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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[24:00] どこまで想定内?

 大丈夫だ、こっちは防刃チョッキを着こんでいるし、胴体を狙われても初撃は防げる。ダメージはあるだろうが明確に刺されるよりマシだし、内臓を確実に守れるんだから直線的な死のリスクは薄い。

 懐中電灯と刃物も服の中。まだ見られていない。いざとなったら不意を突けるし、必要も無いのに「こちらにも武器がある」と主張する意味はない。相手の油断をできるだけ誘うべきだ。


 影は……残念なことだが、多少存在している。

 アサヒと逃げ込むためにかなり入り組んだ路地まで走ってきたつもりだが、遠くのイルミネーションの明かりが漏れ込んで、多くもないが少なくもない程度には、あの男の攻撃手段が散らばっている。

 できるだけ迅速に移動すべきだったが、間に合わなかった。幸い近くに人はいないし、移動することで他の人を巻き込んでしまう可能性もあるから、ここで勝負を決める必要がある。


 大丈夫、全力で抵抗したはずの未来で僕は生きている。

 結果がどうあれ、できる全力をやればいい。


「ヘマしたか? あるいはこのガキの勘が良すぎるだけか……そこんとこどうなんだ?」


「どうだろうな。だが、バレているとはそういうことだろう?」


「だよな~……どこで下手こいたんだ俺は」


 となると、まずできる手段は会話に持ち込むことだ。

 純粋に戦って勝てる見込みはほとんど無いだろう。逃げても間違いなく追われるし、そもそもこんな危険人物相手に背中を向けるという行為自体がハイリスクすぎる。

 であれば、まず会話での解決を目指すべきだ。大怪我をすることは確定しているから解決にはならないが、いくらかの情報が手に入れば戦況が変わる可能性もある。向こうも、自分の情報がどこから漏れたのか気になる以上、まずは会話で聞きだそうとするだろう。


 本来の僕であればそう対応するだろうし、試さない理由もない。


「実際、どうやって俺の拠点を特定した。通報されたおかげでWPPOの連中がうじゃうじゃやって来て面倒でしかなかったんだが」


「それはこっちの台詞だ。どうやって通報者が僕であると特定した?」


「そりゃ俺は影に潜れるからな。どんなに鍵かけた場所でも入れるんだから、情報なんて盗み放題だ。で、俺の質問の答えは?」


「……既に見つかってるんだぞ。そんなこと聞いてどうするんだ」


「バレバレだったなら以後気を付けないといけないだろ。話を逸らしたってことはそっちに喋る気はないってことでいいな?」


「……」


 ……なんか鋭いな、コイツ。


 しかし実際そうか。影になればどんどん影を経由して先へ先へと進めるんだから、調べたいことがあれば誰にも察知されずに情報を盗み出せるようになると。戦闘だけじゃなくて、スパイとしても非常に優秀じゃないか。

 とはいえ、この能力があるにしてもそこまでの情報収集能力を持っているのは本人の執念あってのものだろうが……それが正しい道に使われれば大きな成果を生み出せるだろうに。


「それだけの力があってどうして指名手配犯に? 黙っていれば人生簡単だろう」


「あー分かってない。逆だ逆。これだけの力があって我慢する方が無理ってものだ」


「……我慢?」


「そりゃそうだろ。その気になれば誰でも殺すことができて、どこでも侵入することができて、何でも盗み聞きできて、いつでも逃げられる。こうも汎用性が高いと逆に困っちまうね」


 つまり、自分の力に溺れていると。

 能力があるからそれを生かせば自分も周囲も効率的に生きられる……そうじゃないんだな。自分にだけこんな能力があるんだから、それを最大限活用して周囲を蹴落とさないと勿体ない……そんな風に考えているんだ。

 そんなこと全員が考えれば世界が回らないことなんて百も承知だろうに、自分だけはそれだけのことをやってもどうであれ逃げ切れると確信している。能力を過信し、自分が特別な存在だと勘違いして、その全能感に酔いしれているんだ。


