20.数年越しの告白
アリスさんのお母さんから。アリスさんの遺書です。」
「....」
ザールは受け取るのを拒否していたが、サリーはそれを受け取った。
「読むわね。」
「うん。お願い....」
「やめろっ...もう良いんだ。もう駄目なんだよ。」
アリス・アイス
私は冒険者です。魔物から人を守る職業です。
私が死んだならば、人を守って死んだのでしょう。それが私の信念であり、絶対に曲げられない信条だからです。
「そうだよ。お前は人を守ろうとして、守った奴に殺された。」
毎日死ぬ覚悟で仕事に臨んでいます。もし私が死んでも悲しまないで下さい。お母さまやお父さまは、きっと大丈夫と思います。
「あの二人はタフだからな。」
転んでもただでは起きない、そもそも転ばないでしょうね。まぁ、強い心をお持ちです。
ですが、気掛かりなのは仲間達。あの三人は優し過ぎます。心が無防備です。もしパーティの誰かがまた死ねば、心が壊れてしまいそうで怖い。
「....」
死ぬのより何よりも、それが一番怖いです。
「死ぬ事の方が怖ぇだろ...人のことばっか考えて、そんな奴の死に様があれか!?」
「もしそうなら俺は人を助ける意味がわからねぇ!」
私の財産は、半分は両親。半分は仲間にあげてください。ヘソクリが沢山有るので、有効に活用して下さい。
「死人の金なんて使えねぇよ」
もしこれを読んでいるのが仲間達だった場合、私は幸せでした。人を守って死んだなら、悔いは無いし、良い人生だったと思えますよ。
「悔いはあんだろ!!守った奴に殺されたんだぞ!どこが良い人生だよ!」
私が死んだら皆んな赤ちゃんみたいに泣いて悲しむでしょうね。
どんなに辛くても、これだけはお願いします。人を守って下さい。困ってる人に手を差し伸べて下さい。私が助けられなかった人の分まで。
「....」
いつも心は気高く高貴でいて下さい。
「....」
ルークが死んで、パーティは再起に向かっている。ここで死ぬ訳にはいかない。
最後は強い文体で書かれている。
「あいつは守った奴に殺された。悔いがないわけねぇ。良いわけがねぇよ。」
「ザール。私、ずっと思ってたの。でも言わなかった。」
「何だよ。」
「アリスって、転移魔法持ってたじゃない。」
「それがどうした。」
「どうしてあそこで転移しなかったの?」
「!!」
「もしかして、自分から死を選んだんじゃ無いの?」
「...私達や、後ろの冒険者を守る為に。」
「まさか。そんなわけない。俺なら転移する!」
「でも、アリスはしなかったんでしょう?アリスは、皆んなを守って...」
「うっ...うう...」
「皆んなそうじゃねぇか。優しい奴だけが死んでって、俺みたいなクズが生き残るんだ。」
「あいつらが生きていれば良かったのに!!俺は死んでも良い人間だった!」
「あいつらは死んじゃ駄目だった!」
どうしたら、こんなにも悩んでいる人に、生きる意味を伝えられるのだろう?
「聞きました。貴族から村を守ったって。小鬼を熱心に倒してくれたって。」
「そんなん何の意味も無い!俺は偽善者だ!」
「村の人達は感謝してました。そんなに自分を責めないで下さい。」
「ザールさん、自分の為に生きるのは辛いのです。誰かの為に生きるのです。」
「アリスさんも、人を守ってと言っています。」
「...ねぇ、ザール。やっぱり仲間以外は切り捨てるっていう考えはやめよう。アリスの遺言。果たそうよ。」
「私もそうしたい。人をまた、守れる様になりたい....」
「ああ。そうだな。俺はずっと間違ってたんだ。その罪は決して消える事はない。一生かけて償っていく俺の業だ。」
「でも、今から変わろう。」
真っ暗だった目に、光が戻った。
「....大分時間が経ってしまったけど、アリスさんの家に行こう。」
村の人に聞いて回ると、怪訝そうな顔をしながらもすぐ家を教えてくれた。
「ごめんください。」
その家は、他の家よりも立派で、しっかりとした造りだった。高い身分の家だと分かる。
ガチャッ
「はい、何方様でしょうか。ご主人様は現在出掛けていらっしゃいます。」
タキシードに身を包んだ、還暦を迎えそうな男性が出て来た。
「ここはアリスさんのお宅で間違い無いでしょうか?アリスさんのお話を聞きたく参上しました。」
「...お嬢様ですね。わかりました。奥様をお呼びします。」
「ありがとうございます。」
私達は客間の様な部屋に通された。
数分経つと、廊下から足音が聞こえて来た。
コンコン
「はい。」
ガチャ
「ご機嫌よう。私はエカテリーヌ・アイス。カール・アイスの妻ですわ。」
「私はナーフと申します。」
「私はエリスと申します。」
「私はミーヤなのです!」
「ナーフさん、エリスさん、ミーヤさん。用件は執事から聞いております。ですが、いきなり来てアリスの事を教えてくれとは何事でしょう。」
「はい。ザールさんの事はご存じでしょうか。実は....」
ザール達について詳しく説明した。その間、夫人は此方をじっと見つめ深く私達の話に聞き入っていた。
「....その話は小耳に挟みました。しかし、そのような事までは知りませんでしたわ。そう言う事なら、うちの子が死ぬ数日前に寄越した手紙を差し上げますわ。」
「こんな大切な物頂けません!」
「良いんですのよ。私の心の中に娘は生きておりますわ。娘とは、手紙の一つくらい無くなっても変わらない程の思い出と時間を過ごしましたわ。」
