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【完結】 クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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97/109

[27:94] (ツン)デレデレデレデレデレ

 えぇ。

 えぇぇ。

 えぇぇぇ……。


 いや、難易度の高いループだろうとは思っていたが……あの辻セイラが自殺ループなんてものを試そうとするぐらいだから、どれほどのものだろうとは少し怖気づいていたが……。

 ……これは、規模からしてそんなレベルじゃないぞ。

 こんな問題を、たった一人で解決しようとしていたのか、この女は。


「すご、部屋にお風呂がある」


「なあ。その、今回のループについてなんだが……」


「いいな。1等室はバストイレ共用なんだよね。入っていい?」


「着替えが無いだろう。それより君……」


「マコトの着させて? ちょっと大きいかもだけど」


「……まあ、君がそうしたいなら、そうすればいい」


「やったっ」


 ……君も、よくあんな話をしておいて、そこまで部屋の設備に夢中になれるな。

 いや、やっとのことで胸中の不安を他の人にぶちまけられて、少し気分的に楽になっているからかもしれないが。そんなにこの特1等室が気になるか。


 まあ、こうして寛ごうとしているあたり、現時点で何かを急ぐ必要は無いんだな。

 実際、行動に移れるのも島に到着してからのことだし、それまでは僕との堅苦しい話より、最高クラスの旅行気分の方に目が行ってしまうのも仕方ないことか。さっきの涙が少しでも紛れたなら良しとしよう。


 だが。

 しかし。

 それにしても。






「隕石……か」






 前回の地震も相当だったが、今回はさらにスケールアップしたな。

 隕石って。隕石って。ふざけるのも大概にしてほしい。

 宇宙から直径10kmの隕石が降って来て人類滅亡? 

 映画の予告編か? 


 ──「あー気持ちい……マコトの温かみがある……」


 その情報を死に物狂いで集めてきた本人は風呂を満喫してるし。

 別にいいけど。


 仕方ない。

 彼女が風呂から上がって来るまでに、さっき教えられた情報の整理でもしておこう。


 1. ループの周回数は不明。

 長すぎてもう覚えていないと言われたときは驚いた。

 僕が知る中でも、これまでで一番長い周回数は36。いくらループの期間が違うとはいえ、彼女が回数を覚えていないというくらいなのだから、優に倍は超えているのかもしれない。

 しかもうち18周は僕が立ちはだかったりして潰れてしまったとか聞かされたし。

 なんで総合計周は忘れてて僕が邪魔した周の数は覚えているんだ。

 罪悪感凄いんだが。


 2. ループの期間は最大4日程度。

 ループ開始は受験が終わり、家についてすぐのこと。

 そこから彼女は自分で頭をぶつけ、記憶喪失を装って周囲の人間から距離を取る作戦を実行し始めた。実際、しつこく追いかけてくるのは僕だけらしいので、最終的には「瀬尾マコトのことだけ忘れる」とかいう中途半端な設定に落ち着いたそうだが。

 ループ終了はそこから4日目の夜9時。今の僕達に合わせると……明日の夜か。

 周回数が最低でも36周だとすると……少なくとも144日間は、この4日に閉じ込められているということになるのか? 早い段階でリセットした周もあるだろうし、実際の周回数はもっと多いだろうから、この数値はそれなりに増減するだろうが……約5ヶ月じゃないか。相当だぞ。


 3. そしてループの原因。






 ネメシスに所属する能力者。

 その人物の、『好きな位置に好きな大きさの岩石を生成する能力』により。

 ラグランジュ点のL3付近──つまり、地球から見て太陽のちょうど裏側に。

 直径10kmの巨大岩石を生成、新たに生成した小さな岩石で軌道を調整し。

 およそ9年後に、地球に衝突して人類が滅亡あるいは壊滅的な被害を受ける。


 ……。


 なんだそれ。

 予想できる訳が無くないか。

 カウンター・アースじゃないんだぞ。






 ──「マコトのシャンプー……はぁ、良い匂い……マコト……」


「何やってんだ辻セイラは」


 風呂場は響くって知らないのか。

 もう素の自分全開じゃないか。

 あとそれ船の備え付け用品だろ。

 今日乗船したばかりだぞ僕達。


 ……しかし、考えれば考えるほどに対WPPOの策として完璧すぎる作戦だな。

 辻セイラが「WPPOではどうにもならない」と言った理由も理解できる。


 4. この隕石は3~5年の間は見つけられない。

 太陽の真裏にあるという特性上、今の天体技術ではどうやってもこの隕石の存在を観測することが不可能だ。もし観測可能な隕石であれば、探査機をぶつけて公転周期を短くするなりして対策できるが……直径10kmは大きすぎる。

