第7話:寝癖と、静かな朝の約束
「……おい、いつまで寝てんだ」
低い、けれどどこか温もりのある声で目が覚めた。
ここは、若頭・鬼島蓮の寝室。昨夜から、私たちは同じベッドで眠るようになった。
見上げると、間近には彼の鋭い横顔がある。
ワイシャツの隙間から覗く広い胸板に、私は思わず顔を赤らめた。
「おはようございます、蓮さん」
「……あぁ、おはよう」
蓮さんは起き上がり、寝室のカーテンを開けた。
朝の柔らかい光が差し込むと、彼の黒髪に可愛らしい寝癖が一つ、ピョコンと立っている。あの強面の若頭に寝癖。私は思わず、くすっと笑ってしまった。
「……なんだよ、お嬢」
「いえ、なんでもありません」
私が慌てて顔を逸らすと、蓮さんは怪訝そうにしながらも、洗面所へと向かって身支度を始めた。普通の恋人たちのような、こんな平和な朝がずっと続けばいいのにと、私は心の中で願った。
しばらくして、リビングに朝食の匂いが漂う。
蓮さんが作ってくれた熱々の味噌汁と焼き魚を並べていると、彼の携帯電話が再び鋭い電子音を立てて鳴り響いた。
彼はテーブルの上に置かれたスマホを手に取り、画面を見る。
その瞳の色が、一瞬にして変わった。
「……蓮さん?」
「……ちっ、面倒なのが動き出したな」
蓮さんは受話器を耳に当てると、低い声で応対する。
「ああ、蓮だ。……敵の本拠地が分かっただと? 分かった、すぐに乗り込む。お嬢のことはしっかり見張っておけ」
通話を終えた彼は、重苦しい表情でスマホをポケットにしまった。
やはり、私たちを狙う敵対組織との全面対決が、もうそこまで迫っているのだ。
「蓮さん、私もついて行きます!」
「ふざけんな。俺の戦場にお前を連れていけるかよ」
彼の口調は冷たく聞こえるけれど、その瞳の奥には確かな優しさと焦燥が入り交じっていた。私を守るために、彼はたった一人で全てを背負おうとしている。
「私はただ待っているだけなんて嫌です。蓮さんが私を守ってくれるように、私も蓮さんを守りたいんです」
私の真っ直ぐな言葉に、蓮さんは言葉を失った。
そして、彼はゆっくりと歩み寄り、私の肩をしっかりと掴んだ。
「……分かった。お嬢のその強情なところ、本当に似てやがる」
蓮さんはそう言って、いつもの黒いコートを羽織った。
「俺の後ろから絶対に離れるな。これから、奴らの本拠地へ一気に片をつけに行くぞ」
二人は新たな決意を胸に、マンションを後にした。
第7話・完
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