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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[27:91] 武器としても使用可能

「んでもって瀬尾少年。4月のシフトはまだ?」


「当然のように合格する前提で聞きますね」


「え? だって桜台でしょ? どうせ合格してるでしょ」


「まあしてるでしょうけど」


 桜台の合格発表はまだだというのに。

 まあ、もし合格していなければ滑り止めもないからどちらにせよ僕は進学する先を失ってフリーになってしまうのか。それなら今の段階から来月のシフトを聞くのもおかしいことではないんだろうな。


 僕としてもあの程度の問題で落ちているつもりはない。

 試験問題を持ち帰って再度解いても全く同じ解答になったし、母さんに自己採点を頼んだがいつも通り満点だと太鼓判を押された。記入欄を間違ったりしている訳でもない限り合格は間違いない。


「けっ。人生安泰そうなガキはいいね。そのままお姉さんも養ってくんない?」


「金額次第ではいいですよ。お世話になりましたし」


「瀬尾少年すぐそういうこと言うの止めた方が良いよ」


 なんで。

 僕は大学進学後もここでバイトし続けるつもりなのに。

 もうずっとここで働いている訳だし、慣れという意味でも給料という意味でも人間関係という意味でも、ここ以外のバイトに応募する理由が思いつかない。人生経験という意味合いで他のバイトを試してみる選択肢もあるんだろうが……どこぞの誰かさんのおかげで、もう一生分の修羅場は経験できた気がする。

 まあその誰かさんは今、僕のことを綺麗さっぱり忘れている訳だが。


 いやでも流石に可哀想だったな、昨日のアレは。

 玄関前で僕に「ストーカー?」なんて言ったばかりに、辻母にめちゃくちゃキレられて。


 僕としては別にストーカー扱いされようがどうでもよかったんだが。辻セイラとの罵り合いなんてかつては当たり前だったんだし、記憶喪失なんだから仕方のないことでもある。

 ただ、辻母としてはカリンのFDEIAから始まる2年近い付き合いがあったから、医者に異常無しと言われたとしてもあの発言を親として叱らざるを得なかったんだろう。

 とはいえミオも動揺してたし、あの人があそこまで怒るのは相当珍しいんだろうな。辻セイラも途中涙目になりながらやいのやいの抵抗してたし。噂には聞いていた泣き虫辻セイラの一端を垣間見てしまったのかもしれない。

 何はともあれ、あそこまで嫌悪感を示されている以上、僕からはもう関わらない方が正解だろう。テキストでメッセージを送るくらいならいいかもしれないが、出会った瞬間言い争いに発展する相手が頻繁に様子を見に来ていては休まるものも休まらない。


 ただ……何もしないというのも落ち着かないな。

 次にループが起こってしまっても僕には連絡が来ない。

 僕は何も知らないまま同じ一日をもう一度過ごすことになってしまう。


 距離を取るということは、聞くだけ聞かされて真意をつかみ取れなかった「一人でやる」の暗号について聞きに行くことができなくなってしまったということだ。それどころか、過去のループで何かやらかしたのかと僕は心配していたのに、その伝言の内容ごと向こうは忘れてしまっている。

 何より、二人で解決したループの記憶も消えているのなら、その期間に解決したループの内容を忘れていてもおかしくない。彼女が自室に漫画が存在しないことを不思議に思い、またフィクションに手を出そうとしてしまっては……ちょっと目も当てられないぞ。


「で、4月は週何?」


「今まで通りでお願いします」


「はいはい。また1月みたいに、給料その場で全部封筒に詰め替えて持ってかないでよ。めっちゃビビったんだからアレ」


「立て替えてもらっていた分を返しに行っただけですよ」


「……えっ借金?」


 随分懐かしい話を持ち出してくるな。


 大した話でもない。

 旅行中のループの中、電話一本で理由も聞かずに一晩分の荷物を揃えさせた九条ノドカに、費用まで持たせる訳にはいかない。

 だから旅行から戻って最初の給料日に、受け取ったその足で全額を渡しに行った、それだけのことだ。

 向こうは最後まで「受け取れません」と首を振っていたが……結局、封筒を両手で抱えたまま、別れるまで一度も鞄にしまわなかったな。そんなに落としそうに見えたのだろうか、あの封筒は。


