41.五月の風
(五月の風)
翌日の朝、教室に愛実がいた。
「アミ―、来たのー!」
すでに、教室に入っていたクラスメートの女子が声をかけて集まってきた。
「まあ―ねー、あまり、だだっ子やっていても、レイに悪いから……」
「レイの事だけ……? 昨日、星野君が言っていたこと、本当だったんだ―!」
「え―っ、なんて?」
「校長先生と担任とで、謝りに行くって言ってたから……」
「もうっ、そんな話が伝わっているの?」
「そうよ―、みんな心配していたんだからー」
「ありがとう……! それよりレイは……?」
「アミがいなくなってから元気がなくって、いつも予鈴、ぎりぎりに来るわよ―」
「そ―なのー、もう先に出かけていると思ったから、置いてきちゃったっ!」
しばらくして、星野が入ってきた。
「星野君っ! アミ、来たわよっ!」
「……、……」
彼は、愛実の回りの女子に圧倒されたのか、無口に少し微笑むだけで自分の席についた。
愛実も、なぜ星野に注目が集まるのわからずに、ただ微笑み返した。
そして、もう一度、愛美がいなかったときのクラスのようすが話しだされたころ、やっと麗子が元気なく入ってきた。
「レイ、アミが来たわよ!」
一人の女子が麗子に叫んだ。
「レイ、遅いよ……!」
愛実が麗子に呼びかけた。
麗子は、恐ろしい光景に出くわしたときのような緊張が体を縛りつけた。
「な、なにいってんのよっ! アミ……?」
麗子は、それから先の言葉が出てこなかった。
その代わりに、涙が後から、後から湧き出てきて、宙を舞う気持ちで、愛実には目もくれず、自分の席についた。
そして鞄を机の上に置くやいなや、その鞄の上で、わんわん泣いた。
「レイ、いつのまに泣き虫になったの……?」
愛実は、麗子の傍まで来て、麗子の長い髪を撫でた。
「なにいってんのよ! アミのせいでしょう……」
麗子の声は涙で震えていた。
回わりの女子も、その光景にかける言葉がなく、ただ麗子の喜びを無言のままわかちあっているようだった。
もうすでに五月も終わりに差し掛かっていた。
青葉がまぶしく目に染みる。
あれから麗子は、愛実に良子先生との一夜のことを問いただすのだが、愛実は一向に白状をしない。
あの夜、確かに良子先生は愛実に夜這いをかけたはずだ。
そうでなかったら、あれほど嫌がっていた愛実が、急に学校に来ると言うのは、不自然な話しだった。
良子先生にも訊ねたが、何もしないと、すっとぼけているだけだ。
あれから、担任も愛実を避けるように何も言わなくなった。
教室からは、今日も愛実と麗子、そして正美の笑い声が聞こえていた。




