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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
26

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[26:38] 原因は一体どこに……

『そ、その……急にごめん。旅行中は邪魔しないって言ったのに……』


「いいから。要件を言ってくれ。僕は今猛烈に嫌な予感がしているんだ」


 これが普通の友人からの電話だったら僕も、「今行列に並んでいるところだから悪いけど後でかけ直してくれ」とメッセージを送っていたところだったさ。

 わざわざハルキとアサヒに断りまで入れてかなり進んだ行列を抜けたのは、僕なりに「この電話を無視してはいけない」と思ったからだ。急いで返事しないとマズいことが起こるんじゃないかって。

 アサヒは「いーよいーよ先行ってるし」と言ってくれたが、対照的にハルキの目は「ガチ」だった。それでも、彼を押し切ってこうやって物陰に移動してきたんじゃないか。


 だから、早く言ってくれ。

 半年ぶり。このトーン。「旅行中に邪魔しない」というワード。

 嫌な予感が止まらない。

 ただの「温泉楽しんでる?」みたいなタイミング悪いだけの世間話なら安心できるから。


「もしかして、今このタイミングで、『死に戻り』が起こってしまったのか」






「……1時間半後に」


 ……! 


 ああ。

 やっぱり……そうなのか。






 起こったのは死に戻り。

 彼女は僕に協力を求めてきた。

 それだけで電話に出る価値はあったと言える。

 僕はこれから協力しなければいけない。


「……OK、OKだ」


『……ごめん』


「いい、いいんだ。そういう約束だから」


 だが、1時間半? あまりにも短すぎるだろ。

 これまでがかなり長かったから感覚がマヒしていたが……これって相当難しい部類の制限時間なのでは。ここまで短いのは初めて関わった15分の回と、雷が落ちてきた6秒の回以来じゃないか? 


 というか、相変わらず間が悪すぎる。

 どうしてよりにもよって僕の旅行中に死に戻りが発生してしまうんだ。

 つい昨日は「手加減してくれているのでは?」だなんて思ったが……やっぱりあのカス能力には意志があって、意図的に僕達に不利な状況を選んでいるように思えてきてしまう。それぐらいに理不尽だぞ。


「事情を説明してくれ。分かってる内容だけでいい」


『う、うん……』


 旅行中であれば、僕と辻セイラが必然的にかなり離れた場所に位置してしまう。

 ミオ、カリン、三好ルナ、辻母、辻父……『大切な人』に相当する5人は全員向こうにいるから、今こうして山奥に来ている僕が直接接触することはどう足掻いても不可能だ。

 向こうで何が起こっているのか、誰がどういう目に遭ったのか、何から大切な人を守ればいいのか、僕は直接視認できず、彼女から伝言を受ける形でしか協力することができない。


 これは相当なデメリットだぞ。

 実際に見ると見ないでは天と地ほどの差があるし、有事の際に彼女一人しか行動を起こせないのは大きな問題だ。「敵が二人いた」というだけの状況で、辻セイラの単独突破は絶望的になるし、かといって今の僕が1時間半かけてどう抵抗しようが、帰ることは不可能……。


 彼女自身、「楽しんできて」と言った手前、僕の邪魔をしたくはなかったはずだ。

 去年の夏に「流石に旅行中はアンタに頼らない」と言っていたし、今と去年では状況が違うものの、彼女は空気が読める性格。すぐ頼れと言っているのは僕だが、今こうして申し訳なさそうに電話しているのが何よりの証拠だ。もし自力で解決できるなら勝手にそうしているだろう。


 その上で、僕を頼らざるを得ない。

 それが示すのは、このループが相当な難易度だということ。


 果たして僕は、遠隔からそんなことができるのか……。


『今回の、標的なんだけど……』


「ああ」






『……ノドカかも、しれなくて』


「………………ん?」






「えっもう九条ノドカが『大切な人』入りしたのか!?」


『だっ、だって、仕方ないじゃん! 友達ってそういうものでしょ!』


「確かに!」






 ああ、そういう。

 まさか、でも、いや、ああ……。


 そうか。

 それなら、確かに僕を頼らざるを得ない……か。


『厳密にはちょっと違って、誰が標的なのかまだ分かってないの』


「分かる、分かるぞ。消去法的に九条ノドカの可能性が見えたということだな?」


『流石、話が早い……』


 おお、元気が無い。


 いやまあ僕もそれが分からないぐらいに馬鹿じゃない。

 きっと辻セイラからすれば、「誰も死んでないし、何の原因が確定したかどうかも分からない中で唐突に死に戻りが発生した」というのが現状なんだろう。

 何周かして調べ尽くしたが、どれだけ周回しても全員の無事が確認できてしまったため、「もしかして新しい大切な人ができてしまったのでは?」という可能性に思い至ったんだ。


