表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
23

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/59

[24:00] 護衛はいらない

 突如現れた九条ノドカ。

 人気のない路地。

 体が動かない。

 九条ノドカが眼帯をつけていない。


 つまりはそういうこと。

 僕の懸念は当たり、影中トオルは僕も標的の一人に選んだということだ。

 ……まさか、「今から三好家に向かう途中で事故に遭います」なんて結果にはならないだろうな。それだと恥ずかしすぎるぞ。


「勝手に能力を使うのは禁止じゃなかったのか?」


「今回は緊急の用件です。私も、今朝聞かされたばかりで」


「どんな内容を?」


「……『25日の時点で、大怪我で病院にいる瀬尾マコト』を予知したと」


「なるほど。予知の範囲は最低でも2日以上ということか」


「……っ」


 実際にWPPOがどれぐらいの期間を予知できるかは分からなかったんだよな。

 数字現象の予告のことがあったから1週間以上先を予知できることは分かっていたんだが……もしかしたら日時や内容によって予知できる内容は変わるかもしれない。あるいは複数の担当者がいて、それぞれ見られる範囲が決まっているとか。

 予知の内容も多分、自由に見られる訳ではないんだろう。「24日の夜に影中トオルに襲われて死亡します」ではなく、「25日に僕がどこにいるか明確に分かる瞬間の内容」を予知している訳だから。その人の24時間の行動を遠隔で監視できる訳ではなく、見るための条件が色々あるんだろうな。


 緊急の用件ということで、わざわざこんな年末に。きっと休暇中だろうに。

 だが当然だな。通常のエージェントが休めたとしても、未来予知能力者までその限りとは限らない。仕事といっても能力を発動して『視る』だけだし、もしそれを止めてしまえば年末年始は一年で一番危険な期間になってしまう。

 だから彼女は護衛役として、まだ僕が無事な24日の夜の時点で、止めに来ることができたと。そういうことだな? 


「とにかく、貴方の安全を守るため、この先に進むことは推奨できません。もし強行するなら、申し訳ありませんが護衛として同行させていただきます」


「クリスマスデートだな」


「……案外余裕そうですね。まるで予測できていたみたいな……」


 何を言いたいかは分かってるぞ。

 どちらにせよ否定するが。


 しかし、確かにそれなら安心だな。

 僕が影中トオルと遭遇したとしても、近くに九条ノドカ及びWPPOの護衛がついていれば手を出せないだろう。あの男の凶暴ぶりは辻セイラから聞いているし、一筋縄で勝利できる相手ではないことも承知だが、もし護衛達が敗北するならWPPOがそれを容認する訳がない。勝てる、あるいは追い払えるだけの人材を準備するはずだ。


「なら、今朝聞いた話を、今になって実行したのはどうしてだ?」


「……っ、それは……」


 となると、彼女がこんな直前になって声をかけてきた理由が謎だ。

 今朝になって分かった話であればその時点で僕に声をかけるなり何なりすれば良かったのでは? わざわざ直前になって声をかけるなんて、少し危険性があるようにも思えるぞ。もし間に合わなかったらどうするつもりだったのか。


 つまりは、すぐには接触できなかった理由があるということだろう。

 WPPO内部で、「直前まで僕に接触するなという命令」あるいは……『直前まで僕に接触するべきかどうかという議論』がなされていたのではないだろうか。


「上層部は……二つの未来を通達しました。一つは『無事に瀬尾マコトを警備完了し、何事もなく24日が終了する』というもの」


「……」


「そしてもう一つは……」






「……『25日に影中トオルという指名手配犯を逮捕する』というものです」


 やはり……! 






「影中トオルは、国際的な要人の暗殺を計画していた、非常に凶悪な指名手配犯です。3年前に、一般の通報から計画は未然に防がれましたが、それ以降姿を潜めていました。数日前、目撃情報が上がり、現在WPPOはその捜索を行っています」


「つまり、その指名手配犯と僕の護衛が関係しているということだな?」


「そういう、ことに……なります」


 そうだろうそうだろう。全部繋がったぞ。


 つまり、WPPOが対策した、本来とは違う未来──僕に護衛がついた場合。

 影中トオルは今夜、僕と三好ルナを殺害する計画を立てたが──僕の周囲に護衛が大勢いるのを確認し、僕の殺害を取りやめる……そういう未来が待っているということだ。

 当たり前だな。逃走経路確保のためにイルミネーションのつく夜を選ぶ男が、周囲にWPPOの護衛がついている僕を見て「負けて捕まるかもしれないけど特攻しよう」と思う訳がない。


 では、僕に護衛がいなければ? 

