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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

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38/85

 場違い

 上空には、かつて人だったものが、大量に浮かび上がっている。

 それらは一か所に集められて、一つの大きな球体を形作っている。

 

 そこには、男も女も子供も老人も――

 みんな平等にその亡骸が集められ、それらがひと塊となって一つの生命体を構築しているようだ。


 その塊からは無数の触手が生えてきて、それを鞭のようにしならせて地上の建物を攻撃した。

 建物は切り裂かれて、バランスを失い崩壊する。


 粉塵が舞い上がり、風に乗って飛散する。

 空はいつのまにか、晴れ渡る青から澱んだ黒へと変わっている。

 


 嵐のような強風が、吹き荒れる。

 まるで宙に浮かぶ球体が、不吉をまき散らしているようだ。


 俺の視界の端でローゼリアのヤツが、一人の騎士と共に馬に乗って、この場を去るのが見えたが――

 今はあんなのに、構っている暇はない。



 優先順位は、比べ物にならない。


 そいつはゆっくりと回転し、意識を俺の方へと向けてくる。

 それには顔は無いけれど、俺に狙いを定めているのは解る。


 その集合体の真下に、少女がいた。


 積み上がった死体と瓦礫の頂上に、断頭台を背もたれにした椅子が出来上がっていて、そこに――


 死体で作られた椅子に悠然と腰を下ろし、俺を見つめる少女――


「ソフィ――」


 彼女の髪と服が、真っ白に変わっている。

 発する雰囲気も、禍々しいものになっている。


 これまで抑え込まれていた心のタガが外れて――


 この世界の、理の一部と化してそこにいた。




 

 ソフィは確か、処刑台の上で悪魔召喚の魔導書を持たされていた。


 今は持っていないが――

 彼女は魔導書の影響で、ああなったのか?


 これが、聖女ローゼリアの狙い……?


 この状況は、この世界の元ネタ小説の展開通りなのだろうか?

 偽聖女にこんな役割があって、それを聖女が倒すというストーリーか?

 

 だが、ローゼリアの奴は逃げ出している。

 

 本来の物語とは、違う展開なのかもしれない――


 まあ、いい。

 

 俺がやるべきことは、変わらない。


 だが、その前に『それ』をちゃんと言っておくことにした。


 俺はまっすぐにソフィのことを見つめて、大声で宣言する。



 ソフィはこの世界に、不吉を振りまいている。

 だが――


 俺には彼女のその姿が、とても神々しくて――

 美しいものに見えた。




「君のことが好きだ――ソフィ。この戦いが終わったら結婚しよう!!」


 彼女は少し驚いたように、目を丸くする。


「そこから……俺が必ず、助け出す!!」


 彼女は俺の婚約者なのだから、改めて言う必要はないのだが――


 なぜか――

 今この場で、ちゃんと言っておきたかった。


 


 そして――

 俺の場違いなプロポーズが――


 戦いの始まりの、合図になった。



 次の瞬間に俺が立っていた道路が――

 集合体の触手によって、破壊されていた。







 俺は敵の攻撃の一撃目が入る前に、前方に走っている。

 敵との距離を詰めようと走っているのだが、集合体には無数の触手が生えている。

 どこに移動しても、すかさず追撃が来る。

 

 早いッ――

 

 俺は槍を両手に持って、真上から来たその攻撃を受け止めた。


「グッ……」


 重いッ、足が地面にめり込んで、舗装された道路に大きなひびが入る。


 戦神の加護を身体に覆い、防御を強化したおかげでほとんどダメージは無い。

 しかし、加護の力は有限だ。


 この調子で、受けてばかりもいられない。




 俺は槍を地面に突き刺すと、剣を両手で持って構える。


 ヒュオッ、という風を切り裂く音と共に、触手による攻撃が来る。


 俺は待ち構えた万全の態勢で、剣を振るい触手を両断した。

 間髪入れずにもう一撃が来るが、それもぶった切る。


 切り離された敵の触手は、斬られた瞬間に制御を外れて空中でバラバラに飛び散った。そこら中に死体がまき散らされることになったが、そこまで構っていられない。


 この調子であの球体の体積を削っていければ、なんとかなるか?

 それ以外に、打開策もない。


 俺がこの戦いの算段を付けていると、周りに散らばっていた死体が、球体へと吸い込まれるように引き寄せられていった。



 …………。


「反則だろ? それは――」


 俺は思わず、ぼやいてしまう。


 どうやら、あの球体を構成している無数の死体を、消滅させる必要があるらしい。

 俺は左腕に巻いてある、呪力を封じ込める包帯を外した。


 その間に敵は何もせずに、待っていてくれたわけではない。


 敵は球体の中央を大砲の砲門のような形状に変形させて、身体を縦長の円形に伸ばしている。巨大なタコが膨らんだようになった。


 そして伸びきったところで、元の球形に戻ろうと縮んでいく。


 敵が身体を縮めると同時に、中央の砲門から砲弾代わりに人の死体が放出される。




 無数の巨大な弾丸が、俺に向かって高速で襲い掛かる。


 ――くそっ。

 数が多すぎる。


「ガトリングガン、かよッ」


 俺は邪竜王の呪いの炎を、両手で持った剣に纏わせる。


 俺に向かって飛んでくる弾丸を、剣で切り裂き続ける。

 俺の剣撃で斬られた無数の弾丸は、俺に当たることなく弾かれるように軌道を変えて周囲に飛び散っていく。


 飛び散った無数のバラバラの死体には、邪竜王の呪いの炎が燃え移っている。

 黒い炎は人の肉体だったものだけを、焼き切って消えていく。


 俺の周辺には、黒い炎で焼かれている死体の肉片が散らばって積み重なる。

 辺りに散乱する肉片は、どんどんその量を増していく。


 いずれは邪竜王の呪いで、燃えて消えるだろうが――

 燃えて消えるよりも、積み重なっていく量の方が多い。。 


 それでもまだ、敵の攻撃は終わらない。


 人間の肉片を弾丸にして、休みなく俺に撃ち込んでくる。



 次第に剣で対応できなくなる。

 腕に足に顔に胴に、敵の攻撃がダイレクトに直撃する。


 俺は剣で、攻撃を捌くのを諦める。

 両腕を顔の前でクロスして両足を踏ん張り、邪竜王の炎と戦神力の防御で耐えきることにした。




 俺の身体に敵の放つ弾丸が、衝突し続ける。


 人間の身体というものは、意外と重い。

 その質量の物体が、高速で撃ち出されては、俺に当たって弾け飛んでいく。


 戦神力でガードが強化されているとはいえ、俺の身体にもダメージが蓄積されていく。


 しかし敵の撃ち出した弾丸も、俺の体を覆う黒い炎が燃え移っているので、最初のように回収は出来ない。


 この状態が続けば、奴の体積はどんどん減っていく――


「これで自滅してくれると、助かるんだが――ん?」


 敵の攻撃が途切れた。


 それと、ほぼ同時に――

 俺の左腕に溜まっていた、邪竜王の呪いのエネルギーが尽きる。


 



 空に浮かぶ巨大な球体は、このタイミングを見計らったかのように地上へと落下して、地面に激突して建物を破壊し広がり、その残骸を飲み込んで――


 

 無数の死体が――

 巨大な津波となって、押し寄せてくる。



 残りの戦神力は、四万八千ポイント。

 これでやつを、仕留めなければならない。

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