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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
3章 少年と少女は学ぶ
20/94

3-1

 

 エルとソフィアは木に登って遠くを見ている。その目線の先には2頭の蛇竜ネスアルドと、4人の狩竜人。 


「あの人、本当に強い」


「うん、すごい。他の3人はちょっと腰引けてるかな」


「でもボウガンは遠くからでも当ててるね」


「そうね、でもあんたもボウガン得意なんじゃないの? 壊れる前は結構命中させてたじゃない」


「いや、僕はかなり近づいて射ってたから。1人になって一応持ってたけど、あんなに近づいて射つんだったらボウガンの意味なかったかも」


 2人は自分たちの狩竜依頼を終えたあと、4人の狩竜人が番いと思われる2頭の蛇竜ネスアルドと向かい合っているところに遭遇した。邪魔になってはいけないと、木に登って遠目から様子を窺っていたのだ。依頼にしろそうでないにしろ、狩竜人は自分の命が危険になるような竜種は余程のことがないと相手にしない。もし少しでも自信がないなら逃げろ、と協会規則でも定められている。自分が食われたせいで元よりずっと強い人食い竜を生み出すことは、狩竜人にとって最大の不名誉だ。4人が逃げるそぶりもなく狩竜を続けているということは、それだけの実力があってのことだと判断できる。実際大きな槍を持った狩竜人が中心になって、あっという間に1頭を仕留める。


「エル、あっちからっ」


「うん、ちょっとまずいかも。行こう」


 2人はかなり背の高い木から眺めていたこともあり、狩竜人4人に迫っていた別の竜の群れに気がついた。黄牙竜シュブイールの大きな群れが、ネスアルドと向き合う狩竜人とは逆の方向から近づいている。木の枝に腰かけていた2人はそこから一気に飛び降りて、4人の狩竜人に手を貸そうと走り出す。


 新たな敵が現れたことに、大きな槍を持った狩竜人がいち早く気づく。他の3人に距離を取って回り込むように指示をすると、自分は盾になるように細かくネスアルドに突きを繰り出しながら巧みにネスアルドとの位置を入れ替える。ネスアルドとシュブイールを同じ方向に見るように体勢を立て直すと、ネスアルドを3人が一斉に放ったボウガンの矢が襲う。麻痺毒で動きが止まったところを一気に仕留める。走って駆けつけた2人だったが、目の前の状況を見て慌てることはなかったかと思う。


 ただシュブイールには麻痺毒が効かない。狩竜人の使う麻痺毒はシュブイールの爪牙から取れるので当然なのだが、それだけにボウガンの足止めを多用する狩竜人にとっては厄介な相手になる。やってきたシュブイールの数はかなり多く、20頭はいる。目の前の竜種相手にはあまり役に立たないボウガンを、それぞれ剣や槍に持ち替える3人の若い狩竜人。大きな槍の狩竜人は3人とも固まって動くようにと指示を出して、自らは1人距離を取ってシュブイールの群れを迎え撃つ。


 大きな槍の狩竜人は、遠目からでもかなりの腕前だと分かっていた。大丈夫だろうと思ったエルとソフィアだが、竜の目の前まで来ておいて狩竜に参加しないという選択肢はなかった。特にソフィアのほうは、狩竜経験のある竜種なら頭で考える前に突っ込んでしまう。


「手伝います」


 そう一言だけ言って飛び出したソフィアに、大きな槍を持った狩竜人は一瞬驚く。しかし一撃で素早くシュブイールの首をはねる姿を確認して問題はなさそうだと判断した。


「助かる」


 邪魔にならないかと考えていたせいで遅れたエルも、長剣を振るってシュブイールを切り飛ばす。戦力が増えたことで他の3人にも余裕ができ、指示通り1組にまとまって狩りに加わる。次々とシュブイールを仕留める3人と、1頭ずつに慎重な3人1組。前者3人が並ではないだけで、3人1組で仕留める狩竜人は別に臆病というわけではない。


 竜はなぜか、人の強さがある程度わかると言われている。個々に散って狩りにあたる3人よりも、まとまって動く3人をシュブイールは狙ってくる。途中からは狙われる3人1組がおとりになるように動き、他の3人が群れの数を減らしていく。20頭はいたシュブイールはあっという間に殲滅された。


「つい飛び出しちゃって。邪魔じゃなかったですか?」


「いや、助かったよ。ありがとう。さすがにこれだけの数相手は骨が折れるからね」


 大きな槍を持った狩竜人は、とても紳士的な態度で2人の助力に感謝の意を示す。穏やかな表情な口調と話すその中年の男性は、狩竜人にしては線が細い。もし武器を持たずに街中ですれ違っても狩竜人には見えないような雰囲気だ。