 護衛もいない、ただの箱を持って歩いているだけの一般男子高校生。

 対して影中トオルは暗闇の中でも複数人を即座に殺して回る戦闘力を持つ。

 そして、その晩は他にも殺しを計画している相手がいる。一人増えたところで何だ。

 じゃあ──狙わない訳がない。


 WPPOも後から護衛に急行するなどはできないはずだ。

 未来予知というものはその名の通り未来を視るものであって、どこにいるか分からない僕と影中トオルのいざこざを位置まで特定する能力ではない。そんなことができるなら指名手配犯なんてものは存在しない。

 そして、僕を護衛すれば『何事も起こらない』ということはあり得ない。僕を諦めた影中トオルが、本来の目的である三好ルナを殺しに行くからだ。なのに『何事も起こらない』と明言できるのは、ループが発生して「被害が出た」というニュースが消えてしまうから。逆説的に、彼をここで捉えないとループが解決することは無い。


 僕を護衛すれば、重要なスカウト候補の身の安全を守ることができる。

 僕を護衛しなければ、大怪我を負わせつつ、影中トオルを確保することができる。


「だから、意見が二分し、実行が遅れたと」


「……勿論、護衛班も捜索班も大部分が瀬尾さんを護衛すべきだと主張しています。護衛対象の危機を見過ごしてはいけませんし、何より犯罪者逮捕のために無実の人命を危険に晒す行為が許される訳ありませんから」


「しかし、実際には遅れている。だろう?」


「それは……」






「瀬尾さん自身が……『護衛しないこと』を要求するからです」


 まあ、そうだろうな。

 それも予想通りだ。






「やっぱり、未来が視えるのですか? でなければ、こんなこと……」


「違うと言っているだろう」


 しかし、僕は確かに「護衛の拒否」を要求するだろう。


 九条ノドカは『25日の時点で、大怪我で病院にいる瀬尾マコトが視えた』と主張した。

 25日が見えている……それが意味するのはループを突破出来ているということ。僕を護衛すれば三好ルナが殺されてループが発生するが、WPPOはそれを認知できないからこの利点に気づけない。


 そして、僕はどういう訳か『大怪我』で済んでいる。命は保証されている訳だ。

 大方、本当の未来では全力で抵抗し、なんとか大怪我で済む状態で勝利できたのだろう。後に影中トオルが逮捕されているというのだから、もしそうでなければ間違いなく僕は殺されている。

 ここで僕を護衛してしまって影中トオルの確保ができなければ、今年は大丈夫でも来年に同じループが再度引き起こされてしまうだけだ。それは避けなくてはならない。


 つまり、ここで護衛を拒否することには大きな意味がある。

 1. 僕の命はどちらを選んでも明日まであると保証されている。

 2. 影中トオルを確保できる。来年に同じループが起こることは無い。

 3. そしてループを突破できる。これが一番大事だ。


 そうすれば、三好ルナの命は守られる。

 辻セイラも今回の死に戻りで苦しむことは無くなり、僕も大きな怪我で済む。

 この体は母さんから貰った大切なものだが……。






 うん。

 何も問題はない。






 母さんは正しい人だ。息子が怪我をしたとなれば深く心を痛めるだろうが、それが人を救うためだと理解してくれればきっと誇りに思ってくれるはず。そう考えれば、僕の怪我なんて同級生二人の命に比べれば安いものだ。

 もし怪我の被害が大きな場合でも、自費でWPPO-HBに要請して治療してもらえばなんとかなるだろう。大きなデメリットは僕がとにかく痛い思いをするぐらいで……その程度、デメリットに含む意味も無い。


