↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】 クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
おまけ(後日談)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/111

日高アサヒと恋愛相談

 ──カシャッ


「よし。これで証拠は完璧、サンキュー委員長」


「証拠? 何の証拠だ」


「彼女。男と会ってるって証拠送んだよ」


「なるほど。アサヒの彼女に浮気を疑われないためだな」


「そゆこと」


 顔を合わせるなり挨拶より先に肩を組まれてシャッターを切られたのは驚いたが。

 旅行の記念写真にしては背景が駅の改札だし、待ち合わせの記念というのも聞いたことがない。しかし、そういう事情があるなら話は別だ。


 今日はアサヒに『ちょっと話したいことあるから飯行かね?』と呼ばれてきたわけだが。

 彼の彼女は束縛が強いタイプだと聞いていた。いきなり僕とのツーショットを撮ったのも、今日会う相手は男だぞとアピールするためだったんだな。証拠保全と考えれば確かに合理的だ。

 口で「男友達と会う」と言うだけでは、相手にそれを確かめる手段が無い。

 だが写真なら一目で分かる。後で揉めないよう記録を先に残しておくのは契約の基本だ。


「この前、委員長が知らない女連れて歩いてんの見ちまってよ。ガン見してたせいで、彼女にめっちゃ怒られたんだからな」


「……まさか頬のそのひっかき傷は」


「これ? 背中にも似たようなもんいっぱいあるぜ」


「た、大変なんだな……」


 恋人間の問題やいざこざに口を出す気はないが……まあ、アサヒ自身が気にしている様子を見せていないし、過度に追及するのも余計なお世話か。


 しかし、知らない女? 

 誰のことだろう。

 母さんのことではないな。たまに二人で外へ行くこともあるが、そういう時はアラタも付いてくることが多いし、そもそもアサヒは一度家に来ている。

 カリンも……違うか? さっきの「知らない女」という言い方だったり、彼女が嫉妬する様子だったり。三つも年下の高校生が相手とは考えにくい。


 ……あっ店長か! 

 あの人、たまに夕飯奢ってくれたりするし、その時一緒にいたのを見られたのかもしれない。年の差も10歳程度だし、あり得ない範囲ではないだろう。


「それを言うために?」


「んな訳。誰が流れ弾の文句言うために他大学のダチと飯行くんだよ。話があるんだって」


「そうか。それなら丁度良かった」


「ん?」


 せっかくアサヒと二人きりなんだ。

 こういう話ができる相手は、僕には他にいない。


 先月、母さんに「将来のマコトのお嫁さんは幸せ者だね」と言われた。

 あの時は感激のあまり泣いてしまったが、後から冷静に考えてみると、あれは母さんなりの問いかけだったんじゃないだろうか。

 お嫁さんというからには、まず相手がいなければならない。

 相手を見つけるには、恋愛をしなければならない。

 そして僕はこれまで一度も恋人がいたことが無い。

 つまり母さんの期待に応えるためには、今から動き始める必要がある。


 そんなことを女性に相談するのは気恥ずかしいし、ハルキに聞けば「マコトに相応しい人間なんていないよ」と言ってくるのが目に見えている。

 しかし、いるじゃないか。経験があって、話を聞いてくれそうな友人が。


「アサヒ。君の話と一緒に、僕からも相談させてくれないか」


「お、おう? なんだよ改まって」






「大学生にもなったんだ。そろそろ本格的に恋愛がしたい。意見を聞きたくて」


「……は?」






 *






「……で。委員長は本格的に恋愛がしたいと」


「そうだ」


「………………マジで言ってる?」


「冗談で言うことではないだろう」


 ……さっきからずっとこの調子だな。

 席に着いて、注文して、ドリンクバーで飲み物を取ってきて、料理が届いて。その間に同じ質問を5回は繰り返している気がするんだが。

 そこまで信じられないことだろうか。この年代の男性が恋愛に興味を持つのは、ごく自然なことだと思うんだが。


 実際僕は昔からずっと恋人がほしいと主張していたし、それを隠している訳でもなかった。俗にいう「イチャイチャ」した行為をしてみたいという欲求があるし、性的な関心だって勿論ある。他の男子高校生や男子大学生とは特に変わらないと自覚しているぞ。

 息子に恋人ができたことで母さんに喜んでほしい……そういう側面だってあるにはあるが、だからといって女性なら誰でもいいという訳でもないし、相手の意思を無視してまで強行したいという訳でもない。