 ……。


 ……そうだな。


 辻セイラには近づけない。それは変わらない。

 だが近づけない以上、せめて原因くらいは外から確かめておきたい。


 そもそも、あの記憶喪失はおかしいんだ。

 頭を打って記憶が飛ぶなら、普通は打った前後が抜けるものだろう。ミオも三好ルナも家族も覚えていて、僕に関わることだけが綺麗に抜け落ちる。そんな都合のいい忘れ方を、ただの事故がするだろうか。

 事故なら医者の領分だ。心因性なら、むしろ僕は近づくべきではない。どちらにしても、僕にできることは何も無い。だが、原因が彼女の頭の中ではなく、外にあるとしたら……。


 それなら話は別だ。問題は辻セイラ本人ではなく、どこかにいる誰かということになる。

 九条ノドカ越しにWPPOに頼れば、辻セイラに一切触れなくても辿っていけるんだ。

 母さんもよく言っていた。分からないことは、分かる人に聞けばいいと。

 確かめる手段は、案外近くにあったのかもしれない。


「なんか苦労してるなら言いなね? ちょっとならおまけしたげるから」


「そうですか」






「……さっき養ってくれとか言ってませんでした?」


「は? 当たり前じゃん? 借りは返してもらうよ」


「えぇ……」






 *






 わざわざ駅前の喫茶店のテラス席を選んだのは正解だった。

 2月に外の席を選ぶ物好きは他にいないらしく、周りに客は一人もいない。

 店内の方が暖かいのは分かっているが……話の内容を考えれば記録が残る電話では危ないし、そうなると、誰かに聞かれる心配の無い場所の方がいい。


「瀬尾さん、お待たせしました!」


「すまない。忙しかっただろうに」


「いえ! 私こそ、すぐに時間を作れなくて申し訳ないです」


 そうだろうか。

 昨日急に「聞きたいことがある。会えないか」と連絡を受けて、数分と待たずに「明日であれば問題無いです」と返してきたのだから相当だと思うが。

 こちらからすれば「WPPOの人脈を利用して何か情報を得られないか」という下心で君に連絡したんだ。

 急いでくれるとありがたいのは確かだが、特に期限が指定されている訳ではないんだし、好きなタイミングで合わせてくれればよかったのに。


 それに、いつもと服装が違う。

 制服でもなければ、旅行の時の防寒一辺倒の格好でもない。

 淡い色のコートに、見覚えのないマフラー。髪も普段より手が込んでいる気がする。

 なるほど。


「もしかして、仕事の最中だったか?」


「え?」


「その格好だよ。身なりを整えなければいけない用事があったのかと思って」


「……あ、はい。そ、そうですね」


 やっぱり。

 普通の学生ならただ入学手続きをするだけだが、WPPO職員となればそうもいかないだろう。他にも手続きすることが山ほどあるはずだ。

 合わせて、今のWPPOは件の一斉摘発に向けて世界的に動いているはず。九条ノドカだけがその煽りを一切受けず、ゆったりとした暮らしができているとも考えにくい。

 やはり忙しかったんだ。無理をさせてしまったか。


 しかし、結局はこうして来てくれたんだ。

 その厚意を無下にする訳にもいかない。


「そ、それで! お話というのは……」


「ああ。最近巷で噂のネメシスについて聞きたくて」


「えっ………………あ、あれ? ネメシスですか?」


「そうだ」


 宗教団体、ネメシス。

 一度は除外した可能性ではある。WPPOに喧嘩を売ると宣言した組織が、WPPOと何の関係も無い女子高生を狙う意味が無い。


 だが、実際の辻セイラを見てしまった以上、その可能性を完全にゼロと決めつけるのも早計だろう。


 声明が出たのは3日前の夜で、辻セイラが階段で頭を打ったのも同じ夜だ。

 偶然と言ってしまえばそれまでだが、重なりすぎている。狙いがWPPOだったとしても、何かの準備の過程でたまたま巻き込まれた誰か、ということもあり得なくはない。彼女個人を狙うことはあり得ないとしても、彼女の周囲を巻き込んだ大規模な攻撃という意味ならその射程内に入っていてもおかしくはないんだ。

