表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/85

 余興

「ハーッ、ハーッ、ハアッ、ハァッ、ハァッ……」


 全身を支配した恐怖に抗い切れずに、私は目の前の存在に向かって、全力で『聖女の光』を撃ち込んだ。

 『聖女の光』は聖女の持つスキルの中で、唯一の攻撃手段だ。


 これは人間相手に使っても、単に眩しいだけのものだが、邪悪な性質を持つ悪魔や魔物に対しては、強力な浄化効果を発揮する。



 私の――

 『聖女』による全力攻撃、これで――


「あらあら、まだ俺様が喋ってる途中だったでしょ? 慌てないでよ。フフッ、元気が良いわね、聖女ちゃんは――何か良い事でもあったのかしら?」



 あっ、あぁ…………。


 聖女の光を――

 正面から、まともに喰らったはずだ。


 なのに――

 そいつは何事もなかったかのようにピンピンしながら、『俺様』という一人称で話しかけてくる。


 この私の、『聖女』の最大出力の攻撃を受けて、なんで???


 怖い……。

 体の震えが止まらない。


 嫌だ……。

 私の前から、消えて――


 どこか……遠くにッ、行ってしまいなさいッ!!




「うっ、うわあああああっアアッ、あああっ、アアアアアアアあッ!!!!!!」


 一撃で倒せないのならば、連撃で!!

 私は神聖力の続く限り、聖女の光を放ち続けた。


 こいつはここで、今ここで始末してしまわなければ――

 本能でそう悟った私は、後先考える余裕もなく、神聖力を使い切るまで聖女の光で攻撃を続ける。






「はぁーッ、はぁーッ、はぁーッ、はぁーッ、ゲホゲホっ」


 私の放った神聖な光で、目がぼやけて前が見えない。

 目を瞑って、視力の回復を待つ。


「はぁ、はぁ……」


 全力攻撃の連続で、乱れた呼吸も整ってくる。

 

 聖(笑)世界の聖女ローゼリアは、悪魔ベルゼブブや邪竜王ガルトルシアを、この聖女の光で仕留めている。 


 この世界の最強クラスの敵でも、倒すことが可能な力だ。



 …………けど。


 けれど、目を開けなくても解ってしまう。

 圧倒的な不吉なオーラを放って、そいつはまだ、そこに居る。


 私はもう、消えていて……、と願いながら目を開ける。


 だが、私の願いをあざ笑うように、目の前にはまだ――


 そいつが立っていた。





 「あっ、ああッ、アアアアアアッ!!!」


 私は恐怖で震え歯をガチガチと鳴らしながら、悲鳴のような叫びをあげる。


 気が付けば――

 私の股間からいつの間にか、暖かい液体が溢れ出していた。



「……気が済んだかしら?」


「バ、バカな! せ、聖女の光は、悪魔や邪竜王でさえ、な、なんでお前は――」


「ん? さっきの光? そりゃあまあ、ちょっとは痛かったわよ? でもまあ、俺様は神様の使いとか、眷族っていう位置づけな存在なわけよ。悪魔やら邪竜やらに対しては有効な攻撃でも、俺様にはイマイチなのよ。相性の問題ね」



 ……なにを、何を言ってるんだこいつは?

 神様の、使いだと??


「でもまあ、この俺様に攻撃を通せたこと、それ自体が奇跡なのよ。流石は地母神の力ってところね――誇っていいわよ。聖女ちゃん! この俺様にちょびっと痛みを与えたことを――頑張ったわね。偉いわ」






 ……聖(笑)世界に出てくる神様は、地母神ガイアだけだ。


 こんな奴を遣わすような、そんな――

 ……邪神がいるのか?


 ――なんで?




「そりゃあ、地母神だけじゃバランスが悪いからよ。それじゃあ世界は創れないからってんで、色んなのものが追加されたのよ。自動的にね」



 コイツは――

 目の前の化け物は、私の考えに対して的確に返答している。


 心が、読めるのか?

 聖女の光が通用せずに、相手の心まで読める。



 こいつが、この世界のラスボスなの?

 でも――


 どうやって、倒せというのよ。

 こんな化け物を!!!




 ……ッ!!

 そうだ!


 まだあるじゃないか、聖女の奥の手が――

 私は聖なる祈りのポーズで、『聖女の願い』を発動するために祈りを込める。

 

 転生特典の神聖力はもう使い切ってしまったけれど、私の『存在の力』を使えば、まだスキルは使用可能なはずだ。

 存在の力なんてものを、使いたくはないけれど――


 背に腹は代えられない。

 このままでは、恐怖で気が狂いそうになる。


 やるしかない。


 聖女の願いは――

 『目の前の化け物を、消して下さい』


 だが――


 『死神ディースをこの世界から消し去る権限はありません。聖女の願いはキャンセルされます。願いは受理できませんでした』


「は? えっ? いや、待って、そんな……」


 願いは受理されないって……。


 じゃあ、どうしろっていうのよ?


