王妃のお輿入れ
えりの事務所にやって来た女学生は香咲ももかと名乗った。
「それでお姉様というのは?」
「お姉様の名前は白ヶ池まり。」
「白ヶ池?!」
えりはその名前に聞き覚えがあった。
「その娘って彼女か?」
えりはももかに新聞を見せる。それはウィーンから帰国した令嬢を取材したものだ。
新聞には純白なドレス姿の令嬢の写真が写っている。
「はい、これは間違いなくまりお姉様です。」
令嬢まりは今16才。5才のときに父親の仕事の関係で一家でウィーンに移り住んだ。父親はウィーンの音大で教師をしていた。まりはウィーンの花嫁学校に通いフランス語やダンス、テーブルマナーなど貴婦人として必要な教育を受けて来た。15才のとき卒業を機に父親も日本の国立音楽大学でオーケストラの指導を依頼され、昨年日本に帰ってきた。
まりはバレエを習っていて、父親のつてを頼り自主公演を行っている。その話題が新聞でも取り上げられていた。
「でそのまり令嬢と君が姉妹というのは?」
「私達はエスといってリボンを互いにの髪に飾り合い上級生はお姉様、下級生は妹。血は繋がっていなくとも姉妹になるんです。」
「要するに女学生が好きそうなあれか」
ゆきやえりが通っていた桜咲女学校にも姉妹の儀式はあった。桜の木の下で桜の枝を互いの髪に翳すのだ。桜の枝が簪に見えることから「桜の簪の誓い」と呼んでいた。しかしえりは全く興味なかった。
「お姉様が女学校に来たのは去年の9月。新学期が始まってすぐの頃でした。」
9月まりは絹のドレスで中にペティコートを何枚も履きまるで西洋のプリンセスのような姿で現れた。その日は編入初日であった。
「Excusez moi, Mademoiselle.」
まりは歩いていた生徒に話し合いかける。その話しかけた生徒がももかだった。
花嫁学校ではフランス語が共通言語だったためなかなかそれが抜けないのだ。
「あ、あの」
「ごめんなさい、わたくしウィーンから戻ってきたばかりでしたのでまだ日本語に慣れませんの。」
「ウィーン?!まあ西洋から?」
「はい、あの職員室はどちらかしら?」
「ご案内致します。」
それがももかとまりの出会い。それ以来まりはお昼になるとももかを昼食に誘いに来てくれた。
「あら、ももかお昼はそれだけ?」
「はい。」
ももかは寄宿舎から学校に通っている。お昼は寮母が作ってくれたお弁当を持参している。今日はおむすび2つだ。
「しっかり食べないと体が持ちませんよ。さあ、わたくしのをお食べなさい。」
そう言ってバスケットから見たこともないお菓子を取り出す。
「これは西洋のケーキというお菓子。フランス語ではgateauというのよ。ご飯が足りないときはお菓子を食べればいいのよ。」
そう言ってまりはケーキを勧めてきた。
「まりお姉様はまるでオーストリアからお輿入れなさったマリー・アントワネット様のような方ですの。」
ももかが夢心地に話す。
「それでそのマリー・アントワネット様みたいなお姉様を助けてほしいってどういうことだ?」
「そうだわ。実は」
ももかは鞄から数枚の写真を取り出す。




