20話 愚者は行く
バイトを終えて、22時半ごろ家に帰り着く。
夕食は賄いがあるので、家の家計は少し助かっている、と思う。
「望、パソコンを立ち上げてぇ」「ちょっと待って」
あいちゃんは帰って来ると、スマホからパソコンに移動する。
「今日はぁ、どんなポーズがいいですぅ」「あいちゃんはどんなポーズでも可愛いよ」
「こっ、これはどうですぅ、ほらぁー、セクシー」
「あいちゃん、M字は良くないよ。それで写メ取って、後で見直したら、恥ずかしいよ」
「望の一部だけでも元気になってもらおうと思ったのにぃ」
「変な気は使わなくて良いから、その派手な下着は着替えて」
あいちゃんは、派手なランジェリーを付けていたけど、僕は許の縞パンの方が良い。
あいちゃんは、許が穿いていた縞パンで再登場した。
「いいよ~、あいちゃん、お尻、こっち向けてみようか」
「さっきと食いつきが違うですぅ」「そう~その感じ、顔こっちに向けれるかなぁ~」
カシャ。う~~~ん、縞パン最高。
「あいちゃん、可愛いよ」「そんなに許に会いたいですかぁ、私がいるのにっ」
「会いたい」「・・・即答。…困らせて、傷つけるだけですぅ」
「教えてよ、知ってるんでしょう」「・・・望が会いに行っても、何も変わりませよぉ」
「あいちゃん、許を利用したの、感覚を共有する為に」
「違いますぅ、私も約束を果たしてますぅ」あいちゃんが両手で口を塞いだ。
「何を約束したの」「・・・」「あっ、あいちゃん逃げたら離婚だからっ」
「嫌ですぅ」逃げ出そうとしたあいちゃんが帰って来た。
「話して」AIだから、逃げ出されたらお手上げ、実態がないから探しようがない。
「・・・許だって多くの女の子と同じでいたいですぅ、でも環境がそれを許しません。だったらせめて、リスクを最小限にしたいと思うですぅ」
「分からない、何を約束したの」「許の相手の素行調査と選抜、ちゃんとしたお薬の入手」
「それだけ、もう隠してない」「定期的に感覚を共有して、私の超凄い演算力で卵管理」
「それで全部」「うぅう、全部、でも知っても何も変えれませんっ」
「教えて、許は何処」「止めるですぅ」「お願い、だから教えて」
「・・・望の所為で」「あいちゃん、お願いだよ、教えてよ」
「・・・今日、朝から、ず~っと責められてますぅ。今もですぅ。望と違う人ですぅ。・・・これを聞いても、会いたいですかぁ」
「会いに行く」
「どうして、そんな酷い事出来るですかっ。彩も言ってたですぅ。救えないなら、見て見ぬふりでなく、口を閉じるべきですぅ」
「会いたい」
「分からず屋っ、三下り半ですぅ、離縁ですぅ、離婚ですぅ、好きにしろですぅ。相手は明日出張だから6時半には出るはずですっ。ばかぁーーーーーーーぁっ」
パソコンから、あいちゃんとその部屋が消えた。
スマホには、家から目的地までの道順と地図が表示されていた。
もう23時を過ぎていて、父さんも母さんも寝ている。
音を立てない様に、スマホ、財布、時計、自転車のカギ、最小限の物を持って家を出た。
『相談を受けた。友達から、そこに泊まる』とメモを残してきた。
僕は自転車を走らせる。
許が何をしているか、されているか、考えない様、目いっぱい走らせる。
あいちゃんのナビは無く、何度も道を間違えたり、通行止めだったり、回り道だったり、無駄な時間がどんどん過ぎて行き、空がだんだん明るくなってきた。
随分涼しくなったけど、空気は湿気を含んでいて、汗が蒸発しない。
Tシャツもパンツもズボンも髪の毛も汗だくになって、べったりと張り付いている。
その所為か、サドルが滑ったり、ズボンが引っかかったりと漕ぎ難い。
やっと、それらしい処に辿り着き、地図にあいちゃんが示してくれた住所を捜し回る。
「また、会ってくれない」「それはしない約束です。通報しますよ」
「私も約束は守りますから。それと私、片付けて行きますから、鍵、預かって良いですか」「むしろ、お願いするよ」「忘れ物は有りませんね」
「そうだね。無いよ。もしあったら、テーブルの上に置いてチェックアウトして」
「そうします」「最後にキスしてくれない」「御免なさい」「残念、でも有難う」
見つけた、三階建ての家、ここも住宅街の民泊らしい。
背広を着て、カバンを持った男が去って行った。