アリスのお母さんには、一本しっかりとした芯が入っているようだ。
凛として、威厳を感じる唯住まい。アリスさんの行動も、この母親の影響が大いにあるだろう。
「私の元にあるよりも、貴方方とあの子供達が役立てた方がこの手紙も意味がありますわ。これは娘の遺書。あの子達の心が変わるかは分かりませんが、娘の思いを伝えてあげて欲しいですわ。」
「そう言う事でしたら、有り難く受けとらせて頂きます。本当に感謝しかありません。」
「うふふ。良いんですのよ。さぁ、日が暮れて参ります。魔物が出る前に帰っておしまい。」
威厳に満ちた表情が少し崩れ、私達を心配するその様子からは、温かい母性も伝わってきた。
「ありがとうございます。」
私達は深々とお辞儀をして、アイス夫人の家を後にした。
そして、日が丁度暮れた頃、村へ着いた。
コンコン
宿の一室をノックする。
「....おぉ!お前らか。どうした?遊びでも教えてやろうかぁ?ガハハハ!」
「実は、皆さんに伝えたい大切な話が有ります。聞いて貰えますか?」
「.....入れ。」
「ザール、何でコイツらがいんの?」
「話があるそうだ。」
「....前みたいな話だったら、もう辞めて。意味はないの。」
「僕達、ルークさんとアリスさんのお母さんに会って来たんです。」
「なんだと....?」
無表情だったザールの表情がピクリと動いた。
「何でそんな事するの!私達の過去を知って楽しい!?」
「私達に関わらないで!!!」
サンドラとサリーは激昂して、口調が荒くなっている。今にも殴られそうだ。
「ルークさんは、皆さんと冒険できて幸せだと言っていたそうです。」
「....それがどうした?今更そんな言葉聞いたところで、何も思わん!何も変わらん!!」
「皆さんの役に立てる事が幸せだったと。ルークのお母さんは、自分達を責めないでと言っていました!」
「お前ら、五月蝿い。もう良いんだよ。」
「私達はルークの死なんて何とも思ってない。自ら死にに行って馬鹿な奴だよ....お陰で私達が生きられて良かったけどね。」
サンドラが矢継ぎ早に言葉を投げつける。
「もうわかった?私達はあいつを利用しただけ。仲良くも仲間でも無かったよ...!」
「あいつなんか死んでもよかった。」
ナーフの顔には血管が浮き出ている。
「あんた達は...本当にそう思うんですか...」
「何だよ。本当さ。」
「命を懸けて、大切な仲間を守った、人を、罵倒して、踏み躙るんですか!!??」
「...そうよ。さっさと帰って。もう聞き飽きたわ。」
「サンドラさん!!!!」
サンドラはナーフの大声に驚き、一瞬ビクッと体を動かした。
「....なによ。五月蝿いわね。」
「ルークさんは貴方が好きだったんだぞぉぉぉぉぉぉ!!」
「....嘘でしょう?」
サンドラは目を見開き、口を開けていた。
「これは母親から預かった手紙です。まだ開けて無いらしく、内容も知らないと。」
「サンドラ、読まなくていい。コイツらの嘘だ。俺らは誓っただろ!忘れたのかよ!」
「サンドラへ。
僕と君は幼い頃から何をするにも一緒だったね。君は一見大人びているように見える。周りからも冷静な子だと思われていたけど、本当はすっごく負けず嫌いで、幼い部分も持っているって事を僕は知ってるよ。
「なに...これ。」
「おい、サンドラ、読むな。」
昔、二人で虫とりをした時、僕の方が虫とりが上手くて、君は虫が苦手な筈なのに、僕に勝とうと必死に泥だらけになりながら、虫を捕まえてたよね。普段は絶対汚れたり、虫に触るのは嫌だって言うのに。
「こんなもの偽物でしょうっ...?」
「サンドラ!」
そんな可愛い部分を誰にも見せ無いよね。僕にはそれが、いつも殻に閉じこもってるように見えるんだ。
僕はありのままの君が好きです。
「....」
クールな様に見せて、実は人間味が沢山有ります。僕が村の子にいじめられた時も、怒って助けてくれたよね。捨てられた猫が居たら、どんな手を使ってでも助けようとしたよね。その行動力のお陰で、猫は村のおばさんに飼われることになりました。
「それは、ルークも手伝ってくれたじゃない...」
そんな優しい君だから、時々危うい部分があると感じます。純粋過ぎて、少し触れればバラバラになってしまうような危うい部分が。
だから僕は、そんな君を支えられる男になりたい。守られるのでは無く、守る男になりたいんだ。そんな強い男になるまで、この手紙は渡せない。もし僕が、君を守れるくらい体も心も強くなったら、直接思いを伝えます。
サンドラ、君を一生愛してます。死んでも君を愛します。
ルークより」
ぽたっぽたぽたっ
サンドラの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「守れてるよ!貴族に怒ってくれた時から。」
「強いよ...生きてる時に言ってくれればっ!!」
一度堰を切った水の流れは、止まらない。
床に膝を付いて、顔を手で覆いながら静かに泣いた。
「ルーク、ルーク...!どうして死んじゃったのよ。死んじゃったら何も無いじゃない。」
二人は、じっとそれを見つめていた。
読んで頂きありがとうございます!(*'ω'*)
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