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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[24:06] 5周目の成果

 よし、この作戦だ。

 もうこの作戦を伝えるしかない。


 始業式も終わってまだ時間も経っていない。

 三学期は他より短いからかなりあっさりしてるし、周囲には「もうすぐ受験生」という空気も漂ってきてる。進路希望調査や模試の案内も配られたし、「午前で終わったから遊びに行こうぜ」という雰囲気は普段より控えめだ。

 だが、彼女にとってはそれどころではないはず。数少ない望みを僕に託して家で休み、今日やっと僕と再会する。精神的にも参っているはずだ。

 そんな彼女に、せめて「何かしらの案は思いついた」と伝えなくては。


 作戦は「祖母への認識を、今の祖母の肉体と分離すること」。

 死に戻りが反応する「肉体の死亡」より先に、精神的に「この人は死んだ」「もうあの人はいない」「目の前の人は別人だ」と気持ちに整理をつけること。


 1. まず祖母本人に協力を要請しに行き、了承を取り付ける。

 2. WPPO-HBに連絡し、通常では有り得ない時期まで延命してもらう。

 3. その間、辻セイラは祖母と過ごす。会いたいだけ会って、言いたいことを言う。

 4. そして、気持ちの整理がついたら、自分の中で「もう祖母ではない」と思い込む。

 5. 延命を打ち切り、そして死に戻りは発生しない。


 彼女にとっては辛い経験になってしまうが、少なくとも祖父の時よりはマシになる。

 嫌わずに済む、別れを済ませられる、他の誰にも適用できる。手順さえ確立できれば、次にこの問題が起こっても「最終的にこの手法で脱出できる」という切り札にできる。


 勿論、WPPO-HBに「祖母を延命してもらう」には適切な理由が必要だ。

 特にメリットの無い一般人を延命させられるなら、辻セイラの祖母がよくて他の皆がダメな理由が説明できなくなる。こちらは代償を払わなくてはいけない。






 だから、僕の存在を売る。






 社会的な貢献度、世界への影響力、高校生の経済力。どれをとっても僕達が持てる手段ではWPPO-HBの特例を受けるには値しない。

 しかし、僕達は一度だけWPPO-HBの半年待ちの順番を飛び越えた。理由は僕が影中トオル逮捕の功労者だから、そして僕に借りを作ってしまったと向こうが認識したからだ。僕自身に持てる力が少なくても、メリットさえあれば向こうは融通を聞かせてくれると、一度証明されている。


 そして僕は、今もなおWPPOに未来予知能力者としてスカウトされている。

 これを生かさない手は無い。


 向こうにとっては望んでいた結果だ。断る意味は無いはず。それの代償として、祖母の延命を要求すればいい。

 実際に運用すれば期待通りでないことは分かるが、それは後々になるか、日常的に未来予知しなければ分からないことだ。後に首にされようが構わない。ただ一度だけ「延命の要求」が通る状況を作りさえすればいい。

 スカウトを受ければ母さんにも連絡が行くだろう。そこで反対されるかもしれない。

 だが、僕にはもう差し出せるものが無い。割り切るしかないんだ。






 ……問題は、どのようにこの作戦を伝えるのか。

 どう言い換えても「祖母が認知機能を失うまで延命させて、他人だと思え」という提案になることは変わらない。





 僕だってこんな作戦を提案されて、その対象がもし母さんであれば……決して飲み込めないだろう。

 しかし辻セイラだけは例外だ。彼女には「別れを受け入れたくない」という問題以前に、「別れを受け入れなければこの世界は二度と進まない」という問題を抱えてしまっている。


