60話 ブーケ・トス
●ゲーマーズヲォーから丁度5年後
「えっと…これとこれを持って…あとこれもか。」
「契躱、行く前に対戦しない?」
「あぁトット、悪いが今日はどうしても遅刻できない。」
「そうだよトット様。」
「実に残念だね。」
トットはまたモニターにかじりつき、ゲームを続行した。
あれから五年もの間、トットはずっと家にいる。
もはやこの家の家具以上に、その存在に違和感はない。
「そろそろ出ようか、準備はできた?」
「おk爽さん、完璧だ。」
「素晴らしい。」
俺たちは扉を開けて、外に出た。
向かう先は転移門で、今日は結婚式だ。
まさか俺にもこんな日が来るなんてと、今でも思う。
高校を卒業して大学へは行かず、俺は会社を立ち上げた。
配信者としての活動を事業化しただけだけど。
転移門へはすぐに着いた。
自宅から近いので、かなり助かる。
結婚式はみなとみらいのとあるの大きな式場で行われる。
転移門のおかげで、どこへ行くのも一瞬だけど。
「式場は…ここかな?」
「合ってるみたいだね。」
式場はみなとみらい駅から徒歩十分ってところだった。
少し早めに着いてしまったな。
俺たちが式場の前に立っていると、向こうから人が歩いてきた。
「契躱君、もう来ていたんですね。」
「ミルさん、お互い様ですよ。」
「はぁ…結婚式ですか…随分と感慨深いですね。」
「そうですか?単純におめでたいことだと思いますけど?」
「やはり大人と子供では、考え方が違うみたいですね。」
「ミルさん、俺はもう20を超えてます。十分大人ですよ。」
「…そうでしたね。」
年齢の話をすると、ミルさんのトーンは大きく落ちた。
三十路などのワードは、今のミルさんの前では禁句だ。
最悪の場合、作った最新武器で試し斬りされる恐れさえある。
ちなみにミルさんの合法ロリな見た目には、一ミリのぶれもない。
だから気にする必要はないと思うが、最後は本人次第なのかもしれない。
「そういえばミルさんは、もう30歳ですよね?」
爽さんが地雷を大きく踏み抜いた。
いや、むしろ彼は最初から地雷の上に座っていて、今立ち上がったのだという可能性すらある。
爽さんほどデリカシーに欠けた男は、なかなかいないだろう。
ミルさんが笑顔で爽さんの元へと近づいていく。
「み、みみ、ミルさん!?な、なにを…うわっ力強!?こんな子供みたいな感じなのに!!??い、痛い!?腕は時計みたいに回りませんよ!!??や、やめ、やめてください!!!ど、どうか12時15分だけは…た、助けて契躱…う、うわぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」
あの短い間に、さらに地雷を二つ起爆していた。
マインスイーパー上手すぎて感動しちゃうよ爽さん。
せっかくの結婚式だけど、爽さんは先に病院かもな。
「い、一色君。ご無沙汰してます。」
「私夢叶、久しぶり。それと聖…お姉ちゃんも。」
「お久しぶりです。それより契躱、聖王軍にはいつ入れるのでしょうか?」
「い、いや、その話は断ったじゃないですか。」
「メールには聖印が押せませんから、その申し出は受理していないのです。」
「そ、そんな馬鹿な。」
私夢叶とお姉ちゃんが来た。
お姉ちゃんのいる影響で、私夢叶の口調が硬い。
でもまぁ俺としては、こっちの方が違和感がなくて助かるけど。
「せ、聖王様じゃありませんか。相変らずお綺麗ですね。未だに独身なのが信じられませんよ。」
爽さんが腕の形を12時15分に固定したまま、お姉ちゃんに話しかけた。
相変わらずありえないほどの勢いで地雷を踏んでいる。
お姉ちゃんの眉間に少しだけ皺が寄った。
ミルさんに腕を壊されておきながら、まだ壊され足りないらしい。
「新木さん、ご無沙汰しているのです。あなたは聖王軍にいらない人材なのに少し力を持ちすぎですね。弱っているうちに足を砕いておきましょう。」
「せ、聖王様!!!???な、なにをいって…い、痛い…痛!!!???あ、足はそんな向きに曲がりませんよ、時計じゃないんですから!!??あッ…あッあぁぁぁぁあああああ!!!???」
爽さんはエロ同人みたいな声を上げると、地面に倒れた。
ピクピク震えているけど、あの人なら大丈夫だろう。
グランディアで開かれた、世界を巻き込んだ闘技大会で、見事に2位だったし。
