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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[24:06] 見えなくてよかった希望

「ねーなんで入院してんのに宿題だけあるのー……?」


「冬休み中に完治するからだ。僕達は学生なんだぞ」


「特例ってことで、免除とか……ナシ?」


「学校の規定に従わない生徒とは仲良くできないなあ……」


「ウソウソ! やるやるやりますって!」


 そ、そんな急にやる気にならなくても。

 よくある友人間での軽口じゃないか。別に君のことは信じているぞ。


 だがまあ、確かにあんな大イベントを経て入院した挙句、碌に外にも遊びに行けないのに宿題だけは例年通り。確かに嫌かもしれない。勉強時間が増えて喜ぶのは知り合いだとハルキぐらいなものだ。

 しかし、せっかく両家族が見舞いの次いでで届けてくれた宿題じゃないか。ここで何もせず終わるというのも、届けてくれた人に申し訳ないだろう? 


「てゆーか……マコっち右手、大丈夫なん?」


「リハビリだ。装具も外れたんだし、いい機会じゃないか?」


 まだ若干の違和感は残っているが、おかげで右手は動くようになった。

 完全に思い通りという訳では無いが徐々に握力も戻って来た。筋の部分を庇う形にはなるが、今ならペンも握れるし書ける。あと数日もすれば完全にいつも通りの右手に戻るだろう。ミオの脚も同じだ。

 WPPO-HBの治療には感謝だな。

 本来数ヶ月かかるプロセスを、こうして1週間と少し程度で解決してくれるというのだから。現実的にはあり得ない速度だ。ここまで回復力を底上げしてくれるんだから、世界中から人が殺到するのにも頷ける。


「……厳しいなら、ウチが代わりに書こっか? 色々教えてくれてるし」


「それなら僕より早く宿題を終わらせるべきだ。急がないと三箇日も終わってしまうぞ」


「切られた右手でウチより進んでんのおかしくない?」


 それは君がずっと僕の方を見つめていたからだ。

 人の宿題を覗こうったってそうはいかないぞ。教える分には構わないが、きちんと指示通り、自分の頭で考えて解いてもらわなくては。

 僕の方だってゆっくり語り合いながら、宿題を進める余裕があるなら是非ともそうしたいさ。だが、始業式の1月7日まで今日含めて5日しかないし、それ以上に僕には急ぐ理由ができてしまったのだから。


「……で、その左手は何やってんの?」






「調べものだ。タブレットはナースステーションから借りた」


「えぇマルチタスク……」






 だって僕は、辻セイラからあんな話を聞かされてしまった。

 それに対し、「え、老衰とか無理だろ。諦めて嫌いになれよ」なんて言う訳にもいかない。僕は彼女の協力者なんだから全力をかけてできることをする義務がある。少なくとも、何もできないと分かるまでは、諦める訳にもいかない。

 そして並行して課題を終わらせないといけないことも事実。時間は有効に使うべきだ。


「なんでできんの……? ウチ今、結構格の差みたいなの感じてるよ?」


「大学は別になりそうだな」


「えっ」


 僕が思うに、辻セイラが相手を「完全に嫌いになる」必要はないはずだ。

 もし僕やその他のクラスメイト、道端で会った赤の他人等に被害が訪れようと彼女は一切気にしないはず。事実、そういった人間を対象に死に戻りは起こっていないのだから、「無関心」でも死に戻りのリストから外れることは分かっている。

 彼女の祖父や、フィクションのキャラクター相手に「嫌いになる」という手段を取るしかなかったのは、元々その人物が好きだったから「無関心」に戻るということができなかったせいだ。例の数値現象で例えるなら、ミオのように何かしらイベントを経てプラスマイナスを反転させることはできるが、ちょうどいい塩梅にゼロで維持することは難しい……そういった認識になるはず。


 だから、嫌悪なら簡単に解決できる。

 問題は、認識を反転させること無く、彼女の祖母に対して「この人を気にしてももう意味はない」と心の底から思わせなければいけないということ。


「……そういえばさ、セイラの話は……どんなだったの?」


「彼女の家庭の事情だった。少し嫌なことを思い出したみたいだ」


「あっ……そういう内容だったんだ?」


「過去に偶然彼女の問題を解決したことがあってな。頼られたのはそのせいだろう」


「! へー……そう、そうなんだ。なら安心……」


 うん、嘘は言っていない。

 彼女と協力するようになったのはほとんど偶然みたいなものだし、以降頼られるようになったのもその時に彼女に脅しの材料を与えてしまったからだ。そして彼女が泣いていたのは確かに家庭の事情。嫌なことを思い出したのも事実。

 こう言っておけば、これ以上「もっと教えて」とは言えないはずだし、「なんでウチに相談しないの?」という謎も納得してもらえるだろう。


 しかし、この数日でかなり情報が集まって来たな。

 元々は色々な方法を考えたが……どれも上手くいきそうにないか、彼女を傷つけることに変わりはなさそうとして却下を繰り返したものだ。


 祖母の肉体を生きた状態で保存? 