 だから、彼女はまだ誰が死ぬのか分かっていない。

 1. 危険が迫っているのは5人の誰かで、まだ気づけていないだけなのか。

 2. 危険が迫っているのは九条ノドカで、彼女が既に『大切な人』入りしたのか。

 可能性として考えられるのはこの二つだ。前者なら九条ノドカがまだ『大切な人』入りしていないと考えることもできるが、ずっと証拠が見つかっていない以上、辻セイラは後者の可能性を疑わざるを得なかった。


 彼女の中では、『大切な人』が5人しかいないという固定観念があったはずだから、この結論に至るまで相当な回数のループを繰り返したはずだ。

 これまでに僕に協力を要請した周が存在したのかもしれないが、僕も同じ固定観念に囚われていたから、きっと役に立たなかったんだろう。


『一応、タイムリミットの時にノドカと電話してたんだけど……』


「結果は?」


『タイムリミット直前にすごい音がして、電話が切れちゃって、その後に……』


「ループしたんだな?」


『うん……』


 ……そうか。

 それなら、九条ノドカが要因である可能性は非常に高い。


 つまり、タイムリミット直前、九条ノドカの身に何かが起こったはず。

 おそらく1時間半後であれば……まだ旅館の、自分の部屋にいる頃だろうか。

 そして、電話が切れたと同時に脳が破裂してしまったため、何が起こったか調べることもできず、ループを繰り返してしまった。そういうことだな。


『部屋から出ないでとか、部屋から出てとか、ホテルの外まで行ってとか、何回か提案したんだけど』


「結果は変わらなかった?」


『うん。でも、誰かに狙われてるとしても、ノドカには能力があるし……』


「そうだな。誰かに襲われたという線は考えにくいだろう」


 対人であれば彼女の能力はほぼ無敵の戦績を誇るはずだ。かつて鳥に使用していたこともあるから、人間以外の生物にも効くと分かっている。熊に襲われたとか……そういう可能性も無い。

 そして、部屋の中にいるだけでは解決しなかった。問題は部屋の外にあった訳ではなかった。結果が変わらないと言っていたのだから、「凄い音がした」のも変わらなかったのだろう。

 部屋の外に出ても、旅館の外に出ても結果は同じだった。ここから考えられるのは、ガス漏れや火事など、建物の中にいることで起こる問題が正解という訳でもないということ。


 ……なんだろう? 


 そんな、どこにいても変わらず、全く同じ時間に即死級のトラブルを引き起こすイベントなんて存在するのか? 何か大規模な自然災害か、能力災害か、それとも僕の知らない何かか……。

 九条ノドカの身の安全はWPPOの未来予知で保証されていたはずだが、彼女が『大切な人』に入ってしまったのなら話は別だ。彼女の死でループが発生するなら、WPPOの未来予知は機能しなくなるから、即ち──どんな大規模災害が起こってもWPPOはそれを認知できないということになる。


「つまり、僕に要求するのは……」


『今から、ノドカのとこにいって、1時間半後に何が起こるのか、教えてほしい』


「……なるほどな」


 つまり、今回のループは僕に協力を頼みたい、ではない。

 僕が協力しなければどう足掻いても解決しないということだ。

 僕が辻セイラの元へ急行できないのと同じように、辻セイラもこちらへ急行することはできない。僕が向こうの様子を直接確認することができないように、彼女も九条ノドカが何をしているか直接確認することができない。

 できるのは、事情を把握して、かつ彼女と同じ旅行先へ赴いている僕だけだ。


 というか、今回の件は僕が協力しないと筋が通らない。

 九条ノドカと友達になってくれと提案したのは僕なんだ。彼女にはデメリットがあることを教えた上で僕の提案を飲んでもらった。なのに旅行中だから嫌だなんて言うことはあり得ない。