 だからこそアサヒに相談しようと思ったんだ。

 経験の無い分野で一から考えるより、経験者の意見を聞く方が早い。これは勉強でも仕事でも同じだろう。


 だが、まさか……。






「アサヒも似た話をしようとしていたとは」


「まあ、同じ話っていうか……『委員長の鈍感を矯正したい』ってだけなんだがな」






 正直こっちの方が驚きだ。

 僕が鈍感? アサヒは何を言っているのだろう。


 しかし、彼の話の内容はどう考えても僕の恋愛事情に関係するであろう内容だった。

 あたかも僕が、周囲の露骨すぎる好意に気づいていないのではないかみたいな言い方をしていて……。

 僕は恋人がほしいという話をしたいのに。その理論でいけば僕には既に恋人ができていてもおかしくないだろう。

 ちゃんと僕のことを客観視できているのだろうか。


「オレも結構鈍感な方だけどよ、委員長はすごいぜ? 遠回しとはいえ、あんなけアプローチされてて、流石にオレでも気付くっての」


「あぷろーち……?」


「そんな『心外だ』って顔されてもよ」


 心外だよ。


 僕は案外人の感情の機微に敏感な方だと自認していたんだ。でなければ母さんを守ることはできないし、セイラの協力者なんて務まらない。

 そんな僕に向かって「鈍感」だの「すごい」だの「流石に気付く」だの。

 勿論、アサヒが僕を騙すとか、貶めるつもりが一切無いのは分かっている。彼は気持ちのいいカラっとした人物で、「面白そうだから」という理由だけで周囲に迷惑をかける人間ではないことは既知の事実だ。


「だから今日は委員長が皆のことどう思ってんのか聞いてみようと思ってよ」


「まあ、認識の違いは正さねばならないからな」


 おそらく……アサヒは何か「勘違い」をしていて、善意で接触してきた可能性が高い。

 それが解消されなければ、僕の相談も始まらない訳だ。


 ここはまず、順番に彼の話を聞いていくのが一番だろう。






「じゃあまず委員長、桐島のことどう思ってる?」


 ミオ? 


 なるほど、一人ずつ検証していく形か。

 確かに、勘違いを正すなら一件ずつ反証していくのが一番確実だ。「全員誤解だ」と一括りに否定したところで、アサヒは納得しないだろう。

 法廷でも、相手の主張を崩す時は証拠を一つずつ突き合わせていく。それと同じだ。


 しかし、よりにもよって彼女からなのか。

 確かに彼女は素敵な女性だ。性格は快活で、物言いは直球だが、周りのことをよく見て周囲の雰囲気を敏感に感じ取り、それに合わせた言動ができる。

 自分の好き嫌いを隠そうとしないし、我慢することはあれど大々的に偽ることもせず、自分の感情と友情を同時に優先させようとする柔軟さも併せ持つ。

 お洒落にも興味があって、なおかつ他人の価値観を受け止める素直さも兼ね備えている。スタイルは抜群だし、一番どきりとすることが多いのは彼女だ。

 距離感は近いし、勘違いされそうな言動だって多い。デートだって、行った回数はもう相当なものだ。外野から見れば、「カップルなのでは?」と思ってしまうのも無理はないだろう。


 だが、彼女の想い人は目の前のアサヒ本人だ。

 最近はアサヒを諦めているような……意識していなさそうな素振りを見せていることも多いが、彼女の厳密な心の内は分からない。ここで「そうだ」と認めてしまっては、後々取り返しのつかないことになる恐れだってある。

 となると、ここで僕が答えるべきは感想ではなく事実だな。

 アサヒが自分の勘違いに気づけるよう、正確に答えなければ。


「良き友人だ。勉強会では教え子でもあったな」


「教え子ね。じゃあ夏の勉強会のとき、桐島が手作りのお菓子持ってきたの覚えてっか?」


「覚えている。クッキーだったな。とても美味しかった」


「あれ、委員長の分しかなくて、かつ全部ハート型だったよな」


「教えていたのは僕だし、彼女はハート型が好きなんだ。不自然ではない」


 まあ、確かにあれは勘違いしそうになるよな。

 ミオが持ってきた包みは一つだけで、それを僕に渡して「先生、いつもありがと♡」と言っていたんだ。僕も他の女性の友人に同じことをされたら、「まさか彼女は僕のことを……?」と思っていたかもしれなかった。

 だがミオは律儀だし、授業料を払うほどの関係ではないが、何もしないのも気が引ける……だから手作りのお菓子にしたんだろう。お金をかけずに気持ちを示すという、実に合理的な選択だ。

