66.セラミックス・ピアノ
(セラミックス・ピアノ)
翌日、朝まだ暗いうちから愛実は学校の体育館にいた。
愛実は本当に、元に戻ったのか、セラミックス・ピアノを弾くまでは、自信が持てなかった。
しかし、それは取り越し苦労だった。
しばらくして、麗子が体育館にやってきた。
昨日の夜遅く、麗子に伊豆の出来事と、今日のことを連絡したのだった。
麗子が、体育館に入ると、やわらかな楽しそうな会話が聞こえてきた。
『……、香奈ちゃんっ!』
セラミックス・ピアノを弾く愛実の横に、大きく成長した香奈が、愛実の肩に手を置きながら、笑顔で話しかけているようだった。
『……、アミっ!』
麗子が声をかけると、二人は同時に振りかえって麗子を見た。
振りかえった愛実の顔も、もう二十歳ぐらいの大人の顔をしていた。
それに、背もすらりと伸びて、胸も大きく膨らんでいた。
そして、二人は麗子に気がつくと、ピアノから離れて、楽しそうに笑いながら近づいてきた。
『アミ、香奈ちゃん、二人ともどうしちゃったのよ。そんな大人になちゃって……』
麗子も嬉しくなって、二人に歩み寄った。
『香奈ちゃん、元気そうね。ずいぶん大人になっちゃって、私、負けちゃったわ……』
それでも、香奈は嬉しそうに笑っているだけだった。
その笑い声は、いつしかピアノの音に変わり……
『ね―、アミ、香奈ちゃん、どこ行くのよ。そっちは、まぶしいわ……。私も行くから、待ってよ……』
麗子は、思わず駆け出していた。
そして、光の中をかけぬけると、そこにはセーラー服の愛実がセラッミックス・ピアノを弾いていた。
その顔は、いつもの愛実だった。
「……、……」
麗子は、その場でしゃがみ込んだ。
愛実は麗子に気がつくと、弾くのをやめてセラミックス・ピアノの舞台から降りて、しゃがみ込んでいる麗子の所へ向かった。
「アミ……、今、香奈ちゃんがいた!」
「えっ……」
「うんん、違うの……、まるで小笠原先生みたいなピアノで驚いちゃった。心にずし―んって響いたわ!」
麗子は、愛実が弾けなくなる以前のピアノとは、格段に上達した愛実のピアノに驚いていた。
「レイっ、大げさだよ!」
愛実も麗子の横でしゃがみ込んだ。
「そんなことないよ。音の広がりかな―あ、重みみたいなものを感じたわ。小笠原先生のような大人のピアノ、かな―?」
「ありがとう!レイにも心配かけちゃったね……」
「ありがとう、なんて、私、何にもしてない……」と言いながら麗子は、溢れる涙を手で覆いなが愛実の膝に顔を埋めた。
愛実は、麗子を抱き寄せ、麗子は、愛実に抱き着いて泣いた。
「レイ、泣かないでっ……!」
「悔しいな―、またアミに差をつけられちゃった……」
麗子は、泣きながら無理に笑って、憎まれ口をたたいた。
そして、思い出したように突然、愛実の膝から起き上がり……
「アミ、あんたね―え、ピアノ弾けるようになったんだから、合唱コンクールの伴奏、やりなさいよっ! 私、知らないからね―」
麗子は、ドサクサにまぎれて、愛実に伴奏を押し付けようとした。
「なにいってんのよ! それはレイの役目でしょう―」
「それ私の口癖、だから、それは、アミがピアノが弾けなかったときのことよ。もう、事情が変わったわ!」
「それは、だめよ。私、学校嫌いだから―」
「ま―だ、いってる。そんなわがまま、私が許さないからねっ!」
「レイ、そう言えば、絵のモデル、やってよねっ!」
「何だっけー?」
「あ―、あ―、そらっとぼけて……!」
「そんなことないわよ、アミが伴奏したらやってあげるわよ―」
「そんな約束じゃ―なかったー」
「やらないって、言ってるわけじゃないんだからっ!」
「だ―あって、話しが違うわよっ!」
「だから、伴奏したら、ヌードでも何でもやってあげるわよっ!」
「レイっ、また、だますのね―」
愛実は、麗子に絡みつき、無理やり服を脱がそうと襲いかかった。
「あ―、アミっ、何するのよ……」
麗子は、床の上を転げまわって逃げた。
「こ―らっ、まて―、ここで脱がしてやるー」
愛実は、転げまわる麗子の背中を捕まえて、セラー服の中に手を入れた。
「あ―ん、アミっ、ヘンタイー」
その後、二人がどうなったかは、セラミックス・ピアノしか知らない。
おわり