「だから俺はあの組織の100%ってヤツを崩してやりたいんだよ。俺ならそれができるからな」


「崩してどうするんだ」


「それができるならもう俺は何でもできるってことだろ? 自分が強いってきちんと自覚できてから本格的に行動するタイプなんだよ俺は」


「なら直接WPPOに喧嘩を売ればいいだろう。どうして一般人を巻き込む必要がある」


「慎重派なんだよ、さっき言ったろ。いくら能力が強かろうと、本人がいきなり大博打打てば勝てるものも勝てない。俺は小心者だからその辺キチっとやるのさ……あと単純にムカつくし」


 つまり僕と三好ルナは影中トオルの強さを証明するための実験台に選ばれただけだと。

 ……そう上手くいくだろうか。


 影中トオルは知らないが、WPPOには未来予知能力者がいて、ずっと世界を見張っている。確かに、WPPOの100%を崩せればそれ自体が「どんな組織でも自分を止められない」という証明にはなるだろうが、それはきっと実現しない。

 予知を行うには具体的に対象の情報を事前に特定する必要があるが、事件さえ起こってしまえばそれも可能になる。居場所が確定した能力犯罪者をあの組織が見逃すはずがない。この男が捕まっていないのは3年間何も事件を起こさなかったからだ。


 実際、今の未来だってこの男は逮捕されることが分かっている。どちらにせよ、WPPOでも対処しきれない相手という訳ではない。影中トオルは井の中の蛙でしかない。

 この男がどう暴れたところでWPPOには勝てないし、僕個人が護衛を拒否して大怪我しようが自業自得なんだからそれをわざわざ報道する意味もない。世間一般が認識する防止率が3桁から2桁になることはないだろう。


 ……そんなことを教える義理はないが。


「能力者差別ってあるだろ? あれ、多分事実だぞ。こんな力を持って悪いこと考えるなって方がおかしい。むしろこんな力なければ俺も悪いこと考えなかったさ」


「差別が事実? 自分が差別されるような人間だと? 気でも狂っているのか?」


「あれは差別じゃなく持たざる者の嫉妬だ。俺が悪意を持つのは何もおかしいことじゃないし、差別なんざしてる奴も能力の味を知れば同じことをする。悪意を持つのは能力者だけなんてよく言ったものだ」


「それはただの特権意識だ。差別を称賛か何かと勘違いしているだろう」


「何とでも言えばいい。事実俺は特別な存在なんだから」


 くっ……中々熱くならないな。

 あの差別主義者は感情で動く素人だから挑発に乗ったが、こっちは違う。自分が強者だと理解しているから余裕があって、僕の言葉に一々腹を立てる必要はないと理解している。

 話し合いでは解決しそうにないし、怒りに任せて余計な情報を喋ったりもしない。向こうから勝手に喋ってはいるが冷静そのものだから自分で開示する情報を選択している。こっちが有利になるような情報を渡してこない。慎重派の主張は正しいということか。


 なら、僕はどうする? 

 いつまでも向こうの質問をはぐらかしたままでもいられない。次に取るべき対応は──






「ま、喋る気が無いみたいだし、無理やり喋らせるだけだ」






「……!」


「計画だと3年前に初めての殺しを体験するつもりだったんだが、ま、お前でもいいか』


「っ!」


 マズい、潜られた! 

 しまった、話を長引かせ過ぎた。僕が喋らないと踏んだ上で、暴力的な手段を知っている影中トオルが、大人しく会話を続けてくれる訳がない! 


 じゃ、じゃあ何処から、何処から襲ってきて………………ッ! 


 ──ヒュンッ! 


「んん? よく避けたな」


「ハァッ……! ハァッ……」


「どうして俺の場所が分かった? どういう方法で察知している?」


「さ、さあ……隠れ方が悪いんじゃないか?」


「そうか。次からはもっと気を付けないとな。よっと……』


 あぶな、危なかった……! 

 間一髪だ、あと少し遅ければ足元から斬りつけられていた! チョッキの範囲は胴体だけなんだ、足元を狙われるのはマズい! 