 そもそも当時のミオはアサヒを想っていたはずだし。


 彼女がハート型を好んでいるのも事実だ。

 事実、語尾に♡がついたように聞こえることがある。

 そのうち♤♧♢もつけられるようになるかもしれない。


「……でもよ、委員長、桐島とよくデートしてんだろ?」


「ああ。だが、所謂恋人のするデートではなく、別の目的が存在するデートだ。僕個人としては楽しませてもらっているが」


「……本人から『手繋いだ』『ハグした』『カップル割使った』とか教えられるんだが」


「……別の目的が存在するデートなんだ」


 何を言ってるんだミオは。

 そんなこと言ったら本来の目的から遠ざかっていくだけだろうが。何を考えてる。

 ……いや、逆にそういう作戦か? 

 恋人ではない人間にもそこまで距離が近いことから、フレンドリーさをアピールするという……彼女なりの、不器用な策略の一つだったのではないか? 


 まあ、どちらにせよアサヒにはこう言うしかない。

 本人は「そこまで距離が近い」=「ミオは瀬尾マコトに好意を抱いている」と勘違いしている訳だが、その裏には「アサヒにだけ話せない事情」が存在する。

 彼も「自分には分からない事情がある」と分かれば、逆説的にあのデートにも訳があったと理解できるはず。

 だから……。






「そうか。事情があるならまあ……そう、なのか?」


 一件目の勘違い、解消だ。






「じゃ、じゃあ九条はどうなんだ」


「ノドカ?」


「オレ、委員長ん家の近くだろ? 朝登校中、たまに九条がずっと同じ方向見ながら突っ立ってることがあんだよ」


「へえ」


「で、その時は知らなかったけど……その方向って委員長の家の方だったんだよ」


「へえ」


 ……なんだ、その。

 ちょっと怖い話をするのは止めてくれないか。


 まあ、心当たりがあるにはある。

 アサヒが「その時は知らなかった」と言っていたあたり、彼がノドカを目撃していたのは、彼女が転校してきてから僕と友人になる2年のクリスマスの日まで。そして、その目線の先にあるのが僕の家だと知ったのは……遅くても僕の家に一度訪ねてきた、3年の8月までのことだ。

 その期間、ノドカは何をしていたか。


 僕の調査と護衛だ。


 WPPOは対象のプライバシーに踏み込まないという原則がある。だから調べていたのは僕の家のことや交友関係ではないはず。

 となると彼女は、時間帯から推測するに、「僕が無事登校できるか」の確認をしていたのではないだろうか。

 実際、彼女は週一程度の頻度で、登校中の僕と鉢合わせることがあった。

 鳩一匹を追い出すためにわざわざ手を回してくるような組織だ。途中で蜂が飛んで来ただとか、鳥に突かれたとか、犬に吠えられたとか……そんな些細なことのために待機していたのかもしれない。


 ……そのために、朝から僕が出てくるのを待っているというのは行き過ぎな気もするが。

 まあ、この一件をアサヒに言う訳にはいかない。

 WPPOのことも、調査のことも、ノドカの能力のことも、守秘義務の内側だ。

 かといって嘘をつく訳にもいかない。僕が言えるのは、事実に反しない範囲のことだけ。


「ノドカの家もこの辺りなのかもしれないな」


「……そんな偶然あるか?」


「ノドカの家を知っているのか?」


「いや、知らねーな……」


 実際、彼女も異性として魅力的だ。

 規則を遵守しようとする性格は全ての人間が見習うべき美徳だと思っているし、少し空回りしてポンコツを晒すのも完璧すぎない欠点だと思えばギャップとして受け止められる。

 それだけポンコツでありながら有事の際には自分の意思を貫こうとする覚悟の決まり方も、人間的に優れた一面と言えるはずだ。

 あの佇まいで能力が使えるというのも意外性がある。しかも1対1の対人では基本負けないという性能。少年心が疼いてしまうのも仕方がない。

 意外とものを知らなかったり天然だったりして庇護欲を掻き立てられるというおまけつき。高嶺の花といった外見に純真そうな中身。恋人として考えれば夢のような存在ではないだろうか。


 残念ながら僕に対する感情は友情と同僚としての仲間意識のみな訳だが。

 確かに、護衛と護衛対象という関係を知らなければ勘違いしてしまってもおかしくない。

 まあ、週一で毎回護衛にやってくるのには違和感があるが……深い意味はないだろう。

 だから……。






「家も知らねーのに決めつけるのは、確かに早かったか……?」


 これで二件目も解消。順調だな。






「……じゃあハルキはどうだ。アイツは男だが」


「ハルキか……」


「驚くかもしれねーが……オレ達の卒業旅行んとき、オレが一番早起きだったろ」


「そうだな」


「……ハルキの奴、寝ながら委員長の服ん中まで手ぇ突っ込んでたんだぜ」


「お、おお……」


 それは……知らなかった。

 ……本当に? えぇ? 何やってるんだ? 

