表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/66

44.愛実の演奏会

(愛実と演奏会) 


 正美は麗子の話を笑ったりせずに、少し微笑みながら聞いていた。

「それで、香奈ちゃんを見ていたら思い出しちゃった。アミは、今でもあの頃のまんまなのよ。ほら、ピアノが聞こえてきた!」

 まだ民宿には少し遠いけれど、耳を澄ましていると微かに、でもしっかりとしたピアノの音が聴こえてきた。

 そのピアノの音をしばらく聴いていた正美は……

「じゃ―、私もピアノ弾きたいって言ったら、教えてくれるかな―?」

 正美は、思いっきり期待を込めて麗子に言った。

「もちろんよ、でも今、受験勉強を差し置いてピアノを弾く勇気があればねっ!」

「あ―、それなのよね―」

 正美は、がっくりと肩を落として、うなだれながら、二人、顔を見合わせて苦笑い。

「でも正美、ピアノを弾きたいと言う意欲さえあれば、アミはいつでも教えてくれるわよ!」

 正美は、大きくうなずいた。


 二人がようやく民宿にたどり着いた時、愛実の激しいピアノが鳴り響いていた。

 その横で真剣な眼差しで、愛実の手の動きを見つめている香奈が印象的だった。

 そして、まだ物足りない余韻を残しながら、演奏は終わった。

「いいわね―、どうして、ここにくると気持ちよくピアノが弾けるのかしら。家で弾くのとは大違いよー!」

 愛実が胸をそらして、深呼吸しながら呟いた。

「それはね―、ここの海を見て気持ちが大きくなっているからよ―」と愛実の後ろから、麗子が声をかけた。

「そ―よねー、なんだか私、海になったよな感じで弾けたわ!」

 愛実は納得して、ピアノを見つめ直した。

「それでは、もう一曲……」と、愛実が弾こうとしたところで、今まで黙っていた正美が口を開いた。

「え―、まだ弾くのー?」

 正美に続いて麗子までも……

「そ―よー、私たち一年ぶりの海なんだから。泳ぎに行きましょうよっ!」

 愛実は、二人の攻撃にあって、渋々ピアノのふたを閉めたとき、正美が戸惑いながら話し始めた。

「それに実をいうと、夏休みに入ったころから、ピアノのお嬢さんはいつ来るのかと、何人ものお客さんから問い合わせがあって、もし来るようなことがあるなら、私たちが来るときにスケジュールを合わせたいって言うの。それが一人二人じゃなく、よくわわからないんだけど百人以上、問い合わせが殺到したのよ。だからまた今夜、アミにたくさん弾いてもらわなければならないと思うから……」

「凄いじゃないアミ! あんたが去年、調子に乗って毎晩ピアノをお客さんに聴かせたせいよ。ま―あ、アミの実力からすれば当たり前なんだけどね―」

 麗子は少し驚いた様子を見せたが、それをもったいぶるように澄まして見せた。

「え―、そんな……、私、困るー!」

 香奈は、愛実の気の進まないようすを見て……

「私、武君とピアノの先生にも言っちゃったっ!」

「香奈ちゃん、言っちゃったて、ピアノの先生まで聴きに来るの?」

 愛実は、半分あきれ顔で香奈を恨めしそうに見た。

「いいじゃないの。武君とは、仲良しになったの……?」と麗子は、目を輝かせて訊ねた。

 その答えは、香奈の恥ずかしそうな態度でわかった。

「でも武君……、いつもアミお姉ちゃんのことばっかし聞くのよ。今度いつ来るのかとか?どうしてあんなに上手なのかとか……?」

 香奈は、話をしている間に、だんだん無機になってきていた。

 それに気づいた麗子は……

「香奈ちゃん、押さえて押さえて。でも、それはね、本当は香奈ちゃんのことを、いっぱい訊きたいんだけど、武君は恥ずかしくて訊けないの。だから、その代わりにアミを持ち出しているだけなのよ。きっと武君、香奈ちゃんにお熱よ!」

 麗子はテレビドラマの恋愛ものを見ているような感じで話した。

 香奈は、顔を赤らめてうつむいてしまった。

「いいわね―えー、男友達がいて……」

 麗子はそれを見て、愛実とはまた違った感じで、うらやましそうに香奈を見つめていた。

「そう言えば、正美。バレンタインのチョコ、誰にあげたのよ?」

 麗子は思い出したように正美に振った。

「えっ、何のこと……?」

 正美は、そらっとぼけて見せた。

「二人とも、そんなことより、私はどうなるのよ?」と愛実は二人の間に割って入った。

「なにいってんのよ! ただで泊めてもらって、ごちそうまでしてもらっているんだから、ピアノぐらい弾いたって安いもんでしょう!」と、麗子はあっさり言い返した。

 これには、さすがに愛実も何も答えられず……

「ま―あー、いいか……!」と開き直った。

 正美もようやくほっとした顔……

 香奈は、また愛実の演奏が聴けるとあって上機嫌……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