 だ、大丈夫だ。いける、集中しろ、無理な話ではない。

 想像以上に攻撃速度が速かった。さっきまで目前10mくらいの場所にいたのに背後まで回り込むのも一瞬だった。多分、影の中を移動している間は動きが非常に速いんだ。影の中だと足で地面を蹴る必要が無いからスピードは向こうの思うままなんだろう。

 そして、その高速状態で得られた慣性をそのままに攻撃へ流用している。だからナイフを振り抜くスピードがとてつもなく速い。逐一見てから避けるという動きでは間に合いきれない。

 だが、それでも一回は避けられてる。慣性を利用しているだけだから基本的に二発目が来ることもないし、避けること自体は不可能ではないと、今この瞬間証明された。それを繰り返せば問題はない。


 大丈夫、全力で抗えば命までは取られない、大丈……夫ッ! 


 ──ビリッ! 


「ぐっ……!」


「チッ。上着が切れただけか。やっぱ振り下ろすより突く方が確実か?」


 ……っ。


 ……。


 ……いける! いけるぞ! 


 方向性は見えた。奇襲に特化した能力ではあるが、それでも一切察知できないということは全くない。夜だから視界も完全という訳ではないが、極限まで集中すれば何も対応しきれずに殺されるということはない! 


 大丈夫だ。手順は簡単だ。それさえ守れば問題ない。

 1. まず影中トオルが潜り込んだ影を確認しろ。

 入る瞬間はどうでもいい、どこの影に入ったかが大事だ。


 2. その影が他のどの影に繋がっているか目で追え。

 影の中の移動は繋がっている影同士でしかできない。影から影へワープ可能ならそもそも「逃走手段を確保する」という発想が出てこないはずだ。だから、ヤツが攻撃してくるのは潜り込んだ影と連結しているものに限る。

 近くに光源はイルミネーションの光一つしかない。月の光はそれに負けていて、あまり多くの影を作れていない。方向性はかなり絞れている。つまり、攻撃場所は事前に推測できる。


 3. 繋がってる他の影から距離を取り、離れきれなかったものを警戒しろ。

 武器はナイフなんだ。近づかなければ攻撃できないし、離れた場所にいるなら一度影から出る必要があって、奇襲の意味を失ってしまう。そして、一方的な遠距離攻撃を行っていないあたり、飛び道具を持っている訳でも無さそうだ。

 だから、特定の影から距離を取れば、攻撃する方向を絞れる。後はそっちに意識を向けるだけ……。


 ……いける! 


 ──ヒュンッ!! 


「うわっ……!? ……っと、危ない」


「お? 反応が遅かったな。デカい影に入ると鈍く……ああそういう。俺の動く先を予測してるのか。よくそんなことできるなお前」


「こんな状況で、そんなことできると思うのか」


「思わない。だが、お前は頭がキレそうだから、一応念のために」


 よし、よし。

 自分はあくまで動きの下手な、戦闘に関しては完全に素人だと思わせろ。実際素人だ。

 大きな影に潜られた時は肝が冷えたが、今度も紙一重で避けられている。僕が色々理解していると思われてはいけない。極度に警戒させず、こっちを狙いやすそうなカモだと思わせ続けるんだ。

 正直、向こうがどう思おうがどうでもいい。重要なのは、向こうの考えが分からなくなるような状況に持ち込まれることだ。今ならまだ大丈夫なはず! 


 それに、こっちには作戦もある。

 まず、中心だけはガードが甘いと誘導させて、わざと胴体に攻撃を集中させよう。

 そして、次に避けられない致命的な一撃がやってきた瞬間、あえて自然な流れで胴体からそれを受け止めるんだ。防刃チョッキがそれを弾き、向こうが「ナイフが刺さらない」という事実に動揺している隙をついて、懐中電灯を叩きつけ顎を思い切り振り抜く。

 狙いは脳震盪だ。顎を的確に狙って、脳を大きく振動させ、その衝撃で気絶してもらう。漫画とかでしか見たことは無いが、もし失敗したとしても大きくよろけるのは確実だ。武器を手放してくれたらなお良い。

 最悪、狙う場所が胴体以外でもいい。向こうが攻撃して、致命的ではない場所に刺さって隙が生まれればいい。それで脳震盪が起こらなくても、ふらついた瞬間にタコ殴りにするとかでもいい。意識さえ飛ばしてくれれば何だって。


 よし、いけるぞ。

 腕を構えろ。胴との距離はわざと離せ。腰の座りも曖昧にするんだ。逆に首はかがめて、狙いにくく。いかにも「胴体だけすごく狙いやすい」……そんな風に見せるために。


「何か反撃手段があるのか? まさか徒手空拳で勝つつもりじゃないだろう?」


「……」


「まあいいか。今度こそ……よいしょ』


 ……潜った! 