 そんな無理な真似をして老体に響いたりはしないか。蘇生した瞬間に限界を迎えないだろうか。保存を始めた瞬間が「将来の死の要因が確定した瞬間」になってしまうのでは。

 肉体を老化から救う? 

 これでは将来的にまた限界が来て同じ問題にぶつかるだけ。辻セイラのエゴで「家族と親友は一生生き続けろ」と言うことになる訳だし、根本的な解決に何一つつながらない。

 辻セイラの記憶や認識を書き換える? 

 別れの挨拶だけして、後は一切相手をしないまま、対象が老衰で死亡するまで過ごす。まだ生きているのに今後一切関係を断たれる相手が報われない。


 なんとかして能力を止める? 

 無理だ。能力を凌駕する力は能力しか存在しない。そして能力による解決は先占効果のせいで不可能だ。実際に先占効果の論文も読んでみたが、まるで意味が分からない上に「優先されなかった方は不発に終わる」とか「段階的な能力は段階ごとに先占効果が発動する」みたいな要約しか分からなかった。

 これ以降のループは全て対策できるかもしれないが、今このループで活用できる気がしない。


「でも、もうずっと来てないよ?」


「『僕の方でも考えるから帰って休んでいろ』と言っただけだ。今頃家の中で妹とじゃれてるんじゃないか」


「あー、あの妹ちゃん……ウチもなんか協力できる?」


「まず宿題をやろうか。全然終わってなかったら談話室で僕と居残りだからな」


「それはそれで……」


 何言ってるんだろう彼女は。






 こっちは数日かけて「認知機能の低下」を利用する作戦を考えているというのに。






 もし、辻セイラの祖母の認知機能が低下したら? 

 記憶を失い、性格が変わり、応答が不鮮明になってしまえば、それまで知っていた人とは別人だと思えるようになるかもしれない。これにより、生きてはいるが『大切な人』のリストからは外れる可能性がある。

 認知機能の低下は長生きするだけで誰にでも起こりうる。延命し続ければ可能なはず。


 能力というものは機械的に決められたルールの中でのみ作用するものだ。この能力だって機械的に、対象の「肉体の生存」のみを判断するだけ。感情論で都合よく内容が変わったりしない。

 つまり、解決には「死を回避する」か「大切じゃなくなる」の二択しか残されていない。老衰は回避できない死なのだから、今回は大切じゃなくなるに舵を切らなくてはいけない。そして、大切な人が誰かという一点において、それは辻セイラの主観に依存している。


 この手法であれば、「終わりが来ると分かってるからそれに備えて感情を整理し、別れを済ませておく」という手段が取れる。解除を行うために無理に相手を嫌う必要はないし、むしろきちんと別れを告げることができる。向こうに「自分は嫌われた」という印象を残すこともない。

 要は「私の大切なあの人はもういない」と自分の中で区切りをつけるイベントより先に、「実際に死ぬことが確定した」という死に戻り発生イベントが来るからこんなことになってるんだ。順番が逆になればやりようはあるはず。


 そのためには時間が必要だ。

 一般の医療をフル活用して得られる「2月上旬+平均1.2ヶ月」なんて目じゃない、もっともっと時間が必要だ。しかもその期間、彼女の祖母にはずっと生きてもらう必要がある。

 だから、僕の前提を成立させるためには──第一段階として、祖母の寿命を今よりはるかに伸ばさなくてはいけない。そこができなければ何も解決しない。


 勿論、かなり残酷な手法だ。

 確かに、辻セイラも「大切な人はいつか必ず死ぬ」と受け止める必要がある。

 しかしこの作戦は、辻セイラの祖母が認知機能を失うまで無理やり延命させるということになる。本人から了承を得る必要があるし、そうでなければ実行できない上に、終わりも見えない方法だ。