 一応、死というものは誰にでも訪れるもので、どんな関係であろうと別れないままという選択肢は取れないんだ。それは辻セイラだって例外じゃないはず。

 認知機能の低下についてもそうだ。年老いた肉親に対し、意識がはっきりしているうちに言えることだけ言って別れを済ませる……それ自体は珍しいことじゃない。

 今回の件も何も変わらない。それをするのが辻セイラであり、それをすることでループを突破できるという副次効果が存在するというだけだ。

 だから……彼女には「祖母が死んだ」と、乗り越えてもらわなくてはいけない。


 これがあまりにも残酷な方法であることは理解している。

 しかし、彼女が祖母を諦められるかどうかは、試してみなければ分からない。


「……瀬尾、去年ぶり」


「来てくれたか」


「どうにか……できそう?」


「分からない。とりあえず案はあるから聞いてくれるか」


「……うん」


 今の彼女はこれ以上ないほどに弱っている。強い言葉は禁止だ。

 しかしそれでも伝えるんだ。他にはないと。

 少なくとも、ただ嫌いになるよりはずっとマシな可能性のはず。

 極力言葉を選んで、そういった未来もあるのかもしれないと分かってもらえるように。


 辛いのは辻セイラなんだ。

 僕が気まずいだとか言っている暇はない。

 もしループを繰り返し、彼女が本当に祖母を嫌いになってしまっては手遅れだ。

 穏便に済ませられる手段を、提案しないという選択肢は存在しないんだから。






 *






「……という感じのを」


「……」


「どう……だろう。最悪ではない、と思うんだが」


「……その、方法は」






「5周目で………………もう」






 *






「──っらアアァァッ!!」


 ──ドッゴーンッ! 


「おぉ、すげー数字……なあ委員長。何で急にオレらを誘ったんだ? 何かあったのか?」


「そうだよマコト。僕達はこれから受験生なのに……しかもパンチングマシーンだなんて」


「ふぅ、ふぅ……すまない、ハルキ、アサヒ。わざわざ付き合ってもらって」


「俺はいーけど。次俺の番で良かったっけ?」


「ああ……」


 ……僕は、なんて浅はかだったんだ! 


 辻セイラは、5周目の時点で既に僕と同じ発想に至っていた。

 あの女は既に、僕の考えたその作戦を実行に移していたんだ。

 当然だ、僕が1週間かけて考えたとはいえ、向こうがかけた時間は1年分。52倍の差がある。僕が気づく程度の足掻きぐらい、試していて当然だったんだ。


 しかも、向こうが使ったのはただ考える時間じゃない。

 僕がやったのは、ベッドの上で調べ物をすることだけだ。タブレットを借りて、片手で操作して、断片的な情報をかき集めて、それらしい形に組み上げただけ。

 あの女は、実際に動いて情報をかき集めていた。僕の一週間と、あの女の一年は、単位が違う。


 実際、彼女の話からは僕が調べていた通りの様々な事実が確認できた。

 WPPO-HBには寿命に関する能力者がいるということ。それが公開されておらず、極一部の人間にしか使うことはできないということ。緊急性や社会貢献度、その他必要とされる価値等によって受けられる人物が非常に限定されているということ。

 そして彼女は、最後の希望として、祖母を連れWPPO-HBに殴り込み……。






 秘密にしてきた、『死に戻り能力』を開示してまで懇願。延命の権利を勝ち取っていた。

 以降祖母と過ごし、気持ちに整理をつけ、認知機能が低下するのを待ち続け……。






 ……自分のことを忘れたその人を「祖母ではない」と思うことができず、戻って来た。






 WPPO-HBがどうして、その内容で延命を許可したのかは分からない。

 死に戻りの能力が未来予知的な用途に使えると判断したからか。事情が深刻であると判断したからか。本人が能力者で、精神的に限界が近いことを見越していたからか。この世界がループに巻き込まれていると知り、それを脱するために必要であると理解したからか。それとも単に「可哀想」と思ったからか。


 勿論、彼女も全てを話した訳では無かったらしい。

 WPPOを信用しきれていない以上、彼女が全情報を開示するのはリスクが高すぎる。

 だが……それでも彼女は、自分がずっと秘密にしてきた情報を犠牲にしてでもこのループを脱出するためにできることを行っていた。

 そしてそれでも、失敗している。


 僕は何て見通しが甘かったんだ。

 この案を思いついた時点で、他に方法は無いと思い込んでしまっていた。試してみなければ分からない等と考えておきながら、彼女はとっくにそんな手段、試し終わっていたんだ。なのにそんな案を一つ思いついただけで満足してしまっていた。心のどこかで、まだそこまで彼女は追い詰められてはいないと思ってしまっていたのか。

