59.もうすぐ到着
盗賊の襲撃から数日、その後は何事もなく護衛の旅は続いた。よくこういう話だと盗賊の寝ぐらにこっちから襲撃するもんだと思ってたけど、相手の人数も分からないのではそうもいかない様だ。
その日は明るくなる前に早々に移動を開始、警戒強めて移動する事くらいの対応で終わった。
「よう、この感じたと明日の夕方前にはエラン村に着くと思うぞ」
昼の休憩中にマックさんに話しかけられた。
「そうですか、やっとこの馬車移動から解放され……あれ? 予定より数日早くありませんか?」
最初に聞いていた到着日より3.4日程早く着きそうな感じだ。
「そりゃあこの道中、魔物の遭遇も1回も無かったからな。足を緩めるのも止まる事も無かったんだ、その分早く着くさ」
こんなに順調に進む護衛依頼は初めてだと、マックさんは笑った。
「盗賊の襲撃があったじゃないですか」
「そういやそうだったな」
「魔物って頻繁に遭遇するんですか?」
「ああ、魔物は森から結構から出てくるぞ、猿系の奴なんか離れて石投げてくるから面倒くさいんだ」
ただの嫌がらせか。
「獣人族の護館から借りる人数を増やす分、魔物に遭遇する頻度も減るんだが。タクミと姉ちゃんがいるせいなのか、一回も魔物に会わないなんてのは初めてだぜ」
「たまたまじゃ無いですか?」
タマちゃんが将棋で負けそうになると、たまに漏らす殺気のせいか? 魔物に遭遇しなかったのはありがたいけど、いつも起きてた事がいきなり何もないっていうのも、それはそれでおかしいと思う。
「まあ盗賊には会っちまったがな!」
ガッハッハッとマックさんは笑うが、笑い事ではない。
「そういえばその盗賊ですけど。首を切ったのってエルフの魔法なんですよね?」
「まあ、おそらくってとこだけどな……。飛び道具らしき物も無かったし。エルフの風魔法が1番可能性が高いと思う」
「でも盗賊はみんな獣人族でしたよね、エルフが獣人族の盗賊と組むなんてよくある事なんですか?」
「俺は初めて聞くな。まあ、盗賊にとっちゃ国の戦争だなんだって関係ないだろうし、無くはないんじゃないか?」
「ああ、そうかもしれないですね……」
それにしても仲間だったであろう、盗賊の首をわざわざ切るとか、やはり口封じなのだろうか?
「まあ過ぎたことを気にしてもしょうがない、明日無事に村に着くことだけを考えていた方が建設的だぞ?」
「まあそうですね……」
あまり深く考えないのは、マックさんだからなのか、それとも冒険者はみんなそうなのか。
「タクミは村に着いたらどうするんだ? 護衛は片道までって話だったが」
「しばらく村に滞在して、その後獣人国に行くかどうかどうか判断します。マックさんはオーサカに戻る商隊の護衛ですよね?」
「ああ、商隊の半分以上はオーサカに戻るからな。タクミもいてくれると助かるんだが……そうなるとエラン村の獣人族の冒険者に依頼するしか無いか……」
馬車の旅も悪く無かったが、もうしばらくはいいかな。帰りも将棋の旅になりそうだ。
「すぐにオーサカに戻るんですか?」
「いや、商人達も村での商売があるし、数日はいると思うぞ。村とは言っても貿易でそれなりに栄えてるからな、冒険者の仕事も結構ある」
街に名前を変えればいいだろうに。
「それなら少し観光でもしましょうかね、何か名物とかあります?」
護衛中の食事も悪く無かったが、内容が似た感じになりがちなので食傷気味である。
「名物と言っていいのか、獣人国から届く肉類は結構種類があるぞ。後は森で取れるキノコ類と、近くにでかい湖があるから魚料理が有名かな」
「おお、魚!」
淡水魚はあまり好きじゃないんだが、そういえばこの世界には海があるのだろうか?