 今回の件は、僕が無茶な頼みをしたことが発端で起こってしまったループ。

 僕には、1時間半後の九条ノドカを見届ける義務が存在する。そして、もし原因が九条ノドカ側にあると分かれば、今度は僕が単身でそれを解決する必要がある。


「分かった。何か新事実が分かれば随時連絡する」


『おねがい。こっちでも、5人に何かないか調べ続けるから……』


「ああ。1時間半後、すぐ連絡を受け取れるよう準備しておいてくれ」


『ありがと……無茶しないでね』


 ……ハルキとアサヒにも事情を説明しないと。

 全てを説明することはできないが、「展望台は中止だ」とだけ伝えなくてはいけない。「行きたい」と言い出したのは僕なんだし、その僕が急に「行けない」と言い出すのだから、無理して行くつもりも無かった展望台に二人が行く予定は無くなってしまう。その理由は必要なはずだ。


 ああもう、なんて厄介なループなんだ、今回のは。

 ここまで嫌がらせのバリエーションが存在していて、僕達への配慮だけ全く足りないのは一体全体どういう領分なのか。一瞬でも優しくなったと勘違いした僕を分からせてやりたい。


 とにかく、今の辻セイラは疲れている。

 きっと相当な周を経ているはずだ。1時間半といえど、精神的な疲労は蓄積しているだろう。今は一刻も早く九条ノドカとの合流を検討すべき。

 ここまで30分歩いてきたから……今の電話を含めて、30分あれば山吹屋へ戻れるだろう。残り1時間あれば、問題確認に十分な時間は確保できる。


「じゃあ、九条ノドカの部屋番号を教えてくれるか」


『……へ?』


「今から急行する。彼女の所在を教えてほしい。電話していたんだろう?」






『………………あっ』


 えっ? 






「OK把握した。後は任せてくれ」


『ごめ……そこまで頭回ってなくて……』


「いいから! 休んでくれ! 僕が全部やるから!」






 *






「九条ノドカという宿泊客に取次願えないですか」


「申し訳ありませんが、どのようなご関係でしょうか」


「その、クラスメイトです。僕は同じ宿に泊まっている瀬尾マコトで……」


「申し訳ございませんが、他のお客様の情報はお伝えできかねます」


「部屋番号じゃなくていいんです。内線で繋ぐだけでも」


「お客様のお部屋にお繋ぎすることも、ご本人様の許可なくお受けしかねます」


 そうですよね! 

 分かってたよ! 


 普通、相手との関係性を証明すらできない若い男が、「女子高生の一人部屋に行きたいんだが」と詰め寄って来たところで、取り合ってくれるわけもない。

 番号教えるか、部屋に取り次ぐか、内線鳴らしてくれって言ってもNG出すのが基本だろう。彼女とのツーショットは持っているが、フロントにその写真を見せたところで「彼女が宿泊客の九条ノドカです」という証明にはなりもしないし、結局跳ね返されるだけ。

 なんて立派なセキュリティだ。古めなのは見た目だけで防犯意識は一人前ということか。

 賞賛に値する。例え相手が宿泊客であろうと他の客の個人情報を保護しようという気概が見て取れる。この宿につけるべき評価は星5つが妥当だろう。


 だがそれだと困るんだよ……! 

 僕は今すぐ九条ノドカを見つけないといけないのに……! 


「……ダメだった。アサヒ、電話は繋がったか」


「いや。さっきから教えられた番号にずっとかけてっけど返事なしだぜ」


「ねぇマコト? どうして九条さんに電話する必要があるのかな……?」


「ごめんって。急用があるんだよ……」


 そしてどうしてか、九条ノドカは一向に電話に出ようとしない。

 一緒に戻って来てくれたハルキ、アサヒと協力しているが、ずっと連絡が取れない。電話に出ないならまだしも、メッセージに既読すらつかない。


 これは一体、どういう状況なんだ。

 もしかして、彼女は既に危険な状態にあるのか? 携帯を確認できないような、それこそ命の危機があるような事態に既に巻き込まれてしまっているということなのか? 

 しかし、辻セイラ自身は1時間半前の時点で九条ノドカと普通に電話をして連絡を取り合っていたはずだ。30分経って僕達が連絡を取れない理由はどこにある?

 この30分の間に何か問題が起こってしまったのか? 


