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さて、公開処刑&制裁から僅か数分。
俺らはと言うと自室に戻り、既に布団に入っていた。
時間はまだ9時位ではあるが、まだ小学生というお子様のエイレもいる。
それに明日のイベントにも備えなければならない。
新イベントは勿論だが、新エネミーというのには油断ならない。
人数を考えるに軍団相手か超大型の敵か。
どちらにせよ仲間、もとい周囲のプレイヤーの協力が不可欠となるだろう。
となれば、だ。
いくらコミュ障だろうが、無情にも見知らぬ他人とコミュニケーションを取らなければ駄目だろう。
強いユーザーを揃えての実験だから、エースが1人いたところでどうこうできるレベルでは無いはず。
SAN値減らすのは確定なんだ、今日削られた精神を回復させないといけない。
だから寝なければならない……筈だったんだよ。
どこぞの王女が「さあお話しましょう!」って言わなければ。
言わなければっ!!
「はい、そこ。諦めましょー」
「畜生……。あ、因みにツッコミは放棄するわ、マニ」
「じゃあバンバン読み取るわね」
そう言って俺をガン見なマニ。
……やりにくいが、まぁこれも諦めよう。
ともかく今は無になる事を、空気になる事を徹底しなければならない。
今声かけたら、かけられたら絶対「彼女いる?」的な話題になってしまう。
もしそうなったら根掘り葉掘り聞かれ、なんやかやで俺の精神は終わるのは確実。
幸いな事に話題は仕事のことだ。
現状維持すれば大丈夫--
「そういえばさ、ショウさんまわりの話を聞きたいのですがいいでしょうか?」
はいはーい、宇佐美様が話題転換してこっちにふってきましたー
ちょっと女子ー、コミュ障男子に話題をふらないでくれるー?
……あれ、なんかデジャヴ?
「あー確かにちょっと聞きたいことがいくつかあるのよね」
「我が主もですか?実は家族構成とか色々聞いてみたかったんです、私」
「ですよね!それにマニさんとの関係とかも……ですし」
と、俺の出生や生い立ち予想で盛り上がる女子。
質問とか言っておきながら、全くこっちに聞く気配がないんだけど。
せんせー女子が地味なイジメをしてきますー
……あ、この流れ、オフ会の時とほぼ一緒だわ。
だからデジャヴってたんだ、納得。
「はいはーい、そこまでにしなさいな。ショウとて言いたくない事もあるからね?」
ただ1人、デジャヴの正体に納得していると、前回同様マニが助け舟を出してくれた。
流石は我が希望の至光……だっけ。
まぁともかく助かる感じであるよ、マニ。
「えー、でも聞きたいのだけれど。私たちも色々話すし、どうにか教えてくれないかしら?」
流石ゴーイングマイウェイ、唯我独尊のエイレ様ですわ。
マニのパスを完全潰しにかかる発言、まさに最悪であります。
しかも更に最悪なのは、この様子だとエイレは諦める気配がないという事だ。
絶対話すまで粘り倒す気でいる。
かと言って俺関連の話は出来るだけしたくないし、自分で取捨選択して話す事も難しい。
ここはトーク力ばり高な希望の至光さんにお願いするとしようかな。
と言うわけでマニさん、後でアイス奢るからお願いしていい?
「……しょうがないわね。エイレ、代わりに私が質問に答えるのでいいかしら?幼馴染だし、コイツよりはちゃんと答えられるし。それと質問は1人一つよ」
「んー、しょうがないわね。それでもいいわ」
エイレさん、んーとか言いながらも即答。
まぁコミュ障の俺の話よりマニの方がいいだろう。
では任せたー
「んじゃ誰から聞くの?」
「はいっ!」
手を挙げたのは、声を出しながら挙げた宇佐美様とエイレの2人。
簡単な順番決めの結果、最初はエイレとなった。
「とりあえず家族構成教えて欲しいわ。少し気になることがあるのよね」
マニがこちらを見る。
俺は頷くと、マニはいつもの口調で話し始めた。
「コイツは両親と妹がいるわ。2人とも海外で仕事してるから、もしかして知っているかもね。因みに妹さんは中学生……になった筈よ」
「ふーん……」
エイレはどこか釈然としない表情をしつつ、一応頷いていた。
だがやはり何かを諦め切れない様子で、エイレの代わりにすかさずマモリさんが訊ねてきた。
「では南方、または北方をご家族で他にやられている方はいらっしゃいます?」
「そうね、確か妹はやっていた筈だわ。他は……よく分からないかも」
またも俺の様子から察して返答してくれた。
エイレはまたもな返答に、今度は少し苛立ちを見せ始める。
腕をトントン、眉間にシワって感じに。
こりゃマズイかも?と思ったその時、声を荒げる一名様。
「マモリさん、次は私の番でしたのにー!」
そう、宇佐美様でした。
怒ってるのか凄い頬を膨らませてるエリス様超可愛い。
「え、あ、ご、ごめんなさい」
そして俺と同じく宇佐美様シンパのマモリさん、素で謝る。
これには我主なエイレ様も激おこ気味。
股間を蹴り抜いてやろうか?なんて言わんばかりの睨みを利かせている。
エイレよ、それはマモリさんに特効だし、俺も怖い。
「……じゃあ私の質問ですね」
幼女の殺気に戦慄している間にも、宇佐美様の機嫌は少し回復。
まだ少し頬を膨らませているがさっき程ではない。
とりあえず機嫌が戻ったようで一安心だ。
さーてどんな質問が飛んでくるかねー
予想通りじゃないといいなー!!
「しょ、ショウさんに彼女はいますか!?」
わーい、予想通りダー!
誰か当たりの景品頂戴ー!
何がいいkーー
「答えはノー。コミュ障にそんなものができるわけないじゃない」
「ガッデム!!」
おま、エイレよ、何故にそんな淡々と残酷な事を言ってしまうん!?
しかもまだボケ中、脳内寸劇中なのに!
そんな時に酷い現実突きつけるなんて酷いじゃないか!!
「……チッ。こんな阿呆で根暗な事やっているから彼女もコミュ力もつかないのよ、脳内や身内だけひょうきんチキン野郎が」
「マニさんが罵倒してる理由は分かりませんが、コミュ障でいつもテンパってるショウさんにいるわけないですよね!!当たり前のことを聞いてごめんなさい」
「そうよ、エリス。こいつに彼女なんていう、リア充街道まっしぐらな奇跡なんてあるわけないじゃない。顔で釣られたとしても秒でサヨナラよ。そう思わない、マモリ?」
「激しく同意いたします、我主」
ぼくの こころは おれた
一頻り話をした後、マニは一度洗面台の方へと向かった。
理由は顔を洗う為。
特に表情には見られないが、手は細かく震え、よく見ると額には脂汗をかいていた。
その震える手で蛇口を思い切り捻る。
凍える様な冷水が流れ、マニはまず手首辺りを冷やす。
本来なら冷た過ぎるものであったが、今のマニにとっては心地よかった。
「いくら私でも……結構堪えるわね、この嘘は」
そう呟くと、手で冷水をすくい、顔に思い切りかけた。
それを2、3度続ける。
「ふぅー……」
水が滴る前髪を気にせず、そのまま部屋の天井へと目を向ける。
そして彼女は呟いた。
「私は大丈夫」と。
何回も、何回も。
……無言になりおおよそ1分、彼女は自身の頬を音が大きくならない程度に強く叩く。
「よし、戻るか。後でショウに高いアイス買ってもらおーっと」
そしてみんながいる部屋へと戻った。
いつもと変わらない様子のままに。