お姉ちゃんと爽さんの対決は熱かった。
まさか爽さんが勝つとは思わなかったけど、あの人は存在がチートだからな。
この5年間で、向かうところ敵なしだ。
爽さんはあらゆる機関から勧誘されているけど、その全てを断っている。
いまだに彼は俺のエージェントだ。
ちなみに闘技大会での優勝者は…まぁ会ったほうが早いかもな。
「おい、お前たちは一体何をしているんだ?こんな公共の場所で…おい新木!?ど、どうしたんだお前!!??」
噂をすればなんとやら、優勝者が現れた。
灰色の髪に灰色の瞳を引っ提げて、相変わらずその表情は険しい。
隣の千里さんは、爽さんの方を心配そうに見ている。
「織田さん、お久しぶりです。」
「一色か…。今度模擬戦でもどうだ?」
「いや、お断りしますよ、普通に。あなたとこれ以上闘うと死ぬ。」
「おいおい、あの闘技大会にお前が出なかったせいで、ネットで荒れたんだぞ。夢霧無が出場していれば優勝したとかいう輩が何人いたことか。せっかくの優勝に水を差されてこっちは溜まったもんじゃない。」
「あの時はしょうがなかったんです。俺だって遊んでいた訳じゃないですよ。」
「ふんっ。…それにしてもまさかあいつが結婚か。こんな日が来るなんて、思ってもみなかったな。」
「織田さんがたらたらしているから、取られたんですよ?」
「ものじゃあるまいし、そんな気もなかった。俺は武と一緒に生涯を過ごす。」
「キモいですね。」
ミルさんが織田さんを睥睨している。
流石の織田さんも少しだけ悲しそうにしている。
まぁ確かに今のはキモかった。
いつの間にか集合時間が過ぎ、俺たちは式場に入った。
中の雰囲気は、すでに出来上がっている。
お祝儀を払って、俺たちはチャペルへと向かった。
決められた座席に、それぞれ座る。
各界の著名人までいて、少しだけ緊張するな。
「は、始めまして。一色契躱さんですよね!!!」
俺が席についてボーっと前を見ていると、突然話しかけられた。
記憶をいくらたどろうと、彼女に見覚えはない。
なんとなくテレビで見たような気もするけど…思い出せない。
「わ、私、一色さんの大ファンなんです。良かったらサイン…いや、連絡先なんか教えてもらえませんか?」
「え!?れ、連絡先ですか?さ、サインは良いですけど…その。」
「結構です!!!」
突然隣に誰かが座った。
そして大きな声で、断言して見せた。
まさか俺に決定権がないとは。
「い、いや、私は一色さんに聞いていて。」
「聞こえなかったの?無理だって言ったんだけど。」
描絵手が烈火のごとき視線で、彼女を睨みつけた。
一瞬だけ頬を引きつらせると、彼女はすぐにどこかへ行った。
隣には描絵手だけが残った。
「デレデレしてたね。相手が女優さんだから?」
「いや、そんなことは…デレデレなんて。」
「いいえ、確実にデレデレしていましたね。」
描絵手の隣に座る、柵魔さんまでもがそう断言する。
「描絵手様、今すぐ彼を滅却する許可を。」
「文歌、GOサインはもう少し待って。」
いや、待たせるんじゃなくて、止めて欲しい。
そのGOサインは流石にやめて欲しい。
「あの…"夢描手"さんと、"無夢歌"さんですよね!!!す、凄い!!!まさかこんなところで会えるなんて!!!???よ、良かったらサインを、いや、むしろ連絡先を…。」
今度は見知らぬ男が現れた。
それも凄まじくイケメンの。
たぶん彼も俳優だろう。
コマーシャルでよく見る男だ。
彼の提案を、式場中の男衆が全員羨ましそうに見ている。
ちなみに"夢霧歌"というのは、柵魔さんの活動名だ。
彼女はあれから歌手になって、今ではヒットチャートの常連。
丁度昨年グラミー賞を取り、今のりに乗っている。
まぁあれだけ見た目も整っているし、そういう人気もある。
さらに描絵手に関しては、絵を一枚本気で描くだけで、芸術家の50%が引退すると言われているほどのアーティストになった。
当初なる予定だったキャラクターデザイナーの領域を大きく超え、もはや神格化し始めている。
「殺されたいんですか?」
柵魔さんが鬼人が如し視線で、男を一撃で追い返した。
男は柵魔さんの視線を見た瞬間、全力ダッシュで会場から出て行ってしまった。
相当怖かったんだろう。
