表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/42

 黄泉帰り

 人の死体と瓦礫で出来た巨大津波が、ものすごいスピードで迫ってくる。


 広範囲の無差別攻撃。


 こんなもの、避けようがない。


 俺は戦神力を剣に宿して、剣撃を放つ。

 戦神の力を持って放たれた斬撃は、巨大津波をも切り裂いた。


 ズシャアァァアアアッっ!!!


 巨大津波は真っ二つに割れて、そのまま俺の横を通り過ぎた。

 無傷で敵の攻撃をやり過ごせたが、その代償に戦神力を一万ポイント消費した。


 俺の攻撃は、巨大な敵を切り裂くことが出来た。


 しかし――

 敵は身体を斬られバラバラになっても、すぐに集合して復活する。


 これではこちらが、一方的に力を削られていくだけだ。


 敵はその体積を減らすことなく、また球形に戻っている。






 邪竜王の黒の炎で焼き切った分と回収不能になった分で、あいつの体積は初期と比べれば約半分にまで減少している。

 

 しかし、それでも大きい。


 あれだけの巨体が――


 こちらがどれだけ攻撃しても、その体を構成する肉片を集めて吸収して復活する。

 殺しても殺しても、黄泉帰り続ける――


 そんな怪物を、どうやって倒せばいい?


 あいつのエネルギーも、無限ではないはずだ。

 動けなくなる時は来るだろうが、その時には俺はもう殺されているだろう。


 こっちの戦神力が尽きる方が、確実に早い。





 だが俺は、コイツを打倒することを諦めてはいない。

 勝ち筋は、まだある。


 俺はちらっと眼をやり、地面に突き刺したままの槍の位置を確認する。





 球形に戻った敵はさらに上空へと上昇し、俺の真上へと移動してきた。

 そこから、浮遊する力を完全にオフにして、重力に従い落下してくる。


 雨のように降り落ちてくる無数の死体を避けるために、俺は全力で走り抜ける。

 地面に激突した無数の死体はバウンドして再び集まり、その体を流動的に変形させて、俺に迫ってくる。


 俺は戦神力を込めた一撃で、奴の身体を両断する。

 また一万ポイントを消費した。



 あいつを仕留めるためのエネルギーは、残しておかなければ――

 

 力の温存を考慮すると、もう戦神力でピンチを切り抜けることは出来ない。


 敵は分断された自身を構成する死体の群れの一部を集結させずに、空中でランダムに移動させる。





 高速で空中を飛び回る無数の死体を、俺は剣で切り裂き、あるいは避けて回る。

 

 敵の本体はまたしても触手を作り上げ、それを俺に向かって叩きつけてくる。

 空中を飛び回る障害物を避けながら、振り下ろされる触手を切り裂く。

 

 俺が切り裂いて制御を失いバラバラになった肉片は、すぐに本体に吸収される。




 そんな攻防が数分、あるいは数十分続いただろうか――

 時間の進みがもうよく分からなくなったころ、俺は敵の触手を切り損ねた。

 

 敵に刺さったままの剣は、そのまま俺の手を離れて持って行かれてしまう。

 



 ――だが、問題はない。

 やっと奴の中心を、見極めることが出来た。


 俺は空中を飛び回る死体を避けながら、槍を刺してある場所へと辿り着く。

 



 俺は地面に差していた槍を、素早く引き抜いて手に取り、構えを取る。

 俺はここで勝負を決めるつもりで、残り全ての戦神の加護を邪竜王の牙で作った槍に込めて――


 上空に浮遊する集合体の、中心部を目がけて攻撃を放つ。




 今までの戦いで、コイツは自身の形を自由自在に変化させてきたが、その体の中心には必ず『核』となるエネルギーが――

 コイツの魂と言うべきものがあった。


 俺は戦いの中で、そこをずっと探して捕らえようとしていた。

 

 コイツの魂を見極めて、破壊する。



 俺の槍から放たれたエネルギーは、空に浮かぶ無数の死体を突き破り、集合体の中心を貫き、その魂を破壊して――

 そのまま集合体を丸ごと突き破って、突き進み――


 その衝撃波は、空を覆う雲を貫いて――


 厚い雲に覆われた、薄暗いこの世界に――

 僅かな晴れ間を作った。




 転生特典の戦神力を、すべて使い切った。

 

