第58話 落下
この作品は全三章で構成するつもりです。話の更新される日が不安定なことがあります。一応週一以上の頻度で更新するつもりですが、できなかった場合はどうかご容赦ください。
また、主人公を決めつけてこの作品を読み進めると、その主人公と決めつけたキャラに対して落胆の感情を抱く可能性があるので、この作品に主人公はいないと思いながら読むことをおすすめします。
桂唯賀「手伝ってあげましょうか?」
突如として現れた若い青年。茶髪のショートヘアーで周りを見下すような目をしている。
福山幸多「桂…」
福山グループに所属していたときの桂唯賀とは違う。そのときはもっとおどおどしく、何も分かっていないような、偉い人の指示だけきいていればいいと考えていそうな、ゆとり世代のような新人感を醸し出していた。だが今は違う。完全に自分の方が上である、お前のことを舐めている、そんなことを言いたげな顔と声で現れたのだ。
桂唯賀「アンティワームの種性の影響で大分弱体化したでしょう?無理しない方がいいですよ。」
福山幸多「確かに今の状況は互角だ。これ以上、長期戦になれば私の不利は確実になる。」
桂唯賀「でしたら…」
福山幸多「それで?お前は私が助けを乞うと思うのか?」
鋭い目つきで焦点を桂唯賀だけに向ける。その目線にほんのわずかに無意識に体が震えた。
桂唯賀「…いいんですか?僕が我殺狂助たちの味方につくかもしれないですよ?」
福山幸多「構わん。それで負けたとしても、お前に頼って勝つよりは気分の沈みは抑えられる。」
我殺狂助
この二人の会話に我殺狂助と飯島聡はただ黙って聞いていることしかできなかった。突然現れたこの男の素性がわからない。何が目的なのか、種性核は何なのか、何一つ情報がない。そう思った矢先、あることを思い出す。
我殺狂助(いや待て。桂って、前に一軒家の会議でエスケープの男が話していたような。
確か、福山幸多や原田九老の他に桂唯賀の名前が出てきていたはず。)
飯島聡もほぼ同時にそのことに気がついた。そしてそのことから推察するに、桂唯賀という男が味方になってくれるという線は大方消えたと判断した。そして疑心の警戒をより一層強くする。その警戒の意識に桂唯賀も気付いたが、あえて知らないふりをした。
桂唯賀「フッ、いいでしょう。僕は何もしません。どうぞお三方で争いあってください。」
そうして、木の太い枝に跳び移り観戦を宣言する。
飯島聡「何なんですかこの人?」
福山幸多「気にする必要はない。状況は何も変わっていない。」
変わっていないわけがないのに、そんな戯れ言を口にする。
我殺狂助(飯島、後ろの桂の動きに注意してくれ。福山は俺が対応する。)
そうまばたきを使った合図を行い、飯島もまばたきに隠された内容を読み取る。
飯島聡(わかりました。何か動きが見られた場合、すぐに知らせます。)
似たようにまばたきを使う。その返事もしっかり読み取られていた。まばたきを使った数秒の沈黙の会話を終えた後、福山幸多が動き出す。
福山幸多「テンスサモン!」
武召喚数値が10消費される。その武召喚数値は福山幸多が持つ武器の強化に割り当てられる。ソイーブルをした状態にさらに10個分上乗せするため、武器の威力は倍近くにまで引き上げられる。福山幸多はゲーム開始初日から多くの参加者をなぎ倒してきたため、武召喚数値の桁数は1000を越える。その気になればクラインドの50倍の威力を誇るものも武召喚できるのだ。それに対し、我殺と飯島の数値はそれぞれ120と64。福山には遠く及ばない。
我殺狂助(…今はまだ互角に渡り合えているが、腹の傷がばれたらどうなるか。)
あの化け物につけられた腹部の傷。あればまだ完治していない。その傷の存在を勘づかられるのは、いわば弱点を知られることに繋がる。少なくとも敵に弱点を教えて状況がいい方向に持っていくわけがない。改めて福山幸多に対しての警戒を強める。
