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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
4章 少年と少女は進む
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4-2

 

「待ってくれシロノさん。いくらなんでも6段2人ってのは連れていけない。それなら俺が1人で足止めしたほうが」


「ガイツ君、あなた1人では絶対に行かせられないわ。今いる狩竜人の中で1番腕が良いのは彼らなの。今いる中でってだけじゃなくて、ダンビスさんも彼らの強さは褒めてたくらいよ。ここは2人のことを信じてほしい」


「しかし……」


 2人はシロノに呼ばれて窓口にやってきたが、話はまだ決まっていないようだった。ガイツと呼ばれた長身で鋭い目付きの狩竜人は、エルとソフィアを一瞥する。


「腕が良いとしても若すぎる。慎重なシロノさんが、なぜ炎竜相手にこの2人を選ぶんだ」


 炎竜と聞いてソフィアは少し鳥肌が立った。大型竜の中でも象徴的な強さを誇る炎竜レイダークは、人食いと化していなくても圧倒的な理力を体に宿す。もしレイダークが安定して狩れる戦団なら、それは一流と呼ばれるに値する。そういう竜種だ。


 エルはその名を聞いて、珍しく濁った感情が目に混じる。彼の出身は炎竜の村と呼ばれる東の果て。その竜の名前は少し特別な意味を持っていた。


「あのシロノさん、僕たちは」


「ごめんね2人とも、ちょっと待ってね。ガイツ君、これは狩竜依頼じゃないわ。鉱山付近の人たちの避難を誘導するのが最優先で、レイダークは足止めできればいいの。足止めならば2人は役にたつはずよ。私の判断を信じてほしい」


「……分かりました、シロノさんの判断だ。信じます」


 ガイツと呼ばれた狩竜人は渋々といった感じだが、2人を連れていくことを了承する。

 

「2人ともよく聞いて。とても厳しい事態が発生したわ。南の鉱山近くで炎竜レイダークが出たの。レイダークの狩竜実績がある人は出払ってて、今いる狩竜人ではガイツ君、協会付きの彼しかいない。でも彼1人では送り出せないから、2人に彼の補佐をお願いしたいのよ。狩竜じゃなくて足止めの補佐を」


 2人はヴェンコイの言葉の意味を理解する。自分たちが残されたのは、今のような状況を想定してのこと。まだ僅かな信頼であったとしても、それに応えるべく2人の拳は強く握り締められる。


 ただ協会側も全てを見越していたわけではない。炎竜レイダークの出現など予想できる中で最悪の部類だった。


「ガイツ君は若いけど優秀な狩竜人よ。彼の指示に従って、しっかり役目を果たして。役目っていうのはこの場合、無事に帰ってくることまでがそうだからね」


 エルとソフィアの手を片方ずつぎゅっと掴みながらシロノは話す。彼女の顔にいつもの優しく美しい笑みはなく、その両手は少しだけ震えている。今打てる最良の手は、ガイツにエルとソフィアを帯同させて、人里に近づかないようレイダークの足止めをしてもらうこと。しかしそれは、決して望んで打つ手ではない。被害を最小限に止めるための手段が、ガイツを含めた3人の狩竜人を危険に晒すことになる。それでもできることがあるなら、協会職員として決断しなければならない。


「任せてくださいっ」


 強張った顔のシロノに対し、ソフィアは明るさを取り戻した笑顔だ。


「大丈夫です、シロノさん。絶対無理はしませんから」


 落ち着いた低い声でエルも答える。それは頼もしい声だったが、少しだけ彼らしくないともいえた。


「エルとソフィアといったな。俺はガイツだ。この状況でレイダークを人食いにするわけには絶対いかん。とにかく俺の指示に従うようにしてくれ。すぐ出るぞ、準備はいいか?」