 あの上空にいた敵の魂はもう、粉々になって霧散している。


 上空に浮かんでいる集合体が、ゆっくりと落下してきている。

 そのまま地面まで下りてきて、そこで浮遊する力も途絶えたのか、完全に動かなくなった。黒い炎がどこからか燃え移り、死体の山を塵へと返している。





 

 俺が作った上空の雲の穴から、一筋の光が地上へと降り注いでいる。

 その光の先に、一人の少女が倒れていた。


 無数の死体と瓦礫の山の上の、傾いた断頭台の下に横たわっている。




 彼女の元に駆けつけるには――

 この積み重なった死体の山を、上へと昇らなければいけない。


 死体を踏みしめて上へと昇っていると、唐突に―― 

 何の脈絡もなく前世で読んだことのある小説の、ワンフレーズだけを思い出した。


 『スリーピング ビューティー……』


 なんで、今そんなことを……?

 疑問に思いながらも、俺は上を目指して山を登る。







 この死体の山の上には、彼女が横たわっている。

 力を使い果たしているようだ。


 ぐったりとして動かない。



 気を失っているのか?


 俺は焦燥感に駆られて、急いで死体の山を登りきる。


 俺は彼女に駆け寄って、そこで――

 ソフィがもう、死んでいることに気付いた。



 胸にぽっかりと穴が開いたような想いで、彼女を抱きかかえる。

 そして――


 俺は迷わずに、彼女に口づけをした。




 眠りの森の美女も、白雪姫だって――

 王子のキスで、目を覚ます。


 今の俺は紛れもなく、正真正銘の王子で――

 そしてここは、物語を基にして創られた世界だ。


 だったら、一つくらい……

 ロマンチックな奇跡があってもいいだろう。



 一縷の望みに縋り、願いを込める――



 俺は君に――

 戻ってきて欲しいんだ……。

 




*************************




 アレス王子の放った戦神エネルギーの衝撃波は、猛スピードで空中に浮かぶ破壊神を突き破り、上空を覆う雲をも貫いた。


 流石は、戦神の加護だ。


 破壊神の魂を、完全に吹き飛ばした。


「――ここまでのようね」


 破壊神を構成していた中核の『破壊神の魂』が霧散した以上、あの死体の塊は形を維持できない。

 俺様が乗っ取っているソフィの身体にあったエネルギーも、そのほとんど使い果たしている。


 空に浮かぶデカブツは、徐々に浮遊する力を失いゆっくりと落下する。


 破壊神の抜け殻は、地面に接触したタイミングで――

 完全に力が途絶えて、その形を崩壊させた。



 それを見届けると――

 俺様は足元の、死体の山の上に倒れ込んだ。



 だがまあ、これだけやれれば大したものだ。


 ソフィの心の中には、膨大なエネルギーが蓄積していた。

 親に捨てられ、聖女に仕立て上げられ、人から必要とされるためだけに生きてきた。ずっと――良い子でないと、また捨てられるのではないかと恐怖していた。



 自分は、聖女ではないでは?

 との疑問は心の奥底に押し込めてきた。


 自分は偽者――

 それに気付いてしまえば、心が到底持たないからだ。


 聖女ではない自分のことなど、誰も必要とはしない。


 自分の心を守るために、真実から目を逸らし続けた。


 そして、心の中に溜まりに溜まったこの世界への怒りの感情は――

 俺様が惚れ惚れするほど、神々しく美しいものだった。




 ソフィの心に溜まった怒りのエネルギーは、六万を超える人間を殺して、自在に宙を飛ばし、挙句に破壊神を復活させることまでやってのけた。


 だが膨大なエネルギーも、そのほとんどを使い切ってしまった。



 もう指一本動かす力もない。

 だが、俺様は……

 あいつに、伝えなければ――


 しかし、もう口を動かす力はない。

 声を発することは出来ない。



 ああ、そうだ。


 『これ』があった。

 ソフィに増悪の声を効かせるために、この辺りの人間と繋げた糸がまだ残っている。こいつを使えば、残り僅かなエネルギーでもコンタクトを取れる。



 こいつを、使って――

 声を出せないのであれば、心で伝えればいいだけだ。

 

 だがもう長々と、説明をする力は無い。

 端的に、伝えなければいけない。


 これから、あいつが何をすればいいのかを――


 どうやって伝えよう。


 そうだ!!


 


 あの転生者が、前世で読んだことのある小説の……


 このヒント――


 この一言を、思い出させれば――



 ……………………。


 そこで力を使い切り、俺様はソフィの身体の中から消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