 仮に見つかったとしても、隕石が地球を外すには、到達点を地球の半径一つ分以上ずらさなくてはいけないが、直径10kmの岩石の質量は1.5×10¹⁵kg……およそ1.5兆t。探査機が百万機単位で必要になってしまう。数年で用意できるものではない。


 5. WPPOもこの隕石に気づくことはできない。

 今回のループは、隕石の衝突によって『大切な人』諸共全員死亡することが「確定した」ために起こっている。つまり、ループの瞬間に起こることは「軌道調整の完了」であって、「隕石の衝突」ではない。

 WPPOが能力者の目視に頼って未来予知していることは把握済みだ。そんな状況で、未来予知が確実に行える2週間の間ずっと空を見ていても、一切の危機は視認できない。

 辻セイラが「4日後に人類は滅亡する」と声を上げてもその時刻に人類は滅亡しないし、「4日後に人類の滅亡が確定する」と主張しても、その未来は死に戻りで消滅するからWPPOには結局何も見えていないという訳だ。


 6. そして、WPPOはその隕石を削除することができない。

 地震のような局所的な自然災害ならともかく、隕石衝突なんてものは局所的でも何でもない大問題だ。『大切な人』や『未来予知』に関係なく、観測できた時点ですぐにWPPOは把握するはず。

 しかし、これはただの隕石ではなく、能力によって生成された隕石だ。そして、その隕石は観測できるようになった3~5年前の時点で生成されているから、先占効果によって他全ての能力の効果を弾く。


 WPPOがある特定の災害を削除するのは簡単だ。実際、ネメシスの関係者全員摘発はそう難しいことではないのだろう。きっと1週間以内に完遂し、見事全員逮捕してくれるはず。

 しかし、その災害が5年前から能力によって仕込まれていたものなら……削除は不可能。隕石の衝突は確定したイベントになってしまう。摘発に成功しても既に種は撒かれているのだから問題は解決していない。


 7. ループの対象は彼女の『大切な人』全員だ。

 ネメシスに辻セイラを狙う理由は無いし、運悪く辻セイラの『大切な人』が標的になってしまった訳でもない。ただ、ネメシスの攻撃範囲が地球全体だった。それだけの話だ。どこかへ逃げればいいとか、対抗策を考えるとか、精神の持ちようでどうにかなるとか、そう言う話ではない。


 つまり、この問題を解決するには。

 その「能力者本人」を見つけ出し、能力を解除させるしかない。

 この地球の、どこにいるかも分からない能力者を。

 その手掛かりがここにあると知り、彼女は小笠原に来ていた。


 なるほどな。目的地が小笠原なのも納得だ。

 小笠原の父島は星に縁のある島で、国立天文台のVERA小笠原局に、JAXAの小笠原追跡所もある。天の裁きなんて言っている連中が拠点を置くには、これ以上なくそれらしい島だ。天文台や追跡所があるなら、宇宙絡みの人間が出入りしていても目立たない。


 ネメシス、Nemesis……Νέμεσιςか。

 太陽には見えない伴星があってそれが周期的に彗星を地球に降らせ、大量絶滅を起こしてきた、という。その仮説上の星の名前が、確かネメシスだった。

 その「仮説上の星」を能力で生成し、仮説通りに太陽の裏に隠して、人類の滅亡を企んでいる……へえ、大層な名前をつけたものだ。


「……ね、ここの冷蔵庫って鍵かかってるんだ。揺れ防止かな」


「おっと。辻セイラ、もう上がったのか」


「……よいしょっと」


 ……ん? 


 なんだその顔? 

 どうして横に座った? 

 どうして急に距離を詰めた? 






「……セイラって呼んで欲しい」


「えっ」


「カリンは名前呼びで……ずっとズルいと思ってた」






「いや、それは別に……というか何で隣に。ベッドはもう一つ……」


「……」


「……分かった。いいよ、『セイラ』」


「ふふ、ありがと」


 おい。

 隣に座ることは見逃したが、肩に頭を乗せていいとは言ってないぞ。

 ただでさえサイズの大きい服着てるんだから中が見えるだろうが。

 僕のこと信頼しすぎて危機感が欠落してるんじゃないだろうか。


 ……まあ、気が緩むのも当然か。

 ここまでの情報を集めるために彼女はどれだけの自殺ループを繰り返したのだろう。

 今ようやく寛げる空間にいるというのに、「男女二人なのだから、僕相手でも気を抜くな」とまではとても言う気になれない。ここはある程度自由にさせてやるべきなのかもしれないな。


「……やっぱり、マコトの肩が一番落ち着く。ちゃんと支えてくれるし、良い匂いがする」


「何だその言い方は。まるで前にも試したことがあるような言い方だが」


「……あるよ?」


「えっ」


 えっ。


 ……ある? 

