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大公、身分を隠して一般人のおっさんになる

「カンテミール子爵、も、申し訳ございません。ラウルたちに襲われて……」

 顔を腫らしたコーネルがカンテミールに許しを請う。


「誰だ! こんなヤツしらぬ。気軽に私の名前を呼ぶでない」

 カンテミールが慌てて目を逸らし、誤魔化そうとしている。


「シラを切るのか、カンテミールよ。こやつらは尋問に対し、既に自白しているのだぞ」

 我の低く冷たい声にカンテミールが身を強ばわせる。


「きっと、だ、誰かが私を嵌めようとしたのです。策略です」

 まったく往生際の悪いヤツだ。

 

「お前は、東方の国から流れ着いた鍛冶屋を監禁し、この国の剣より遥かに強い刀を大量に作らせていた。刀の出来を試すためにコーネルたちを使って人斬りをさせていたのだろう。不敬罪で現場処刑された死体の切り口も、この刀のものと一致した」


「信じてください大公殿下! そうだ、昨日捕らえた騎士爵の倅がきっと真犯人です」

「ほう、捕らえたのなら連れて参れ」

「それが、脱獄いたしまして……私は潔白です。この命に誓って潔白です」

「ほう、潔白とな。命を懸けるのだな?」

「はい、もちろんでございます。私は忠臣でございます」


 我は玉座から立ち上がり、カンテミールの眼の前までゆっくりと進む。

 階級社会のこの公国で、大公自ら貴族に歩いていくという事は珍しく、元老院たちや貴族たちがざわつく。


 我は冠を外し、整った髪を右手で掻き乱しカンテミールを睨みつける。


「我の顔に見覚えはないか? カンテミール」

「き、貴様! ラウルではないか」

「大公である我に向かって貴様、だと?」


 怒りのこもった眼を見開き怒鳴りつけると、カンテミールは仰け反り尋問台から転げ落ちた。


「え……あ、申し訳ございません、どうかお許しを」

 伏して許しを請うカンテミール。会議場に居る全員のどよめきが増す。


「申し開きは聞かぬ。貴様は平民のラウルに罪を着せようとしたのだ。それが我だと気づかずにな」

「どうか、どうかお許しを」

「さっき申したよな? ()()()()()潔白だと」

「あ、あ、あ」


 観念したカンテミールは糸の切れた人形のようにその場にへたり込む。


「カンテミール子爵の爵位を剥奪。平民とし、流刑を命じる。処刑されなかった事に感謝するのだな」


 静まり返る会議場に、書記官の筆記音だけが響いた。

 捕縛されたカンテミールはさり際に叫ぶ。

 

「大公、あなたの時代はすぐに終わる。真の忠臣は私なのだ!」

 負け犬の遠吠えにしては、何か引っかかる物言いだが。


 なにはともあれ、これにて一件落着だ。

 


 ◇ ◇ ◇



 カンテミールとコーネルたちが粛清されてから一週間、小太り食堂は今日も賑わっている。


「人斬り事件の犯人たちが捕まってよかったなぁ、テスちゃん」

「ほんと、ヨタロさんたちが夜回りしてくれたよ」

「へへへ、名誉の負傷を負った甲斐があったってもんよ」


 ヨタロの腕も順調に回復に向かっているし、小太り食堂の店主の顔の腫れも引いた。

 平和が守られ、我の趣味であるお忍びにも平穏が訪れた。


「ラウルさん、いらっしゃい。ラガーでよかったかしら?」

「ああ、あとトンカツね」


 我の暗躍で、この店の父娘の命も救われたのだ。

 ここのトンカツは公国の宝だといっても過言ではない。これが食べられるのも、お忍びのお陰だな。

 

「ラウルのアニキが帯剣してるのって、例の剣ですよね? いいんですかい?」

「ああ、コーネルが持っていたものの刃を潰したからな、法的には木剣と同じ扱いよ」


 監禁されて刀を作らされていた鍛冶職人は、公国が保護し公国軍の武具研究の一員として受け入れることにした。


 彼の技術を取り入れることで、軍事力が増すことは明らかだろう。これがもし、水面下で出回っていたらと考えると、ゾッとする。


「ラウル師範!」

「お、アロン君に門下生の皆まで。もう怪我の具合はいいのかい?」

「はい、公国トップクラスのお医者様のお陰で明日にでも稽古が再開できそうです」


 更に爺も加わり、この日は大宴会となった。

 本当は赤き剣のヤツらも誘いたかったのだが、お忍びで羽目を外している我の姿をみられるのも具合が悪い。


 奴らの労いは別途、席を設けてやるか。


「それにしても、あの人数のコーネルたちを討伐したのは公国軍ではないとの噂ですが、一体誰が? もしかして、ラウル師範が?」

 ギクーッ。

 

「い、いやぁ、俺は夜回りしていた程度だから、どっかの正義の味方じゃないかな。あはは。このおっさんが、あの人数を相手にするのは無理だよ」


 最近、体力の衰えを感じているのは事実。

 政務ばかりしていないで、稽古の時間を増やすのもありだな。


「明日からは、俺も稽古に率先して参加するか」

 我の稽古への参加宣言にアロンたちが目を輝かせる。

 

「では、儂も久方ぶりに剣を振るってみるかの」

「いいえ、大旦那様。御老体ゆえご無理はなされないほうが良いかと」

「なんじゃと! アロン、儂を年寄り扱いするとは! よし、明日は目一杯しごいてやるぞ」


 アロンを始め門下生たちが笑っているが、我は知らぬぞ。

 爺のしごきが、どれだけキツいか身を持って体験するがよい。

 

 

 公国の転覆を狙う悪を粛清し、無事に平和が戻った公都。

 しかし、水面下では更なる脅威が公国の転覆を虎視眈々と狙っているのであった。

 


 ◇ ◆ ◇


「そうですか。あのカンテミール子爵をもってしてもダメでしたか」

 黒い衣に身を包む男が背もたれの高い玉座に座していた。

 眼下には、多くの部下たちが頭を垂れている。


「妙案がございます、私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか」

 一人の男が頭を垂れたまま玉座の前へ出る。


「許可します。期待していますよ」

「御意」



 ――公都で蠢く悪の存在にまだ気づいていないインガ公国の大公マディン。

 今日も彼は一般人のラウルに扮して、お忍びに興じているのであった。





物語の冒頭2万文字。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

お忍び生活をするなかで、謀反を起こそうとしている一派を壊滅することができた大公ですが、これは物語の始まりに過ぎません。


この後、次々と公国に反旗を翻す謎の組織が起こす事件に巻き込まれる大公。

己の強さと平民との絆を原動力にして、悪を爽快に、そして盛大に粛清していく活劇を引き続きお楽しみいただければ幸いです。


現在、続きを鋭意執筆中でございまして、私も書きながらワクワクしております。

ブクマと評価をいただければ創作意欲の糧になります。

是非ともよろしくお願いいたします。


いぬがみとうま

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