第22話「形見の場所」
「お父さんの形見を取り戻してください」
少女は涙目になりながらそう叫んだ。それだけで、彼女の意思が伝わってくる。
「お父さんの形見?」
「はい……それが唯一のお父さんとの思い出……」
魔人系の子たちは、先代魔王の時代から生きているんだよね。たぶん、この子にとって、その形見が生きがいなんだろう。絶対に見つけてあげなきゃ。
「ねぇ、その形見ってなに? 形状とか言える?」
「刀、です」
刀? 刀って、あの?
「武器、なの?」
少女は静かに頷く。
「刀〜? 聞いたことあるよ〜」
ノゾムが口を開いた。
「刀はね〜! 昔、そんな名前の武器を作る部族がいた気がするよ〜!」
ノゾムは続けて喋る。
「でも〜……帝国に根絶やしにされたって聞いたよ〜……」
そうなんだ……。あれ?
「だったら、この子はその生き残り?」
「いえ、わかりません。物心ついた頃からお父さんと一緒に暮らしていたので」
そうなんだ。思い出、か……。私はこっちに来て、あっちの持ち物は何もないけど、この子にとっては、それほど大切なものなんだね。取り戻してって言うほどなんだから。
「………うん、絶対に見つけてみせるよ! その形見!」
私は少女の手を握り、そう答えた。
「………ありがとうございます。マナ様」
「………」
ん?
「ガーネット?」
そう言って後ろを見るが、誰もいない。おかしいな? ガーネットがいた気がしたんだけど。
「どうしたの〜?」
「ううん、なんでもないよ、ノゾム。そういえば、あなたの名前を聞いてなかったね」
少女もハッとした顔をして口を開く。
「私は……ユネ、魔人ユネです」
少女、ユネはそう名乗った。よかった、名前が知れて。そう思った。
「じゃあ、早速、ガーネットにお願いして――」
その時、部屋の扉が開く音がして、ガーネットが来た。
「マナ様、その必要はありません」
「え?」
「すでに見つけました」
え〜!!? 早っ!? 心の中でそうツッコんだ。
「早いですね」
ユネちゃんも驚いているようだ。
「はい。魔王様の願いを聞く前に叶える。それもメイドの務めでございます」
ガーネットはそう言ってスカートをつまみ、次の命令を待つ。
「うん、お願い。ユネちゃんの形見の刀を持ってくるよ!」
「承知いたしました」
そう言って、ガーネットの瞳が赤く光る。
「直ちに編成部隊を組み――」
「私とユネちゃんも一緒、だよ!」
私がそうガーネットに言った。ユネちゃんもその気のようだ。
「………わかりました」
ガーネットはその命を了承し、地図を広げた。
「これは?」
「はい、帝国の伯爵領でございます」
帝国!?
「帝国にあるの?」
「はい。私は機械系です。紛失物の捜索など、簡単です」
すごい、言い切ってしまった。
「ユネ様」
「は、はい」
「代わりの武器はいりますか?」
「代わりの武器……。ううん、いらない。私には小刀がある」
そう言って、背中の鞘に収まっていた武器をガーネットに見せた。
「承知しました」
「でも〜、相手は伯爵領とはいえ、帝国の領地。魔王様の存在が〜バレちゃわない〜?」
ノゾムがそう言うのもわかる。でも、
「行かなきゃいけないの。仲間のためだから」
「マナ様……」
「はい。いつかは帝国を叩くのです。少し早まったとて問題はあまりないかと。懸念点があるとすれば、戦力でしょうか。魔族は人族より力があるとはいえ、数の暴力には勝てません」
「あ〜! だったら〜! 忍び込むってのはどう〜?」
それだ!