「んー……駄目だな。繋がらねえ。なんかあったのか?」


「マコト、何か知っているのかい?」


「逆だ、僕は何も知らない。彼女と会う用ができたのに、連絡が取れなくなっているんだ」


 フロントに掛け合っても駄目。電話も何故か繋がらない。

 そして、後1時間しない内に僕は九条ノドカに何が起こるか見届けないといけない……。

 となると、もう自力で彼女の宿泊している部屋を見つけるしかなくなってしまう。


 ……できるのか? そんなことが。


 探すとなれば、僕はこの宿の中を歩き回ることになる。

 ロビー、廊下、食堂、ラウンジ。宿泊客として歩き回るのは何もおかしいことじゃない。


 だが僕は、彼女の宿泊している部屋がどこか分からない。


 1. そもそもこれだけ広い旅館だ。部屋なんてかなりの数があるし、僕がそれをピンポイントで当てることができるはずもない。一つ一つノックして回る? どう考えても論外だ。

 2. 電話を掛けながら廊下を歩き回って着信音を探す手段もあるが、結局不審者であることに変わりはない。そもそも着信音が聞こえてくるほどこの旅館の壁は薄くない。

 3. 仲居や清掃スタッフに「眼帯の女の子を見なかったか」と聞いてもいいかもしれないが、さっきフロントに突っ返されたんだ。他のスタッフが客の位置情報を喋るだろうか。

 4. 館内放送で呼び出してもらうという作戦もあるが、こちらにそれだけの権限は無いし、理由を説明できない以上不可能、ストーカー疑惑が深まるだけになってしまう。

 5. 贅沢をすると言っていたから高級フロアに絞り込むのも一つの手かもしれない。しかしやはり部屋が一つという訳ではない。監視カメラの数は増えていそうだ。余計やりにくい。

 6. じゃあ電話が通じるようになるまで待つか? それはいつだ? 1時間も無い制限時間のうちに偶然電話が繋がる可能性に賭けるのか、僕は? それでいいのか? 


 駄目だ、考えれば考えるほど解決策が見えてこない。

 見えるのは困惑した表情の友人二人だけ。


「……マコト。そんなに九条さんに会いたいなら電話が繋がるまで待てばいいじゃないか」


「まーそうだな。その事情ってのが何なのかは知らねーけど、そのうち繋がるかもよ?」


「いや、そうじゃないんだ。早く見つけないといけなくて……」


 ……どうしよう。

 完全に詰んでいる。


 ここで二人に事情を話してもいいが、だからと言って何か新しい情報が出て来るのか? 

 この二人はこの旅行で九条ノドカとほとんど接触していない。チェックインの時にちらと見かけたぐらいだ。僕ですら二三会話を交わしただけだというのに、もっと接触の少ない二人が部屋番号を知っているなんて都合の良いことがあり得るのか。

 核心の辻セイラのループについては一言も喋れないし、そんな状態で事情を説明してもタイムロスにしかならない。結局また同じ「九条ノドカはどこにいる」問題に戻って来るだけ。

 そもそも、二人が何か情報を持っているなら、今の時点で教えてくれるはず。そうしないということは、この三人が導き出せる情報は何もないということ。


 このままでは、制限時間がやってきてしまう。せっかく、消耗した状態で僕に希望を見出した辻セイラが──一切の収穫を得ないまま一周分無駄死にすることになってしまう。

 別に、それでも問題は解決する。ループ開始時点ではどういう訳か電話が通じるんだから、その時に部屋番号を聞けば、次の周では確実に九条ノドカに降りかかる問題を探ることができる。


 でもそれは、なんだか心情的に嫌だ。

 彼女の期待を裏切り、「僕に任せろ」という言葉を嘘にして、彼女に全部尻拭いさせたうえで、何もできないまま凄惨な死を一回分無駄に経験させたいだなんて、思う訳がない。

 できることなら、何か収穫を残したい。なんとか、次の周に情報を持ち越せないか。

 なんとか、今から九条ノドカの所在を明らかにすることができないか。


 ──「あっ部屋番号教えておきましょうか? 遊びに来ていいですよ」


 ──「いらない……」


 ああ、どうしてあのとき僕は、素直に部屋の場所を聞かなかったんだ。

 女子一人で旅行に来ているのに、男に部屋の場所を教えるなんて危機感が無いと思ったんだ。だから別にいらないと……。


 全然要るじゃないか。僕はなんて馬鹿なんだ。

 有事の際に彼女のいそうな場所を把握できた方が絶対いいのに……。






 ……ん?

 彼女のいそうな、場所?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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