第15話 アビス姫の誘惑
俺がコックピットに座っている間に、オーシャンとアビス姫は着替えを済ませて水着になっていた。
オーシャンは赤色のビキニを着ており、アビス姫は青い上下お揃いの下着を着用していた。
「じゃーん、どう?
上下お揃いの……、水着だよ!
私のセクシー水着姿を見て、元気になった?」
「ああ、でも、操縦中だから前を見ないと危険だ。
下手に騒がず、大人しく座っていてください!」
「うう、全然見てくれない……。
チラッともしない。
コイツ、本当に男かよ?」
アビス姫は、怒りに満ちた表情に変わり、怒りながら俺の顔を見つめていた。
オーシャンは、何も言わずに、自分の席に座る。
数分ほどして、目的地の海に辿り着いた。
「さてと、俺は海に入るのは良いかな……。
お前らだけで楽しんで来いよ……」
俺の言葉に、アビスとオーシャンはドン引きする。
「うげ、一番若いはずなのに、引率者のオッさんみたいな発言をしている。
そりゃあ、女の子と一緒に海に入るのは、恥ずかしいかもしれないけど……。
でも、2人だけっていうのもつまらないよ!」
「人も他にいないから、荷物を見守る必要もないしね……。
まずは、スカイを水着にしない事には、海に入る気も起きないかもね。
どうする?」
「私が、スカイを水着に着替えさせるよ!
たとえ、どんな手を使ってでも……」
「お手柔らかに頼むよ……」
俺とアビスの対決が始まった。
オーシャンは、先に海に入りながら、俺達の対決を見守る。
水面を背にして、水の上にプカプカ浮いていた。
「ふうー、『島(二スィ)』の空は、不思議な空よね。
住む場所自体がドーム状になっているから、太陽の向こうの方に緑と海の入り組んだ地形が見えるなんて……。
まるで、『雲』地区の高いビルから、地表を見上げているような感覚だわ。
太陽を中心に斥力が発生しているから、重力は安定しているけど……」
彼女はしばらく、水の上で太陽光や風を感じていた。
そして、目をとしてゆったりとしている。
アビスの喋っている言葉を聞いて、我に帰るように俺達を注目し始めた。
「もう、スカイ!
海に来たんだから、泳ごうよ!
私が水泳とか教えてあげるから」
「ふう、アビス姫は、スカイに勝っているのかしらね。
さすがに、一人で海を楽しむのも飽きて来たわ……」
オーシャンが俺達を見ると、アビスが俺のズボンを無理やり脱がそうとしていた。
まずは、俺がボーッとしているのを良い事に、ズボンのチャックを下げていた。
俺は、それに気付いて抵抗する。
「止めろ、俺は海に入りたくないんだ!」
「なんで?
トラッシュと一緒じゃないから?
あの子がいないと、一緒に遊ぶ気にもならないの?
私は、顔も姿も、声まで一緒なのに……」
「ああ、俺が愛しているのはトラッシュだけだ。
彼女以外を愛する気はないぜ!」
「私、あなたと結婚しようと思っているんだよ?
2人で一緒に生活して、子供を育てようって思ってる。
それでも、少しも愛情を持つ気はないの?」
「ああ、トラッシュと瓜二つだとしても、アビス姫を女性として見る気はない。
一緒に生活したり、子供を作るのは仕方ない。
だけど、心は、心だけはトラッシュの物だと思っている」
俺は、アビス姫にそう告げる。
将来はどうなるか分からないが、今はトラッシュの事しか考えられなかった。
彼女を幸せにしたかったと、彼女の笑顔を思い浮かべていた。
「スカイのアホ!
もう知らない!」
アビス姫は、俺に肘鉄を食らわせて、飛行艇に戻って行った。
そして、釣竿を持って来て、再び海に出て行く。
彼女は怒って、俺にこう告げて去って行った。
「ふん、今日は釣りをするわ!
スカイは、焚き火の準備でもしていなさい!
でも、ご飯なんてあげないけどね!」
そして、海の釣りができるスポットに行き、遠くから俺に向かって暴言を吐く。
「スカイのバーカ!」
「なんなんだよ?
ふう、トラッシュもあんな風に怒るのかな?
見てみたかったな……」
俺は、トラッシュに想いを馳せて、海を眺めていた。
オーシャンは、水の上に浮いていたが、徐々にアビス姫の方へ近付いていく。
俺と目が合った瞬間に、「スカイのバーカ!」と言って、俺から離れて行った。
「なんで2人とも怒っているのだろう?
