79話・きみが羨ましいよ
「私は弟にどう接していいのか分からないんだ。きみが羨ましいよ。家を出たのも弟との間に不穏な動きが出てきて、それらに利用される前に家を出たんだ」
「あなたは弟思いの人だと思うわ。まるで弟に危害が及ばないように家を出たと聞こえたけど違う?」
「そう思う? 私は結構ずるい人間なのさ。弟が生まれる前は後継者として育てられてきた。だけど弟が生まれて後継者の座から外された。私の幼い頃からコツコツと学んできたことは無駄になった。それに対して不満に思うところがなかったとは言い切れない。私を切り捨てた人達を見返すつもりで家を出た。でも、そんなに世間は甘くなかった」
今じゃただの冒険者にしかすぎないからね。と、ロリアンが苦笑した。彼の身の上に同情した。理不尽に思った。
ロリアンは幼い頃から学んできたと言っていた。それがのちに弟が生まれたから──つまり、後妻の子、可愛さに後継ぎにして、後継者として学んでいた者を後継ぎから外すだなんて。
ロリアンの学んできた年月を思うと不憫に思えた。
「あなたの頑張りを周囲の人達は認めてくれなかったの?」
「私の為に怒ってくれるのかい?」
「当然よ。こんなのない」
「ありがとう。リズ。でも、もういいんだ。私は父の勧める相手と婚姻して家を出ることになっていたから」
「そんな……、厄介払いみたいじゃない。酷いわ」
ロリアンは世の中、すべてを諦めているように感じた。彼の為になんとかしてあげられたらいいのに、でも残念ながら今の自分には彼の話を聞いてあげることぐらいしか出来なくてそれが非常に悲しかった。
「ロリアン──」
「リズ?」
握っていた包丁を放して、ロリアンに抱きつく。ロリアンは驚いていたけど、孤独な彼の気持ちに寄り添ってあげたいような気になってしまった。
「あなたは頑張ったわ。あなたはもう柵に縛られる事はないのよ」
「リズ……」
ロリアンは恐る恐る背に手を回してきた。彼からはハーブのベルガモットのような香りがしてきて意外におしゃれさんなのね。と、考えていたら触れた胸元が柔らかいのに気が付いた。
そこへパリーンっと窓ガラスが割れて黒い影のような物が飛び出して来た。




