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58.襲撃者


「えっ?」


「ふむ、オーサカにいた奴らより脆いの」


 タマちゃんの足元に1人の獣人族が倒れている。胸がボッコリ陥没しており、生きているかどうかも怪しい。


「タクミ、まさか命を狙ってくる盗賊相手にも殺すなとは言うまいの?」


「はっ? 盗賊!?」


 あまりにも急な出来事に俺がオロオロしていると、目の前に7人の獣人族が現れる。


「おい、あの野郎、1人で攫うとか言っておきながら簡単にやられちまったぞ」


「女だと思って気い抜きやがったな。どちらにしろ獣人族は1人だ、先に全員で囲んでふん縛っちまえ」


「男はどうする?」


「騒がられても他の奴らは人族だ、まず女をやる」


 盗賊はニヤニヤと笑いながらタマちゃんに近づいて行く。


「あっ! そうだった!!」


 ぼうっとしている場合ではない。

 俺は見張りに立つ時に配られた、異常が起きた際に鳴らす笛を力一杯吹いた。


 ピィィィィィッ!!


「ちっ! 男にも1人付け! 残りで女をやるぞ!!」


 夜中に笛の音が鳴り響く。これで他の冒険者は商隊の人達にも異変が起きた事が伝わるだろう。

 盗賊は焦ったのか一斉にタマちゃんに襲い掛かる。そして俺にも盗賊の1人が飛びかかってきた。


「うおっ! 危なっ!!」


 襲い掛かってきた盗賊の拳には刃物が着いている。某アメコミヒーローが使うベアクローみたいなやつだ。それをブンブンと振り回して俺に斬りつける。


「てめぇっ! チョコマカと!!」


 夜中ではあるが、3つの月明かりが充分にあるので視界は悪くなく、余裕で避けられる。

 やっぱりここは反撃するべきだよな、盗賊だし……。


「せぇっのっ!!」


 盗賊が俺の顔目掛けて突いてきた腕を横から掴み、そのまま背負い投げの容量で地面に叩きつける。


 ダァンッ!

「ガハッ!」


 盗賊はまともに背中を打ち付けて白目を剥いた。

 こんなの昔の俺なら絶対に出来なかったな。

 身体強化のおかげか、集中すると相手の動きが良く見えるし、魔力アイドリングですぐに自分の力が引き出せる。これはタマちゃんに感謝だ。


「そうだ! タマちゃんっ!!」


 タマちゃんは残りの盗賊全員に襲われているんだった!

 タマちゃんに加勢すべく向かおうとした瞬間、俺のすぐ横を大きな物体がすり抜けた。


「うわっ!?」


 タマちゃんに襲い掛かった盗賊の1人だ。車に跳ねられたかの様にゴロゴロと地面を転がっていく。


「なんじゃタクミ、殺さなかったのか? 相も変わらず甘いのう」


 タマちゃんは明るすぎる月の光の下で、盗賊の1人の首を片手で掴み上げなら俺に話しかける。そしてすぐにゴキャリと音が聞こえたかと思うと、掴まれた盗賊はダラリと手足を伸ばした。


「だ、大丈夫か?」


「それは我に言うておるのか?」


 タマちゃんはそう言うと掴んでいた盗賊を地面に放り投げた。その放り投げられた盗賊の周りには、同じ様に地面に倒れている盗賊達。どれも首が変な方向に向いていたり、胸が陥没していたり、どう見ても生きている様には見えない。

 あの短い時間で、残り全部の盗賊を仕留めてしまったのか……。


 ……どうしてだろう、あんなに魔物を狩ったりして他の命を奪っていたのに。いざ目の前に人型の死体があると体が震えてくる。



「……ふん」


 ゴンッ!

「いってえっ!」


 タマちゃんがいきなり俺を殴った。まったくの不意打ちの上、魔力アイドリングもし忘れていたので物凄く痛い。


「なにすん──!?」

 ボヒュッ!!


 タマちゃんに文句を言おうと顔を向けると、俺の頬を拳が掠める。

 その突き出された拳に俺はまったく反応出来ず、顔のすぐ横にあるタマちゃんの腕からヂッチチッ、と破裂音だけが耳に入る。


「…………」


「また呆けておったの? 今のは当てたらお主は死んでおったぞ」


 ゴクリと唾を飲み込む自分の出した音がやけに大きく聞こえた。


「これしきの事で動揺するでない、お主が死んだらシロコはどうするのじゃ?」


 出した拳はそのままに、鋭い目つきでそう言われる。

 そのセリフは汚い。ヂッチッ、と聞こえる音の中、俺は深呼吸をして息を整えた。


 ふとタマちゃんの背後に目を向けると。俺が笛を吹いて出した音が原因だろう、冒険者の人達が武器を持ってこちらに走って来ている。


「悪い、どこか気が緩んでいたみたいだ。せっかくタマちゃんが俺を鍛えてくれているのに、これは無いな」


 ここは日本ではない。戦争もあって盗賊もいるのであれば、命の保証なんてあまりないのだろう。少しの気の緩みが命に関わる。


「分かれば良い」


 タマちゃんは鋭い目つきのまま拳を下ろし─たかと思わせてチョップしてきた!