 無言でうなずく2人の顔に少しだけ緊張が浮かぶ。


「待って、エル君はボウガン使えるのよね。協会のボウガンと麻痺矢の在庫ありったけ渡すから使って頂戴。ないよりはあったほうがいいわ」


 2人がボウガンすら持ってないことに気づいて、ガイツの不安は募る。しかし文句を言える状況でないことは彼も分かっていた。残っている他の狩竜人は引退間近の年寄りか、リグトンの群れ相手が精一杯の若手ばかり。シロノから2人の狩竜歴を見せられて、確かに1年目とは思えない成果を出しているのはガイツも確認していた。とにかく自分が足止めをして時間を稼ぐしかないと考えていた。


「じゃあ絶対無理しないで。狩竜人の仕事は生きて帰ってくることが最優先よ。行ってらっしゃい」


 協会の備品のボウガンをエルが受け取り、笑顔のないシロノに見送られて3人の狩竜人は南の鉱山へ向かった。


「打ち合わせは走りながらするぞ。加減して走るが、もし途中で遅れるようなことがあればその時点で街へ引き上げてくれ。脚が遅い狩竜人ほど死にやすい奴はいない。悪いがお守りをしている場合じゃないんでな」


 2人は軽んじられてることに文句を言うわけでもなく、ガイツの言葉に従う。ガイツとしては2人のことを邪険にするつもりはなかったが、状況が状況であり若い狩竜人を気遣う余裕などなかった。


「2人の武器は、その長剣とハルバードで間違いないな。エルは協会で借りたものがあるが、元々2人ともボウガンは使わないのか?」


「はい。僕は多少練習してましたが、正直自信はありません。ただレイダークは的が大きいし当てることはできると思います」


「私は付加理力が全く使えないので、ボウガンは持ってもあまり意味がないんです」


「付加理力が使えない……どういうことだ?」


 ガイツが怪訝な顔をする。ソフィアはなんとか手早く自分の体質のことを説明しようとするが、上手くできる自信がなく言葉に詰まる。それを見て、エルが先に喋り出す。


「彼女は特異体質で、体の外に理力が全く出せないんです。なので付加と放出は一切できません。その代わり理力を体内で効率よく使えるので、持続力は普通の人とは桁違いです。彼女は元々理力量が多いほうだと思いますが、その何倍にも感じられる動きができます。息切れなんて絶対しません」


 ガイツは驚いた顔をする。ただ彼は賢く理力についても詳しかった。何度かエルの言葉を頭の中で反芻して、ソフィアの体質を理解する。


「そんな奴がいるのか……なんとなくだが理解した。中途半端にボウガンが使えるより、息切れしないほうが余程役に立ちそうだ」


 ソフィアはエルの顔を見て、ありがとうとつぶやく。自分が説明下手なのを分かっていて、代わって説明してくれたことに少しだけ驚きも感じていた。出会った頃は挨拶1つでまごまごしていたのに、とエルの確かな変化を少し嬉しくも思った。


「ガイツさんの武器は?」


「ああ、俺の武器はこいつ、片手の突剣とボウガンだ。はっきり言っておくが、俺の攻撃でレイダークが弱るまで血を削るのは無理だ。攻撃という点に関して俺は、卑下するわけではなく並でしかない。ただ俺は竜の動きを制限することには自信がある」


 ガイツは走りながら右の手のひらを上に向ける。そして夏の明るい日差しの中でもはっきりわかるほどに、手のひらに光る丸い物が浮かぶ。ソフィアは驚きの声を上げ、エルは目を見開いて感心の声を上げる。


「えっ、嘘っ……なに? なんですかそれ?」


「すごい……初めて見た。これっ、光球理力ですか?」


「エルは知ってるようだな、話が早くて助かる。こいつの制御に関して俺は絶対の自信がある。理力を無駄にしたくないから小さくしてるが、最大で人の頭くらいまではいける」


「えっえっ、ちょっと待って。私、それがなんなのか分からないんですけど」


「平たく言えば目潰しの強い光だ。理力を細かく操作して放出するとこうなる。こいつを弾けさせると、強い光を放つんだ。竜の目の前で弾けさせれば、しばらく相手の視力は完全に奪える。麻痺矢と違って動きは止められないが、何度でも使えるのが強みだ」


