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奥野、細道へ  作者: 白い黒猫


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7/7

三つのルール

 嬉しそうに降りてきた百代は、「ゲームやろうか!」と俺をカラオケルームに誘った。

 今日は俺の気持ちが整っていないせいか、最初の二戦はボロボロだった。

 しかし元来の負けず嫌いが浮かび上がってくる。四戦目でようやく一勝。その後も粘って、十戦で四勝までは持ち直した。

 十一戦目を終えた時、チラッと百代が俺を見てくる。


「今日最初の方、気もそぞろだったけど、何かあったの?」


 俺は今日あった色々なことを、自分の中でも整理できていないので、どこから話すべきか悩む。


「ところで、三里さんどうかしたの? 荷物を放って部屋に戻るなんて」


 百代は上に視線をあげて、悩むように考える。


「放ったというか、呼ばれたから、突然戻らざるを得なかったって感じかな」


 誰か来客があったということなのだろうか?


「良かった。体調が悪くなったわけではないんだね」


 百代は曖昧な笑みを返して肩をすくめた。


「じゃあ、またやるよ!」


 そう言って、百代はコントローラーを構える。

 俺もコントローラーを握り、視線をディスプレイに戻す。そのタイミングでゲームがスタートする。百代の妨害アクションを何とかかわし、ギリギリのところで俺は勝利できた。


「あのさ、奥野」


 百代に視線を向ける。


「お前が俺や三里のことを心配してくれているのは嬉しい。

 でも変に気を遣わないでほしい。

 大学ともリモートで連絡を取り合っているし。

 ただ、こうして遊んで、話して普通に付き合ってくれたら嬉しい」


 大学の講義を二人はサボっているというわけではなかったのか。


「一番大事なのは、自分らしくここの生活を楽しむ! それが校則でもあるだろ?」


 俺は首を傾げる。


「それって校則だったっけ?」


 そうじゃなくて……別の形で聞いた気がする。


「この街のルールの一つか、まっ、同じようなことか」


 百代との言葉で俺は思い出す。

 この街に着いた時に受けた説明を。

 あれは誰からだった? 松尾だったような気がする。


『ようこそ仮存町へ』


 港のフェリー乗り場で、松尾は笑顔で俺を迎えてくれた。


『ここに君が住むにあたって、簡単なルールを三つだけある。それを心に留めて欲しい。

 一つ目は、毎日の生活を、君らしく楽しむこと』


 あの時に、ここで暮らすにあたってのルールとして言われた言葉だ。

 でもルールは三つ。あれ? あとの二つって何だったっけ?


「俺と三里は、大学に行くより、のんびり過ごす方がここでの時間を楽しめると思ったんだ。だから奥野は気にしなくて大丈夫だから」


 何だろう。昼間に感じた違和感の答えが、俺の中でムクムクと形になっていく。


「あのさ、俺達って……もしかしてもう死んでいるの?」


 俺の言葉に、百代は露骨に顔を顰める……。


「ひどいな」


「いや、ごめん」


 思わず謝ってしまう。


「失礼な、俺は()()死んでいないよ!

 ……そしてお前()大丈夫だと思う」


 百代はコントローラーをテーブルに置いて、俺の方をまっすぐ見つめてくる。


「俺はさ、ここでは長い方なんだ。だから何となくわかる」


「わかるって何が?」


 百代は哀しげに笑う。


「俺と三里は()()()ことになると思う」


 そこで一旦言葉を切り、ニコリと笑みを作る。


「でも、お前は()()()!」


 どこに旅立つ? そしてどこに戻るというのか?


「あ、あのさ……実は今日……午前中、祖母に会ったんだ。この町で」


 俺は震えながら話す。俺の言葉に百代は驚いたように目を丸くする。


「祖母は末期癌で入院中だったんだ。

 もうほとんど会話もできない状況だったのに。

 それなのにここでは元気にしていた」


 百代は柔らかく笑う。


「すごい奇跡だよ。それは」


「奇跡?」


「こうして会えたなんて。

 ここにいる間に会って話をしてあげて。

 お互い悔いがないように」


 百代はニッコリと明るく笑う。


「じゃっ、次はコースかえてやるよ!」


 そう言ってコントローラーを手に取って操作を始めた。

 視線を合わせなくなった空気で、話は打ち切られた。

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