海の幸に想いを馳せていると、マックさんが何か難しい顔をしている。
「どうかしました?」
「いや、タクミ達ならまあ大丈夫だと思うが、観光とか言っていたからな……」
「何か問題でも?」
「エラン村は獣人国寄りの村だ、人口の半分以上が獣人族だからな。また姉ちゃんに言い寄る輩が増えそうだなって話だ」
「ああ……」
そういう事か……村を歩き回る度にナンパとかされたらたまったもんじゃ無いな。
俺も移動の時は、完全熊モードで移動した方がいいかな?
「まあ止めはしないが一応注意しておくんだな。住み分けはされているから、宿に泊まるならオーサカ寄りの宿にするか、冒険者ギルドの施設を利用するといい」
「そういうのもあるんですね」
「大して立派なもんじゃ無いけどな。冒険者は安く利用できるから、若い奴らは殆どがここをつかっている」
大部屋雑魚寝の雰囲気がプンプンする。もしそうだったらやめておこう。
なんだかんだとマックさんと話をしていると、他の冒険者や商隊の人達が移動の準備を始めた。そろそろ出発する時間の様だ。
「お、じゃあもう村までは残り少ないが、よろしく頼むぜ」
「はい、それではまた」
軽い挨拶を交わし、その場を離れて互いの担当の馬車に向かう。
目の前にはオーサカを出てからずっとお世話になっている馬車。作りは他の馬車と一緒だが、ずっと乗っていたせいか、ぱっと見ただけで自分が使っている馬車だと見分けがついてしまう。
「シロコ、そろそろ出発だぞ」
その馬車に繋がれている馬の首をペチペチしているシロコに声をかける。
「タクミ!」
声をかけるなり、パッと俺に駆け寄るシロコ。馬がちょっと寂しげ……いや、あれは俺を睨んでないか? まさか馬に嫉妬されるとは。
「明日には村に着くそうだぞ、魚とキノコ料理が結構有名みたいだ」
「サカナ!」
『ようやく終わるか。キノコなぞよう食わんから少し楽しみではあるの』
食い物の話をすると、シロコは分かりやすいくらいに尻尾を振る。タマちゃんはキノコに反応したが、キノコを食べるドラゴンとか想像出来んな。
「……わんっ!」
「あまい!」
シロコの近距離タックルをヒラリと躱す。
魔力アイドリングの練習で、シロコが表に出ている時は、タマちゃんの指示の下シロコが突っ込んでくるのだ。
『ふむ、ちゃんと巡らせておるの』
「むぅ……」
タマちゃんからはお褒めの言葉、シロコは頬を膨らませて不満な顔。
「もう魔力アイドリングは無意識でも出来るようになったな。寝てる時はどうなってるかわかんないけど」
『寝ておる時は、途切れ途切れといったとこじゃな。そろそろその時にも攻撃してやろう』
「それはできればやめていただき……どうしたシロコ?」
シロコが頬を膨らせたままに、無言で俺の両手を掴む。そしてそのまま正面に向き合った、プロレスでいう手四つ状態だ。
……なんだこれ? これから力比べでもするのか?
疑問符を頭に浮かべていると、いきなり両手を引っ張られる。
「わんっ!!」
「ゲファ」
俺の胸にシロコが頭突きをかましてきた。こんなん避けられん。
そしてそのままホールドされた、何がしたいんだこの駄犬は……。
「ふんふん♪」
俺の胸にグリグリと顔を擦り付けるシロコ、お前顔拭いてんじゃないだろな?
『ここ数日、シロコの攻撃は全く当たっておらんかったからのう』
「それでこの方法かい」
どんな実力行使だ。
「なあ、にいちゃん達。悪いがそろそろ出発したいんだが……」
俺達が使わせてもらっている馬車の御者さんから、冷めた目で見られながら言われた。うわ、むっちゃ恥ずかしい。
「す、すみません。ほらシロコ、馬車に乗るぞ!」
「ふんふん!」
うお、コイツ離さねえ! それどころかグリグリを強めやがった!
……こうなると何を言っても聞かないので、完全に抱っこちゃん人形と化したシロコを引きずりながら馬車に乗り込む。
その時の御者さんのなんともいえない視線が凄く痛かったです……。
読んでいただいてありがとうございます。




