第16話 俺とアビス姫の結婚!?
俺は焚き火をして、調理し易いように場所を整えていた。
アビスが魚を包丁で調理して、オーシャンがカニを茹でる準備をしている。
飛行艇には、飲み水が完備されており、その水を使って調理をする。
「ふう、スカイは相変わらずの状態みたいだけど、とりあえず火は起こせるわよね。
薪を拾って、火を点けるだけだもの……。
まあ、コツがいるとは思うけど……」
「大丈夫だろう。
ついでに、お湯を沸かして、コーヒーでも淹れてもらおうか?
あいつの淹れるコーヒーは、抜群に美味いぜ!」
「うふふ、知ってる♡」
「愚問だったか。
じゃあ、お願いして来るよ。
あんたは魚の血でベトベトの状態だし……」
「もうすぐ終わるわ。
後は、水で洗って完成よ!
カニは、コーヒーと一緒にできるくらいかしら?」
「ああ、調理とかした事なくてな。
特に、生き物は……」
「うんん、大丈夫ですよ!」
オーシャンは、俺にコーヒーを淹れるように要求して来た。
ついでに、カニを茹でるお湯も準備してくれと言う。
俺は、焚き火が出て来た後で、お湯を沸かせるように工夫をしていた。
「できたぞ……。
できたてのコーヒーだ。
カニももうすぐ茹る」
「わー、ありがとう!
やっぱりスカイは優しいね。
実は、相談があるんだけど……」
アビスがそう言うと、俺はトラッシュだったかと思って彼女の顔を確認する。
顔は同じだが、オッパイの大きさによって彼女が別人である事を再確認し、再び落ち込んだ表情になっていた。
「ああ、俺もあなたに聞きたい事があったんです。
トラッシュがどこにいるか知ってますよね?
会いたいんです、会わせてください!」
アビスはさっきまで美味しそうにコーヒーを飲んでいたが、突然に顔が曇り始めた。
「そういえば聞いた事がなかったわね。
その答えを聞いたら、彼女がどこにいるかも教えてあげるわ。
スカイは、トラッシュのどこに惚れているの?
見た目は、私と全く一緒だし、オッパイは私の方が大きいわ。
違いなんてあるのかしら?
そこを指摘してくれたら、真実を教えてあげるわ!」
「やっぱりトラッシュは生きているんだな!
どこにいる、教えてくれ!」
俺は、トラッシュが生きていると知り、アビスの胸ぐらを掴む。
アビスの顔が、女王の表情に早変わりした。
手で俺の両手を払いのけ、服装の乱れを直してこう言う。
「先に、私の質問に答えなさい!」
俺は、彼女の冷酷な目を見て怯んでいた。
トラッシュと似ていると思った表情は、俺の一言によって冷酷な女王へと変化したのだ。
ドライアイスが冷気を出しているような圧倒的なプレッシャーを感じている。
「俺は、トラッシュの助けで郵便配達員になる事ができたんだ!
もしも、このゴーグルが無ければ、俺は空を飛ぶ事も、戦闘で勝つ事もできなかった。
だから、トラッシュを幸せにして恩返しがしたいんだ!
それだけじゃない。
俺は、トラッシュを愛しているんだ!」
「ふーん、じゃあ、真実を教えてあげるわ、スカイ。
トラッシュはね、そんな歩行器(緊張しないようになる気休めのゴーグルの事)を付けているようなヘタレな男は嫌いって言ってたわよ!」
アビスは、俺のゴーグルを弾き飛ばし、海の中へ投げ込んだ。
ちゃっぷんと音がした後で、俺はゴーグルが無くなったことに気が付いた。
慌てて海に拾いに行こうとするが、アビスがそれを止める。
「どこへ行くの?
海へ入りたくないんでしょう?
まあ、私を押し退けて取りに行っても良いけど……」
「この、退けよ!」
俺は、アビスを殴ろうとするが、ヨロけて目標が定まらない。
逆に、アビスの反撃のカウンターを食らって、砂浜に倒れ込んだ。
そのまま抵抗もマトモに出来ず、アビスの攻撃を受け続ける。
「ぐお、がっ!」
「ふう、つまらないわ……。
スカイ、最後にチャンスをあげる。
1週間後に私とあなたの結婚式を執り行うわ。
それまでに歩行器無しで歩けるレベルになりなさい。
それが、あなたが好きな子を手に入れれるラストチャンスよ。
それができないなら、あなたは大した男じゃないという事ね……」
アビスが俺から離れると、俺は一目散に海へ入って、ゴーグルを探し始めた。
薄暗い天気によって海面の温度が冷たくなり、俺の捜索を難行させていた。
俺は、びしょ濡れになっても構わず捜索する。
「オーシャン、コテージに行きましょう。
私達は、お風呂に入って寝るわ。
ときどきスカイが生きているかどうかを確認するくらいで良いわ。
王になる男なら、あんな歩行器は卒業しなければいけないのよ。
それが出来ないなら、スカイに私を愛する資格なんてないわ!
農場でトラッシュに慰めてもらうだけのつまらない男だったのよ……」
「スカイが立ち直るまで、私があんたを守るよ!
しばらくは安心してな。
あんた、命の危険も大きいんだろう?」
「まあ、色々とね……」
こうして、2人は俺を海に残してコテージへ向かう。
2人で温泉に浸かったり、体を洗い合ったりしていた。
風呂上がりのシャンプーの匂いをさせながら、たびたび俺の捜索を見に来ていた。
「やっぱり心配かい?