「忍び込む……。はい、でしたら、あまり軍は必要なく、戦いも最小限で済むかもしれません。マナ様とユネ様を入れた潜入部隊を組みます」
「うん、ありがと」
そう礼を言った、その時。
「潜入なら、私たちの出番?」
その声が聞こえ、振り向くと、あの森で助けたデススコーピオンのスズナちゃん、ピクシーのシルフィちゃんとルミナちゃんがいた。
「えっと……お役に立てるかも……しれません」
「私たち! 小さいから狭いとこにも入れるよ!」
「……はい! ……入ります……!」
「では、この5名で潜入をお願いします」
「あれ? ガーネットは来ないの?」
「はい、私は潜入はあまり得意ではないので」
ガーネットはそう答えた。そうなんだ、意外だ。戦闘もできるし、情報収集もできるから、潜入も得意だと思っていた。
「じゃあ、ガーネットはお城で待ってるの?」
「はい。皆様が不在の間、城の警備を担当いたします。それに、万が一の事態に備えて、後方から支援できるよう準備を整えておきます」
「そっか! じゃあ、お願いね!」
「承知いたしました、マナ様」
ガーネットは一礼すると、地図を指差した。
「こちらが伯爵領の位置です。領主の屋敷に刀があることまでは確認できております」
「えっ!? もうそこまでわかってるの!?」
「はい。刀の特徴、さらに、屋敷に保管されている武器の情報も確認しております」
すごい……! いつの間にそんなことまで調べたんだろう。
「でも、どうして帝国の伯爵が、その刀を持っているの?」
私が尋ねると、ガーネットは少しだけ考えるような仕草をした。
「詳しい経緯は不明です。しかし、帝国が刀を作る部族を滅ぼしたという話は事実でございます。ですので、戦利品として回収された可能性はございます」
「……お父さんの刀が、そんなふうに扱われているなんて」
ユネちゃんは俯いた。その表情を見て、私は思わず彼女の手を握った。
「大丈夫だよ。絶対に取り戻そうね!」
「……はい!」
ユネちゃんは小さく頷いた。
「それでは、潜入方法について説明いたします」
ガーネットが地図の上に印をつける。
「伯爵領には人族が多く暮らしています。魔族であることが知られれば、騒ぎになる可能性がございます。特にマナ様は、魔王様としての存在を知られるわけにはまいりません」
「うん、わかってるよ」
「そのため、今回は正面から入るのではなく、屋敷の裏手から侵入する方法を考えます。スズナ様は周囲の警戒、シルフィ様とルミナ様は小さな身体を活かした偵察をお願いいたします」
「わかった!」
シルフィちゃんが元気よく返事をした。
「……がんばります」
ルミナちゃんも、少し緊張した様子で頷く。
「スズナちゃんは?」
「私も、問題ありません。……尻尾を使えば、いざというときに相手を動けなくすることもできます……」
スズナちゃんは落ち着いた声で答えた。
みんな、頼もしいな!
「私はどうすればいいですか?」
ユネちゃんが尋ねる。
「ユネ様には、刀の確認をお願いいたします。目的の刀が見つかった際、間違いなくお父上の形見であると判断できるのは、ユネ様だけでしょうから」
「……はい。私なら、きっとわかります」
ユネちゃんは背中の小刀に触れながら答えた。
「よし! じゃあ、みんなで力を合わせて頑張ろう!」
「「「「「はい!」」」」」
みんなの声が部屋に響いた。
こうして、私たち五人による潜入作戦が始まることになった。
「それでは、出発の準備をお願いいたします。必要な道具はこちらで用意いたします」
「ありがとう、ガーネット!」
「いえ。マナ様のお役に立つことこそ、私の務めでございます」
ガーネットはいつものように丁寧に頭を下げた。
その後、私たちは出発の準備を整えた。私は世界樹の杖を手に取り、ユネちゃんたちの方を見る。
「みんな、準備はいい?」
「うん!」
「……はい」
「大丈夫です」
それぞれが返事をする。
「では、出発いたします」
ガーネットが扉を開け、私たちを見送った。
「皆様、くれぐれもご無理はなさらぬよう。特にマナ様、何かあれば撤退することも大切です」
「うん! ちゃんと覚えておくよ!」
「……本当にお願いいたします」
ガーネットが少し心配そうに私を見る。
うっ……。そんな目で見られると、無茶できなくなっちゃうじゃないか。……いや、無茶をしちゃいけないんだけどね!
私たちは城を出て、帝国の伯爵領を目指した。
しばらく進んだところで、私はユネちゃんに尋ねた。
「ねえ、ユネちゃん。お父さんのこと、もう少し聞いてもいい?」
「……はい」
「どんな人だったの?」
ユネちゃんは少しだけ目を伏せたあと、静かに口を開いた。
「優しい人でした。私が怖いときも、苦しいときも、いつもそばにいてくれました」
「そっか……」
「お父さんは、私に刀の使い方を教えてくれました。それから……いつか、私にも刀を持たせてくれると言っていたんです」
ユネちゃんは背中の小刀に触れる。
「でも、ある日、お父さんは私の前からいなくなりました。残されたのは、この小刀と、あの刀だけでした」
「……そうだったんだ」
詳しい事情は、まだわからない。でも、ユネちゃんにとって、その刀がどれほど大切なのかは伝わってきた。
「だから、絶対に取り戻そうね」
私がそう言うと、ユネちゃんは顔を上げた。
「……はい!」
その声には、さっきよりも強い意志が感じられた。
やがて、遠くに街の外壁が見えてきた。
「あそこが、帝国の伯爵領……」
私は足を止め、街を見つめる。
この先には、人族の領地がある。魔族が自由に暮らせない世界。その一部が、今まさに目の前に広がっている。
でも、今はまだ戦うときじゃない。私たちの目的は、ユネちゃんのお父さんの形見を取り戻すことだ。
「みんな、ここからは慎重に行こう!」
「うん!」
シルフィちゃんが頷き、ルミナちゃんも小さく頷いた。スズナちゃんは周囲を確認しながら、静かに先へ進む。ユネちゃんも、決意を込めた表情で街を見つめていた。
よし……絶対に成功させよう!
私たちは互いに顔を見合わせると、伯爵領へと歩き出した。