 まあ、その中で彼女だけが対象になっている理由は不明だが……。

 相手がどういった存在で、どういった攻撃をしかけようとしていて、標的が何なのか。もしWPPOがそれらの情報を既に掴んでいて、かつ僕に開示可能であるならば……確かめておくに越したことはない。


「今や結構なニュースだろう、それで気になってしまって」


「なるほど……確かに、不安な気持ちは分かります」


 一応、探りすぎていると怪しまれても困るから。

 なんとなくニュースを見て不安になった、そんな一般市民の世間話的な雰囲気で。


「関与した者全員というのは相当な数だろう。世界中に信者がいる団体だ、間に合うのか」


「それなら問題ありません。WPPOの発表する期限は、基本長めに取ってあるんです」


 ん? 


「長め?」


「はい。必ず期限内に終わらせることで、皆さんに安心していただくためと……あと、相手に『いつ来るか』を読ませないためです。1週間と言っておいて、明日動くこともありますから」


「なるほど」


 初めて知った。合理的だな。


 期限ギリギリの宣言をして1日でも遅れれば、市民の不安は一気に膨らむだろう。

 逆に、期限を毎回必ず余裕を持って守っていれば、「WPPOが言うなら大丈夫だ」という信頼が積み上がっていく。少し長めに期間を取ったとしても、「いつも通り予定より早めに終わるだろう」という認識があれば、不安は解消されやすい。実際、数字現象の際もWPPOの対応は聞かされていた時間より遥かに短かった。

 そして相手は相手で、1週間のうちいつ踏み込まれるか分からないまま怯えて過ごすことになる。あるいは、長すぎる猶予をあえて提示することで、WPPOの攻撃手法が時間のかかるものであると誤認させる効果もあると。


 よくよく考えれば当たり前か。

 WPPOには未来が視えているんだから、解決までにかかる時間なんて初めから分かっているに決まっている。それが綺麗に丁度24時間後や1週間後になることなんてあり得ないのだし。そういう狙いがあってわざとやっていたんだな。

 母さんも、帰りの時間を伝える時はいつも30分遅めに言っていた。

 早く帰れば喜ばれるし、遅れて心配をかけることもない、と。同じ理屈だ。


「それにWPPOは、上層部がその気になれば、全世界を一晩で制圧できるほどの力があります。ネメシスくらいなら、実際はもっと早く対応できるかと」


「へえ。そんなに」


「勿論、そんなことはしませんよ? ただ、それぐらいの力が無いと世界平和は維持できませんから」


 そうなのか。

 薄々そんな気はしていたが、予想以上にWPPOは強力な組織だった。


 まあ、それだけの力を持っていながら、実際に使うのは犯罪を予告した相手に対してだけ、ということだろう。

 ネメシスには「全員確保」と言い切るほど容赦がないが、市民の生活には一切手を出さない。僕へのスカウトも、あくまでこちらの判断に任せると言っていた。

 力の向け先をきちんと選んでいる組織なんだ。

 なら、能力者でもなければ犯罪者でもない僕には関係のない話だな。


 そしてここまでの情報を開示してくれるのは、僕を信用してくれているからと。

 正直過分な気もするが。未来予知をして、「作戦完了までに僕が情報漏洩することはない」と分かっているんだろう。あるいは「この程度の情報であれば最悪漏洩しても問題無い」と考えているのか。