 しかも辻セイラは、あの案に失敗したことで泣いて帰って来たというのに。もうこの男しか頼れないと思った相手に、既に失敗した方法を突きつけるしかできなかった。なんて情けない。


「……マコト」


「ハルキ」


「さっき右手で殴ったよね。そっちは怪我をしている手じゃなかったのかい」


「……この程度の怪我」


「この程度って……」


 そして僕は、自分の至らなさ、どうしようもなさ、手も足も出ないフラストレーションを、パンチングマシーンなんかにぶつけて整理しようとしている。

 彼女の「……瀬尾でも、やっぱり、無理だよね」という表情を見せられて、自分の無力さを実感した。何かを思いっきり殴れば少しは頭が冴えて整理できるかと思ったが……そういう訳でもないらしい。

 わざわざ友人を二人巻き込んでやることがこれとは。


 本当に。

 本当に……辻セイラの能力は強力過ぎる。

 そして趣味が悪すぎる。

 綺麗に見えるのは名前だけだ。


 どうしてだ。大切な人を「救う」能力なら、救えないものは放っておいてくれればいい。「救えない」と判断すれば諦めてくれる仕様であればいい。「死を受け入れる」ことを望めばその時点で止まってくれればいい。両者にとって最善の結果であっても死に戻るなんてあまりにもナンセンスだ。

 この能力は辻セイラを救うための善意で動いているのではなく、辻セイラを閉じ込めるための舞台装置以上の力を発揮しない。「本当に救えるのか」等はどうでもよくて、「大切な人が死亡する」というただこの一点にしか全く興味が無い。もし能力に自我があるとするのなら、これは善人でも悪人でもなく、プログラムが未完成なだけのロボットがいいところだ。


 そして、発動時には辻セイラを必ずこれ以上ないほどに苦しめて殺すおまけつき。

 絶対に必要無かっただろその要素。

 彼女に「自殺」という選択肢を選ばせなくなったぐらいしか利点ないぞ。

 カス能力が。


「ほら、見せてマコト。跡だって完全に消えた訳じゃないんだろ」


「……くすぐったいよ、ハルキ」


「なら、そんな怒った顔をしないことだね。何に不機嫌なのさ」


「……世の中の不条理?」


「えっ今更中二病かい? そういうキャラじゃないだろう」


 ははは。

 流石幼馴染だ。腹は立ったがヘイトは微妙にあのカス能力から逸れた気がする。


「……なんで僕に手を揉まれて、表情が和らいだのかな」


「それはやはり、君が一番の親友だからだろう」


「っ! そ、それじゃあ、気分転換に、二人で写真でも撮りに行くかい? ほ、ほら、あのプリ……蔵? とやらで」


「なんでアサヒは置いていく前提なんだ……?」


 しかし、少し頭が冷えたぞ。ハルキには感謝だ。

 僕がするべきなのはいつまでもうじうじと自分の見通しの甘さを詰ることじゃない。彼女を救うための画期的な方法を考えることなんだから。


 まず、今回の件で「解決できる二択」がほぼ達成不可能になった。


 1. 死を回避すること。

 5周目の件で辻セイラは直接WPPO-HBに掛け合うまで行っている。もしそこで「永久に延命できる」というのなら、その手段を使っていただろう。

 もし使っていなければ、それは辻セイラかるいはその祖母にとって望まない方法ということだ。そんなものを使うことはできない。

 そもそも、解決方法が永久的な延命であれば、将来的に辻家は全員老体で不老不死になることになる。むごい。

 だからこれはもうNGだ。


 2. 大切じゃなくなる。

 嫌いになるのは辻セイラが最も望まないことだから選んではいけない。

 無関心になることはできなかった。相手の本質が変わってしまっても、辻セイラはそれでも「大好きな祖母」と認識し続けてしまった。

 それは即ち、認識を分離する方法では彼女の愛着を捨てるには至れないということ。記憶を弄ったとしても、全て終わった後に大切な人のことを忘れた、あるいは思い出した辻セイラが残るだけ。もっと残酷だ。

