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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
26

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[26:38] 答えは揺らぎ

 もう時間は20分あるかないか。

 迅速に事を進める必要がある。急いで九条ノドカを探さないと。

 彼女の部屋がどこにあるのか分からない以上、この広い広いホテルから一つしかない宿泊場所を見つけ出すことは不可能だ。そっちの方向性は捨てて考えないといけない。


 重要なのは、彼女の部屋がどこにあるかではなく、彼女の現在地がどこなのかということ。


 さっきまで電話に出られる環境で、今は出られない。

 この情報が数少ないヒントだ。


 1. 遭難していて、携帯が圏外……は無いだろう。

 途中で吹雪いたりもしていないし、この30分で遭難してしまったということはあり得ない。ルール人間の彼女は、地図さえあれば全くその通りに目的地まで進むことができる。迷子の可能性もないはずだ。


 2. 本人の体調に異常が発生したということもない。

 前の周では辻セイラがタイムリミット直前まで普通に電話をしていた。だからこの30分で急に体調悪化したということは考えにくい。それなら電話の最中に問題が発生しているはずだろう。


 3. 携帯電話を失くしてしまった? まさか。

 1時間半前までは部屋にいることが確定しているんだ。部屋の中で失くしたなら、ここまで電話を入れているんだから着信音で見つけられるはず。ただでさえ持ち物チェックには厳格なんだから、この線は薄い。


 そして、本人が誰かに襲われてという可能性も能力の存在から除外される。となると、彼女は今、「完全に無事だが、連絡だけ諸事情で取ることができない」。そういう状態にあるのではないか。

 加えて、彼女の「満喫する」という発言。ここから導き出される結論は一つ。






 彼女は今──温泉に入っていて電話に出られないんだ。






「展望台よりお風呂に入りたかったのかい? 九条さんはもういいの?」


「いや、大浴場に行く予定ができただけだ。急にすまない」


「それを一般的に『風呂入りたい』って言うんじゃねーの?」


 それぞれの個室にも浴槽はあるが、彼女は楽しむ時は楽しむ性分だ。

 温泉を満喫しに来たとまで言っておいて、部屋の中にある普通の風呂だけで満足するはずがない。せっかくなら複数種類の温泉が楽しめる大浴場、その女湯が妥当なところだろう。

 あまり個人の時間に執着する性格でもないし、「人が多いから大浴場は嫌」と考えることも無いだろう。むしろ積極的に周囲の様子を観察しようとするはずだ。

 となると、彼女の携帯は貴重品専用ロッカーか。施錠する鍵は今頃彼女の手首にでも巻かれていて、いくら電話をかけようが繋がるはずもない。


 勿論、この推理が外れている可能性もあるが……逆にこの場所にいなければポンコツが祟りに祟って誰にも気づかない場所に携帯紛失したルートを考慮しないといけなくなる。

 流石にそこまで抜けてはいないと信じたい。


「僕は部屋のお風呂でも良かったんだけどな。体が小さいから人に見られたくなくて」


「確かにな~。ハルキは背中だけ見れば一瞬女子かって思いそうだぜ」


「む……言ってくれるね。どうせ筋肉ついてる日高くんには分からないさ」


「いやぁ委員長も結構凄いぞ。スポーツとかやってねえだろ?」


「僕の体は母さんがくれたものだからな。あの人が気に病まないように……」


「おおいつもの委員長だった」


 なんで自分で聞いておいて遮るんだ。

 母さんが悲しまないように体を丈夫に作っておくのは至極真っ当なことじゃないのか。

 体が丈夫だといざ母さんが困っていた時に力仕事を任せてもらえるし、病気や怪我で母さんを心配させなくて済むし、母さんより先に死ぬという親不孝をしなくて済むからな。息子という存在は全員、母親のために体を鍛えるのが基本……。


 ああ違う違う。思考が脱線していた。

 そんな時間無いのに。


 もし九条ノドカが大浴場の女湯にいるとして、そこに突撃するわけにはいかない。

 間違いなく通報されるし、それで彼女の命が救われてループが終了してしまったら、非常に不名誉な形で前科がついて終わりだ。虚偽通報なんて目じゃないし、桜台への進学も可能性ゼロになるだろう。