 だから僕は、ここで護衛を拒否しなくては。


「護衛を了承し、この先へ進むことを諦めてはもらえませんか」


「WPPOは護衛対象の意に反することができないのではなかったか?」


「……緊急時や、本人が正常な判断を下せない場合は別なんですよ」


「しかし、元々は二つの指示があったはずだ。これは護衛の指示には沿うが、放置の指示には反するものではないのか? 事実、君の他に護衛は来ていないだろう」


「……」


 ここで問題になるのは九条ノドカの能力だ。

 現に僕は首から下を彼女の能力で固定されてしまっている。このままでは自由に動けないし、この状態が続くと影中トオルが僕を諦めてしまう。それでは本末転倒。

 だから何とかこの能力を解除してほしい。マニュアル人間の彼女を誘導しなくては。


 実際、護衛と捜索の二つの意見が存在していた訳だ。

 僕が要求しているという外部要素もあってか、WPPO側で「こちらの意見に確定する」という方針決定はまだ出ていないはず。もし「護衛を強行させてもらう」と主張するなら、ここに他の護衛が大勢やって来て僕を強制的に安全な場所へ連れて行くはずだから。


 しかし、この場所には九条ノドカの一人しか来ていない。


「……エージェント、特に未成年協力員は、『容認できない任務』についてNOを唱える権利が存在します」


「つまり?」


「私は、護衛の指示には賛同できますが、放置の指示には協力したくありません。なので、賛同すべき内容のみを遂行しているだけです。規則にあることですから」


 おっと、九条ノドカ対策みたいな規則が。

 それなら二重の指示が出ているからどちらに従えばいいか分からないなんてことにはならないか。


「しかし、いざ影中トオルと対面した時に身動きが取れなければ僕は殺されてしまう。だから解除すべきではないか?」


「その時は解除しますよ。今こうしているのは貴方を逃がさないためで、実際に逃げる際は影中トオルに能力を行使するまでです」


「ふむ、そうか」


 つまり彼女はこのまま僕の了承が得られない限り、この能力を解除する気が無い。

 能力の解除は彼女の意思に依存していて、視界から外れればいいという訳では無いから、視線誘導や眼帯の再装着で逃げることができる訳でもない。

 今からWPPOからの「やっぱり放置で」という指示を待つこともできない。それで対応が遅れて気づいた頃には三好ルナが襲われている……それではダメだ。


 つまり、僕はここから逃走し、その上で九条ノドカに能力を解除してもらわなければいけない。






 そして──こうなることも予想していた。

 荷物を掴んだ状態で固定してくれて良かったよ。


「今だ! 日高アサヒ!」


「おうよ!」


「なっ!?」






 ──「まっ、待ちなさい! 待ってください!」


 悪いな、九条ノドカ。

 君が善意で動いていることは分かっている。その上で、そうされると困るんだ。


「なあ委員長! 逃げる相手ってマジであの人で合ってんの?」


「合っている! とにかく今は僕を持ち上げたまま振り切ってくれ!」


「結構重いぜ!? ボールじゃあねーんだから……っと!」






 *






「ゼェ……ゼェ……ど、どこまで逃げれば……」


「おっと」


「うわァッ!? きゅ、急に動くなよ! ビビるじゃねーか!」


「すまない」


 しかし──撒けたか。

 運動ができる日高アサヒならもしかしてと思ったが、タックルみたいな形とはいえ荷物を抱えた人間を持ち上げてよくぞここまで走れたものだ。ポンコツとはいえ九条ノドカから逃げきれたのは勲章ものだぞ。

 どんどん入り組んだ場所に逃げ込んだのも勝因になったな。予知の結末と指示しか聞かされていない九条ノドカは曲がり角の多い場所で逃げ込んだ二人組を見つけ出すことができない。途中で酔いそうになったことを除けば完璧な立ち回りだった。


 僕が「いざ影中トオルと対面した時に身動きが取れなければ僕は殺されてしまう」と発言しておいたのも、今になって効いてきたな。

 僕を見失ってしまった状態でなお固定状態を続けていれば、本当に影中トオルと遭遇した時に逃げられず死亡してしまう。追いつけなくなってしまったらその時は、こうして能力を解除するしかない。


 そして、第三者の存在。

 九条ノドカはWPPOの人間だから理由もなく一般人に能力を行使することはできないし──そもそも彼女の能力は一度に一人までだ。僕を抱えて逃げる日高アサヒを固定しようと思ったら、今度は僕が動けるようになってしまう。