 だからこれももうNGだ。


 つまり僕は、この二択の盲点を突く方法か、全く新しい第三の方法を考え抜く必要がある。

 前提のどこかが間違ってはいないか。まだ見ていない場所があるのではないか。

 辻セイラも馬鹿ではない。僕が頭を捻って思いつくような案であれば、1年のうちのどこかできっと試しているはず。

 だから僕が考え抜くのは、何か「辻セイラが知りえない情報」を用いたものでなければならない。


 それは一体なんだ? 

 何をどうすれば、僕は逆転の発想を導き出すことができる? 






「──実際に、彼女と会って話をしてみるべきか?」


「えっ」






「マ……コト? か、彼女……って? ねぇマコト……?」


 今までの僕は、一度も辻セイラの祖母と顔を合わせたことが無い。

 それはそうだ。当たり前だ。僕と彼女の家族が顔を合わせるイベントなんて死に戻りの時以外に有り得ないし、これまでに祖母が原因のループを経験したことはなかった。もしかしたら顔を見たことがあるかもしれないが、少なくとも現時点の周の僕に彼女の祖母と出会った記憶はないはずだ。


 そこに何か解決のヒントが隠されている可能性は無いか? 


 僕は名前すら知らないのに、抽象的な「辻セイラの祖母」として扱っていた。

 それなのに「延命させて他人だと思え」という作戦を立てた。だから見通しが甘かったのではないか。


 実際に僕にはまだまだ情報が足りない。

 傷心中の辻セイラの悪い思い出を質問攻めできない、そんな理由で僕にはまだまだ知らないことが沢山ある。

 祖母の状態、家族の状況、環境。 実際に見なければ、新しい手は思いつかない。


 会いに行けないということも、ないはずだ。

 彼女が祖母の延命を行ったのはどれだけ遅くても1月の後半。

 その頃に祖母が体調を崩し、一旦病院に行くことになる。そのまま様子を見るようになり、医者からは「もう長くないかもしれない」の診断。そして2月上旬に閾値を割ってしまう。

 逆に言えば1月後半まで祖母はまだ普通に人と会い、会話することができる。勝負を仕掛けるなら、あと1~2週間がいいところということだ。

 そして僕は、辻セイラだけじゃなく、辻家の面々と交流がある。

 もし彼女に頼れないとしても、他の誰かに頼むことで接触を図れるんじゃないか。


 ……よし。

 とにかく、早い段階で辻セイラの祖母と実際に会ってみよう。

 そして、実際に会話を行い、何かいい方法が無いかを探る。

 その人が、自分の死についてどういう考え方をしているか、そういった情報も役に立つかもしれない。


 次の方針は見えてきたぞ。

 あわよくば、解決につながる何かが見つかると信じて……。






 *






「……二人とも、何やってんだ? そんな隅っこで」


「あれ、アサヒ。もう終わったのか?」


「終わっちまったよ。委員長は宮野と何話してたんだ?」


 ……? 


 ……あっ。


 ……そう言えば、普通に話しかけられた状態で考え込んでしまっていた。

 僕が二人を誘ってゲーセンに来たというのに。肝心の本人がこんな様子ではいけない。


「っと、すまないハルキ。何の話だったか」


「……えっ? あ……そ、その……」






「マコト……か、彼女って……?」


 ……ん? 


「え、委員長、彼女できたのか? マジで?」


 ……え? 






 あれ、いつからそういう話に? 

 いつ僕が、恋人を指す「彼女」なんてワードを? 

 僕にはよく分からないんだが、何の話をしている? 


「じゃあ委員長、もしかして彼女ってのは……向こうからずっとこっちを見てる桐島のことか?」


 えっ。






 ──「じー……」


 えっこわ。

 ……ストーカー? 






「え? あっちからずっと追いかけてきてる九条さんじゃなくて?」


 えっ。






 ──「瀬尾さんに何かあったらすぐ出られるように……」


 えっこわ。

 ……セコム?

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