 しかし僕は、向こう側にいる彼女を呼び寄せる必要がある訳だ。

 それも電話ではなく、風呂を楽しんでいる最中の彼女を、大急ぎで。


 なら、目指すべき場所は……。


「かけ湯して……うし。んじゃまず一番手前のデカい風呂から入るか?」


「僕はあっちの桶みたいな狭いお風呂が気になるな。マコト、一緒に入らな……って」


「お、おい委員長? いきなり露天風呂か?」


「そうだ」


 目指すべきは屋外の露天風呂。

 露天風呂は給湯・源泉の取り回し、要は配管の都合上、あまり離して配置すべきではない。清掃スタッフの効率化や騒音・プライバシー対策のためにまとめて配置されることが多く、外の景観を共有するためにも場所が離れすぎるのはデメリットになる。

 つまり、露天風呂に関しては男湯と女湯は隣接しているという訳だ。それも柵一枚越し。覗きをすることはできないが、空間的には向こうと完全に分離された場所という訳でもない。


 だから、視認することはできなくても音を聞くことだけなら可能だ。


 ──「(フンフフンフ~ン♪)」


 勿論、壁を高くするなり、植栽を多くするなり、水音を大きくするなりして男湯と女湯で音が聞こえにくくするような工夫はされているだろうが……今はそこまで混んでいないし、その工夫に「大きな音をかき消す」ほどの力がある訳でもない。

 要は、迷惑にはなるが、「大声を出せば」向こうに直接意思を届けることができる。


 そして僕は、九条ノドカが風呂を中断せざるを得ない合言葉を持っている。


「え、マ、マコト? 一体何を……」


「おい委員長? まずかけ湯してからじゃねえと……」






「九条ノドカ!! 助けてくれ!!」


 ──「へっ、えっ、せ、瀬尾さん!? あっちょっゴボゴボゴボ……!」






 よし、向こうから九条ノドカの大声が返って来た。

 聞こえたということだな。


 ちょっと周りの目が痛いが今はそれどころじゃない。

 恥を忍んででもこうするしかなかったんだ。

 推理通り、彼女は大浴場で温泉を満喫していたと。

 邪魔して申し訳ないが、おかげで問題解決した。


「ちょっ、委員長!? マズいだろ大声なんか出したりしちゃあ!」


「そうだよ! ルールにも『他のお客様の迷惑になるような行動は』って……」


「ああ。だから、今から僕は外に出てくる」


「!?」


 確かに、ここの大浴場には『他のお客様のご迷惑になるような行動はお控えください。場合によっては退出して頂きます』と注意書きがあった。

 法律や制度で厳格に禁じている訳ではないが、一般常識として「共有の大浴場で大声を出すような客」は追い出されるべきだ。迷惑行為でしかないからな。


 ──「せ、瀬尾さん! 何があったんですか!? 外に出ればいいですか!」


「ああ、頼む!」


 ──「わ、分かりました! 急ぐので待っていてください!」


 だから、言われなくても、「ルール通り」退出させてもらおう。

 丁度都合の良いことに僕は今から「外で人と合流する用事」ができた。

 九条ノドカは僕の護衛としての任務が存在するんだから、休み中とはいえ救援要請を受けたら僕を護衛するためにすぐ戻ってこなくてはいけない。無視することもできるだろうが、性格的にそれはしないだろう。

 そして僕は、実際に「助けてほしい」状況だ。彼女に側にいてもらわないと困る。


 今現在温泉を楽しんでいた人々には後で謝罪するとして……。

 ……時間は、残り10分。ギリギリ間に合った。


「二人とも、振り回して悪かった。用が済んだらまた戻ってくる。僕は無視して温泉を楽しんでいてくれ」


「あっちょっ……」


 迷惑行為の代償は払わなければいけないが。

 少なくとも、これでタイムリミットの九条ノドカに何が起こるかは分かりそうだ。






「ど、どういうことだ? 逢引きか? あの委員長がこんな真似……」


「……やっぱり九条さんは駄目だ。彼女も、マコトを誑かす女狐だったんだ……」


「うわ隣は通常運転だった。安心するぜ」






 *






「お待たせしました瀬尾さん!」


「いや、こっちも急かして悪かっ……」






 濡れた髪。

 巻いただけの帯。

 若干透けている布。

 膝上まで捲れた裾。

 鎖骨が丸見えの浴衣。






「なんだその恰好!?」


「へ? あ、いや、急がないといけないと思って……」


「ああ悪い僕の言い方が悪かった! 服はきちんと着てくれ! これから移動する可能性があるから!」


「えっ、誰かに襲われているとかではなくて?」


「確かに緊急なんだが、そういうのではない……多分!」


「~~っ!! し、失礼しました! 直してきます!」


 い、いや、確かに助けてくれと言ったのは僕だ。

 彼女からすれば護衛の必要性があると思って飛び出してきてくれた。

 もし今命を狙われているなら見た目なんて気にしている暇もないし、僕も「助けてくれ」以上の情報は言い出せなかった。急いでもらう必要があったのは事実だし、その気遣いは嬉しくもある……。