 あるって何だ。この周の僕は、君に肩を貸した覚えなんて一度も無いぞ。

 というか、この周どころか今まで一度も無い。

 ……その「今まで」に、僕の知らない周が含まれているなら話は別だが。


「アイツらってしぶとくて。どれだけ痛めつけても全然情報吐かないし、財布とか携帯みたいな個人情報あるものも持ち歩かないの」


「今不穏な単語が聞こえたが君に免じて聞こえなかったことにする。続けてくれ」


「ありがと。それで、私、途中で『これ無理だ』ってなって諦めて」


「諦めて?」


「それで、23周だけ」






「ずっと、マコトとイチャイチャだけして過ごしてたの」


 ……お、おお。






 ……ちょ、ちょっとすごい情報が出てきたな。別ベクトルで。

 23回? イチャイチャ? なんだそれ。

 僕が邪魔だった周と合わせて計41回ぐらい僕を理由にループしてないか? 

 いやまあ、そのレベルで追い詰めるには十分なループだけども。


「やけに……具体的な数字だな」


 計何周したかは覚えていないのに。


「だって。本当に楽しくて。嫌なこと全部忘れて、4日かけて、二人きりで色んな場所遊びに行って……」


「……」


「……でもその度、忘れられるのが辛くて、『やっぱりなんとかしなきゃ』ってなって」


 きつい。

 きっつい。


 どうにもならなくなって僕とイチャつきに走るまで疲弊したと? 

 それに応える僕も僕……いや、セイラがそこまで弱ってたら応じただろうが。

 でも何回諦めようとしても僕に忘れられてしまうのが辛くて再起したと。

 そしてその果てに自殺ループを……。


「ね、撫でて。ありがと」


「撫でる前から感謝されても……構わないが」


 いやあ精神に来る。

 こんなカス能力のせいでずっと同情しっぱなしだったが、もう本当に可哀想だ。


 自分の意思では決められない。

 将来的な死にも反応。

 精神的な死にも反応。

 ループ期間も能力の匙加減。

 勝手に発動しておいてヒントすら与えられず。

 フィクションの存在にも反応して。

 かといって他に能力が使える訳でもなく。

 寿命だって例外じゃないカス仕様に。

 発動すれば必ず苦しんで死ぬおまけつき。

 対象の位置関係も全部無視して発動し。

 挙句の果てには自殺にまで制限がある。


 彼女が何をしたというのだろうか。

 犯罪行為の常習犯ではあるが、それも能力のせいだからな。


「それでね。ネメシスの連中もさ、しょうもないヤツらで」


「そうなのか」


「宗教なんて名前ばっかり。実際はただの能力差別主義者の集まり。WPPOの理念を覆して、自分達の正しさを証明してやるー……みたいな」


「ん? 能力を利用してるのに? そんな影中トオルみたいな思想を?」


「そうそう。自分達のは『能力』じゃなくて、天に捧げられた『祝福』だとか何とかさ」


「えぇ、都合良……」


「でしょ……だからもっと慰めて? マコトが話を聞いてくれると、私、すごく嬉しい」


 それは……。






「それは……僕が『大切な人』になってしまったからか?」


「……バレちゃったぁ」






 まあ、ここまでの話を聞いて、それでも気づかない方が難しいだろう。

 話はしっかり聞いている方なんだ。そういった方面には鋭いと思ってくれたらいい。


 それに、昔の君はよく「鳥肌が立ちそう」だなんて言っていたんだ。

 そんな人間が、果たして隙間なく僕にくっつくか? 