 さて。それなら遠慮することも無い。

 今の話の流れなら、自然に本題に繋げられる。


「なら、ネメシスの声明にあった『天の裁き』というものも、突き止められているのか?」


「それは……すみません、詳しくはお話しできなくて」


「そうか。なら、もう誰か被害に遭っている、ということは無いのか? 例えば──」






「──声明の前後で、怪我をしたとか、急に様子がおかしくなった人がいるとか」


「……被害、ですか?」






「……何故そんなことを? まさか……」


「何度も言うが、僕は能力者じゃないぞ」


「……むぅ」


 納得していない顔だな。

 まあいい。否認を続けている限り、話はそれ以上進まない。

 疑われるだけで、それ以上のことは起きないんだ。

 僕の予知は完全ではないとも思われているし、多少の無茶も今なら許容できるだろう。


 そもそも、ネメシスの話の流れなら、被害の内容を聞くのはおかしくないはずだ。

 大規模犯罪を予告した組織の戦力を気にするのは、一般市民として当然の視点だと思う。

 その過程で、「様子がおかしくなった」というさりげない探りを入れて、記憶操作の線を探ればいい。

 もし他に同様の被害を受けた例が存在するというのなら、辻セイラの記憶喪失は能力によるもので確定する。

 その場合は迅速に被害をWPPOへと報告し、能力犯罪として対応してもらおう。


「……ネメシスに、そういった能力者はいません。私が聞いている範囲では、ですけど」


「そうか」


「そもそも、私は作戦に深く関わっている立場ではないのですが」


「だが、そういった事件の例があれば、流石に耳に届くだろう?」


「まあ、そうですね。現状、ネメシスは一切のアクションを起こしていないと思われます」


 ふむふむ。

 彼女は僕の発言に何度も驚く様子を見せていた。今日のこの話し合いにおいて、上から「瀬尾マコトに質問攻めにされるぞ」とは言われていなかったのだろう。

 そして今、端末を確認する素振りすらなかった。回答を事前に準備した訳でもなく、今緊急で答える内容を上に確認した訳でもない。


 つまり、これは喋って良い内容。

 かつ、即答できる程度には自信のある答え、ということだ。


 じゃあやっぱり、関係なかったのか。


 全世界を一晩で制圧できる組織が、まだ何もアクションを起こしていないと考えているんだ。これ以上確かな根拠は無い。

 宗教団体ネメシスは、怪しげな声明を発表し、怪しげな活動を行っているが……それが原因で辻セイラの記憶が消えた訳ではないと。

 結構可能性としては無くもないと思っていたんだが。

 そうか。なら、手詰まりになってしまったな。


 これでネメシスが分かりやすい行動を起こしてくれていたら話は違ったんだろうが。彼らの主張する、「裁きを起こす天」とやらは綺麗に雲一つない快晴だ。

 九条ノドカの発言を信じるなら、少なくともWPPOの予知が及ぶ最低期間の2週間は、この空に何も起こらないことが確定している。

 勿論、死に戻りによりWPPOが被害を認知できていないだけという可能性も考えられない訳ではないが……今回に限ってそれは薄い。

 いつもと違い、今のWPPOは警戒状態だ。「年明け無事だからきっとその間も大丈夫」ではなく、「リアルタイムでネメシスが何を起こすか」を監視していることだろう。


 九条ノドカが何か情報を隠している可能性もあるが、こうして教えてくれない以上、存在したとしてもそれは許可されていない情報なのだろう。

 つまり、ここで僕がいくら九条ノドカに誘導尋問を行っても、答えてくれる未来は存在しないということになる。


 何かできることはないかと探してみた結果、分かったのは「僕にできることはない」という結果だけだった。






「必要であれば、上の人に電話して、直接聞けるよう取り計らいましょうか?」


「いや、十分だ。聞きたかったのはそれだけ。助かった」


「……そうですか。あまり役に立てた実感が無いのですが」


 ……そんな捨てられた子犬みたいな顔しなくても。

 悪かったって、急に呼び出して質問だけだなんて。

 やることが無くなった以上、僕も時間ができてしまったんだ。

 ほら、ここは奢るから。少し高めのランチで手打ちとさせてくれ。






 *






「楽しかったですね、瀬尾さん!」


「まさか夕方まで遊び歩くことになるとは……」


 確かに、不機嫌そうだったからランチの後も「行きたい所があるなら付き合う」と言い出したのは僕だ。だが、まさか雑貨屋と本屋と映画館をはしごすることになるとは。

 まあ、悪くはなかった。彼女のことは友人だと思っているし、受験終わりに少し遊んだと考えれば、それなりに楽しめたと思う。

 しかし、九条ノドカは僕に呼ばれたというだけで今日の午後丸々空けていたということになるのか。

 結果論でしかないが、楽しんでくれて本当に良かった。


「あの旅行以降、なんだかギクシャクしてたじゃないですか、私達」


「そうだったか?」


「そうですよ! 私、あの日から何故だか気持ちが落ち着かず……」


 ──プルルルル


「って、あれ。電話鳴ってますよ」


「おっと。すまない、出てくる」


「はい! どうぞ」


 落ち着かないとは。

 ああ、あれか。僕の予知のことを上に報告すると宣言していたことか。

 向こうからすれば僕は能力者であることを隠しているように見えるから、仕事とはいえその意に反するような行為をしてしまって気になっていたんだろう。

 別に僕は気にしていないのに。そもそも能力者じゃないんだし。


 それより、電話だ。

 表示は……。


 ……辻家の固定電話? 