 ……だが。

 流石にあそこまで開けた状態で出て来るとは思わなかった。


 き、気まずい……。






 *






「お、お待たせしました瀬尾さん……」


「いや、こっちも急かして悪かった……」


 ……恥ずかしがっている場合じゃない。

 さっきのやり取りで、ただでさえ短い時間が3分も削れてしまった。大幅ロスタイムだ。


 10分あれば、もう少ししっかりと辻セイラも踏まえて三人で話し合うことができたかもしれないが、これだけ切羽詰まった状況だと、大急ぎで分かる情報だけ一つずつ聞いていく他ない。

 彼女はWPPOの職員で、同時に辻セイラの『大切な人』疑惑がある。

 辻セイラの能力について喋ることは不可能だ。限られた情報だけで聴取をしなければ。


「改めてだが、九条ノドカ。時間がない」


「は、はい」


「詳しい事情は話せないんだが、数分後、君に何か危険なことが起こる可能性がある」


「はい……えっ、私ですか!?」


「そうだ。心当たりが無いか聞かせてほしい」


「えぇ……?」


 確かに、説明も無いまま急に「君が危険だ」と言われても混乱するのは当然だろう。

 僕に「助けてくれ」と言われて急いで飛び出したら助ける相手は僕じゃなくて自分だった……そんな話をすぐに理解するだなんて無理のある話だ。

 自分でも「危険」としか言えず、何を探せばいいのか具体的には分かっていない。優秀な捜査官のように的確に絞り込めているわけではなく、思いつく限りのことを片っ端から聞くしかないのが正直不安ではある。


 だが、時間が無いから丁寧に解説している暇なんて無い。畳みかけるしかないんだ。辻セイラからの続報は無いから、まだ原因は確定しておらず、九条ノドカが対象の可能性もまだ十分に考えられる。

 タイムリミットになるまで、彼女に分かることは全部聞いておかなければ。


「今日、体調に変わったところは無かったか」


「う、うぅん……無い、ですね。いつも通り健康です。食べたものも全部思い出せます」


「それは良かった。君が健康で嬉しいよ」


「……っ」


 これで病気の線は大幅に消せたと考えていいだろう。

 食べたものまで思い出せるというんだし、僕に「危険がある」と言われて体調を聞かれているんだから、「あの食べ合わせ悪かったかな~?」と心当たりがあるならすぐに言ってくれるはずだ。


 しかし結果は「いつも通り健康」。

 僕に呼ばれてすぐ走ってこれた以上、のぼせる寸前だったということも無いだろう。

 アレルギーがあるという話も聞いたことは無いし、彼女もそういうところはキチっとしている。もしあったとしてもミスは犯していないはず。彼女の体調に異変は無い。


 これは朗報だ。

 もしカリンのように原因不明の病症を抱えている、とかであれば1時間半ではどう足掻いても解決できなかった。彼女が健康で本当に嬉しい。


「怪我や、痛むところは?」


「大浴場で足を滑らせかけましたが、大事には至っていません」


「お、おお。ヒヤっとしたぞ……」


「私が滑ったら困りますか?」


「当たり前だ。頭でも打ったりしていたら女湯に乗り込まなければいけなかった」


「……ぇ」


 そうか、怪我はない。痛みも無い。

 大浴場で滑りかけたというのは、シンプルに床が濡れていたからこその普通の滑りだ。それ以上でもなんでもない。彼女らしいアクシデントというだけだ。


 第一、今回滑りかけたのも僕に呼ばれて大慌てで走ったからだろう。

 僕があんなことをしなかった他の周では滑ること自体が無かっただろうし、そもそも辻セイラとずっと電話していた周でも死に戻りは発生しているのだから、この1時間半以内で起こった怪我が原因ではない。