 確かにあの旅行の朝、目が覚めたら浴衣の合わせが妙に乱れていた気はする。寝相のせいだと思って直したが、まさか……ハルキの手が入っていたとは。

 ハルキの布団は僕の隣だった。というより、寝る前にハルキが自分の布団を僕の布団にぴったりくっつけて敷き直していた。距離的には十分あり得る話だ。


 一応、彼が僕に重たい感情を向けていることは最近知った。

 彼は勉強魔で、なおかつ賢い人間こそ偉いと思っていて、僕と初めて出会った時はプライドの塊みたいな小学生だったことを覚えている。

 少し難のある性格ではあるが、勉強を楽しめるという一点においてその性格は何より強みになるし、目標に対してひたむきに努力を続けられる姿勢は評価されるべきだ。

 見た目も中性的で、どちらかというとアラタのような可愛いよりだし……実際、前回の女装は酷く似合っていた。ミオが何やら危機感を覚える程度には。

 親友だし、恋愛というよりは執着だし、性別のこともあるから男女の関係にはならないだろうが……彼自身の好意は流石に僕も理解できているぞ。


「だが、寝ている間のことだろう。本人に意思は無い」


「いや、それはそうなんだけどよ……」


 しかし、それとこれとは話が別だ。


 彼からの好意は確かに嬉しいが、それはそれとして寝ている間に行った行動が彼の意思に基づいたものだとは考えにくい。

 寝ている人間の手がどこへ行くかなんて、本人にも制御できない。法律の世界でも、意思に基づかない身体の動きは、そもそも法律上の『行為』と見なされない。寝返りを打った拍子に隣の布団へ手が入ったところで、それを咎めるのは筋違いというものだろう。

 ハルキは体温が低い方だし、寝ている間に温かい方へ手が伸びただけかもしれない。


 ……だとしても、服の中に手を突っ込んで? 

 やはりちょっと行き過ぎな気もする。寝相にしては大胆過ぎだ。

 僕と同性で良かったな。場合によっては訴訟ものだったかもしれない。

 将来恋人を作る時は気をつけろよ。


 まあ、このことについてはアサヒに話さなくてもいいだろう。

 彼の重たい感情は僕に向けられた僕だけのものだし、ハルキだって自分の告白を他人に言いふらされたくはないはずだ。あれはハルキが壁際に追い詰められてようやく絞り出した本音、本人のいない場所で僕が勝手に他人に話していいものではない。そこから連動して女装罰ゲームのことまで言いふらされたらもう大学生活ごと楽しめなくなりそうだ。

 それに、ハルキ本人は僕のことを「目標」と言っていた。

 憧れにも執着にも重さはある。重いことと恋愛であることは別の問題だろう。


 だから……。






「そうか……? 意図せず体まさぐるとかありえねーだろ……」


 ……少し納得して無さそうだが、三件目も解消だな。






「……じゃあ辻」


「セイラと面識があったのか」


「オレ自身はねえが。一応学校じゃ有名な不良だし、委員長も小笠原旅行の写真送って来ただろ」


「そういえばそうだった」


「……あれ以降、辻はお前にべったりじゃねーか。普通男にあそこまで気ぃ許すか?」


 ……それは僕が『大切な人』になってしまったからなんだよな。

 別に恋愛感情じゃなくて、『大切な人』ならセイラは誰であろうとああするんだ。


 実際、最近のセイラはそのあたり隠さなくなってきた。

 これまで他の誰にも見られていない状況なら、ミオやルナにも同じようによく甘えていたらしい。それは僕も辻家に行ったときに観測している。

 能力の都合上、『大切な人』を増やせないから必然的に人肌が恋しくなるんだろう。僕にもその光景を見せることに遠慮が無くなったのは、僕に対する好感度を気にしなくなってきたからだ。