 内容としては、かつて祖母だった人間に見切りをつけろと言っていることになるから、祖父の件と本質的には大きく違わない。ただ「大嫌い」と言わなくてもよくて、「仲良しのまま別れの挨拶が言える」というだけ。

 実際にその期間で認知機能が低下するかどうか、それで本当に「『大切な人』ではない」と割り切れるかどうかも分からない。


 しかし、今の僕には他の方法が思いつかない。

 だから、僕はこうして調べものをしているんだ。


「……マコっちも、無理しないでね?」


「ありがとう、ミオ。今ここにいるのが君で良かったよ」


「っ! じゃ、な、何か困ったことあったら言って! ウチ、なんでもするから!」


「……いいのか?」


「えっ」


 なんでも? なんでもと言ったか? 

 そうか、「なんでも」か。


 それなら丁度良かった。

 彼女に頼みたいことがあったんだ。


「え、えーと……いや、その、まあ……お、お手柔らかに……」






「なら携帯電話を貸してくれないか? 九条ノドカに電話したいんだ」


「は? 女?」


 えっ……め、目の中が真っ黒に……。

 えっちょっなにこわいこわいこわい。






 *






「瀬尾さん、お呼びですか……?」


「悪いな。こんな日に呼び出してしまって」


「いえ、私は貴方の護衛役だったのに……」


「いやそれは僕の自業自得なんだって」


 なんか、彼女と会うと毎回こうだな。

 詫びられる筋合いは無いんだが。むしろ責める側だろうに。


 いやまあ、WPPO内部も一枚岩ではないということだな。

 WPPOとしては「犯罪者の逮捕」も「護衛対象の安全管理」も「世界平和の維持」も何でもかんでも成し遂げたいが、それぞれ一人でできることじゃない。複数人がチームを組んで一つずつ行うことなんだから、各チームで思想が異なるのは当然のことなのかもしれない。共通しているのは、正義感の心だけだ。

 だからこそ、「影中トオル逮捕」を推進する人間と、「瀬尾マコト護衛」を推進する人間がいる訳で。少なくとも九条ノドカは後者の人間なんだから、今の状況を僕や上層部が了承しようと、飲み込み切れないでいる……それは不自然なことじゃない。


 まあ、協力してくれる分には大歓迎だ。

 なんだか都合良く使っているようで申し訳ないが、君が困ったときには僕が力を貸すからそれで今回は貸しにしておいてほしい。


「承知しました。では、ご用はご質問か身の回りの世話でしょうか?」


「………………身の回りの世話?」


「はい。上からは『二人とも困ることがあるだろうからこちらからサポート役を立てるべきではないか』という意見が上がりまして。この度、私が立候補しました。何か困ったことがあれば対応させていただきます」


「いや別に不要だが」


「……勿論、拒否も可能です。可能ですけど、そんなすぐ否定しなくても」


 いや本当に結構です。困ってないです。現状ミオがやってくれるし……。

 貴方達のおかげであと数日もすれば全部自分でできるようになるし……。

 えっWPPOってそこまで僕達の怪我のこと気にしてるのか? もしかして九条ノドカが立候補してこなければこの学校には新たにもう二人転校生がやってくる予定だった? 

 えぇ……。


 ミオのとこにも来たのかな。

 なんて返事したんだろう。後で聞こ。


「いやまあ、とりあえず本題だ。質問がある」


「承知しました。どうぞ」






「WPPO-HBには寿命に関係する能力者が存在するか?」


「!!?」


 ──ガタッ、ガラッ、ガッシャーン!! 


「!? く、九条ノドカ!?」






「……なんか見覚えある転び方したな君」


「ど、どうして……そのことを?」


「いや、そういうのもいるのかと思って」


「えっ……カマかけられたんですか私?」


 ……上は「今日お前こういうこと聞かれるぞ」とか教えてあげないんだろうか。

 いやまあ、情報漏洩の危険はあるが、別に人死にが出る訳じゃないから、そこまで未来を確認するほどのリソースを割けないんだろうけど。そのうち椅子から落ちて怪我するぞ。


 しかし、あんな反応をしたということは確定でいいんだろう。

 本当にそんなことまでWPPO-HBにできるとは予想外だったが。回復や治療系の能力者をこれでもかと集めて世界中の医療問題解決に動いている彼らならできてもおかしくはない。

