笑顔
『――力が欲しか?』
それは神様の声だった。
その声を聞いた瞬間に、そうだと理解できた。
ただ――
「ちから……? えっと、それは――この国を守って豊かにする、聖女の?」
私の問いかけに対する答えは無く、それっきり声はしなくなった。
だが、神様の声は確かに聞こえた。
私の祈りが届いて、力を与えようとしてくれたのだ。
私は急いでお付きの従者に、今の出来事を伝えた。
少しだが神様が、声をかけてくれたのだ。
これからも真剣にお祈りを続けていけば、きっとまた――
聖女の力を、神様が授けてくれるはずだ。
養父様も、世話をしてくれる従者たちも、教育係の先生たちも、この国に住まう全ての人間が喜んでくれるに違いない。
それに……アレス王子にも――
将来の希望が生まれたことで、自然と笑みがこぼれる。
これで皆を助けられる。
皆を幸せにして、皆から必要とされる人間に戻れるんだ。
頑張らなければ――。
神様の声を聞いてから、三か月が経過した。
神様は、祈りの時間に語りかけてくれる。
しかし、聖女の力を与えてはくれない。
私の祈りが、足りないのだろうか?
もっと真剣に祈らなければ――
決意を新たにした私の所に、武装した兵士が数人やってきた。
そして、私を偽聖女として牢屋に連れて行く。
何かの間違いではないか?
養父様を呼んで欲しい、と訴えたが――
聞き入れては貰えなかった。
兵士の人たちは、私のことを憐れんでいた。
可哀そうなものを見る目で、私を牢へと連行する。
その日から私は、牢屋で暮らすことになった。
だが、問題は無い。
神様へ祈りを捧げることは、牢屋でも出来るからだ。
牢屋に入れられて、半年が経過した。
私は毎日、祈り続けた。
この国から魔物の脅威をなくして欲しい。
国土を豊かにして、飢える者が出ない様にしてください――
この国に住むすべての人に、幸せになって欲しい。
神様は私の祈りに対して、『力が欲しいか』といういつもの質問をする。
「はい、私に皆を幸せにできる、聖女の力を与えて下さい」
私は答えた。
だが、聖女の力を与えてくれることはなかった。
どうして?
私に何が足りないのだろう?
どうすれば力を授けて貰えるのかと悩んでいると、精霊が現れた。
私の手のひらに乗るサイズの、小さい女の子の姿をしている。
可愛らしいというよりも、美人と形容した方がしっくりくる。
大人びた容姿で、どことなく神々しさを感じる。
ひょっとして、神様の使いだろうか?
この子が神様の使いなら――
失われてしまった聖女の力を、回復して貰えるかもしれない。
そう思いながら、ドキドキしていると――
『バカなんじゃないの? あんた――』
いきなり、失礼なことを言ってきた。
酷い、と思った。
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私達聖女一行は、なんとかダルフォルネの城まで逃げ帰ることが出来た。
手勢の多くを失ったが、まだいくらでも挽回できる。
私は、出迎えたダルフォルネに命じる。
「これから偽聖女の処刑を執り行うわ。用意しなさい!!」
「あの、聖女様。……聖女十字軍の方々は?」
「彼らは……、あの阿呆王子の軍を防いでいる最中です。私の軍勢が時間を稼いでいる間に偽物を処刑して、私こそが真の聖女だと領民に公表しなさい。聖女の加護をこの国に与えるのは、それが済んでからです」
「な、なるほど。偽物が健在では、聖女様も安心できませんからな」
私はバカを口八丁で騙して、思い通りに操ることに成功した。
「早くなさい。あの阿呆が来ないうちに……」
「王子側の、……敵軍の数は?」
「シュドナイ、どれくらいなの?」
「五百、といったところでしょう」
「ご心配には及びません。五百やそこらの軍勢が来たところで、返り討ちに出来る戦力はございます」
焦る私に、ダルフォルネが偉そうに見えを切る。
その五百に……私の聖女十字軍はやられてしまったのだ。
「敵もこの城を攻めようとするならば、三万は必要になります。それまでは動かないでしょう」
私はシュドナイの方を見て、コイツの言っていることが本当か確認する。
シュドナイはゆっくり頷く。
この馬鹿の言うことは信用できないが、シュドナイが肯定するのであればそうなのだろう。
敵がこの城を攻めるには、大軍を揃える必要がある。
兵を集めるには、時間がかかるらしい。
なんだ――。
私は落ち着きを取り戻した。
あの阿呆王子が来るまで、まだ時間がある。
せっかくの処刑ショーだ。
ちゃんと準備して、大々的に行おう。
処刑の準備は、粛々と行われた。
地下牢に閉じ込めておいた偽聖女が、衛兵に引きずり出されてくる。
偽物は一年近くも牢屋に入っていて、日の光を浴びておらず、まともな食事も食べていない。そのせいで顔は青白く瘦せ細り、髪はボサボサで――
そして何より、臭かった。
「ねえ、あなた……とっても臭いわ。それに酷い顔、よくそんな不細工な顔をして生きていられるわね。」
「…………」
「私なら耐えられないわ! 死んだほうがマシよ。」
「…………」
「不細工な顔をして生まれるなんて、可哀そう!」
「…………」
「あなた、男から愛されたことってあるのかしら?」
「…………」
「無いわよね?」
「…………」
「ああ、なんて可哀そうなのかしら!!」
「…………」
「プっ、……クスクス」
「…………」
私のおちゃめな煽りに、偽聖女は何も言い返してこない。
ずっと俯いている。
言い返す意気地もないのか、コイツは!!
コイツを見ていると無性に腹が立った。
こういう奴が、私は一番嫌いなんだ!!
こんな奴が、聖女を名乗っていただなんて――
万死に値するわ。
今すぐにでも殺してやりたいほど、胸糞悪い。
怒りが込み上げるが、どうにか我慢する。
こいつを殺すのは、大勢の民衆の前だ。
そこで、この醜女に……。
聖女を名乗った、愚かしい阿呆に――
相応しい、死をくれてやる。
「最高のショーにしてあげるわ。うふっ、ンフフッ。プッ、クスクス……」
こいつの惨めな最期を思うと、思わず笑いが込み上げてきてしまった。




