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最愛なるあなたへ③

 急遽開かれた王国議会は酷い有り様だった。

 そもそもこれを議会と呼んでいいのだろうか?

 

 開会早々、叔父上が件のロイヤルベッドの記事について糾弾し出した。


「他の有象無象はともかく! 王族を中傷するなど国家に対する反逆罪だ!!」


 と怒鳴り散らす。


 だったら私はどうなんだ、と言いたかったが茶化す形になるのもよくない。

 というかそんなことしたら叔父上との不仲を書き立てられるに違いない。

 ここは議長の裁量を期待するか。


「あんな下賤な文章で王族を愚弄するなど国賊以外の何者でもない!

 即刻嬲り殺しにしてくれようぞ!」


 何度も繰り返し文責の粛清を求めて演説する叔父上。

 平静を失っている彼の言葉に同調する者は現れない……はずだった。

 すっと奴は立ち上がり、大仰しい素振りで声を上げた。


「公爵様の国家に対する熱き想い、たしかに伝わりました。

 私も国士の一人として不届き者の粛清に尽力したく思います」


 叔父上に同調したのは、なんとジャスティンだった。

 当然、他の議員から声が上がる。


「どの口でほざくか!

 貴様こそ新聞という公器を濫用し政敵を貶める凶器とした張本人だろう!」


 そうだそうだ! と同調する声も上がる。

 マスコミの被害を被っているのは私だけではない。

 議員になるような貴族はプライドが高い。

 目の前で平民出身の男が詐欺師のように弁舌を振るい公爵に取り入ろうとするのを見れば、我慢などできるはずがない。

 ジャスティンへの怒号は次第に高まっていくが、ぶつけられた声と感情をいなすようにジャスティンは笑う。


「私のウォールマン新聞のことを仰っているのならそれは見識の誤りでございます。

 当紙は創刊以来、捏造でっち上げの類の記事は一切掲載しておりません。

 勿論、取材する者も人間だから情報に瑕疵を生ずることもあるでしょう。

 しかし、それは真実を探究し続けた結果であり責めを負うべきことではないと主張します」

「昨今の陛下を貶める報道も全て真実だと?」

「貶めているつもりはありません。

 陛下を評価するのは世間であり、私は世間に情報を提供するだけの立場です」


 のらりくらりという話し方にイライラする。

 議会で話し合わないといけないことは山ほどある。

 不毛な議論で停滞させるわけにはいかない。


 私が手を上げ、発言の機会を要求すると、議場は一瞬どよめいた後、息を呑むようにしずかになった。

 立ち上がり、ジャスティンを睨む。


「ジャスティン・ウォールマン。

 そなたの発言を踏まえると、件の新聞はあえて捏造やでっち上げを行なっていると」

「ええ。元よりフランチェスカ様を中傷するための作り話でしょう。

 同じマスコミの人間として腹ただしい限りです。

 たとえ一つの記事だろうと信用できない情報を流されては新聞そのものの信用を貶められる。

 私はロイヤルベッドの出版に関わった者を決して許さない」

「勇ましい事だな。

 して、どうするつもりだ」


 ジャスティンは待っていました、と言わんばかりの笑みを見せる。


「実はすでに奴らの尻尾を掴んでいるのです。

 どうやら王宮内に叛意を抱く者がおりまして、その者が王宮に不和を持ち込むためにあのような醜文を垂れ流したのです」

「……ほう」



 明らかに自分にとって目障りな誰かに罪を擦りつけるつもりだろう。

 されど、そうは問屋がおろさない。


「言っておくが、これは王国議会の会議の中における発言になる。

 議事録として未来永劫発言は保管されるし、議会の進行を妨害する虚偽の発言は罪に問われる。

 貴殿が普段扱う新聞以上に慎重な発言を心がけよ」


 私がそう言うとジャスティンがかすかに顔を顰めた。


「無論、虚偽の発言をするつもりはありません。

 ですが、情報には取り違えということがありまして」

「人命を左右しかねない言葉を貴様は吐こうとしているのだ!

 言葉を生業にする者ならば、その責任を持て!」


 ずっと言いたかったことを面と向かって言えたことに胸のつかえが取れる思いだった。

 これで虚偽の発言により、冤罪を招いたならジャスティンの責任を追求し議員資格を剥奪できる可能性が出てきた。

 ウォールマン新聞への信頼の高さは平民出身議員が責任者であることによる。

 それが虚偽の発言により罷免されたとなれば新聞への信頼は失墜する。


 欲をかいてでしゃばり過ぎたな、ジャスティン。

 今更、手を下げようにも叔父上が許さん。

 どうする?


 数秒の間、沈黙が続く。

 業を煮やした叔父上が苛立ちの声を上げる。


「どうした! ウォールマン!

 よもや虚偽の供述で我が歓心を得ようとしたか!?」


 ジャスティンは眉をピクリと挙げた後に、うっすらと笑みを浮かべた。


「いいえ……ならば私の知り得る情報、いや真実を申し上げましょう」


 まるで舞台役者のように澄んだ通る声で議場を掌握する。

 悔しいが人を騙すに長けているだけあって人を惹きつける魅力があるのは否めない。


「これは王室に関わる大スキャンダルです。

 いたずらに騒ぎ立てて王室の権威を損なえば国益を損じる。

 故に確証が取れるまで黙っておりました」

「前置きは良い。

 要点を言え」


 私の言葉にジャスティンは————勝ち誇ったように笑った。

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