第14話 アビス姫の秘密
俺とオーシャンは、アビス姫を連れて『島(二スィ)』の上空を飛んでいた。
仕事はそれほど多くなく、郵便物もスムーズに渡す事ができた。
俺は、事前に2人へ海に行く事を告げていた為、水着の準備も用意して来ていた。
「もーう、スカイったら、私の水着が見たいなんて……。
態度は素直じゃないけど、本心では見たかったのね♡」
「はあ、そうです……」
「今日は、可愛いワンピースを用意して来たわ!
なにせ、隣には牛のような爆乳がいるんだからね……。
うふふ、お気に入りの一枚よ!」
「うおー、楽しみだ……」
俺は、アビス姫の言葉に適当な相槌を打つ。
アビス姫は、流し目でオーシャンのオッパイを見ていた。
俺よりか、オーシャンの方が反応していた。
「誰が牛のような爆乳だ!
私はまだEカップ。
爆乳じゃなくて美乳なんだよ!
この貧乳娘が!」
「いいえ、美乳というのは私のような可愛くて、オッパイの適度な大きさの女性の事を言うのです!
その証拠に、スカイは私のオッパイを揉みたいと思っているはず……」
2人は、上着を脱ぎつつも、俺の方に目を向けて来た。
軽装の服になり、俺がどのような反応をするかを気にしていた。
俺は、大して大きな変化もせず、テンションが低いまま対応する。
「ああ……、どっちも美乳だろ?
両方触りたいような膨らみと、肌の綺麗さだよ……。
まあ、肌の綺麗さは、トラッシュには負けるけど……」
俺の言葉に、2人は一斉にキレる。
「ああ、何言ってんだ?
私のオッパイの方が綺麗でしょう?
こうなったら、生着替えでドキドキさせてやるよ!」
2人は、一斉に服を脱ぎ始めた。
下着姿に近付いていき、徐々に肌が露出し始めている。
俺は、ボーッとした表情で2人の体を見つめていた。
「ほら、ほらぁ、もうすぐ下着姿になっちゃうよ?
少しは動揺して来たか?」
「ああ、綺麗な体だね……って、何脱いでんだよ!」
俺は、しばらくボーッと2人を見つめていたが、彼女たちのスカートが手にかかる時点で我に帰った。
これ以上は、好きな男性にのみ見せる事を許された聖域が開かれようとしていた。
「じゃーん、下に水着を着ているのです!
水泳をする時のお約束なのですよ!」
「アビス姫、非常に言い難いが、それ水着じゃないですよ!
デザイン的には、普通のパンティーかと……」
アビス姫は、自分の履いている下着を確認する。
上のブラジャーは、青い色をしている水着だが、下のパンティーは使い古されたくたくたのピンクのパンティーだった。
「うああああ、しまった!
うっかり下だけ普通の下着、しかもボロい奴だった!
うう、せめて勝負下着だったらダメージも少なかったのに……」
「ふーん、お姫様でもそんな間違いをするんですね……」
俺は、冷静にアビス姫の下着を確認したが、それでも興奮する事はなかった。
代わりに、オーシャンが大爆笑していた。
上下お揃いの水着姿で、アビス姫を小馬鹿にする。
「あははは、ひっひっひ……。
お姫様も大変だね!
うっかり油断しちゃったかい?
好きな男の前なのに、こんな普通の下着……。
いやあ、冷酷な女王を装っているようだけど、ボロが出たね……。
それもあんたの本性かい?」
「向こうで着替えて着ます!
オーシャンさん、下着確認を手伝ってください!」
「はいはい、次ミスしたらヤバイもんね!」
アビス姫とオーシャンは、俺を残して去っていった。
俺は、コックピットに残り、運転に集中していた。
アビス姫は、家に置いて着た水着の代わりに、別の下着で代用する事にしていた。
「昨日の晩の私、なぜ水着を着て来なかったんだ!
はあ、まさかトラッシュになった時のパンティーを履いてたなんて……。
まあ、この上下お揃いの下着なら水着に見えるかな?」
アビス姫が下着を弄っていると、オーシャンが尋ねてきた。
どうやら薄々は、アビス姫の事を気付いていたらしい。
「ふーん、やっぱりあんたがトラッシュだったか。
上手く化けているつもりだったようだけど、下着までは変わる事ができなかったようだね。
まずは、トラッシュの剥製から問いただしていいかい?」
「あっ、しまった!
ついうっかり喋った……」
アビス姫は、オーシャンの顔を見て逃げられない事を悟った。
しばらくは誤魔化そうとするが、無駄な抵抗である事を悟る。
ふう、と息を吐いて、自分の正体を話し始めた。
「そう、私がアビス姫でもあり、スカイと仲良かったトラッシュでもある。
本当は、アビス姫の性格で、子供も普通に産めるのだが、ある目的があってトラッシュになっていた。
数年前からトラッシュを作り出して、ある計画を徐々に実行していたんだ。
その時にスカイと初めて知り合い、惚れた……。
正直に言うと、トラッシュじゃないと彼と会わなかったね。
トラッシュの剥製は、もう少し順を追って話すよ。
まずは、私の計画と目的についてだ!
