黄昏食堂』も加えると明らかに一般的な教室の広さでは足りない。それに『黄昏食堂』は3階まで完備されてる様子だ。
『もしかして、これも魔法?』
『マスター肯定します。これは空間魔法の1つ【空間拡張】であると断言致します』
空間魔法………人間の中で使い手は存在しないとされる神話の中でのみ語られる魔法。
「1階は、冒険者や一般客が利用してて2階が生徒のフロアで、3階が個室になってて利用するには金貨100枚か100万ポイントが必要なの」
「学校の関係者以外もいるんだ」
1階には、冒険者らしく鎧や武器を携えている輩が大半であり、それに人間だけじゃなく獣人や森精族に土精族など多種族が混在している。
『これも空間魔法のようです。空間魔法【空間共有】により学校以外にある複数の店と共有しています』
つまり、他の場所にある『黄昏工房』と『黄昏食堂』全て空間を共有されてるって事か。例えば、古都から入っても学校から入ってもここに辿り着くらしい。
ラズリの受け答えに1人考え込み、『流石は師匠』と頭の中で賞賛の嵐でカイトの株が上昇していた。
「ここが食堂の2階、オススメは何と言っても『カレーライス』だね。種類は豊富だし、美味い・安い・早いの三拍子が揃った学生にとって助かる料理だね」
「カレー!」
「ラピス知ってるの?」
「もちろん」
知らない方がおかしい。前世じゃなく、前前世で日本人として生きていた時に数え切れない程に食べていた大人気料理の1つ。
「アテナもきっと好きになる」
「それは楽しみ」
ティファニア先輩と共に空いてるテーブルへと腰を降ろした。
「ようこそ、いらっしゃいませ。黄昏食堂へ。こちらメニューになります。そして、お冷です」
「ありがとう」
料理の名前と写真が記載されているメニューとお冷であるグラスに入ってる水を人数分置いたメイドを見た瞬間、ラズリが反応した。
『人間ではありません。自動人形であります』
『自動人形?!』
自動人形は、土人形の1種だが、その精巧に造られた外見はまるで本物の人間と見間違えてしまう。
今の技術では再現不可能とされるため例外なく、迷宮産である。
『でも、この数は』
ラピスが見渡す限り、2階だけでも10人はいる。これだけの自動人形を用意するなんて現実的じゃないし、実質不可能といっていい。
何故なら、自動人形1人につき白金貨10枚はくだらない。日本円にして10億円はする。
そのため、市場には出て来ず、オークションで競り落とされる。
「カレーライスどれにする?」
ラピスが手を挙げ、ティファニアの声を遮った。
「ティファニア先輩、少しお聞きしたい事が。ここにいる自動人形は一体?」
「分かる人には分かるんだね。流石、カイト教授のお弟子さんだ。ここだけのお話、確かめる術はないけど、カイト教授が作ったらしいよ」
ヒソヒソとお互い顔を近づけ小声で話す。
3階までのを含めると、どれだけの労力が必要なのか皆目見当つかないが、黄昏であるカイトが作製したとすれば、迷宮やオークションで手に入れるよりも、まだ現実的だ。
「それに学園ではないけれど、ここにいる彼女らを盗もうとした輩がいたらしいよ。まぁこんなに美人さんを誘拐したい気持ちは分からんでもないけど、美しいバラにはトゲがあるものさ」
それ以上、聞いてはならないとラピスの本能が告げた。だから、メニューを開き他の料理には目をくれずカレーのページを開き、やはりあった。
「私は、カツカレーにしますわ。辛さは中辛で」
「うわぉ、流石カイト教授のお弟子さんだ。1番の人気メニューを選ぶなんて」
「ラピスが選ぶならアテナもそれで」
「初めてだと、辛いかもしれないから甘口の方が良いよ」
「ラピスが、そう申すのでしたらそうしますわ」
ワクワク、この世界に来て初めてのカレーだ。異世界の食事文化には慣れて来たけど、やはり日本食がどうしても食べたくなる。