女の子って、分からんな……」
俺は、しばらく海を眺めて、気持ちを落ち着かせていた。
この場所の自然環境を真似た設定により、海が夕焼けで染まり始め、幻想的な風景が映し出されていた。
この海に夜空などは無い。
しばらく薄暗いまま、地球を真似した時間帯が続くのだ。
朝になれば、太陽光が強くなり、また暖かい気温となる。
「太陽光は変わらずに、人工の雲を発生させる事で日差しを調整しているようだな。
太陽の熱というのは、地表が熱くなりすぎても生物にとって有害だ。
24時間のうち、半分ほどは日差しを遮る機能がなくては……。
地球の環境を調査して、科学技術が発達したからこそ、この星は生きて行く事ができる。
地球か、それが自然と行われている星とは……。
いつか、トラッシュと一緒に見てみたかったな……。
遠くから見るだけでも良い、実際に住んでみても良い。
それも、もう叶わないのかな?」
俺は、同じ顔のアビス姫の事を考え始めていた。
彼女は態度こそキツイが、今日1日いて悪い娘ではなかった。
彼女がトラッシュを殺すとは思えない。
「もう一度、ちゃんと聞いてみよう。
もしかしたら、どこかに閉じ込めているのかも……。
トラッシュと結婚しなくても、彼女が幸せならそれで良いんだ……」
俺がそう考えていると、魚を持った2人が帰って来る。
魚だけでなく、カニやワカメなども採って来ていた。
どうやらそれなりに大量らしい。
「ふーん、これが海の魚か……。
初めて見た。
このハサミがある奴は何?」
「ああ、オーシャンさん、触ったら危ないよ!
カニといって、甲羅やハサミは硬くて強力なの!
茹でて食べると美味しいけどね」
「ふーん、アビスは物知りだな。
というか、生物なんて久し振りに見たかも。
『雲』地区では、鳥なんかも生息してはいないし……」
「そうだろうね。
『島(二スィ)』では、地形がドーム状になっているから、酸素が充分に行き渡っているけど、それでも切れ目付近は酸欠状態になっているのよ!」
「ふーん、飛行艇といっても、ジェットエンジンが必要なのは、空気が薄いからなんだね!
『雲』地区では、ほとんどがジェットエンジンで走行しているような物だよ。
それだけに、燃料の消費も半端ないんだ。
『島(二スィ)』の燃料消費量が、『雲』地区の数十分の1で驚いているよ!」
「そうなんですか……。
『雲』地区での生活を良く知らないので、気にはなっていましたが……。
以前に、『雲』地区の空賊のリーダーが私に告白して来た事がありました。
私は、好きな男性がいたのでこっ酷く断りましたが、それで多少の恨みは買っています。
オーシャンさんが『雲』地区を案内してくれたら助かります。
今日は、ここでキャンプをして、コテージで寝泊まりしますが、数日後にはガイドをお願いします!」
「ふーん、コテージまであるのか……。
まさか、スカイと2人きりで過ごそうとか?
既成事実を作って、逃げられないようにする的な……」
「うーん、それも良かったのですが、やはり初めては結婚してからの方が良いかと思い、今日は3人で泊まる予定です。
一応、混浴の露天風呂は確保しましたが……」
「まあ、それくらいなら付き合ってあげても良いよ。
私、お酒が飲みたいから、その準備もお願い♡」
「はい、私達は、アルコール度数の低いお酒を楽しみますね!」
俺は、二人のやり取りを見て嫉妬していた。
トラッシュを殺したかもしれないアビス姫と、それを知っているオーシャンが仲良くしている事が気に食わないのだ!
「随分仲良くなったみたいだな……」
俺は、顔を引きつらせて、オーシャンにそう凄む。
怒った顔を見て、オーシャンはビックッと驚いていた。
そして、状況を理解したように冷静な表情に戻る。
「安心しな。
アビス姫は誰も殺していないよ。
むしろ、殺される者達を生かそうとしているんだ。
少し彼女を信じて仲良くしてみなよ。
トラッシュの事は、一度忘れてね……」
「何を言っているんだ?
俺は、彼女を忘れる事なんてできないぜ!
絶対、救い出してみせる!」
オーシャンは、俺の態度を見て、アビス姫が俺の態度に不安を覚えている事を悟った。
近くに本人がいるにも関わらず、まだ気付かないのかと呆れた表情をする。
「はあ、冷静さがないと真実も見えないものなのかね?
まあ、アビス姫の演出も悪かったんだけど……。
彼女的には、ちょっとした悪戯だったんだろうけどね」
俺は、オーシャンの言葉に疑問を持っていると、昼間の事を忘れたようにアビス姫が近付いて来た。
カニを見せつけ、今から調理するという。
思えば、魚介類など久し振りに食べる食事だ。
俺は、彼女達が鮮やかに魚やカニを調理するのを見ていた。
次第に、美味しそうな匂いが漂ってくる。




