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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

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 解決策

「敵の様子がおかしい?」


 俺は自室で朝食を食べながら、その報告を受けた。

 俺が戦場に出るようになって、敵の士気は著しく下がった。


 特にここ数日の奴らの怯えようは、こっちが気の毒になるほどだった。


 敵の士気は、もう持たないだろう。

 そろそろ敵軍が撤退する頃合いかと思い、いつでも追撃が出来るように準備をしておけと、指示は出していた。


 しかし、撤退ではなく様子がおかしいとはなんだ?






「それが、仲間割れと言いますか、同士討ちを始めています」


 所謂『内ゲバ』、というやつだろうか?


「敵軍はいつものように、こちらに向かって行軍していたのですが……途中で何故か反転し、敵本陣を攻撃しだしたのです」


 伝令兵の報告を聞いて、まず警戒したのは敵の罠の可能性だ。

 同士討ちを偽装して、こちらをおびき出して迎撃する。

 

 作戦として、あり得なくはないだろう。

 今まで敵は奇抜な作戦を用いずに、正攻法で攻めてきた。

 

 それは布石で、今回の騒動でこちらをおびき出すことが目的だったとしたら?

 聖女の能力があれば、同士討ちの偽装は可能だ。


 しかし、作戦としては無理があるようにも思える。

 聖女の能力は万能ではないし、無限には使えない。


 敵が乗ってくるかどうかわからない作戦で、無駄に使うか?

 

 偽装の可能性は低い……討って出るか――?

 

 いや――

 放っておけばいいだろう。

 敵が殺し合っているのならやらせておけばいい、こちらに損害は出ない。


「取り敢えずは、様子を見る」


 俺は食事を素早く終えてから、砦内の物見台へと移動した。

 実際に様子を見て、真偽を確かめよう。






「あれは――演技ではないな」


 敵の本陣を眺めて、俺は呟いた。


 前線に投入されている戦闘兵が、後方支援部隊を殺して回っている。

 戦闘兵同士も殺し合っていて、指揮官クラスは止めに入って殺される奴がいたり、手が付けられんと言わんばかりに、少し離れたところで様子を眺めたりしている。


 『しっちゃかめっちゃか』というやつだ。


「あれは……偽装じゃないな」


 このまま放っておいても良いかもしれないが、あいつらがバラけて方々へ逃げれば近隣住民にも被害が出る。


 ここでまとめて、数を減らしておいた方が良いか――



「よし、討って出るぞ!! 俺を先頭に騎馬隊で突撃する。残りは包囲殲滅しろ」


 方針を伝えて、俺は馬に乗り込んだ。





 戦闘は、特に何事もなく終わった。 


 味方同士で殺し合いをしている集団に、騎馬で突っ込んで蹴散らして、その後は、包囲殲滅して終わりだ。

 聖女はもう逃げだしたか、死んだかしたのだろう。

 傷の回復もなかった。


 捕虜として投降した敵兵を、砦の牢獄に放り込む。

 捕虜の中から話の聞けそうな奴を選んで、敵の情報を得ることが出来た。


 聖女は、真っ先に逃げたらしい。

 逃亡する姿が目撃されていた。



 捕虜の話によると、聖女が軍を率いてこの国に来たの目的は、自分を追放したリーズラグドに天誅を加える為だそうだ。


 ようは復讐が目的か――


 そのためローゼリアは、この国で自軍の兵士に略奪許可を与えていたらしい。


 偽聖女の公開処刑も、ローゼリアの差し金で確定した。




 信じがたいことだが、ダルフォルネは聖女の言いなりになっていて、聖女が行っている領民に対する加害行為を、黙認しているそうだ。



 聖女がこの国に戻ってくるのであればと、思考を放棄して住民の被害を見て見ぬふりをし、言いなりになっているようだ。



 しかし――

 あの女に……この国に戻ってくる意思は無い。



 仮にも聖女と言う肩書を持つ人間が、略奪の許可を出したのだ。


 あり得るか?

 自分が将来、暮らすつもりのある国で――

 多くの人の恨みを、わざわざ買うバカはいないだろう。

 




 それに小説のあらすじ通りなら、あの女は隣国ピレンゾルで素敵な王子と満ち足りた生活を送っていたはずだ。


 それなのに軍隊を引き連れて、この国にちょっかいを掛けに来ている。


 何不自由ない生活に満足できずに、こんなことをする理由――


 あの女にあるのは、薄っぺらい処罰感情だけだ。

 はた迷惑なだけの、かまってちゃん。


 それが奴の本質だろう。







 それにしても、あのダルフォルネが聖女の言いなりに成り下がるとは――


 聖女がいたころは、何でも上手くいっていたという成功体験。

 聖女さえいれば、全て上手くいくという思考放棄。

 それらが有能な政治家を、愚者に変えてしまった。




 ひょっとするとダルフォルネも、過去の記録から――『聖女』がいなければ、この国の未来は破滅しかない。ということを知っていたのかもしれない。

 

 だがそれでも、聖女にすがらずに生きていく道を模索すべきだろう。

 国民を犠牲にして聖女に媚を売るなんて、本末転倒もいいところだ。


 俺は聖女に頼らずにやっていけるように、試行錯誤し続ける。

 少なくとも、聖女はちゃんとコントロールしなければいけない。


 そして、その為に――

 俺はすでにこの状況を打開できる裏技というか、奥の手を思いついている。

 この国を、簡単に救える確率の高い解決策だ。





 聖女ローゼリアを、殺せばいい――

 そうすれば次の聖女が、地母神ガイアによって選出される。

 

 この世界の人間にとって、聖女と言うのは信仰の対象になっている。

 だから、そんなことを考える奴はいない。


 だが、俺は転生者だ。

 この世界の常識に、囚われていない。


 聖女が、ムカつく奴だったら――

 ぶっ殺して、新しいのに取り換えればいいんだ。


 

 ローゼリアがピレンゾルにいれば難しかった策だが、向こうから出てきてくれたのなら遠慮はいらない。



 邪竜王の呪いを受けた、左腕が疼く――

 左腕は戦場で敵兵を蹴散らすたびに、呪いの力を増していった。

 

 格闘ゲームで、必殺技ゲージが溜まるような感じだ。


 封呪の包帯で押さえているのに黒い炎が溢れだしてきたので、敵兵に向かって放出して何とか抑えた。


 だが抑えるのも、大変になってきている。


 この溜まったエネルギーを、どこかに思いっ切り撃ち込みたい。

 

 



 ちょうどいいから、あの聖女に叩きこんでやろう。

 あいつは腐っても聖女だから、防ぎきるかもしれないが――




 それでも生きていたら、首を斬り飛ばしてやれば良い。



 速く奴を追いかけよう。

 ――この機に始末してやる。


 反旗を翻したダルフォルネと同様に、聖女ローゼリアも最優先で始末するべき抹殺対象になった。

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