82話・僕に感謝して欲しいくらいだよ
「いや、嫌、いやぁ。助けてカミーレっ」
「アーサー。姉上がお好みでないのなら別に噛み殺してくれても構わないよ。前々から姉上の尻拭いは沢山だと思っていたんだ」
「カミーレ。助けて。お願いだから……アーサーに殺される……」
姉の助けを求める声にカミーレは非道だった。こんなカミーレの姿は見たくなかった。カミーレは誰にでも優しくて使用人達にも受けがいい。その彼が義理とはいえ、仲の良かった姉を切り捨てようとするだなんて別人にしか思えない。
「カミーレ、おまえは最悪だ」
「何とでも言いなよ。アーサー。歴代の王達は何だって自分の望む物は手にしてきた。それが女性であってもね。父上だって次々と側室との間に子をなしながら、初恋の相手である母上の事が忘れられなかった。許婚まで決まっていたのに横槍を入れて我が物にした。その息子である僕が同じことをしてどうして非難されなくてはならない?」
わたしは王妃さまから、陛下との馴れ初めを以前聞いた事があった。カミーレが語ったことはその話とだいぶ、食い違っていた。
「カミーレ。それは違うわ。誰に聞いたの?」
「姉上だよ。いや、姉上の母親かな?」
「パメラ!」
アーサーは王女を睨む。
「わ、わたくしは……ただ、お母さまから聞いた話をカミーレに教えただけよ。何も知らずにいたら可哀相に思って……」
「可哀相? おまえ馬鹿かっ」
「ひぃ──、怒鳴らないで……」
アーサーに凄まれて身を縮めるパメラ。それを見てカミーレは笑った。
「姉上は僕が王に愛されてない王子だと思って同情していたんだろうけど、僕はそんな姉上をあざ笑っていたよ。勘違いしているさまが可笑しくてね。僕が物心ついた時には、父上は母上にしか関心なかったんだから。僕に感謝して欲しいくらいだよ。後宮で見向きもされない姉上と、その母君の話相手をしてあげていたんだからね」
陛下はパメラとその母のことなど無関心だったと、カミーレに真相をぶちまけられてパメラ王女は「嘘よっ」と、怒鳴った。
「お父さまはわたくしを可愛がってくださって……」
「父上は姉上の母君は捨てる気満々だったらしいよ。姉上の母君は単なる側室でありながら散々、王妃である母上を蔑ろにしてきた。そのことが父上の耳に入って怒りを買ったらしい。母娘共々監獄に送れ。と、憤っていたのを、母上が側室は自業自得で仕方ないとしてもその娘には罪がないといって諌めたんだよ。散々、田舎者と蔑んできた相手に庇われていたと知ってどう? さすがに厚顔無恥にも父上に愛されているから何でも許されてきただなんて思えないよね?」
「うそ……」
パメラは足元から崩れ落ちた。




