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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

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30/85

 笑顔

 『――力が欲しか?』


 それは神様の声だった。


 その声を聞いた瞬間に、そうだと理解できた。

 ただ――


「ちから……? えっと、それは――この国を守って豊かにする、聖女の?」



 私の問いかけに対する答えは無く、それっきり声はしなくなった。

 だが、神様の声は確かに聞こえた。


 私の祈りが届いて、力を与えようとしてくれたのだ。







 私は急いでお付きの従者に、今の出来事を伝えた。

 

 少しだが神様が、声をかけてくれたのだ。

 これからも真剣にお祈りを続けていけば、きっとまた――

 聖女の力を、神様が授けてくれるはずだ。


 養父様も、世話をしてくれる従者たちも、教育係の先生たちも、この国に住まう全ての人間が喜んでくれるに違いない。



 それに……アレス王子にも――


 将来の希望が生まれたことで、自然と笑みがこぼれる。


 これで皆を助けられる。

 皆を幸せにして、皆から必要とされる人間に戻れるんだ。


 頑張らなければ――。






 神様の声を聞いてから、三か月が経過した。

 神様は、祈りの時間に語りかけてくれる。


 しかし、聖女の力を与えてはくれない。



 私の祈りが、足りないのだろうか?


 もっと真剣に祈らなければ――

 決意を新たにした私の所に、武装した兵士が数人やってきた。

 そして、私を偽聖女として牢屋に連れて行く。





 何かの間違いではないか?

 養父様を呼んで欲しい、と訴えたが――

 聞き入れては貰えなかった。


 兵士の人たちは、私のことを憐れんでいた。

 可哀そうなものを見る目で、私を牢へと連行する。






 その日から私は、牢屋で暮らすことになった。


 だが、問題は無い。

 神様へ祈りを捧げることは、牢屋でも出来るからだ。





 牢屋に入れられて、半年が経過した。


 私は毎日、祈り続けた。


 この国から魔物の脅威をなくして欲しい。

 国土を豊かにして、飢える者が出ない様にしてください――

 

 この国に住むすべての人に、幸せになって欲しい。

 神様は私の祈りに対して、『力が欲しいか』といういつもの質問をする。

 

「はい、私に皆を幸せにできる、聖女の力を与えて下さい」


 私は答えた。


 だが、聖女の力を与えてくれることはなかった。

 




 どうして?

 私に何が足りないのだろう?


 どうすれば力を授けて貰えるのかと悩んでいると、精霊が現れた。


 私の手のひらに乗るサイズの、小さい女の子の姿をしている。


 可愛らしいというよりも、美人と形容した方がしっくりくる。

 大人びた容姿で、どことなく神々しさを感じる。


 ひょっとして、神様の使いだろうか?



 この子が神様の使いなら――

 失われてしまった聖女の力を、回復して貰えるかもしれない。


 そう思いながら、ドキドキしていると――






 『バカなんじゃないの? あんた――』



 いきなり、失礼なことを言ってきた。


 酷い、と思った。




*************************



 私達聖女一行は、なんとかダルフォルネの城まで逃げ帰ることが出来た。


 手勢の多くを失ったが、まだいくらでも挽回できる。

 私は、出迎えたダルフォルネに命じる。




「これから偽聖女の処刑を執り行うわ。用意しなさい!!」


「あの、聖女様。……聖女十字軍の方々は?」




「彼らは……、あの阿呆王子の軍を防いでいる最中です。私の軍勢が時間を稼いでいる間に偽物を処刑して、私こそが真の聖女だと領民に公表しなさい。聖女の加護をこの国に与えるのは、それが済んでからです」


「な、なるほど。偽物が健在では、聖女様も安心できませんからな」



 私はバカを口八丁で騙して、思い通りに操ることに成功した。


「早くなさい。あの阿呆が来ないうちに……」

「王子側の、……敵軍の数は?」


「シュドナイ、どれくらいなの?」

「五百、といったところでしょう」




「ご心配には及びません。五百やそこらの軍勢が来たところで、返り討ちに出来る戦力はございます」


 焦る私に、ダルフォルネが偉そうに見えを切る。

 その五百に……私の聖女十字軍はやられてしまったのだ。


「敵もこの城を攻めようとするならば、三万は必要になります。それまでは動かないでしょう」


 私はシュドナイの方を見て、コイツの言っていることが本当か確認する。

 シュドナイはゆっくり頷く。


 この馬鹿の言うことは信用できないが、シュドナイが肯定するのであればそうなのだろう。


 敵がこの城を攻めるには、大軍を揃える必要がある。

 兵を集めるには、時間がかかるらしい。




 なんだ――。


 私は落ち着きを取り戻した。

 あの阿呆王子が来るまで、まだ時間がある。


 せっかくの処刑ショーだ。

 ちゃんと準備して、大々的に行おう。







 処刑の準備は、粛々と行われた。

 地下牢に閉じ込めておいた偽聖女が、衛兵に引きずり出されてくる。


 偽物は一年近くも牢屋に入っていて、日の光を浴びておらず、まともな食事も食べていない。そのせいで顔は青白く瘦せ細り、髪はボサボサで――

 

 そして何より、臭かった。

 


「ねえ、あなた……とっても臭いわ。それに酷い顔、よくそんな不細工な顔をして生きていられるわね。」

「…………」


「私なら耐えられないわ! 死んだほうがマシよ。」

「…………」


「不細工な顔をして生まれるなんて、可哀そう!」

「…………」


「あなた、男から愛されたことってあるのかしら?」

「…………」



「無いわよね?」 

「…………」


「ああ、なんて可哀そうなのかしら!!」

「…………」

 

「プっ、……クスクス」

「…………」


 私のおちゃめな煽りに、偽聖女は何も言い返してこない。

 ずっと俯いている。


 言い返す意気地もないのか、コイツは!!


 コイツを見ていると無性に腹が立った。

 こういう奴が、私は一番嫌いなんだ!!



 こんな奴が、聖女を名乗っていただなんて――

 万死に値するわ。


 今すぐにでも殺してやりたいほど、胸糞悪い。

 怒りが込み上げるが、どうにか我慢する。




 こいつを殺すのは、大勢の民衆の前だ。


 そこで、この醜女に……。


 聖女を名乗った、愚かしい阿呆に――

 相応しい、死をくれてやる。



「最高のショーにしてあげるわ。うふっ、ンフフッ。プッ、クスクス……」




 こいつの惨めな最期を思うと、思わず笑いが込み上げてきてしまった。




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