 よし、あの影が繋がっている場所はかなり限られている。

 まだ来ない。まだ待て。向こうも攻撃の方向を図っている。

 次に来た瞬間だ。その瞬間に、覚悟を決めろ。

 大丈夫、僕は怪我で済む。大丈夫、大丈夫、大丈夫……! 


 ……。


 …………。


 ………………。


 ──ガバッ! 


 来たッ! 

 狙いは……胴だ! 引き付けろ、懐中電灯を手に取って、振り──






 ──ザシュッ! 


「があぁっ!?」






「おっ。やっと当たった」


「ぐぅっ……! あ、脚を……!」


「なるほどな。変に胴体だけ狙いやすかった気がしたが。作戦だったのか」


「……ッ!」


 ど、どういうことだ? 


 今確かに胴体を狙ってきていたはずだ。どうして脚を斬られている? 

 僕の攻撃はどうなった? 当たる直前だったじゃないか。

 一体、いつの間に向きを、いや、慣性があるから急に向きなんて変えられるはずが……。


 ……変えていない? 

 今のは初めから、一つの攻撃で……。


「破れた切れ目から分厚いのが見えてるぞ。服から先に斬りつけて正解だったな」


「……っ、はぁっ、ぐっ……」


「? どうした、そんなとこ見て……って、ああこれか。確かに、油断してたもんな」


 ……右手にも、ナイフが。

 完全に、油断した。現れた瞬間に持っていたのが左手だったから、てっきり左利きなのかと。


 そう、だよな。

 武器を奪われたら後は何もできない、そんな状況を想定していないはずがないものな。あの二本のナイフ以外にも、まだ予備を携帯しているかもしれない。

 今攻撃を受けたのは、それだ。影中トオルは、僕が防刃チョッキを着込んでいることに早い段階で気づいていて、あえて僕を誘導するために左手を胴体へ──そして右手で本命の攻撃を仕掛けたんだ。

 そして、脚を斬られてバランスを崩した僕の攻撃は、宙を切った。


「で、その手に持ってるものは何だ? 構えてたよな? 脚を斬らなきゃ当たってたかもな」


「……ぐっ」


「答えろよ。服の中含めて、俺対策をしてきてるだろ。情報源はどこだ?」


 僕は、その作戦にまんまと乗せられた。

 しかも、懐中電灯を取り出すところまで見られている。

 さっきから逃げ続けていたが、これも罠だ。

 段々周囲にある影の数が増えて、濃くなってきてる。配線も見えるし、いつの間にか僕はイルミネーションの近くまで誘導されていた。あの男は初手から全力だったんじゃなくて、徐々に攻撃が通りやすい方向に僕を誘導させている……! 


 そして、情報源は辻セイラだ。

 それを喋る訳にはいかない……。


「なんだか怖くなってきたよ。俺の情報はどこまで筒抜けなんだ?」


「……」


「次は何の作戦を考えている? 今のを見て次も攻撃できるほど馬鹿じゃないぞ」


「……」


「だが、事前に知ってたなら通報してるはずだよな。通報できない訳があるのか?」


「……っ」


 だ、大丈夫なんだよな、これ。

 一応、脚を斬られて大きく身動きは取れないが、僕は一応大怪我で済むんだよな。

 助けが来る、という可能性はない。そうなったらこの男はその人を殺すか、敵わないと分かれば即座に撤退するはずだ。だから、ここから僕一人で、確かに逆転するはずなんだ。


 ……できるのか? 