「私は鋼の扉という戦団の副団長をしている、ウィクラスという者だ。君たちはもしかして……」


「鋼の扉ってやだっ、フェネラル最強の戦団じゃないですかっ。ごめんなさい出しゃばっちゃて」


 戦団名を聞いて思わず叫ぶソフィア。フェネラルの狩竜人事情に詳しくない2人でも、街で最大戦力を誇る戦団の名前は知っていた。エルはウィクラスの言葉をさえぎったことを気にかけて、肘でソフィアをつつく。最近は改善の兆しはあるが、まだ人見知りには違いない。


「あっ、えっと私がソフィアでこっちはエルです。えっと戦団名は……」

 

「君たち、白緋の女神って戦団じゃないかな? 違ってたら申し訳ない」


 ウィクラスはソフィアの武器を見ながら、戦団名を言い当てる。自分と戦団名をかけて呼ばれるのはいい加減慣れたソフィア。しかし名乗る機会はほとんどなく、まだ戦団名を自分から口にすることには慣れてなかった。


「はいそうです。うう、完全に知れ渡っちゃてますね」


「ははは、顔は知らなかったが名前だけは聞いてたよ。どうやら君のことを揶揄するように、その名を呼ぶ者もいるようだね。なに、気にすることはない。とてもふさわしい名前だと思うよ」


 なんとも優しい大人な対応をされて、それはそれで戸惑うソフィア。


「それに名前のことだけではなく他の噂も耳にしている。若いわりには、と聞いていたがどうやら噂以上の腕のようだ。ただ、飛び出す前にもう少し声を掛けてくれると私も安心できたかな」


 やんわりとたしなめられた2人は、再度謝る。4人でも問題なさそうだ。そう思ったのに竜を目の前にすると、つい体が先に動いてしまうソフィアは大いに反省した。最近は連携することも考えて、2人なりに確認し合いながら狩竜をしていた。そしてお互い相談もなしに突っ込むくせは直そう、と話していたばかりだった。


「はいっ、本当に勝手なことをしてすいませんでした」


「いや、助かったのは本当だ。君たちが加わって、我々もより安心して竜に向かうことができた。お互い助け合って狩竜に臨めるのはいいことだ。もしなにか困ったことがあれば、いつでも言ってくれ。こちらも手を貸すのは厭わないよ。君たちは他の街からきたのだろう?」


「はい、2人ともそうです」


「うん、私はフェネラル出身なのでね。他のフェネラル出身の狩竜人や長く拠点にしている戦団は大体把握しているんだ。君たちも他の戦団と交流を持てれば、きっと狩竜がやり易くなるはずだ。うちはあの3人みたいに若いのも大勢いるから、遠慮せずに声をかけてくれ」


 そういってウィクラスは黄牙を回収する3人を見る。ウィクラスは若い狩竜人を萎縮させないようにと、気を遣いながら話している。良くも悪くも豪快に笑うか叱るかする狩竜人が多いだけに、狩竜人らしくない性格ともいえる。


「ありがとうございますっ」


 副団長として狩竜の最中も的確に指示を出し信頼されているウィクラスを見て、白緋の女神の副団長は自分のことだと今更に気づく。エルも黄牙の回収に回っていたが3人のうち1人に何やら話しかけれれ、相変わらず困ったような顔で会話をしている。しっかりしてよね団長、と心の中で呟く。


「俺もお前と似たような長剣なのに、そんなふうにはとても振れねえぞ。どんな鍛錬の仕方してるんだよ?」


「あっ、えっと。重たい棒とか振ったり、理力を使わないで振ったりとか、色々と」


「まあ鍛錬のやり方なんてそんなねえよな。多分似たようなことやってんだろうけど、素質の差かなぁ。つーかなんでそんなに自信なさげなんだ。お前くらいの腕があったら、南のでかい戦団とか余裕で入れるんじゃねえか?」


「い、いや。そういうのまだ考えてなくて……とりあえず2人でもいいかなって」


「そりゃな、あんな可愛い娘といりゃそう思うわ。うちに女の狩竜人なんていないし、くそっ。よく考えたら腹立ってきたな、お前」


「そ、その、ごめんなさい……」


「なははっ冗談だ、じょーだんっ。お前、話すと弱そうなのにな。正直びびったよ、あんだけ動ける奴なんて多分そういないだろ。俺らなんて副団長いなかったら、シュブイールの群れ見た瞬間に余裕で逃げてたわ」


 なにを話しているかは聞こえないが、鋼の扉の若い狩竜人の笑っている様子でなんとか会話は成り立っているのだろうと、ソフィアも安心する。あんなに頼りなさそうなのに、と思いつつ自分が頼っていることも自覚してもいた。


 2人でいることの気楽さにすっかり慣れてしまった。それが良いことなのか悪いことなのか、彼女にはまだ分からなかった。これから先はどうなんだろうと少し考えてみる。そして自分がなぜ、狩竜人に憧れたのかを思い出した。憧れたきっかけを忘れていたわけではない。良くないことが重なったせいで、夢を追いかけることが難しくなっていただけだ。


 今ならまた、前に進めそうだ。そう思って彼女の心は軽くなった。そして夢の話を切り出すと一緒にいられなくなるかも、とまた少しだけ心が重くなった。


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