それを踏まえた上で、スカイにはまだ黙っていて欲しい」
「良いよ、計画とやらを話してみなさい!」
「なーんか、上から目線が気に食わないけど……。
まあ、良いわ。
年上の意見も聞きたかったし……。
トラッシュとして『王宮の庭』にいた理由は2つあるわ。
1つは、植物を栽培して、この星の酸素量を増やすのに人手が足りなかったからよ。
実は、地下の地盤を通して、『雲』地区にも酸素や空気を送り込んでいるんだけど、いつもギリギリの状態なの。
『島(二スィ)』の植物が無ければ、人々は一気に死ぬほど危険な状態なのよね。
それで、私も参加して、植物と酸素を製造していたというわけ。
おかげで、王女なのに手がボロボロの状態よ……。
普段は、手袋で見せないようにしているけどね……」
アビス姫は、手袋を取って、オーシャンに手を見せる。
そこには、トラッシュがマメを作ってまで農業していた手が露わにされていた。
トラッシュの剥製も、その手を見て本人ではないかと疑ったものだ。
「あんた、かなり良い女だね!
綺麗な手を持つお姫様よりも、ボロボロの手をしたお姫様の方が素敵だよ。
私でさえ、惚れてしまいそうな魅力たっぷりだ……」
「私、レズにはならないからね!
私が好きなのは、ずっとずっとスカイだったよ。
それは、出会った時から変わらない!」
「ふーん、じゃあ、トラッシュとして『王宮の庭』にいた理由を教えてくれるかい?
ぶっちゃけ、アビス姫でも農業くらいはできたよね?」
「トラッシュは居たのよ……。
母親の胎内から出て、医師の手によって殺されるまでね。
わずか一瞬の間で、産声さえ上げさせられなかったわ。
私は、その一部始終を見ていた。
そして、今でも思うの。
生きていたらどんな風に成長しているかとね……。
この星が必要な人間だけを求めているのは分かっている。
不必要な人間や、できそこないの人間は消されていった方が良いのかもしれない。
でも、見捨てるなんてできなかった……」
「それで、わずかでも生きれる可能性のある者は生かせる、この『王宮の庭』を作り出したのね。
犯罪者でも無い、体が完璧じゃない者たちが作業できる場所を……」
「はあ、皮肉な事に、私がトラッシュになってから今日まで、誰1人トラッシュは生まれなかったわ。
それは良い事だけれど、真実かは分からない。
私が知らないだけで密かに処理されていたのかも……。
結局は何も変わっていないのかもしれない。
それでも、少しでも改善できたら良いなと……。
アビス姫がトラッシュを憎んで、殺してしまったのも計画の内よ……。
その行為に、この星でトラッシュを一番嫌いなアビス姫が改心したら、誰もが協力するしかないでしょう?
ほぼ独裁状態で、この絶対王政を作り出して来たのは、トラッシュを生かそうとするのが目的だった。
トラッシュの剥製は、私の蝋人形よ。
胸の部分だけを少し加工して、遠目には瓜二つに見えるようにしたの。
誰かに見せ付けて、アビス姫は残虐非道な奴だと見せかけるためにね……。
その後、理由は何でもいい。
トラッシュを生かして、保護や仕事を与えてやれば良いと思っていた。
これが、私の全ての計画だった。
でも、出会ってしまった……。
私が生涯のパートナーとしたい男の子のスカイが……」
「トラッシュになったからこそ、あんたが出会った男の子だよね。
じゃなければ、郵便配達員になってもスカイに会うことはなかった。
結婚も、王女様から望まない限りはできない。
そのスカイ本人は、トラッシュの正体がアビス姫だとも気付かずにいるようだけどね。
トラッシュにぞっこんの状態で……」
「ふん、あの鈍感男が……。
オッパイをサラシで隠したくらいで気が付かないとは……。
本当の私には、大して興味がない事の現れね……。
まあ、小さい頃にオッパイを触らせたのが、トラッシュの胸がない事の先入観になっているのだろうけど……。
せいぜいトラッシュの死を嘆くが良いわ。
その方が、アビス姫がトラッシュを助ける口実ができる。
後は、どこでバラすかのタイミングよ」
「そうだな。
スカイ自体は、トラッシュが死んだと思い込んでいる可能性が高いし、上手く説明しないと納得しないだろうな。
まさか、小さい頃からずっと知り合っていたのがアビス姫とは思っていないだろうし……。
トラッシュのふりをしても、バカにされたと感じるだろう。
あんたの両手と蝋人形が、今のところの証拠だよね。
スカイが、あんたに少しでも気があるまで待つしかないだろうね。
いつになるか分からないけど……」
「ふふん、可愛い女の子が水着姿でうろついて来れば、気を許すのが男の子ですよ。
この1日で、スカイを私の虜にしてあげるわ!
あなたは、邪魔しないで見ていなさい!」
「まあ、正確には水着ではなく、下着姿の女の子だけどね。
アビス姫本人は、相当のマヌケさんみたいだね」
「うぐ、この事は内密に……。
言わなければ、スカイなら気付かないから……」
「邪魔する気は、これっぽっちも無いよ。
行って、スカイを誘惑して来なよ!」
オーシャンに背中を叩かれて、自信を持ちかけたアビス姫だったが、オーシャンの胸を見て冷静になっていた。
下着姿を確認して、ポロッと呟く。
「私も、そのくらいあったら良かったんだろうけどね……。
そうしたら、スカイも私の胸に釘付けになったのに……」
「くっくっく、まだ発展途上だから、スカイに揉んでもらったら?
そうすれば、ちょっとは大きくなるかも?」
「嘘だ!
オッパイは、身体的な発育がキモで、揉んで大きくなるのは都市伝説のはず……」
「いや、揉む方法も一応豊胸に役立つよ?
なんなら、お姉さんが豊胸器具をプレゼントしてあげようか?
スカイが巨乳をお好みならね」
「お願いします!」
オーシャンは、イヤラシイ目でアビス姫を笑っていた。
アビス姫も素の状態で答える。
どうやら2人は打ち解けていたようだった。




