商業都市の酒場にて
結局トミヤ商会の中では大きな情報は得られず、精々冒険者ギルドの仕事を霞め取っているのと、物が他よりも少しばかり安いというのしか解らなかった。
「お姉様どうします……」
メルナはここに来て珍しく弱気になってきていた。
そもそも論でメルナはベルと比べると話すのが上手い方ではないので、余計に気分を重くさせているのかもしれない。
「メルナ、トミヤ商会の中からだけど、今は『クロノス』って言ってね。」
「もうしわけ……」
「ほら、言葉使いも。
……念のために気を付けてよねおねーちゃん。」
「……ごめんなさいね、クロノス。」
私はメルナの言葉使いを直させながらも、次の手を考えていた。
最後にこの都市に来たのは100年以上昔なので、その頃生きていた人はもう、とっくに死んでいるだろうし、あの頃は人間以外の種族なんて……
「あ、そうだ。」
頭の中で状況を少し整理していると、1つの策が思い浮かんだ。
相当な期間この商業都市に住んでいて、ここの都市のありとあらゆる情報を知り尽くしているだろう人物が。
「どうしたのクロノス?」
メルナはいきなり声を上げた私に少し驚いているようだった。
「ここから少し離れた所の貧民街に行こうよ、メルナおねーちゃん。」
そこは、今は使われていないこの商業都市と外を繋ぐ門があった。
けれど、潰されてはいないのは、工事費用が相当かかるのと、表立ってできない物や、人を運び込むのに良く使われていた。
「クロノス、本当に大丈夫なの?」
メルナの方は、私達をじっくりと眺めていたりする浮浪者に凄く警戒をしていた。
「大丈夫だよおねーちゃん。」
ここあたりは何度も通い詰めたもので、あの門も、街の雰囲気も、人となりも一番最後に来た100年以上前と変わらなく見えた。
「基本的に観察してくるだけだから安心して。」
そう、あの私達を見て来ていた浮浪者は、実は情報店屋だったりして、客を探しているのだ。
まぁ、中には本当のスリとか強盗もいるけど、昔基準だったら大体が情報屋が多い。
今と昔が同じかは解らないけど。
「とにかく、おねーちゃんは私について来てよ。」
私は少し声を小さめにして言った。
ということでメルナを連れて、スタスタと貧民街を歩いて行く。
所々で会う人達は老若男女、大体がボロボロの服を来ていて、体臭も決して良い臭いとは言えなかった。
本音を言うと、要が無ければ近付く事も憚れるほどだ。
決して買い物や、観光に来る所では無い。
そんなこんなではないので歩いていると、目的地の周りよりも1回りも2回りりも広い3階立ての古くさい建物があった。
「本当に入るの?クロノス。」
メルナさえもが嫌がる理由はやはり、その建物の1階部分が酒場になっているからであろう。
しかも只の酒場では無くて、外にいるような浮浪者や、ごろつき、酔っぱらいなど、大方録でも無さそうな人しか居なかった。
「そうだよ。」
と一言だけ言って私は酒場に入って行った。
中に入ったとたんに、外よりも強烈なお酒の臭いと人の臭いがしてきて、顔を少しだけしかめた。
幸いにも私の方を見てくる客は居なかったので、さっさと用事を済ませるために、余り人の使っていないカウンターの一番はじっこの方に座った。
「ねぇ、店員さん。」
私はこの騒がしい声に書き消されないように、少しだけ大きな声を出して、カウンターの内側にいる店員さんを呼んだ。
もちろん店員さんの方は見た瞬間驚いたが、そこは直ぐに表情を戻した。
「どのようなご用件でしょう?」
「ミードを一杯頼んでいいかしら?ちなみに飲むのは私じゃなくて、2階にいる乙女にね。」
そう言ったとたん、普段お酒を全然飲まないのを知っていたメルナの方も驚いていたし、頼んだ店員さんも相当驚いていた。
「あと、渡す時には森に住むシルバーラビットが来たと言ってもらって良い?」
「……畏まりました。」
店員さんはまだ衝撃から立ち直っていないようで、動きがぎこちなく見えた。