 つまり彼女は、二人がお互いを運んで逃げ続けるという状況には弱いんだ。協力者が一人いるだけで、彼女の視界から逃走することはそう難しいことではない。


 どれもこれも、こうして日高アサヒが協力してくれたおかげだ。

 前日に仕込みをしておいて本当に助かった。


「にしても驚いたぜ……まさかあの『ヒーロー』がオレに協力者になってくれなんて言ってくるんだから」


「その言い方は止めてくれないか。分不相応な言い方だから」


「おっと。悪ぃ悪ぃ」


「しかし助かった。君が22日に僕のバイト先に来てくれてよかったよ」


「いーのーいーのどういたしまして。オレもお前の役に立てて良かったぜ」


 そう。

 全ては日高アサヒが12月22日に僕のバイト先へ食事を取りに来たから。


 あの日の彼は辻セイラから事前に聞いていたイメージとは違い、少し悩んでいたような様子だった。そしてレジにいる僕を見るなり「おっヒーローじゃん」と声をかけてきて……そのままバイト上がりの僕と話をすることになったんだった。

 なんでも、不審者を撃退した僕の噂を聞いて興味を持っていたらしく、それ以来話をしてみたかったのだとか。他にも、「彼女と仲が悪くなってきていてイブも近いのにフラれそう」だとか色々世間話をして、連絡先を交換した。


 そして、23日に桐島ミオとのデートで今日の事態を予測した僕は、協力者が必要だと考え、デート終わりに日高アサヒへ連絡。丁度その時に「彼女にフラれてしまった」と言っていたので、「慰める」という名目でカラオケに行くことを提案。そして二人でカラオケを熱唱。


「それに、委員長は傷心のオレを慰めてくれたからな! その礼ってことで」


「まさか。『フラレそう』と言っていたから不安になっただけだ」


「いやいや……その後、『君のカラオケの採点を±1点以内で当てて見せよう』っつってたじゃん。んで実際10連続で当てて来るし。マジでびっくりしたかんな。ショックとか全部吹き飛んだわ」


「君を慰めたくてできることをしようと思っただけさ」


 そう。

 僕は辻セイラから「日高アサヒは手品好き」なる情報を受け取っていた。

 あの時の彼女はかなり疲弊していたが、それでも情報共有だけはしっかりしている女だ。それが功を奏したことになる。


 カラオケの採点システムは基本的にガイドメロディとの一致率と、こぶしやしゃくり、フォール、ビブラートなどのテクニック要素を回数分加点することで決まっている。後は安定性とかリズム感とか色々。

 そしてカラオケだと、メロディの一致率と各種テクニックが何回検出されたかは結果で表示される。途中まではあたかも彼の熱唱を聞いているフリをして、最後だけそれぞれの要素を見て計算式を回せば自ずと大まかな範囲の得点は推定できる。

 こうした点数当てが使えるのではないかと思っただけだ。

 きっと他の周の僕も、日高アサヒと仲良くなろうと考えた時はこういう遊びをして見せただろう。


 かつてハルキをカラオケに誘った経験があってよかった……。

 彼は「そんなもの興味ない。勉強しようよ」と言っていたが、採点システムのことを伝えたとある時だけ「どういう計算式なのかな? 気になるね」とか言い出して。そのまま二人で、何曲も歌っては統計を取って、採点する際の計算式を二人で導出したんだった。

 あの時はただ楽しいだけだったが、こんなことにまで使えるなんて。ハルキ様々だ。


「とにかく、今日はありがとう」


「これだけで良かったのか? 尾行すんのは楽しかったが、あの子から逃げるだけ?」


「そうだ。変なことに呼び出して悪かった」


 そして、彼に期待している役目はここまでだ。

 九条ノドカを振り切った後、出会うのは影中トオル。その場所に彼を連れて行く訳にはいかない。無関係の一般人を巻き込めるのは、ここが最後になる。

 彼がこうして付き合ってくれたのは、彼女がいなくなって時間ができたから。それに付け込んで、「この後も悪人と対面する予定だから付き合ってくれ」なんて言える訳もない。


 思えば、僕は桐島ミオに喜んでもらうために「日高アサヒは彼女と別れるみたいだぞ」などと言おうとしていた。あの時はそうしてでも彼女を気遣うべきだと思ったが……なんて失礼だったんだ。