福山幸多「フッ!!」
そうして超スピードで我殺狂助のもとへ近づいていく。近づいたとき瞬間に手に持つ剣を
振りかざす。我殺狂助はそれをかわし、同じように自身の持つ剣を福山幸多に向けて切りかかる。だが、そのことを見越していたかのように、我殺狂助が剣を振るったときにはもう、福山幸多は背後にいた。彼はそれを好機とみなし、我殺狂助が試みたように切りかかろうとする。その攻撃も我殺狂助は振り向きもせず、持ち前の剣を使い受け止める。衝突した衝撃で火花が散り、一瞬の爆音が再生される。そして飯島聡も動き出す。この二人の剣が衝突し合った瞬間に即座に福山幸多のもとまで近づき出す。右手に剣が握られていてその剣は福山幸多の腕に近づいていく。それに気付いた福山は飯島に意識を向ける。我殺狂助に対しての攻撃に使っていた剣を飯島聡の持つ剣へと衝突させる。我殺狂助もまた衝突している状態を狙って、握られている剣を福山幸多に向けて切り裂こうとする。当然、その動きは見破られているので、飯島聡の剣をさばいたのち、剣で受け止める対象を我殺狂助へと変更させる。
桂唯賀(ふーん、なるほど。スピードやパワー自体は互角。いや、互角を偽れているって感じですかね。)
木の枝に座って観戦している彼は分析しながら、頬杖をついている。
桂唯賀(我殺狂助とかいった人、多分万全の状態ではない。福山さんや飯島という女は素早く移動しているが、この男はそもそも少ししか動いていない。手や腕ではない。足か腹部のどちらかのはずだ。)
我殺狂助があまり動いていない違和感。これは福山幸多も少し不思議に感じていた。
福山幸多(なぜこの男は大きな動きを見せない。私を倒すにはクラインドを使うか、私を上回るスピードかパワーでごり押すしかないはず。桂がいる以上、クラインドを打つのを警戒するのは理解できる。だが、彼は武召喚で自身の体を強化することすらしていない。少し探ってみるか。)
我殺狂助(…まずいな、気づかれたか。)
そうしてもともと距離は近かったが、猛スピードでさらに近づいていく。しかし、近づいていく対象は我殺狂助ではなく飯島聡であった。
飯島聡「!?」
いきなりのことに即座な対応ができず、戦闘で遅れを取る。
福山幸多「フハハ!!」
福山幸多は一撃、一撃、飯島聡に繰り出す度に一歩一歩、飯島聡を後ずさらせる。攻撃のスピードは当然早く、どんどんどんどん二人は我殺狂助から離れていく。
我殺狂助「くっ!聡!!」
猛スピードを越えるスピードで走り出す。福山が飯島に向けて剣を振りかざす寸前で飯島のもとに割って入ることに成功する。そして福山が振りかざした剣を我殺狂助が受け止める。受け止めたあとは我殺狂助は本気のスピードとパワーを出し、さっき福山幸多が飯島聡にしたように、我殺狂助も一撃一撃喰らわせる度に福山幸多を一歩ずつ後ろへと下がらせる。今の福山の状態はそのスピードを上回ってはいなかった。その結果、福山が少しずつ押されている。だが、それも長くは続かなかった。我殺狂助は数十秒福山を圧したのち、その強襲を止める。いや、止めざるを得なかった。
我殺狂助「ハァ、ハァ、ハァ、」
いつしか、崖の近くまで移動していた。そして我殺狂助の腹部から血が滴っていた。本気で動いたことによって傷口が開いてしまったのだ。
飯島聡「ハァ、ハァ、我殺さん。」
あとから追い付いた飯島も我殺の状況に気がつく。そして顔を一気に青ざめさせた。
飯島聡「我殺さん!!」
我殺狂助「大丈夫だ。対したことはない。黙ってろ。」
飯島聡「くっ、、」
我殺狂助「私のせいとか思うなよ。お前がどうなっていようと、俺はあのときにこれをするつもりでいた。」
福山幸多「ほぉー。随分と優しいものなんだな。」
我殺狂助「この戦争の参加者に優しいやつなんかいねえよ。」
福山幸多「フッ、、それもそうだな。」
不敵な笑みを浮かべたのち、たった一言だけある言葉が放たれた。