 辻セイラなら携帯からかけてくる。

 カリンも同じだ。わざわざ家の電話を使うとなると……辻母か? 

 辻母が僕に直接かけてくるなんて、滅多に無いことだ。

 ……もしかして、辻セイラの記憶が戻ったという知らせだったりしないだろうか。それなら、真っ先に僕に連絡をくれてもおかしくはない。


「もしもし」


『あっ、せ、瀬尾君?』


「はい、瀬尾です」


『その、ごめんなさいね、急に。あの、変なこと聞くんだけど……最近、学校で穴掘りみたいなことってしなかった?』


 ……穴掘り? 

 挨拶もそこそこに、いきなり何の話だ。

 僕達直前まで受験生だったのに。

 そんな遊びやっている時間は無いぞ。


 ……あれ。

 少し声が、上ずっているような。


「いえ、そういったイベントはありませんでしたが」


『そ、そうよね。じゃあ、卒業記念の植樹とか、花壇の手入れとか……』


「それも無いです。少なくとも、僕の知る限りでは」


『……そう』


 なんだ。何を聞きたいんだ。

 僕が「ありました」と言えば全部片付く話を、必死に探しているような……。


「何かあったんですか」


『その……セイラの部屋に、ホームセンターの袋があったの。中にはスコップとか、ロープとかがあって……それで』


「……それで?」






『その、スコップに……血がついてて』


 ……ん? 






 ち? 

 え、は? 


 血? 

 何だって? 


『あの子が怪我してるんじゃないかと思ったけど、そんな様子無かったはずなのよ。なのに、なんでこんな』


「ま、待ってください。落ち着いて」


 血のついた、スコップ? 

 なんだ、何に使ったんだ。


 いや、落ち着け。悪い目的ではないだろう。

 スコップをホームセンターで購入しているんだ。後からいくらでも足がつくし、もし本当に攻撃的な目的であれば普通に刃物や鈍器なりを購入すればいい。

 そもそもスコップってなんだ。ただ軽くて、先が案外鋭利で、柄が長いから間合いが取れて、物を埋めるのに使えるぐらいじゃないか。

 ……あれ? 


 い、いや待て。

 ただ自分で何かの作業をしていて、その時にぶつけただけかもしれないぞ。

 そうだ、レシートだ。

 レシートを見て、購入日時から何をしていたか逆算すればいい。


「袋の中に、レシートは入っていませんか」


『レシート? え、ええと、待ってね……あった、これかしら』


「日付と時刻を読んでもらえますか」


『日付、ええと………………あれ?』


「どうしました?」






『……これ、一昨日に──あの子が、病院に行ってた、時間……』


 ……は? 






 待て。

 何故だ。


 その時の辻セイラは記憶喪失だったはずだ。

 だから病院に行って、帰りに僕と遭遇して、ストーカーだなんだと言ってきたんだ。

 その時の辻セイラは何も持っていなかった。あの時点で使用済みだった? 

 いや、だが彼女は僕のことを覚えていなくて……。


 ……違う! 


「ッ! 失礼します!」


『えっ、瀬尾君、待っ──』


 記憶喪失かどうかなんてどうでもいい! 

 嘘をついてホームセンターに行き、それで血を扱うような事態になったというのなら──


 僕への記憶の有無にかかわらず──彼女は今ループ中だということだ! 


 残り時間がいくらあるのか分からない! 

 急げ! 急いで彼女と連絡を取ら──






 *






『──宗教団体「ネメシス」は昨夜、「天の裁きは既に定められている。WPPOがそれを削除することは、もはや叶わない」とする声明を発表しました』


 ……朝から聞くには、ずいぶんと物騒な話だな。

 せっかく試験も終わったっていうのに。翌日一番に聞かされるのがこんなニュースとは。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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