 まさか、僕が本来の未来を知ってしまったせいで、実際の未来の内容が変わった、とかあるのでは。本来と違う行動を取ったから、実際は決まっていた攻撃が油断で、届かなくなったとか……。

 でもそれなら、九条ノドカは大怪我で済むとは言わないはずで……。


「まあいいよ。もっと確実に追い詰めることにする──俺の後ろのアレが見えるか?」


「……は?」


「見えるかって。ほら、あそこの影。見えるだろ?」


 ……急に、何を。


 あそこの影って、なんだ。何がある。

 僕を誘導していたのは、イルミネーションの近くに連れて行くためじゃないのか? 何か見せたいものがあってここまで誘導したのか? 一体、何が……。






 ──「ん~~~っ! んんん~っ!」


 ……桐島、ミオ? 






「なっ、まっ、待て。どういうことだ、何故彼女が、拘束されて」


「人質だよ。逃げないように足の腱は切ってある。お前の女か?」


「そういうことを聞いているんじゃない! どうやって、彼女がどうして」


「なんかお前のこと追いかけてたんだよ。知り合いだろ? 知り合いだよな? 知り合いじゃなきゃ人質にできないんだが」


 な、何故? 

 どうして? 彼女が? 僕を、追いかけて? 


 いや、そんなことどうでもいい。

 問題は、彼女が、足の腱を切られ、両手両足をロープでくくられて、口元を布で塞がれて──影の中に放置されているということ。

 その気になれば、影中トオルはいつでも彼女を殺しに行くことができて、そうでなくても血を止めなければ死に至る可能性がある。


 いつからこんなことを? 僕と戦っている最中にそんな動きは見せなかったはずだ。まさか最初から? 僕を襲おうとした時点で、何故かついてきていた桐島ミオを捕獲し、人質として準備していたと? 

 それを、尋問と僕を殺すための、人質として、使うつもりで……。


「ま、待ってくれ。彼女をどうするつもりだ。関係ないだろう」


「だがこれから俺は二人殺す訳で。それが三人になるぐらい別に」


「情報が欲しいと、そう言っていただろう」


「じゃあ話してくれる気になったのか? ん?」


 ……どうすべきだ? 

 ここで、僕はどういう判断を取るべきだ。


 最終的な決着の仕方は分からないんだ。もしWPPOが助けに来るならそれが未来予知に映っているはず。わざわざ「僕の無事」を確認できたのが25日になる訳がない。

 つまり、WPPOはこの戦いを認知できていない。しかし、一般人に大勢被害が出ていれば、僕だけの問題じゃなくなってしまう。ニュースになることは確実で、そうなれば強行してでも止めたはずだ。

 もし、これで僕が生き残れるなら、僕が「止めないように要求する」はずがない。誰かが死んで僕が生き残るなら、未来の僕は「何があっても止めてくれ」と要求していたはずなんだ。


 違う、全然違う。

 もっとよく考えろ。


 今僕には刃物がある。向こうは警戒しているが、それでも刃物があるとは知らない。つまり、なんとか隙をついて刺し殺す。どう考えても過剰防衛だが、これが僕の勝ち筋なんだ。

 他に、方法はあるか? 何か、あるかもしれない。あるかもしれないが、それを思いつくだけの爆発力が今の僕には足りない。焦りの感情はあるが、焦っているだけでこれぞという道を見つけられない。


「……もしかして、本当に知り合いじゃないのか? えっ困るんだが」


 だが、いいのか? 刃物を振り回して勝てる相手なら3年も指名手配にならないのでは。どうにもならないからこそ、WPPOが今まで手を焼いていた訳で。

 法律違反に覚悟が決まらず腕の震える僕と、人質で素早く動くことができない桐島ミオと共に、明かりがより強くなった誰もいない路地裏で、万全の状態であるこの男を相手に、そんなことができるのか? 


 僕が九条ノドカに護衛を頼んでいれば、男は逃げ、いずれ三好ルナが殺された。

 しかし頼まなかった今、この男は僕を徹底的に追い詰めている。本来の僕はどうやって勝利した? 


 考えろ、考えろ、考えろ……。






「なら分かった。あの女は人質として価値がある人間に再利用しよう」


「……は?」


「例えば……そう。あの女の母親とか。家族を脅すのに使えるはず──」






 ──ブツン

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