 全員に同じ対応をする以上、僕だけが特別ということはない。


 それにセイラとの旅行も死に戻り解決のために向かったものだ。他意はない。

 基本的にべったり? 多分寒がりなんだろう。セイラ自身も「寒いから。マコト、あったかいし」と言っていた。本人の申告を疑う理由は無い。

 となると、アサヒの評価は彼女の実情を知らないが故の過大な勘違いであると明確に結論付けられる。

 彼女からの信頼は自覚している。現状、それが正しい認識だろう。


 もしあれが恋愛感情に基づくものだったとして……その場合彼女は実の妹や両親にも同じ感情を抱いていることになってしまう。

 僕にしか取らないようなスキンシップだって一応存在するが、それは僕が彼女の『大切な人』で一人しかいない「同年代の異性」だからだろう。深い意図はない。


「彼女は親しい人には皆そうなんだ」


「それなら恋した相手にはどうなるんだよ……」


「……独占欲を出してくるとか?」


「今の委員長じゃねーか」


 何を言っているんだ。

 それはセイラの基本的な性格が排他的だからだ。だから、相対的に他の『大切な人』に見せる態度が独占欲を含むような恋愛的なものに見えるんだろう。

 そもそも彼女はああ見えて周囲からの愛に飢えているし、周囲に愛を振りまくことにも飢えている。その結果が、あの甘々イチャイチャモードセイラなだけだ。

 肉体的にはもう成熟していることは認めよう。ミオに次いで、ノドカと同じくらいの発育の良さがある。だが精神が甘えたがりだからそのギャップで違和感を覚えるんだ。

 ……あれ? それだと僕との関係が周囲に見られることを気にしていないのはどうしてだ? 僕と他の『大切な人』に差は無いはずなのに……。


 まあ、特に気にすることではないだろう。

 今の彼女は三好ルナが特に問題を指摘しない程度には安定した生活を送れている。死に戻りが起こっていないのは何よりいいことだ。

 協力者として、僕が重視すべきなのは「彼女がどこまで幸せになったのか」「どうして幸せになったのか」「幸せの原因は何なのか」と、満足そうな彼女の粗探しをすることではない。

 それよりも「彼女が何かに恐怖していないか」「彼女が助けを求めていないか」「彼女が僕に何を要求しているか」、だ。


 だから……。






「えぇ……? 鈍いのは絶対オレじゃなくて委員長の方なのに……」


 四件目も解消。彼もそろそろ考えすぎだと気づいてきただろう。






「じゃあ、これはなんか違う気がするけど……三好は?」


「……三好ルナ?」


「いや、『お気に入りちゃん』って呼ぶし、この前だって一人で家に呼ばれたんだろ?」


「あれは借金を返しに行こうとしてて」


「ごめん聞くの止めとくわ。辛かったら相談しろよ? な?」


 ……五件目も解消。

 あれ、なんか新たな勘違いが生まれたような。






「……だけど、委員長」


「なんだ。全部勘違いだと分かったじゃないか」


「いや、確かにオレも納得しちまったんだけどよ。でもなんか納得いかねーんだ。どこか変な気がして」


 そうだろうか。


 今投げかけられたアサヒの質問群に、僕は全て間髪入れず回答できた。

 急いで言い訳を作ったとかではなく、全て合理的な理由が存在しているから自分でも納得できたんだ。自分は恋愛的に好かれている訳では無いと。

 ここまで明確なロジックが存在していて、その上で恋人ができていないのだから僕の推論は正しいはずだろう。

 ……ああ、こういう消極的な性格が良くないという話か? 


 ……あれ? 

 でも、待てよ? 

 どうして僕は消極的に考えた? 

 普段の僕は、こんな消極的な考え方をする訳では……。


「なあ委員長」


「……」


「どうして委員長は、『もしかしたら好かれてるのかもしれない』って考えないんだ?」


「……」


「そう思うようになったきっかけとかあるなら……いや、思い出せないならいいけどよ」






「いや、問題ない。時間をくれ」


「へ?」






 思い出す? 

