最愛なるあなたへ⑤
拳を握りしめて、振りかぶった。
鈍い叔父上は私の腕が見えていない。
地面にのたうち回って初めて自分が殴られたことに気づくのだろう。
王国議会で議員に対して暴行。
身内とはいえお咎めなしで済むまい。
だが、もう我慢できない。
何度も何度もレプラを侮辱しただけでなく、あの事件をジャスティンに教えたのも叔父上だろう……愚かな男だ!!
渾身の拳打が叔父上の頬を張る————はずだった。
「陛下っ!! ダメっ!!」
声とともに議場の天井から人が降ってきた。
彼女は私と叔父上の間に割って入るようにして降り立ち、身を挺して叔父上を庇った。
「うぐ……ぅっ!!」
肩を私に殴られて床にへたり込む女。
「レ……レプラっ!?」
うずくまって痛みに耐えるレプラに駆け寄ると全身から血の気が引いた。
初めて彼女を殴りつけてしまった。
誰よりも大切で傷つけないよう壊れないよう守り願い続けていた宝物を自分の手で傷つけた。
「す、すまない! レプラ!
私はこんなことをっ……」
「分かっております……陛下、どうか御心をお鎮めください。
今まであなたがなされてきた努力を無駄にしないでください」
痛みを堪えながら目を細めて微笑むレプラ。
黒ずくめのタイトな密偵ら使う服を着込んでいることから、おそらく彼女はずっと議場の天井に隠れて私を見守ってくれていたのだろう。
そんな彼女に議員たちは罵声を浴びせる。
「神聖なる王国議会に潜伏するとは言語道断!!」
「たとえ姫殿下であろうと許されませぬ!」
「いや、さっきのウォールマン卿やアルゴスタ公爵の言葉通りなら王族ですらない!
陛下をたぶらかす傾国の女だ!!」
「今すぐ議場から出て行け!!
いや王宮から出て行け!!」
自分の倍以上の年齢の大人達から大声で罵声を浴びせられてもレプラは怯んだりしない。
私に殴られた肩を押さえて立ち上がり、言葉を返す。
「言われなくとも、出ていきますとも。
王宮に留め置いていただいたのは陛下のご厚情故。
私の存在が陛下の醜聞につながると言うのなら、喜んで消えましょう」
潔く自分で罰を選び取るレプラ。
だけど、そんなの私が許せるわけない。
「レプラっ! 勝手に決めるな!
お前は私の————」
「いけませんよ陛下。
わがままを言っては」
優しくも強い口調で私を諌める。
そして私の耳元に口を寄せて、
「あなたが王になるのです。
そのために私はなんでもしてあげますから」
同じ言葉をあの時も聞かされた。
レプラの身柄を預かった時に。
自分の将来が閉ざされ、周りの家族との血の繋がりを否定され絶望の中にいた彼女が私に言ったのだ。
事実、レプラは私が王になるために、王であり続けるためにその身を捧げてくれた。
体術を身につけ隠密の護衛となり、情報を収集して私の仕事を手伝い、私の愚痴を聞いたり、慰めの言葉をたくさんかけてくれて…………
そして今、このどうしようもなく醜悪な処刑場から私を救い出そうとしてくれている。
「……ねえさま」
「ふふ、そうです。
私は陛下のねえさまなのだから大丈夫なのです。
信じていなさい」
幼子に戻ったような情けない声で縋り付く私だけに見えるように、レプラは笑いかけてくれた。
そこから先のことは圧巻の一言だった。
数々の修羅場を潜り抜け王国議員にまで上り詰めた王国貴族達がありとあらゆる言葉を用いてレプラに罪の追求をするも、それを弁舌巧みにかわしきった。
私の責任を追求する叔父上を瞬時に論破し、場を引っ掻き回し続けたジャスティンが道化に堕ちるほどその場の空気を掌握した。
それでいながら、有耶無耶にするつもりはないと言わんばかりに自身が王宮から出ていくことを誓約した。
きっとあの場にいた誰もが思ったはずだ。
レプラは女王になり得る器の持ち主だったと。
そして、愚かな王は全ての責任を背負って去ろうとする彼女を見つめるだけで何もできず立ち尽くすしかなかった。