 そして、この1時間半の話題しか出てこなかったということは、それ以前の時点で怪我をした覚えは無かったということ。やはり彼女は健康そのものということだ。


 というか、怖いな。

 もし彼女が浴槽で滑って頭打ったら本当にそれだけでループが発生してしまうのか。

 彼女を辻セイラに紹介した僕の判断は正しかったんだろうか。

 最悪、女湯に突撃する可能性があったかと思うと肝が冷えるぞ。


「じゃあ今日、普段とは違うような行動を取ったりしたか?」


「い、いいえ。旅行に来ている以外は自然体の九条ノドカです」


「行ったことのない場所へ足を運んだりは?」


「いいえ。地図にない場所は怖くて行けません」


「身につけているものに異常があったりは?」


「いいえ。持ち物チェックは万全ですから」


「……そうか」


「わ、私に興味が……?」


 やはりそうか、手掛かりは出てこないか。ここまで聞いてみても、これといった心当たりが挙げられないなら、そういうことなんだろう。

 いや、何も出てこないということが逆にヒントなのかもしれないな。これらの原因で九条ノドカが死亡する可能性はゼロであり、むしろ他の『大切な人』が対象かもしれないという根拠を強めることができたのなら、それだけで一応の収穫ではあるはず。


 しかし、本当にこれでいいのか? 

 焦ってばかりでは駄目だが、もう制限時間は1分と少し。残り時間は減っていくばかりなのに、聞くべきことを聞き終えてしまった……現状手札切れと言わざるを得ない。

 他に何かないか。

 少し視点を変えて、何か思い当たる節が無いか。


 例えば、今日一日じゃなくて……。

 今、この数分で何か変化があったんじゃないか、とか……。


「今、あるいはこの数分で、何か少しでも変だと感じることはなかったか」


「え、えーと……気のせいかもしれないんですが」


「聞かせてくれ」






「お風呂に入ってる時なんですけど、お湯が……少し波立っていたような気がします」






 ……。


 …………。


 ………………。


「瀬尾さん?」


「……」


「え、どうして携帯を……」


 ……僕は、気づかなかった。

 何か波立つ要因があったが、普通にあたりを歩いているだけの僕達には気づけない「何か」だった。温泉に浸かっていて、かつ観察能力の高い九条ノドカだから気づくことができた。


 どこにいても起こってしまう。つまりは広範囲ということだ。

 毎回同じ時間に起こる。つまりは人の意思に依存しないということだ。

 九条ノドカが対処できない。相手は人ではない可能性があるということだ。

 もしかして……。


「……自然災害か?」


「?」


 それも、直前に揺れがあったということは、考えられるのは……地震。

 歴史の授業で習ったが、過去には地震という現象が存在していたと聞いている。

 今ではWPPOが削除してくれているから実感の薄い現象だが、九条ノドカが死亡して、辻セイラの死に戻りが発動するとなれば……未来予知は届かず、WPPOは今回起こる自然現象を削除できない。


 辻セイラが分からなかったのは? 

 脳が破裂している人間が揺れを感じたところで、それが何かは分からないはずだ。

 人の見た目や声自体は知覚できるかもしれないが、今感じている揺れが「自分が倒れて揺れたのか」「経験したことも無い現象によって揺れたのか」ということは判別できない。辻セイラが死亡する寸前に聞いた「大きな音」というのも……地面が揺れるなら、きっと大きな音がなるはずだ。


 じゃあ、今から起こることは……。


「瀬尾、さん。もしかして、未来が視えたのでは……」


「……ッ!」


 時間が無い! 






 ──ごごごごごご……


「辻セイラ! 聞こえているか!」


『う、うん!』


「えっ、辻さん!? ど、どこに!?」


 ──ぐらっ!! 


「っ!?」


「きゃあっ!?」


『マコト! 大丈夫!?』


 っ、揺れ! 

 携帯が! 


 だが、これで確信できた! 


「辻セイラ! 大きな音の正体は『地震』か『その二次災害』だ! 彼女はそれに──」







 ──ズドドドドドッッ!! 






 *






 出発して……大体30分か。

 ちょっと体があったまって来たな。


「おー、ロープウェイだ。すげー」


「僕、ロープウェイを見るのは初めてだ。ハルキはどうだ……って」


「お、おぶってマコト……」


 ……え、えぇ。

 30分歩いただけでバテたのか? 

 それにおぶってって……。


 これからロープウェイなのに、おぶったら危ないだろう。






 ん? 電話? 


 ……辻セイラ?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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