 それなら簡単だ。

 僕の全ては母さんに紐づいている。

 母さんの記憶を辿れば、何でも思い出せる。


 イマジナリー母さん──起動。






 *






 イメージしろ。昔の母さんだ。

 見えてきた、見えてきたぞ。若い……いや今も若いが。いつまでも綺麗な母さんだ。


『──大丈夫だからね』


 季節は冬だった。

 母さんは上がり框にしゃがみ込んでいた。僕と目の高さを合わせるためだ。

 エプロンは薄い黄色で、裾に小さな花の刺繍があった。

 髪は今より長くて、肩の下まであって。

 あと、手が冷たかった。それでも、その手で僕の頬を包んでくれた。


 成功した。


『マコトのこと愛してくれる人は、沢山いるからね』


 ……そうだ。

 何か、こんなことを言われていた気がする。僕が、5歳の頃だっただろうか。


 どうして、そんなことを言われたんだろう。






『あの人の言うことは気にしないでいいから』


 あれは居間だった。夕方で、西日が差していた。

 僕は100点の答案を握っていたけれど、母さんは悲しそうな顔だった。

 膝をついて、僕を正面から抱きしめていた。それが嬉しかった。

 髪からシャンプーの匂いがした。今と同じ銘柄だ。

 ブラウスはクリーム色で、第一ボタンまで留めていた。


『マコトは気味悪くなんかないよ。凄くカッコいいよ』


 ……そうだ。

 僕は母さんに褒めてもらおうとして……ではどうして慰められていたんだったか。


 その原因が思い出せない。

 慰めている最中の母さんに聞いても、『気にしなくていい』と返されそうな気がする。






『お誕生日おめでとう、マコト』


 あれは、小学二年生の誕生日だったか。誰の? 僕のか。

 ケーキの蝋燭は……そうだ、8本だ。

 8本もあって母さんの顔が見えにくいのが嫌だった。

 母さんは僕の向かいに座っていたけれど……少し悲しそうな表情をしていて。

 フォークを持つ手が、少し震えていた。


『マコトを好きな人はいっぱいいるから。私、頑張るからね』


 ……そうだ。

 あの日、母さんは家にいた「何か」と言い争っていた。

 その「何か」はすぐに出て行った。

 その日の母さんの具合は悪そうだった。






 思い……出してきた。


 多分、僕は母さんに何度も慰められていたんだ。

 内容はどれも「僕は誰かに愛される」「僕を好きな人が現れる」「僕は気持ち悪くなんかない」……そういった内容だった。

 母さんが嘘を吐くとは思わない。きっと将来の僕はそうなると確信していたのだろう。

 ということは、母さんから見て「息子が傷つくようなことを言った」「息子が傷つくようなことをした」何かがいたということだ。


 だってあの言葉は、全て僕を慰めようとして言ってくれた言葉だった。

 幼い頃の僕は、それを記憶した。何が原因だったかは分からないが……何故か思い出す気にもなれないが。

 そうだ。そうだった。

 母さんの手を煩わせるようなことを、僕は言わせてしまったんだ。


 母さんを思い出すことで、僕を形成した記憶を思い出せた。






「僕は、好かれ難い人間なのかもしれない。なんとかしないと」


「僕は、気持ち悪い人間なのかもしれない。なんとかしないと」


「僕を、愛する人はいないのかもしれない。なんとかしないと」






 *






「待って委員長。待ってくれ委員長。吐きそうだ」


「……はっ!」


「それ、親父さんの虐待じゃ……っ、思い出させなきゃ良かった……」


 戻って来た……。


 アサヒが何か反応しているのは……あれか。思い出してる途中で何度かうわ言を口にしてしまったのか。

 そうだよな。イマジナリーの最中にぼそぼそ喋り出すなんて、ちょっと失礼だし気味が悪いよな。普通イマジナリーって黙ってするものだろうし。


 しかし……そうだ、大体思い出せてきたぞ。

 きっと僕は家にいた「何か」に日常的に暴言を受けてきたんだ。

 そして、母さんはそれに抵抗し、その後僕を慰めてくれていた。

 その「何か」がどうでもよくて、母さんの方しか覚えていなかったから……。


 ……いや、しかし、結局どうして消極的なのかは分からないな。

 やっぱり原因が何だったか思い出せない。というか、思い出したくないような……。


「すまない、アサヒ。何かが無意識にブレーキを掛けている気がするんだが」


「いや、いいよ……今日はオレが奢るから……」


「え、いいのか?」


「その、事情は聞いてたのに、嫌なこと思い出させたし、鈍感とか言っちまって悪かった……」


「?」






「オレ、委員長はかっけーヒーローだと思ってるし、ハーレム作れるぐらいには愛されてると思うぜ。だから、その……気にしすぎんなよ」






「ありがとう。じゃあ僕の恋愛相談についてなんだが」


「もうその話やめねーか!?」


 なんで。

 それじゃあアサヒと楽しく食事して終わりじゃないか。別にいいけど。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。