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60.追いかける人達1


 時は少し遡り、タクミがオーサカを出て数日経っていた頃、ヤマガタ村に2組の異種族が訪れた。


「あ゛あ゛あ゛寒いっすぅ。ここってもう人族最北端の地じゃないっすか。もう帰りましょうよー」


「そこは同意せざるを得ませんね、もう干し芋は飽きました。モグモグ」


「あ、私にも1つ下さいっす」


「どうぞ」


 従者である魔族ミネイと、エルフのシリィ。


「どちらにしろここが最後なんだ、黙ってついて来い」


「なんであんた達、仲良くしてんのよ!」


 魔王の娘ネネリカと、エルフの第2王女キリアだ。


 オーサカからの道中で、偶然にも出会ってしまったこの4人は、このヤマガタ村までの道を抜きつ抜かれつしながら、ついにここまで来てしまっていた。


「何言ってるんですか、ミネイさんのおかげでスープが温められるんですよ?」


「いやー、お互いに大変な上司を持ってる親近感ってやつっすかねー」


 悪びれることも無く、そう言い放つ従者の2人。ネネリカはイラッとこめかみに血管を浮かばせ、キリアは納得のいかない表情を顔に写す。

 そしてその上司の不満気な顔を気にするそぶりもせず、干し芋を頬張りながらシリィは言う。


「ここまでくる途中で出会った吹雪虎でも、ネネリカさんに助けられたじゃないですか。モグモグ」


「あ、あれは私達が先行してたから襲いかかってきただけよ!」


「ほう、逆の立場なら第2王女様は、私達を見捨てて逃げ出したということか?」


「そ、そうは言ってないでしょう!」


「いやー、吹雪虎なんて初めて見たっすよー。あれは中々手強かったっすねー」


 この4人はヤマガタ村に着く前に、1匹の吹雪虎に遭遇していた。

 キリアはネネリカに負けじと、雑に目標を定めて転移していたら、うっかり吹雪虎の目の前に転移してしまい、そのまま戦う羽目になる。そしてその戦闘の最中にネネリカ達が合流し、共闘して吹雪虎を倒したのであった。


「あの魔物は魔族国はいないからな、極地に住む魔物がこれ程とは、この地に住む人族は中々に侮れんな」


「吹雪虎はほとんどここまで下りて来ないらしいっすよ? 遭遇しても追っ払うのがせいぜいらしいっす」


「どこでそんな情報を得たんだ?」


「この前の村の村長に聞きました」


 ふふん、と胸を張るミネイ。

 ネネリカもネネリカで、キリアに対抗心を密かに燃やしていたので、探している人族と白い狼の情報が得られないとなるとすぐに移動していた。ミネイはそのあたりをフォローとして、他の周辺情報を得ていたのだった。

 ネネリカは得意気な顔のミネイに、少しイラッとする。


「ふん、じゃあその調子で次の村はミネイが交渉にあたれ」


「ちょっとネネちゃん拗ねないで下さいよー」


「ネネちゃん言うな!!」


 ネネリカはズンズンとヤマガタ村に向かい、その後ろを小走りでミネイが付いて行く。


「ちょ、ちょっと! 私達が先よ! シリィ、走るわよ!!」


「どっちが先でもいいじゃないですか、結果は変わりませんよ。モグモグ」


「いい加減食べ歩くのはやめなさいよ!」


 そしてさらにその後ろを、エルフが追いかける形でヤマガタ村に向かう。





 ヤマガタ村村長宅の前で、村長の娘アーニャは雪搔きをしていた。


「ふぅ、こんなところかしら……」


 春にはなったばかりだが、まだたまに雪は降る。冬と違って水分を多く含んだ雪は、朝にはカチコチになっているので、女性にとってはとても重労働だが、アーニャもこの地に住む人族。魔法でスコップの性能を向上して行う雪掻きは慣れたものであった。


「タクミさん達、もうオーサカに着いたかしら?」


 普通に向かうのであれば、馬を使ってもひと月以上かかる距離だが、タクミにおぶってもらって移動した速度を思うと、もう着いていてもおかしくないのでは? とアーニャは思った。