 ここまで無償で協力してくれた彼に、もうそんな不埒な真似はできない。


 すまない桐島ミオ。僕は君の横恋慕を応援できるか怪しくなってきた……。

 ……いや今の彼はフリーだが。


「いーっての。またカラオケいこーぜ。オレも友達に見せてやりてーから」


「任せてくれ。僕も友人に君を紹介したい。君はとても良いヤツだから」


「言うねえ。オレもあの日にバーガー食いに行って良かったよ、な! 委員長!」


「ああ、『アサヒ』」


 そして、僕はなんとしても勝たなくてはいけない。

 僕が負け、三好ルナも襲われてしまったらこの友情は無かったことになるのだから。






「でも人数多いとこであの横揺れは止めた方がいーぞ。二人なのにぶつかるかと思った」


「えっそんな」






 *






「──じゃあなー!」


「ああ」


 ……さて。


 後は影中トオルと対面するだけだな。


 WPPOの未来予知によれば、僕は大怪我をするだけで生き延びることができるはず。

 どうやってそんなことを可能にするのかは分からないが、それに油断して中途半端な行動をしてしまうのはよくない。未来を変えられるのは未来の情報を知る者だけだが、それで僕が本来より気の抜けた行動を取ってしまえばその未来にも到達できなくなる。僕が最後まで変わらず抵抗するからこそ、あの未来は存在したんだ。

 となれば、もう三好ルナの家に向かうのは止めておいた方がいい。まずは僕を襲いに来るんだから、この荷物を届けに行くのは、鴨が葱を背負っているのと何も変わらない。


 防刃チョッキは僕がもう着ておくべきだ。初撃を誘導するためにも、上からしっかり服を着こんで、これの存在は隠しておくべきだろう……結構固いな。それに少し暖かい。ちょっと安心だ。

 懐中電灯は使えそうな気がする。もし周囲が暗いところであれば、光源をこっちが自由に操作できれば悪いことにはならないはずだ。いつ襲われてもいいように、僕は暗い……影のない場所へ今の内に移動しておこう。

 刃物は……最終手段だな。正当防衛でも、刺し殺してしまっては過剰防衛と取られかねない。こんなものを戦闘目的で振り回したら銃刀法違反にもなってしまいそうだし……そこらへんの線引きはしっかりしておかないと。


 周囲に人がいるような場所に行くべきでもない。助けを呼べなくなるという欠点もあるが、人質が新たにできることもない。今この場所もあまり人影は無いが、念には念をだ。

 それに、前の周のクリスマスパーティー襲撃は実際に部屋を暗くすることで対応して来たらしいが、今回は屋外だ。もし周りに人目がいれば、あの男は現れなくなってしまう。そうなるとまた次の襲来を恐れる日々が始まるだけだ。なんとしてもここでケリをつけないといけない。


 一応、辻セイラには連絡を入れておくか。

 非常事態により、荷物を届けることができなくなった、すまない……と。彼女はきっと怒るだろうが、僕が勝利さえすれば三好家に影中トオルは訪れないんだからその代わりだと思ってくれれば。


「そうと決まれば、電話を──」






「──ッ!」


 ──ガキンッ! 






「……っ、お出ましか……」


 随分早いじゃないか……まだ碌に移動もできていないのに。


 どこからともなく現れては──初手が携帯を切り落とすことなのか。

 危なかった。歩きながらでなければ今頃大きく切りつけられていた。普段は歩きスマホなんてしないんだが……携帯だけで済んだのは不幸中の幸いか。


『おかしいな? 確かに手首を跳ねようと思ってたんだが。俺が来ると分かっていた?』


 ……お、おお。


 影から出てくるときってそんな感じなのか。

 まさしく、潜っていた男が水から上がった時みたいな……。


「……まさか。来ると分かっていれば母さん名義の携帯を守っていただろう」


『驚かないんだな。ま、ずっと変な動きをしていたし。通報をしたのもお前だから当然か」


 体が……どんどん黒い影から、色のついた人間へ。

 今、実体に戻ったということか。つまり、攻撃できる状態に移行したと。


 ポスターの写真より、少し痩せている。

 髪は伸びて後ろで束ねられ、無精髭で、上下とも黒っぽい服。

 清潔とは言えないが、浮浪者と呼ぶほど荒れてもいない。

 左手には、見たことのない形状のナイフ。軍用だろうか。


 ということは、確定だ。


「……影中トオルだな?」


「やっぱなんか掴んでるな? 証拠を残したつもりは無かったんだが」


 コイツが──三好ルナと辻セイラを殺す男だ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