 竜の動きを止める黄牙竜シュブイールの毒を用いた麻痺矢も弱点はある。何回も打ち込んでいると、竜は毒に対する耐性がすぐについてしまうのだ。レイダークのような大型竜の動きを止めるには、ただでさえ多くの本数が必要な麻痺矢。それもすぐに効かなくなってしまう。


「すごっ。ちょっとなにそれ、魔法みたいじゃないですか」


「魔法などというありもしないものじゃない。きちんと理力学に基づいた技術だ」


「それは僕らが見ても大丈夫なんですか?」


「いい質問だ。こいつは人の目に入っても視界を奪う強烈な光だ。だから俺が、いまっ、と叫んだ瞬間から一秒数えるまで目はつぶっておけ。俺の声を絶対に聞き逃すな」


「わっかりましたっ。すごい、放出理力ってやっぱ格好良いなぁ」


 炎竜レイダークに立ち向かおうとしている狩竜人にしては、呑気な言葉を口にするソフィアを見てガイツは呆れた。下手に緊張して体が硬くなるよりはましだが、現状を把握しているのかと心配になる。


「ただ目を潰してもレイダークは暴れるから、絶対に無闇に近づくな。とにかく足止めが俺たちの役割だ。生きてるレイダークを見たことは?」


 ソフィアは首を横に振って見たことはないと言う。彼女は比較的竜の少ない安全な街で生まれ育っている。これまで彼女が滞在した中では、フェネラル近辺が最も竜の出現数が多い街だ。


「僕は何度もあります。狩竜人になる前ですが、狩ったこともあります」


「ばかなっ、炎竜だぞ。狩ったことがあるなど……」


「えっとですね、こいつ出身がレズレンの村で、最近までそのまた山奥に住んでたらしいですよ。私も最初に聞いたときは信じられませんでしたけど、嘘を言うような奴じゃないことは保証します」


 なにを言ってるんだという目で2人を見るガイツ。レイダークは20段以上の狩竜人が複数で狩竜に当たるのが普通だ。彼にはエルの言葉を信じることができなかった。


「ただそのときは師匠と一緒で、しかもかなり弱った状態のレイダークでした。だから正確には、弱って動きの鈍ったレイダークに止めを刺した、くらいの経験です」


 事情を詳しく聞いている暇がないことが悔やまれるが、それならありえるかとガイツは無理やり納得する。弱っているといってもレイダークは恐ろしい。その師匠というのが強かったのだろうと想像した。


「分かった。とにかく実際出くわした経験があるのは大きい。レズレンの村か……炎竜の村出身なら見たことがあるのは確かだろう」


「私たちはどう動きますか?」


「まず近づくな、それが第一だ。レイダークは当然炎も怖いが、それよりもでかい図体で素早く動くことが脅威だ。とにかく奴の攻撃範囲に入らないようにしろ」


「でもそれだと囮にもならないんじゃ」


「それでいい、奴が近づいてきたら全力で逃げろ。襲う対象が俺1人だと距離を取るのもままならんから、お前たちが必要なんだ。無理に囮になろうとしなくても、奴のほうから襲ってくる。そこで俺が光球を使って足止めするのが基本戦術だ」


 2人はうなずく。エルはレイダーク相手でも立ち回れる自信はあったが、今口にしても仕方のないことだと分かっていた。


「よし、2人とも脚には自信がありそうだな。少し急ぐからしっかりついてこい」


 話しながら進んでもまったく息の切れない2人を見て、ガイツは速度を上げる。フェネラルの街を支える産業である鉱山では、常に多数の人が働いている。まだ誰も犠牲になってないことを祈って、3人は南へと進む。


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