福山幸多「ハンドレッド」
我殺・飯島「!?」
瞬間、我殺狂助と飯島聡に白い光線が撃ち放たれた。福山幸多は100の武召喚数値を使い、それを全部剣に割り当てた。割り当てられたその剣を空振りさせた瞬間、その剣からビームのような光線が放たれる。その光線の威力は核兵器をゆうに越えている。
我殺狂助「が、あ、」
地に伏せ、うめき声だけが漏れだした。
福山幸多「ほぉ。まだ消えていないとは。」
近くの木々は完全に抹消され、地形は崩れはしないものの巨大な亀裂が生まれていた。
福山幸多「腹の傷がなかったら、私を崖に突き落とすことや私を倒しきることができたかもしれない。」
我殺狂助「くっ、、」
福山幸多「だが、本当の強者は最初の時点で準備を整えておくものなんだよ。」
我殺狂助はただ這いつくばって睨み付けることしかできなかった。
その視線は福山幸多の気分を高揚させる。
飯島聡「えら、そうに。それができたのはたまたま、種性核がアンティワームだったからでしょ。」
福山幸多「フーム、なるほど。我殺狂助、お前はクラインドをいくつか重ねがけをすることで私の攻撃を和らげたのか。」
そう。我殺狂助は福山の攻撃が成される直前に、武召喚数値を60、つまりクラインドを三つ分重ねがけすることで福山の攻撃をある程度和らげたのだ。
飯島聡「あなたなんかを、極楽に行かせるわけにはいかない。」
そうして、ふらついた足でまた立ち上がる。
桂唯賀「いや、もう勝負ありでしょ。」
飯島聡「!?」
いつの間にか飯島聡の背後にやつはいた。
桂唯賀「どうみても福山さんの勝ちでしょ。敗者は大人しく消えてください。変にしぶといのが一番うざいんですから。ファースト」
そうして、桂唯賀も武召喚を行う。右手には銃が投影される。
我殺狂助「聡!!」
飯島聡「!!」
我殺狂助はしぼりかすのような力で立ち上がり、残っているすべての力で飯島聡の手を取る。そして崖へと向かう。崖の下は激流の川。危険ではあるが、今はどこか移動できれば残れる可能性はある。そうして、ともに崖まで走り、飛び降りようとしたときに飯島聡は我殺狂助の手を放した。
我殺狂助「!?おい!!」
落下する寸前で踏みとどまり、もう一度掴もうとしたが、飯島聡は我殺狂助の胸に手を押し出す。押し出されたことによって全身が傾き、少しずつ崖から落下しそうになる。
足が地面から離れたときに飯島聡の顔が見えた。泣いていた。ただ泣いていた。だが、その表情が我殺狂助に次のアクションを取らせる。我殺狂助は落下し、完全に川へとダイブする前に飯島聡の右腕を掴む。
我殺狂助「ぜっったいに離さない!!」
飯島聡「!?……フフッッ、、ありがとう。」
掴んだときにもまだ顔は見えた。驚いて、うれしそうにして、でもまたすぐに悲しそうにして、また笑って、そして泣いていた。
飯島聡「ファースト」
飯島聡の左手に剣が投影される。そして投影したその剣を使って、自身の右腕を切り落とした。
我殺狂助「!?おい!!やめろ!!」
飯島聡「言ったでしょ、あなたは消させないって。」
我殺狂助「さとしーー!!!!!!」
そうして、我殺狂助は川へと落ちていった。
福山幸多「…まさかそこまでするとは。」
飯島聡「この戦闘は私が勝手に持ちかけたものです。」
右手を左肩にやり、苦悶の表情を浮かべている。
飯島聡「絶対にあの人は消させない。ここで止める。」
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。初の投稿作品ですので、まだ粗削りで不出来なところもあるでしょうが温かい目でこれからこの作品を見守って頂ければ幸いです。作品を読む際に【ハッピーエンドとはどういうものなのか】このことを念頭に置きながら読んで頂ければ、より一層深くまでこの作品を楽しめると思います。これからもこの作品を皆さまに楽しんでいただけるよう、精進して参ります。