 ガシッとその手を受け止める。


「ふん、精進せい」


「はいよ……」


 そしてすぐにマックさん達、冒険者が俺に走り寄ってくる。


「タクミ! 何があった……ってこりゃあ……」


 マックさんは地面に倒れている盗賊達を見つけて言葉を飲み込む。そりゃあ足元に、胸が陥没した死体が転がってたらビックリもするわな。


「盗賊みたいですね、見張りをしていたらいきなり襲われました」


「みたいだな。おいっ! すぐに商人、冒険者の人数の確認と、周囲を見廻るチームを作れ!」


 マックさんは冒険者達に指示を飛ばして、追加でくるかもしれない盗賊に対して、警戒網を作る。テキパキと行動する姿は、さすがリーダーといった感じだ。


「それにしても凄まじいな、みんな死んだのか? 逃げた奴とかはいないか?」


「あっ、あそこに倒れているのは多分生きてるんで、縛っておいたほうがいいと思います。襲ってきた人数はこれで全部ですね」


 俺が地面に叩きつけた盗賊を指差して、マックさんに伝える。白目向いてるけど、胸は動いてるから生きてるだろう。


「そうか、急いで縄を持ってくる。タクミは側で見張っててくれ、他の奴らじゃ少し不安だからな」


「分かりました」


 周りの冒険者達が慌しく動き回る中、俺は背中を打ち付けた盗賊の側に移動する。武器とか外さなくて大丈夫かな?



 …

 ……

 生き残りの盗賊は、縄でぐるぐると簀巻きにされた状態になっている。

 商隊の人達はまだ確認中だが、こっちの被害はなさそうだ。


「……うっ……ぐ」


「よう、まだ朝には早いぜ?」


 盗賊の気がついてマックさんが対応にあたる。残りの仲間がいないか尋問する様だ。


「なっ!? 畜生! 解きやがれ!!」


「うるせえよ」


 ドスッ、と盗賊の耳にマックさんは剣を突き刺す。


「うぎっ!」


「他の奴らはみんな死んだぞ? お前もああなるか?」


 マックさんが剣で指している方向には、盗賊の死体が積まれている。焚き火に照らされて異様な雰囲気だ。

 その光景を見て盗賊は身を震わせる。


「ヒッ……」


 ……必要な事とはいえ、あまりこういうのは見たくないかも。


「マックさん、後は任せていいですか?」


「ん? ああ、ご苦労だったな。タクミは休んでてくれ、一応警戒はしておいてくれよ?」


「分かりました」


 ここはプロに押し付けてその場を離れる事にする。別の焚き火の側では、タマちゃんが胡座をかいて将棋の盤面を睨んでいるので、俺はそこに向かうとする。


「さて、お前らの仲間は後何人だ?」


「お、俺の後ろには─カヒュッ」


「っ!? タクミ!!」


 マックさんに背を向けた瞬間、呼び止められる。振り向くと、簀巻きにされた盗賊の首が切られていた。

 マックさんを含め、周りの冒険者も剣を抜いて戦闘態勢に入っている。


「何が起きたんですか!?」


「分からん! いきなりこいつの首が切られた!」


 俺も身体強化を強めて周りを警戒するが、辺りには特に怪しいものは見当たらない。


 ……互いに各方向を見渡す時間だけが続く。5分くらい経っただろうか、マックさんが口を開いた。


「……口封じだろうな」


「わざわざ危険を犯してでもですか?」


「何か言いかけていたからな。……もう今夜は来ないと思うが、一応朝の移動まで見張りの人数を増やしておこう」


 マックさんは剣を下ろして他の冒険者に新たな指示を飛ばすべく移動しようとする。


「タクミもすまんが朝まで頼むな」


「ええ、頼まれました」


 こんなん起きたら寝れそうにない。


「それと盗賊の対処には感謝する、タクミ達がいて助かった。ああ すまん、礼は後で言うわ。早く姉ちゃんのとこに行ってやってくれ」


 マックさんの視線の先にはこっちを睨んでいるタマちゃんがいる。こんな色々と周りが騒がしい中で、将棋の続きのほうが大事なのか……。

読んでいただいてありがとうございます。

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