 今の彼女は湯上りでほんのり上気しているぞ。鳥肌とは無縁の環境にある。

 いくら傷ついているとはいえ、ここまで気を許すのは──そういうことだ。


「もう間違えないって決めたのに。ごめんね、マコト」


「なってしまったものは仕方ないだろう。切り替えていけばいい」


 もう、というのはミオと三好ルナの前例のことか。

 大切な人になってしまったから、巻き込むのが嫌だから、自分のせいで死んでいると知られたくないから……そう思う気持ちは分かるし、尊重されるべきだ。

 だが、もう今更どうしようもない。僕をもう一度嫌いになるか、仕方なくこれからも協力者として運用していくか、それだけだ。なら後者の方がいいだろう。


「お祖母ちゃんの頃からかな。もう、マコトに悪口言えなくなっちゃって」


「だよな。妙に素直になって、少し驚いてたんだ」


 思えば、祖母の死を乗り越えたあたりからセイラは非常に協力的だった。

 周囲と変わらず距離を取る姿勢こそ変わらなかったが、初めから内情を知っていた僕に対しては手を差し伸べたりすることが増えたようにも思う。

 まさか僕がリスト入りするとは思っていなかったんだろうが、そのせいか僕に対して排他的な態度を取らなくなっていた。あの姿は、彼女の素に近いものだったんだろうな。


「何度もストーカーって言って。ごめんね、マコト」


「そんなこと別に気にしてな……えっ何度も?」


 ま、まあ。

 僕は今更そんなことを気にするような人間でもない。


 というか、思い返してみれば、僕の方だって不思議だったんだ。


 初めの頃はセイラが近くにいるだけで鳥肌が立っていた。事情があると分かっても人間的に気に入らない、性格の反りが合わない、生理的に嫌悪感がある……そんな風に思っていた。

 そんな気持ちが薄れ、彼女への同情心や、彼女を助けたいと思う気持ちが上回るようになったのはいつ頃からだっただろうか。初めは脅しと約束だけでできた関係なのに、よくそうなるまで長続きしたものだ。


 おかげでどういう訳か──僕のセイラに対する好感度は165になってしまっていた。


 1. ミオの問題が解決した時点で、セイラから教えられた好感度が50。

 2. 側撃雷から僕の命を救い、母さんの涙を防いだ時に+10。

 3. 僕に旅行中のループを黙っていた時に-5。

 4. きちんと正当防衛という法の範疇で事態を解決しようとした時に+5。

 5. 妹のために仮死魔霊故に立ち向かった時に+5。

 6. またループを黙っていた時に-5。

 7. でも聞いたらちゃんと約束通り喋ってくれて+5。

 8. 仕様を受け入れ、フィクションを自力で乗り越えようとした姿に+5。

 9. 祖母の死に涙した時に+10。

 10. 祖母を嫌いたくないと言った時に+10。

 11. 祖母のために新たな友人を受け入れると決意してくれた時に+10。


 12. そして、母さんを助けるために手を差し伸べてくれたこと、+50。


 13. それ以降の学校生活でも、そのことを一度も威張らなかった。+5。

 14. やろうと思えば、僕にどんなことだって命令できるのに。+5。

 15. 彼女はずっといつも通りのセイラだった。+5。


 合計165……。

 やっぱりどこか計算がおかしいような気がする。上限は100だと思っていたが、僕の計算が間違っているとも思えない。前例が無いから分からないが、100を超える場合は例外処理をしなければいけないのだろうか? 

 とにかく、僕は自分でも意識しないうちに彼女のことを受け入れてしまっていたんだ。


 ……だからこそ。

 だからこそ、なんとしてもこのループを解決してやりたい。


 できることなら、この周で終わらせてやりたい。

 一人で苦しむことが正解だと思わないように。

 僕に相談しても意味は無かったと思ってほしくない。

 君が自分を軽視するようなことは避けなくてはいけない。


「……ねえ、マコト」


「なんだ」


「やっぱり、難しいよね」


「……」


 ……。


「……でも、いいよ。私、マコトに全部話せたし、それだけでもういいかなって」


「セイラ」


「何周かかるか分からないけど、いずれきっと、能力者を見つけ出せるから……」


「セイラ」


「ちょっと不安だけど、この周は最後まで待って。次から、また二人で頑張れば」


「セイラ」


「あっ……えっと………………なぁに?」






「解決策自体は、もう思いついているんだ」


「へ……? えっ…………………………と?」






 いやまあ、不確定要素はあるんだがな。

 だが、世界のどこにいるか分からない能力者を探す必要は無いし。

 これ以上君が、人を……痛めつけるなんてことも、しなくていい。

 船から降りてタイムリミットまで10時間……大体、一晩くらいか。


 もしもの話だが、WPPOに一晩で世界の半分を制圧できるぐらいの力があるなら。

 多分、どうにでもできると思うぞ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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