スカイなら、この試練を乗り越えられるはずだろう?
あんたが惚れた男なんだからさ!」
「ふふ、本当に姉ができたみたい。
もしもオーシャンさんに妹がいたら、好きな男を獲得するために殺したりとかするのかな?」
「うーん、惚れた男がいないからね……。
惚れた女の子なら、隣にいるんだけど……。
この娘が王女様ならきっと大丈夫っていう感じにね!」
「あらあら、私、レズっ気はないですよ?」
「私も、結婚するなら男が良いさ。
でも、あんたの仕事をサポートする為に、一緒にいたいとは思うよ!
あんたの隣に立つ男性は、スカイしかいないと信じてる!」
「そのカッコイイ男の子は、今海でゴーグルを探していますね。
全く、何やってんだか……」
「まあ、そう悲観的にならない方が良いよ!
好きだった女の子の初めてのプレゼントだったんだ。
そりゃあ、どんな事をしても手に入れたいだろうね……」
「全く、そんな物、海には無いのにね!」
アビスは、手に俺のゴーグルを持っていた。
俺には遠過ぎて確認できないが、それは確かに俺のゴーグルだった。
オーシャンでさえ、驚いて言葉を失う。
「海に、弾き飛ばしたんじゃないの?
どうしてあんたが持っているのさ?」
「ふふ、ゴーグルのゴムに指を引っ掛けて、海に落としたように小石を投げ込んだだけだよ。
スカイにとってだけじゃなく、私にとっても大切な物だからね。
ポケットにしまっておいて、スカイが緊張を克服した時に返そうと思って……。
まあ、超簡単な手品みたいなものだよ。
明日の朝まで探していたら、無理やりにでも海から上がってもらうわ!」
「末恐ろしい娘だね、あんた!」
俺は、体温が低下して、体が震え始めていた。
オーシャンは、俺にタオルを投げて体の冷えを抑えようとする。
アビスも俺にこう警告して来た。
「後1時間だけ一緒に居てあげるわ!
それで諦めて帰って来なさい。
これ以上は、スカイの健康も危険な状態になり得るからね。
一応、私とのデートなんだから、私をエスコートする体力くらい残していなさい。
朝になれば、海の中も見やすくなると思うし……。
それで見つからなければ、諦めるしかないわね……」
そう言って、アビスは花火をしながら俺が上がるのを待ち始めた。
手で持つ花火だったようだが、この星では高級品だ。
火薬や石油などの化学によって火花を演出する。
「ふう、温泉に入ったのに、また花火の匂いが付いちゃったわ。
スカイ、女王様命令よ!
私と一緒に温泉に入って、体を温めなさい。
このままいったら、あなた風邪ひくどころか、死ぬわよ?
特別サービスとして、私が背中を洗ってあげるわ!
それと、オーシャンさんはお酒の追加を飲むでしょう?」
「ああ、そろそろ冷えて来たところだ。
スカイをムリやり温泉まで連れて行こう!
ドクターストップという奴だ!」
アビスとオーシャンは、抵抗する俺をムリやり温泉まで連行する。
2人ともタオルを巻いて、俺とともに温泉に浸かり始めた。
俺は、縄で縛られて、ムリやり温泉で温められていた。
「くっそう、俺はこんな所で時間を潰している暇はないんだ!
早く、ゴーグルを見付けなければならないんだ……」
「その必要はありませんよ!
ゴーグルは、もはや海の藻屑となり、あなたの手の届かない場所にありますから。
それをサルベージ(潜水して探し出す事)できるのは、王女である私だけです。
つまり、スカイがあのゴーグルを手に入れる一番の近道は、私を納得させて結婚する事です。
それが嫌なら、私を腕っ節で屈服させて、王宮を乗っ取る事ですね。
私にいう事を聞かせられるくらい強い本来のスカイならば、楽勝でしょう。
実際、スカイがこの『島(二スィ)』では最強です。
スカイが単独で乗り込んで来た場合には、私に止める術など存在しません」
アビスは、俺にタオルを巻いた状態で近づいて来る。
温泉の水が滴り、妖艶な美しさを醸し出していた。
俺が見つめていると、彼女の蹴りが飛んで来た。
俺はヨロけて転びかけると、アビスが体重をかけてアッタクして来る。
彼女は押し倒すような形で俺に倒れ込み、護身用のナイフを首に突き付けて来た。
顔を息がかかる程度まで近づけて、俺を挑発する。
「もっとも、今のあなたでは、小娘の私にすら勝てません!
ゴーグルも、トラッシュも欲しいのでしょう?
少しは自分で歩き始めて、私を逆に押し倒してはどうですか?」
俺は、自信なさげに地面を見つめていた。
アビスは、怒ったように俺から離れて、温泉に浸かる。
俺は、その場で倒されたままになっていた。
「ふん、つまらないですね。
私と互角の勝負をする事さえ敵いませんか?
なら、ルールを変えましょう!
どんな勝負でも良い。
スカイが私に勝ちさえすれば、どんな願いも聞いてあげましょう!
ゴーグルを探すでも良し、トラッシュと結婚するでも良いです!」
アビス姫は、そう言って啖呵をきる。
ちなみに、彼女は温泉でも海でもずっと専用の手袋を付けて、自分がトラッシュである事がバレないようにしていた。




