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59.生まれ変わって

(生まれ変わって)


 愛実が目を覚ましたのは、翌日の午前四時を回っていたころだった。

 薄暗い部屋の中を見まわすと、麗子と正美、良子先生が布団の中で眠っていた。

 そして、奥座敷には、香奈ちゃんのお母さんが、香奈をじっと見つめていた。

「叔母さん、少し寝ないと……?」

 愛実は、小声で囁くと香奈の母の横に座った。

「さっき、少し寝たのよ。不思議ね、香奈の夢ばかり見るの……」

「叔母さん、私も見ました。楽しそうに笑っていて、麦わら帽子をかぶって、あの夏の日のようでした……」

「そうなのー、アミちゃんには、本当にお世話になっちゃたわね……。前は、引っ込みじあんな、無口な子だったのよ……。それが、アミちゃんに逢って、ピアノを弾くようなってから、見違えるように変わったわ―。本当にアミちゃんになったような香奈だった。それでまた、いっぱいピアノが聴けて、よかったね。香奈……」

「叔母さん……、香奈ちゃん、もう、ここにはいません……」

「……、……」

「香奈ちゃんは、今ごろ産声を上げて泣いているところです……。いえ、違うわ。もう……、生まれ出て、きっと今みたいに疲れて眠っているかも知れません……」

「生まれ変わって……?」

 静子は、その言葉にすがるように愛実を見た。

「そう、生まれ変わって……、今度こそ、思う存分、ピアノも、絵も出来るようになって、生まれ変わっていると思います……」

「そ―ね―、アミちゃんの言うとおりね……。 香奈、今どこにいるの? 元気でいるの……?」

 静子はやさしく呼びかけた。

 愛実は香奈の顔を見ながら、赤ちゃんになった香奈の顔を思い浮かべていた。


 そして愛実は、次の日もピアノを弾き続けた。

 しかし、今日は麗子にも手伝ってもらって、出来るだけピアノの演奏が絶えないようにした。

 ピアノの演奏が、香奈の母を支えているような気がしていた。

 そして、生まれ変わった香奈の誕生を祝福するように……

 通夜も、告別式も愛実のピアノの演奏で飾られ、良子先生が式をまとめた。

 最後に、今まで布団の上に寝ていた香奈を、静かに納棺して、参列者が花を添えて、愛実の弾くピアノと共に送り出した。

 もう、今日の日差しは、夏の強い日差ではなく、おもむろに吹く風と重なって、秋の爽やかさを含んでいた。


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