俺がまたボーっと前を見ていると、隣に座るミルさんが口を開いた。
「描絵手ちゃん、お似合いだったのにもったいないですね。」
「み、ミルさん?余計なことは言わないでください。」
「いえいえアドバイスですよ?」
「…ありがとうございます。ち、ちなみに契躱君はどう思った?」
「え?俺…?う~ん、難しいな。」
「…ど、どういうこと?」
「いや、俺もお似合いだと思ったよ、美男美女で。」
「そ、そんな…。」
「でも…なんか嫌だったな。」
「エッ!!??」
ミルさんと描絵手が、同時に声を発した。
まるで事前に打ち合わせしていたかのようにハモった。
「そ、それってつまり…?」
描絵手が何かを言おうとした途端、式場に音楽が流れ始めた。
結婚式ではお決まりの、あの音楽だ。
それと同時に司会者が前に現れ、二人を招いた。
「それでは、新郎新婦入場!」
全員が二人に、羨望の眼差しを向ける。
そう、夢豚さんと水無瀬さんに。
夢豚さんはチャペルでも、相変わらず軍服を着ているみたいだ。
確実に場違いだが、らしさを貫く彼らしい演出だとも思う。
夢豚さんは現在、プロゲーマーを引退している。
彼が引退する時に放った言葉は、「倒すべき敵がいない。」…だ。
あまりに強すぎて無双を続けた夢豚さんは、程なく業界から去った。
現在は世界でもっとも影響力のある実業家として、名をはせている。
彼が開発した遠隔外装は未だに闇の中だが、その中の技術の一部を介護方面や災害支援方面へと役立て、世界技術の一端を担っている。
彼がいなければ、技術の推移が100年後退すると言われている。
もっとも、さらにその百年先にすでに彼がいることを誰も知らない。
夢豚さんとは対照的に、水無瀬さんは美しいウエディングドレスに身を包んでいて綺麗だ。
二人が出会うきっかけは俺だから、案外俺がキューピットなのかも。
二人が神父に向かい、ヴァージンロードを歩いていく。
全員が沢山の拍手を送った。
そうして式は進み、神父がとうとう例のあれを口にした。
「それでは新郎新婦、近いのキッスを。」
若干神父のキスの言い方がうざいことを覗けば、二人に素晴らしい瞬間が訪れていた。
夢豚さんが水無瀬さんのベールをそっとめくった。
そして二人の顔は徐々に近づき、そっとキスをした。
式場に再度、盛大な拍手が巻き起こる。
無事に式は進行され、やがて舞台は外へ。
俺たちゲストとの記念撮影を終えると、新婦がブーケを持った。
俺はこの瞬間のことを、一生忘れないだろう。
一瞬にして全女性ゲストの顔が変わった。
ゲストから、戦士へと。
彼女たちの危険な視線が、くまなく周囲へと放射される。
それらは他の戦士たちに対する迎撃の意思でもあり、各々の確固たる決意を感じさせるものだった。
男性陣は全員、その迫力に思わず後ずさった。
何人かが俺の方を見ていた気がするけど…たぶん気のせいだろう。
やがて水無瀬さんがブーケを投げた。
それは天高く舞い上がり、ふんわりと落ちていく。
あえて強引に取りにいかない辺り、女性陣のプライドを感じる。
そしてブーケはやがて一人の手元へと落ちていった。
ポスンッ。
という小さな音が、彼女の手元で鳴った。
この一年後、俺はその女性と結婚することになる。
でもそれはまた、別の話だ。
end
ステータス
夢霧無
登録者数:2.3億人
動画数:1923本
再生時間:計測不能
投げたブーケを受け取った誰かは、各々が決める感じにしました。
現時点でリードしているのは、間違いなく描絵手ですけどね。
思わぬライバルが、五年の間に現れているのかも…。
ご愛読ありがとうございました。
これにてこの小説は終わりになります。
楽しんでいただいた方も、そうでない方も、こうして同じ時間を共有できて幸いです。
重ねてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
それとお時間ありましたら、是非評価して頂けると今後の参考になります。
私事ですが、今後も小説は書き続けます。
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フォローされなくても、して頂いても、どっちにしろ小説は書き続けるんですけどね。
また機会がありましたら、文章にてお会いしましょう。
さらば。




