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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

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 大義名分

 偽聖女ソフィ公開処刑の案内状が届いて、十日が経過した。


 処刑停止を通告するため送り出した使者は、折り返して戻ってくる頃だろう。


 どう返答してくるかで、ダルフォルネの狙いは掴めるはずだ。




 俺は親衛隊を率いて、ゾポンドート領南西の方角へと移動している。


 目標はゾポンドート領と、ダルフォルネ領の境にあるニアレット砦。

 そこでダルフォルネの出方を伺う。




 ニアレット砦は、ゾポンドート領が独立していた時代に建造された。

 ダルフォルネ勢力からの攻撃を防ぐための要塞であり、現在はダルフォルネ領が他国の侵略に敗れた場合の、備えとして存在している。


 万が一の場合、この国の第二防衛ラインを担う砦だ。




 そのため他国と接してはいないにもかかわらず、規模が大きく頑丈にできている。

 要塞の補修は抜かりなく整備も行き届いていて、兵士百人が常駐している。


 加えてゾポンドート軍から、五百人を先行して向かわせ待機させている。



 そのニアレット砦を、今回の事態に対処する為の拠点にすることにした。

 すでに情報や連絡事項などは、砦に集まるようにしてある。



 ダルフォルネの出方次第では、もっと兵士を招集する必要もあるだろう。






 十日の間に、国王とも連絡を取り状況を確認した。


 向こうでも、突然のことで混乱しているという。

 情報ギルドも、全く事態を把握していなかった。


 国王への根回しもなく、いきなりの通達だ。



 中央の政界では――

 偽物だったんだし、別に処刑しても構わないだろう。

 という論調が主流だそうだが、俺はそうも言っていられない。



 国王からも俺からも、処刑を止めるようにと使者を送っている。


 現在はダルフォルネからの返事待ちだが、万一に備えて軍隊の準備もしている。

 国王から、ダルフォルネ領内へと軍を送る許可も取った。



 それにしても――

 軍事力では勝ち目がないことは、奴も解っているだろう。


 いや――

 だが、待てよ。


 こちらとしても、動員能力の全てで討って出るというわけにはいかない。

 ゾポンドートの領地復興には、まだまだ人出と金がいる。

 

 この領地から出せるのは……せいぜい五千、いや三千といったところだ。

 他の貴族から軍を招集しようにも、難しいだろう。



 何しろ、偽聖女の処刑中止が討伐理由だからな。


 こちらに大義名分がない。


 むしろ敵の主張の方が、支持を得ている。

 国王サイドも、軍を動かしにくい状況だ。





 …………戦って、勝ち目があると踏んだのか?

 

 あいつは優秀な政治家だし、他の貴族よりも領内の統治はしっかりしていた。

 俺もダルフォルネの所には、魔物討伐に行く必要もなく他を優先していた。


 あいつは情報管理も、しっかりしている。

 だからこそダルフォルネの行動は、処刑案内が届くまで察知できなかった。


 あいつに勝算があって行動に出たのであれば、一筋縄ではいかないだろう。



 



 ニアレット砦に入り部隊の補給を行いながら、ダルフォルネの最終意思確認のための使者を待つ。


 あいつにどういう思惑があったとしても、殺すことに変わりは無いが……政治的な駆け引きのつもりか戦争をする気かで、こちらの準備も変わってくる。


 先代のゾポンドートとは違い、話は通じるはずだ。

 使者を送ってリアクションを見れば、奴の真意は掴める。

 


 ――さて、どうでる?


 本気で俺と戦い、打倒する気でいるのなら――

 

 まずは、この要塞から引っ張り出さないと勝ちは無い。

 できれば自分の城まで攻め込ませて、守りを固め時間をかけ疲弊させてから、一気に反撃に出る。


 俺をおびき寄せるエサが、『偽聖女の処刑』……か。


 罠だと分かっていても、こっちは行かざるを得ないからな――

 


 ダルフォルネに味方する貴族がいるとは思えないから、援軍の線は無いとして……敵が狙うとすれば、こっちの後方支援の補給部隊か――


 俺が城まで攻め込んだ後ろを、自領の地方領主に後方をかく乱させる。



 ゾポンドートの時のように、地方領主を先に潰すか、味方に加えてから進みたいが……処刑日時を公表されてしまうと、そこに時間を割けなくなる。

 

 それが奴の狙いなら――




「報告します! 敵軍が現れました!!」


「砦の向かいに陣地を構築中です。敵兵はその装備の紋章から、ピレンゾル兵ではないかと推測されます!!」




「――そうか」



 敵の思惑を予想し、どう攻略するかを考えていたが――

 想定外の敵が出現した。


 俺はそれまでの思考を放棄して、目の前の事態に対処するべく全軍に臨戦態勢を取るように指示を出した。




 それから三時間後に、ダルフォルネからの返答が届いた。


 内容は――

 『処刑計画に変更なし、ご不満があれば武力を持って事を収められたし』



 ダルフォルネは、よほど俺に殺されたいらしい。

 ――手始めに、目の前のピレンゾル軍を壊滅させてやろう。

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