 実際には村を出たその日のうちに着いてしまっていたのだが……。


 そうもの思いにふけるアーニャに、この村の防衛に従事する筋肉質の男が話しかける。


「よう、アーニャちゃん。お疲れさん」


「ゴドルさん、こんにちは。見張りの交代ですか?」


「ああ、午後は山の反対側にな。その前に昼飯を家で食べようかとな」


「……ナンナちゃん、まだ落ち込んでますか?」


 ゴドルの娘ナンナは、シロコと別れてから表には出さないが元気が無かった。そこで父親であるゴドルは、なるべく娘との時間を作るために。いつもは弁当で昼を済ますところを、家で昼食を取るようにしていたのだった。


「まあ初めての友達との別れだろうからなあ、まあ時間が解決するさ」


「そうですか……」


「どちらかというと、アーニャちゃんの方が落ち込んでる様に見えるぞ?」


「な、何言ってるんですか!? 私じゃなくてナンナちゃんの心配して下さい!!」


 ガッハッハッ、と笑うゴドルに、アーニャは顔を赤く染めて反論する。


「いやあ、そんな顔で怒っても……すまんすまん! 俺が悪かった!!」


 まだからかおうとするゴドルに対して、アーニャは手に持ったスコップを振り上げる。ゴドルはすぐさま白旗を上げた。


「もう! ……あれ? お客様かしら?」


「うん? この時期に珍しいな」


 振り上げたスコップを下ろすと、こちらに向かってくる集団が目に付いた。

 先頭を歩くのはゴドルが交代する予定だった人物だ。つまり村の入り口から人を連れてきたのだと、アーニャとゴドルは思案する。


 そして連れられた人物がはっきり見える距離まで近づくと、滅多に見ない種族を見て2人は驚く。


「どもっすー、ここが村長の家であってるっすか?」


「そんな聞き方があるか! ……すまないな、私は魔族姫ネネリカという、村長は御在宅か?」


 魔族と。


「ちょ、ちょっと! 順番的には私達の番でしょ!?」


「お嬢さん、この村の名物はなんですか? モグモグ」


 エルフ族だった。


「え、えっと、あの、ち、父が帰るのはもうしばらくかかると思います!」


 どうして戦争中の魔族とエルフ族が? と混乱しながらも。アーニャは村長の娘として、頑張って対応にあたる。


「ふむ、では少し待たせて貰ってもいいかね?」


「私達が先って言ってるでしょ! 無視しないでよ!」


 落ち着いた感じの魔族と、癇癪を起こしているエルフ族。しかも聞き間違いでなければ、魔族の人はとても偉い人物の様だ。

 アーニャは手に持ったスコップをギュッと握りしめ、噛まないように気をつけながら言葉を選ぶ。


「つ、つまらない家ですが! どうぞおあがりくださおませ!」


 選んだ結果はこれであったが。


「ふっ、では遠慮なく」


「ちょっと待ちなさいよ!」


 ネネリカは軽く微笑むと、敷地内に足を踏み入れる。そしてその後ろをエルフがギャーギャー騒ぎながら着いて行こうとするが、先頭を歩いていた魔族の姫が足を止めた。


「ぷぎゅっ! ちょっと! 急に止まらないでよ!!」


 ネネリカにぶつかったエルフが文句を垂れる。そしてネネリカはアーニャに視線を止めた。


「な、何か?」


 アーニャはネネリカに見つめられて、スコップを握る力が強くなる。何か無礼な事をしてしまっただろうかと不安に駆られたが、何とはなしに喋りかけられた。


「一応村長に話を伺う前に聞いておこうと思ってな。ここに白い狼を連れた人物を見なかったか?」


「え? タクミさん達の事ですか?」


「はっ!?」

「えっ!?」


 聞かれたままにそのまま答えるアーニャ。



「「…………」」


「?」


 そしてその場の空気が固まる。


 女性陣は全員その場で固まり、ゴドルは頭に疑問符を浮かべていた。


読んでいただいてありがとうございます。

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