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ドラゴン☆マドリガーレ  作者: 月齢
第6唱 竜王の呪い
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薬をつくろう!

「うそっ! それもしかして苺鈴草(バイリンソウ)!?」


 目を輝かせたヘンリックに、ラピスは「うん!」と大きくうなずいた。

 鞄には、クロヴィスが厳選してくれた薬草や薬が入っている。ジークにも大量の常備薬を持たせてくれていたが、ラピスには『特に使い回しの効く貴重な材料』を持たせてくれた。

 思えばトリプト村で活用した古竜の鱗も、クロヴィスに言われたから持参した。おかげで老亀の甲羅を入手できたのだ。


「すごい……苺鈴草なんて初めて見た」


 ヘンリックと並んで頬を紅潮させたディードに、幼竜からもらった経緯を話すと、周りの騎士たちにまで感心されてしまった。ギュンターもタレ目の目尻を下げて笑う。


「古竜もすごいけど、幼竜というのもまた珍しいな。普通、見る機会すらないよ」

「竜がそこまで義理堅いとは」

「そういう貴重な体験談を、アカデミーの方々は知っているのでしょうか」


 騎士たちも一緒になって会話を膨らませているので、ラピスは話題が戻るのをポケッと待っていたが、しっかり者のディードが「あとはなんだっけ?」と話を進めてくれた。


「南方の砂、だって。でもそれは持ってないんだ……」

 

 ジークたちも「詰所のどこかにないか」「商店で扱いはないか」と声を掛け合っているが、北国にいて都合よく手に入るものではない。

 仕方なく伝書鳩(早耳)を飛ばして取り寄せるしかないと結論が出かけたとき、「それってさあ」とヘンリックが首をかしげた。


「王女殿下の手紙に入ってたやつじゃ、ダメなの?」

「は?」


 眉根を寄せたディードに、「ほら、前に殿下がグレゴワール様にだまされたあと、団長と婚約してるって誤解したときの手紙」

「あっ、そうか! 『封入便』の!」


 二人が言っているのは例の、ジークとクロヴィスに関する噂の件らしい。

 あのときディードたちはジーク本人よりも早くその情報を掴んでいたが、それは王女から手紙をもらっていたからだという。つまり(王女)から(ディード)に、『二人が婚約しているなら隠さず教えなさい』という内容の手紙が届いていたのだ。


「なんでそういう情報をすぐ俺に教えないんだよ」


 不満顔のギュンターに、ディードは冷めた目を向けた。


「くだらないからです」


 封入便とは、通常より大きな伝書鳩に、ごく軽量の物を包んだ手紙を運ばせることを言う。

 王女はクロヴィスに言われるまま南の街へ向かったが、途中でからかわれたと気づいた。その際、腹立たしさを解消しようと入った土産物屋で、『南の海の砂』とやらを見つけて……


『白と桃色の愛らしい色合いの砂です。なんて美しいのでしょう。記念にあなたにも差し上げますね』


 機嫌が直ったか、わざわざ送って寄こしたらしい。

 ディードはそれを「なんで旅先に余計な物を増やすかな」と放置しようとしたのだが、ヘンリックが「珍しいじゃん、綺麗じゃん」と取っておいたのだ。

 ラピスは思わずヘンリックに抱きついた。


「すごいよヘンリック! よく取っておいてくれたね、ありがとう!」

「お、おう!」 

「そうだな。悔しいが今回は認める。初めて役に立ったな、ヘンリック」

「初めて!?」


 嬉しそうにしていたのに、ディードのひと言でまた喧嘩になった。

 だがよく考えると、クロヴィスのおかげで王女が南の街に行ったのだから……


「やっぱり一番すごいのは、お師匠様ってことだね!」


 ラピスの結論は、仲良くそろった乳兄弟の「「なんで?」」に阻まれた。



☆ ☆ ☆



 ラピスたちは早速、薬作りに取りかかった。

 古竜の教えに従い、山ほどあった雪真珠の鱗と、老亀の甲羅、苺鈴草、南方の砂を、大鍋に入れて火にかける。すると瞬く間に鱗がとけて、なみなみと大鍋いっぱいの水量になった。


「「「おおおー!」」」


 わくわくした様子で見ていた騎士たちも共に拍手して盛り上がったが、ほかの材料も鱗液の中で瞬く間にとけ出し、猛烈な勢いで沸騰し始めたので、今度は驚きの声を上げて鍋から遠のいた。

 もちろんラピスもジークに抱き上げられて避難させられたが、古竜の教えだから大丈夫と説得しているあいだにも、広い室内を埋め尽くすほどの湯気がもうもうと立ち昇る。

 湯気は不思議とひんやりしていて危険性はなかったけれど、ヘンリックも何度も「いいの!? ほんとにこれでいいの!?」と確認してきた。


「『湯気が消えるまでそのままにしなさい』と言ってたから大丈夫!」


 ラピスは胸を張った。

 しかしその結果、湯気が消えたあとに残ったのは、鍋底にちんまりと、小瓶ひとつぶんの量の透明な液体だけだった。


「えええ! これだけーっ!?」


 完成した薬を見たヘンリックが、不満の声を上げたのも無理はない。

 

「確かにこれは……切ないほどに少ない……」

「作り方、間違えちゃったとか……?」


 ギュンターとディードも困惑顔でラピスを見つめる。顔は似ていないのにその様子はそっくりで、「やっぱり兄弟だねえ」と思わず笑ってしまった。

 そんな彼らに、『竜の書』をひらいて見せる。

 紙の上から金文字が軽やかに浮かび上がって、ラピスとジークを除く全員から驚愕と感嘆の声が上がった。


「ほらね、ちゃんと書いてあるでしょう? 『薬は湯で満ちた大鍋に、ひとしずく垂らせばこと足りる』って。ほんのちょっとで効果があるから、小瓶ひとつぶんの量しかなくても大丈夫なんだよ、きっと」

「俺には読めないが、濃縮された原液みたいなものか……携帯するにも都合がいい」


 ジークの言葉に「そうですよね!」とうなずくラピスの横で、「だと思った。わかってたよ、ぼくは」としたり顔のヘンリックが、ディードの冷たい視線を浴びている。

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