 そして、あんな反応をしたということは一般には公開されていない、なおかつ公開してはいけない情報でもあると。それもそうだろうな。そんな情報、知られたら一大事だ。


「喋る権利は降りていないのか?」


「い、いえ……瀬尾さんに関しては、バレている範囲であれば肯定しても、いいと」


 なにそれ……。


「そうか。ならいるんだな」


「……はい。誰にでも使用可能な訳ではありませんが」


 そうかそうか。そうだろうな

 もし「寿命を伸ばすことができる」なんて情報が公になればWPPO-HBには大勢の人間が押しかけることになるだろう。もうすぐ死ぬかもしれない、という時に「まだまだ生きられるよ」なんて希望を見せられたら……大多数がそれに縋ろうとするに決まっている。


 だが、もし制限が無かったにしてもその権利を安売りするわけにはいかない。

 生い先が短いとはいえ、どんな人間でも好き勝手生かし続けたら、人類のバランスが崩壊してしまう。その能力が適用されるのはその必要性がある人間に限られるだろう。


 だから、公にはできない。

 ただ、有事の際の切り札として──確かにその能力は存在している。能力を使って無理やりに延命する方法は存在する訳だ。

 少しだけ希望が見えてきた。できれば見えなくてもよかった希望でもあるが。


「ただの一般人に使用が許可される可能性は?」


「ほぼゼロだと思います。特別な事情が無い限りは」


「世界平和維持に必要な能力者とか、国家間の均衡に影響力のある要人とかか?」


「……」


 多分そうだろうな。

 WPPOには強力な能力者が多く所属しているが、それらを寿命で失ってしまっては次世代の運営に大きな影響が出てしまう。だから、そういった人物に特例で寿命の延長措置が取られていると考えるのが妥当だろう。


 一応、辻セイラにも特別な事情はあるにはあるが。

 しかし、それを彼女に無断で説明する訳にはいかないんだよな。ここは要相談になる。

 だが、可能性はゼロではないんだ。

 それならまだ試す価値はあるはず。始業式の後にでも彼女に話してみよう。


 つまり、これから僕達はかなり複雑なステップを踏む必要がある。

 1. 辻セイラに「祖母を無理やり延命させる」作戦を説明する。

 2. 祖母に延命が許可される「特別な理由」を準備する。

 3. 延命後、祖母の認知機能が低下するのを待つ。

 4. 辻セイラが自分の気持ちに整理を付けられるよう支える。

 5. そして延命を打ち切り、タイムリミットを迎える。


 どう考えても人権を無視している。これで突破できるかも分からない。

 特別な理由とは何であるべきなのか。社会的な貢献か、緊急性か、それとも別の基準か。

 果たしてその延命で都合よく認知機能だけ老化するということはあり得るのか。

 何も分からないが、彼女が相手を嫌わずに終わる方法は、これ以外だと──それこそ、この条件に合致する「都合の良い能力者」を見つけるぐらいしか思いつかない。

 そんなの……どう考えても現実的ではない。


 今はこれしかない。

 まずは提案するだけだ。

 きっとこれで解決すると信じて。

 却下されれば次の案を考えるだけ。


 でも……。


 ……本当にいいのか? 

 こんな作戦が本当に通ってしまって、僕は後悔しないのか? 






 *






「やはり、能力を使って、私の次の発言を予知しているのでは?」


「そんな毎回僕を疑わなくても。他の誰かに教えられただけかもしれないだろう」


「……瀬尾さんの周囲に能力者の存在は確認できていないのですが」


 ……ん? 


 僕の周囲に能力者の存在は確認できていない? 

 それは……どういう? 


「あっいえ。私、定期的に瀬尾さんのお知り合いに能力を一瞬だけ使っていまして」


 えっ……。






 ──「能力者の方への初回接触では、先手を取ることが規定で認められています」






「ああ、そういう……?」


「!?」


 いや、まあ、分かるぞ。

 君達は「僕が能力者なのでは?」だけじゃなく、「僕の周囲に能力者がいるのでは?」の可能性も考慮しているから、規則上先手を取って確認することが認められてるんだよな。

 それで僕の周りの人物にとりあえず能力試してみて確認してるってことだよな。

 辻セイラにもやったんだろうが……ループが起こっていなかったか、あるいはループと固定って矛盾する能力じゃないからひっかからないんだろう。


 分かる分かる。

 ちょっと驚いただけだ。

 規則だものな。

 そういうことしなきゃいけないの大変だよな。


「ま、待ってください。変な意味はありませんよ?」


「分かってる、分かってるから」


「本当に分かってますよね……!?」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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