11-9
振り下ろした武器、それをまた馬鹿正直に受け止めた敵。
勿論、腕がぐちゃぐちゃになるわけだけれど、今回はただ出血するだけではなかった。
何とそのまま攻撃を跳ね除け、私に襲いかかってきたのだ。
壊れた筈の腕でしっかりと剣を握りしめて。
「光牙衝波!」
剣先が私の腕を捉えたその時、光の衝撃波がフードを襲い吹き飛ばした。
どうやらショウがアシストしてくれた様子。
正直受け止めた方が良かったんだけど、まぁ私を思っての行動だし感謝する事ではあるわね。
そう思った私はショウに「ありがとう」と言おうとしたら、その前に「すまない」とショウが一言。
私の隣に立った。
「すまない、ってどういう意味?」
「いや、多分だけど受け狙いしてたのに攻撃しちゃったからさ。だってさっき発動したの、カウンター系の技だろう?同じ事しようと思ってたかなーと」
あら、ショウにしてはいいセンスしてるじゃない。
その通り、武器の能力の一つに「反射」というスキルがある。
簡単に言えば攻撃をはね返しするカウンターのスキルね。
けれどさっき使ったのはそれだけはない。
「結果的にはあれで良かったわ。なるべくスキルを使わないで倒したいところだし。ありがとうね、ショウ」
「お、お、おう?」
私の礼が意外なのか露骨にキョどるショウ。
流石にそういう態度は気にくわないけど……まぁいいわ。
それよりフードを倒さないといけないもの。
「にしても予想以上に厄介だわ」
あんだけ何回も倒しているのに瞬時に復活されちゃあ、こっちの身が保たないかもしれない。
疲れすぎるのも嫌だし。
「確かに厄介だけどさ、それ以上に違和感を感じるんだよな」
「違和感?」
私はショウが言った言葉を聞き返す。
そういえば最初から戦っていたのはショウだけだったわよね。
もしかして、と思いながら次の言葉を待つ。
「そう、違和感。最初、ガッチガチの課金装備だったけど、そういう装備は着いていなかった。再生系の装備は。となると素で持ってるスキルとして再生能力があるように思えるけど、にしては強すぎないか?」
確かにショウが言う通り、再生する能力は強いが万能ではない。
吸血鬼とか一部種族に再生スキルがあったりするけど、せいぜい頑張っても腕一本程度。
チリ一つ残ってない「無」の状態の再生なんて……もしや!?
「チーター!?」
その言葉にコクリと頷いたショウ。
不正ツールやら何やらを使って、アイテム増産や無敵化、あらゆる事を都合よく変える違反行為、チート。
それを使うチーターという人物ら。
確かにそう考えればこの再生能力の辻褄は合うわけだけど、そうなるともっと強い違和感に襲われることになる。
今作の南方ストーリー、前作の北方ストーリー。
これらはゲームだから理論上はチート行為は可能なんだけど、絶対と言っていいほど不可能な行為となっている。
何故ならこれらは一国家が運営しているゲーム。
バグや違反行為者を出さないように、ありったけのリソースを割いている。
まぁその分ユーザーのマナー指導が疎かになって、こーゆー糖党だとかKKN教だとかが出てきているのだけれど。
とにかく、チート行為なんてものは不可能なの。
「運営側の人間」か「王族の許可を得た人間」以外には。
まだチーターと決まったわけじゃないけど、もしそれなら非常に厄介な問題となるわ。
何故なら運営に裏切り者、赤の他人に特権を与え贔屓した愚か者がいることになる。
となると勿論上の立場ーー私たち運営である王族の責任になるし、その愚か者を探すという手間がかかる事になる。
……だったら、もうなり振り構わず執行するべきね。
身内の恥は身内が責任を負わないといけない。
「ショウ、申し訳無いけど下がっててくれるかしら」
「別に構わないし、意図は組むつもりだけど、チャンスの時は遠慮なく介入するからな」
そう言って武器を構えたまま、後方に下がるショウ。
同タイミングでフードがゆっくりと起き上がり、こちらに歩いて近付いてきた。
ゆっくり、一歩ずつ。
その間に私は攻撃の準備を始める。
使う能力は「選択倍化」
反射のスキルを使った時に実は重ねて使っていたこの能力、「他の効果を数倍にする」という効果をもっている。
攻撃時に使えば全てが一撃必殺となる通常攻撃になり、魔法は下級でも超強力なものに早変わり。
反射も効果を数倍に設定して、消滅させる程度の威力にしていた。
欠点はその分疲労や反動が来る事。
攻撃を倍化したら、倍化した分だけ自身に反動が跳ね返ってくる。
魔法なら精神力が、スキルなら体力がその分消費されてしまう。
なので出来ればここぞという時にしか使いたく無いのだけれど、これはしょうがない。
現状最大の10倍に設定、武器に力を込めて構えた。
一方の敵は変わらずゆっくり歩いて近付いてきている。
一歩一歩確実に。
その距離3メートル、2メートル、1メートル。
お互いの攻撃が届く範囲に差し掛かった時、双方攻撃を繰り出した。
フードは上半身狙いのなぎ払い。
一方私は頭からの一刀両断狙いの振り下ろし。
敵の攻撃はそれなりに早い剣速であったけれどーー私には敵わない。
攻撃の倍化、それは威力だけではなく速さも影響を受ける。
つまり通常より10倍の速度による攻撃。
それは人が感知できない刹那の速さ。
当然防ぎようはなくフードは文字通り一刀両断され、身体は衝撃で粉塵と化した。
「けど、まだよね!」
私は反動により、関節という関節から血が吹き出て、目が赤く染まっていく。
勿論尋常じゃないくらい痛いけれど、なり振り構ってる暇はない。
また元どおりになる前にやらなきゃいけない事がある。
私は痛みに堪えながら今度は「固定」の能力を使用する。
固定はそのままの意味で、なにかを固定するという能力。
それは物も生き物も適応できる。
欠点としては使うのに時間が必要なため、実戦向きではない能力ということ。
しかしこれだけ余裕があれば、その欠点は問題ない。
「!」
敵は上半身が再生したところで、完全に動きを停止。
目すらも動かせず、ただの彫刻のようにその場にいるだけだった。
「ようやく捕まえられたわ」
私は敵の目の前に立つ。
地面に這いつくばり、下半身もなく、動くことさえできない哀れな愚か者を見下しながら。
「終焉としましょう」
武器を構え直し、思いっきりなぎ払えるように力を込める。
今度も倍化を最大倍数で使用、それに加えてもう一つ。
「六道輪廻参獄、阿修羅」
腕を六つに増やしかつ筋力を強化、鬼神の如き力を得る。
理性を削る事で使用ができる身体強化技、阿修羅。
倍化と身体強化から繰り出す至高の一撃。
何もかも無に還せる。
「滅べ、全て」