 こんな、――死神?

 なんでそんなのが、私の物語に出てくるのよ!!


「ああっ……」

 ……こんな奴、こんなッ、……どうやって、倒せば?




「倒す方法ならあるわ。それもとっても簡単な方法よ。さっきも言ったけれど、聖女の光は私に対して効果が薄いから、無駄打ちになってしまったけれど――それは相性の問題なの」


 つまり、こいつに有効な攻撃を当てれば――


「そうそう、賢いじゃない。良いことを教えましょう。私のこの身体は普通の人間のものよ。身体能力も普通の女と同等なの。栄養失調気味だから普通以下かしら?」



 なら……死神の弱点は、通常の物理攻撃だ。


 ふふっ、それにしてもコイツ……自分で自分の弱点をぺらぺらと解説しだしたわ。

 前世で読んだことのあるバトル漫画で、敵キャラがこれと同じことをしていたわ。


 その漫画を読んだとき、これ作った奴バカじゃないの?

 って思ったけれど――


 敵キャラは本当に、自分で勝手に能力の詳細を喋りだした。



 バトル漫画は、正しかった。


 コイツに対しては、物理攻撃が有効!!

 それならば、勝ち目はある。


 私の後ろには、大勢の兵士が控えている。






「ダルフォルネ!!」


 私は兵士全員で、あいつを攻撃させることにした。

 ダルフォルネに命令を出そうと、振り返り――


「……えっ?」



「う、うぉおおおお? ォォオオぉおあぁっぁアアアアアッ!!!!」


 ダルフォルネとその周りにいた兵士数名が、上空へと引っ張り上げられるように、空へと投げ出されるように飛んでいき――

 その後、上昇が終わると落下して、そのまま――


 建物や地面へと激突した。


 ドシャ……

 遠くで、人間の潰れた音がした。



 何が起こった?


 なに、今のは――??


「さて、なんでしょう? いくら俺様が心優しい親切な少女でも、敵に解説してやるほどの、お人よしではないのよ。それよりも、早く俺様を殺した方がいいわ。でないと次は、あんたが空を飛ぶことになってしまうかも?」


「ひっ、ひいィィ~~!!」


 私は聖女親衛隊と共に後ろに向かって走って逃げて、ダルフォルネの兵士たちの後ろに隠れて命じる。

 

「あ、あいつを殺しなさい!! ゆ、弓! 弓兵ッ。矢を放つのです!!」


 兵士たちは戸惑いながらも、私の命令に従い死神に矢を放った。


 死神に向かて放たれた矢は、奴に当たる直前に消えて――

 次の瞬間には、矢を射った兵士の身体に刺さり、その体を吹っ飛ばしていた。


「……は? な、なによ? どうなっているのよ!!」


 矢を跳ね返したっていうの?

 でも、体が吹っ飛ぶなんて、そんな威力で……?




「や、槍と剣で攻撃しなさいッ! ほ、ほらそこ、あんたと、そこのあなた!!」


 体が固まったように動かない兵士たちを、個別に指名して何とか動かそうとする。

 だがそいつらは、死神を恐れて動かない。


 ……役立たずが!!


 仕方がないので私はシュドナイ以外の聖女親衛隊に、死神を攻撃するよう命じる。


 私に指名された聖女親衛隊五人は、二人が槍を構えて突進し、三人が剣を振りかぶって斬りかかった。

 聖女親衛隊の攻撃が死神に当たったかに見えた瞬間、五人は弾かれるように後ろに吹き飛んだ。

 五人は自分の武器で、体を貫かれていた。

 腕は身体から引き千切られるように、もぎ取られている。

 





「っ、……あっ、ぁ――ッ、ぅう……」


 私はもう、何も言えなかった。

 ただ、恐怖が心を支配して、震えで立っていられずに座り込む。



「あら、もう終わり? 随分と怯えちゃって、可哀そうに――その様子じゃあ、もう立ち向かってはこれないわね。まあいいわ、『余興』はこれくらいで――」





 死神はそう言うと、こちらから背を向けて――

 

 広場の方に、向き直る。


 奴の目の前には――

 偽聖女の処刑を見るために、十万を超える民衆がひしめいている。


 死神は十万人の観衆の、その半分以上を――



 一瞬で殺した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