80話・リズを解放しないならあいつの命はないぞ
「きゃああああああっ」
「カミーレはどこだ!」
いきなり大きな黒い物が視界を遮ったと思ったら、ロリアンを押し倒して黒狼が乗りあげていた。その気配と匂いに馴染みがあった。
「あなたまさか……アーサーなの?」
わたしの問い掛けに黒狼が顔をあげ反応した。アーサーらしい。彼も獣化したのだと察せられた。ロリアンはその隙に黒狼の下から抜け出そうとしたのを、アーサーに取り押さえられて足掻く。
「カミーレはどこにいる? おまえはリズの見張り役か? 素直に吐けば命までは奪いはしない」
「アーサー。ロリアンは関係ないわ。ロリアンから離れて」
アーサーは殺気を滲ませている。このままではロリアンを食い殺しかけない気がして慌てた。
「アーサー、止めて。お願いだから」
「リズっ。どうした?!」
わたしの悲鳴を聞きつけてカミーレが駆けつけてきた。カミーレは黒狼の下敷きになっているロリアンを見て、わたしの腕を引いた。
「危ない。リズ。相手は黒狼だ。近付いたら駄目だ」
「でも、あれはアーサーなの」
「尚更、危ない。獣化したら人間としての理性を抑えられなくなる」
カミーレの手を振り払い、アーサーの側に寄ろうとしたのをカミーレに制される。さっきは自分だって獣化したじゃないかと思ったら、邪魔されているこの状態に納得が行かなかった。
「アーサー、止めるんだ。ロリアンから離れろ」
「リズを放せ」
カミーレと、アーサーがにらみ合う。アーサーが言った。
「リズを解放しないならあいつの命はないぞ」
「あいつ?」
アーサーが顎をしゃくりあげると、アーサーが飛び込んできた割れた窓の側に誰かが脅えてしゃがみこんでいた。
そこには真っ青な顔をしたパメラ王女がいた。どうして王女がそこにいるのだろう? この館にはカミーレしかいないと思ったのに? それにしては彼女の着ている服が質素すぎた。自分が着ているドレスよりも粗末に思える。まるで使用人服のようだ。




